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PERFECT DAYS

Films: Jun.2024『PERFECT DAYS』ほか

Jul,01 2024 11:30

相変わらず進展の遅いアルバム制作にバンド事情にと頭が回ってない感じな6月。
合間に『悪魔のようなあいつ』を挟みつつなものの、いまいち映画観てない感は否めない。
そんなかんなでOVA2も観終えてようやくの『機動警察パトレイバー2 the Movie』より。劇場仕様の押井守の凄さに尽きる。
6月はどうにもフレンチ~ヨーロッパ気味なのが多かった印象で、月の手始めには先月あたりからの続きの初期パトリス・ルコントの軽くて楽しい『レ・ブロンゼ 日焼けした連中』と『レ・ブロンゼ スキーに行く』の2本立て。
そしてトリュフォー祭りは絶賛継続中なものの、『恋のエチュード』だけ。
我が家的に大好きクロード・ソーテ+イヴ・モンタン『ギャルソン!』に老いても存在感ビンビンなベルナデット・ラフォン主演『ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋』、最後にようやくアメリカはリチャード・リンクレイター+ケイト・ブランシェット『バーナデット ママは行方不明』でどれも素晴らしい。
続いて久々のシャンタル・アケルマンで『東から』と『ノー・ホーム・ムーヴィー』のドキュメンタリー2本立て。この人の作品は飽きるどころか見入っちゃう。
そしてこちらも久々でライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『マリア・ブラウンの結婚』と『不安は魂を食いつくす』。云うまでもなく圧倒的って感じ。
そんなかんなな6月はなるべく新作方面からと云う事でヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』で決定。あの泣き笑い見せられたら満点上げるわ。
そんなかんなで毎月書いてる気もするけど、7月はもう少し映画を観たい。
色々と物事がスムーズに進んで欲しいと願う今日この頃。

観た映画: 2024年6月
映画本数: 15本

バーナデット ママは行方不明

安定のリチャード・リンクレーターな具合で、一瞬なんだか分からない氷山と海の映像にカヤックが蠢くOPからして良い。天才が置かれる環境云々って事で、外堀埋められて不安定になる役は『ブルージャスミン』同様にお手のモンって感じの美しきケイト・ブランシェット。前半も上手いけどリミッター外れてからの心臓バクバクしてそうな演技も素晴らしい。何て事ない筋でありながら、紆余曲折から綺麗かつ滑らかにラストへ向かい、鑑賞者の心をキュッと掴んでくる監督の手腕で安心して観ていられる。車内のシンディ・ローパー爆唱はもらい泣きするわ。

鑑賞日:2024/06/29 監督:リチャード・リンクレイター


バービー

ノア・バームバックとの夫婦脚本でグレタ・ガーウィグが監督となれば否応なしに期待値は上がる。んだけど、冒頭の微妙な2001年パロディにマドレーヌのないプルースト効果等々で、色々と滑りまくってる&欠けまくってるのに延々と説教臭いので困惑。最後で巻き返す事も無くって具合で残念無念。グッバイ・ピンク・ブリック・ロードに実物大ピンクのあれこれの再現の頑張った感は分かるけど、この人は巨大な資本で映画撮るタイプの人じゃないってのがハッキリした気がする。

鑑賞日:2024/06/28 監督:グレタ・ガーウィグ


ノー・ホーム・ムーヴィー

シャンタル・アケルマン遺作。『家からの手紙』での母親とのちょっと反抗的な手紙のやり取りから、世界が近くなったスカイプでのやり取りで老いた母に対する接し方も変わる現代(母親の方は変わらずなのがまた)。遠方であろうとまたは家に滞在していようと、どちらも愛情は変わらずなものの、昔も今も現実との接し方に悩むシャンタル嬢が垣間見える感じがする。次第に死期が近付く母親を撮影しながら、考えるのをやめる、もしくは只々自分達のルーツ(同時に未来)みたいな不安を抱えながら疾走する荒地シーケンスを挟み精神の平衡を保つ感じが結構痛い。定点撮影で誰も映ってなくとも母親の気配だけは感じる大部分から、ラストの静けさは年老いた親を持つ身としては結構エグってくるものがある。

鑑賞日:2024/06/25 監督:シャンタル・アケルマン


PERFECT DAYS

陰翳礼讃って具合で良い。何とも言えない色彩で発光しながら屹立するバベルの塔みたい感じのスカイツリーと、それを地面からひたすら見上げながら繰り返される東京の日常。影が重なり濃くならない訳ないだろと、あらゆる東京の綺麗の裏に生息する日陰者達の存在を十把一絡げにはさせないって云うメッセージが熱い。ルーチン風でありながらイレギュラーな筋立てで流石に上手いヴェンダースって感じで、ラストのニーナ・シモンの新しい夜明け、新しい日〜の下りでそれまでの毎朝の微笑の繰り返しからの崩れる様な泣き笑いの見事な演技で応える役所広司で素晴らしい。若い娘にチュっとされてベタな感じで流れる"Perfect Day"やニコちゃんとかのルー・リード絡みと、直球系で揃ったサントラも最高。

鑑賞日:2024/06/24 監督:ヴィム・ヴェンダース


不安は魂を食いつくす

幸福が楽しいとは限らないって事で、ヒトラーの時代だったら大変だったろうけども現代でもそこそこ大変。敵意の眼差しの外にいた者が受ける方になる恐ろしげな移民あるあるで、見るからに祝福されなさそうな組み合わせからしてなんかスゴイ。世の中に二人だけならと嘆くもそうも行かないのが社会、もしくは国家である訳で、そこからの掌返しで利用しまくる外野って云う二段階で厳しい社会の洗礼ってやつを描く悪そうな娘婿役ファスビンダー。傑作。

鑑賞日:2024/06/23 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋

自転車のサドルさえも少年達にドキドキ感を与えた『あこがれ』から数十年なベルナデット・ラフォン。時間の流れにゃ勝てないものの、持って生まれた存在感みたいなものは健在。フランスおよびヨーロッパの移民と貧困の問題と日本がこれから直面する(している)社会とで対岸の火事じゃない感。教会さえも腐った世の中で生まれる隣人愛で上手いこと作ってる。

鑑賞日:2024/06/22 監督:ジェローム・エンリコ


男はつらいよ 寅次郎と殿様

久々。噛み合ってない様で噛み合ってる寅次郎とアラカンの絡みが面白い。トラ(ポチ)に鯉のぼりの序盤が結構飛ばしてはいるんだけど、真野響子とのエピソードは少々盛り上がりに欠ける気もしなくはない。そんでもって速攻でお疲れ脱力モードになる寅さんであった。で、雷雨とさくらのシーンはまぁ泣ける。三木のり平は良いとして寺尾聰は存在感がなかった印象。

鑑賞日:2024/06/21 監督:山田洋次


ギャルソン!

久々。元ダンサー設定をブラッスリーの給仕の身のこなしだけで表現するイヴ・モンタン。人の事に興味あるのかないのか分からんタイプでいながら、人当たりの良さと根本的に人に対する優しさを持ち合わせている云うモテ中年。繰り返され結構な失敗と挫折を程良くあしらうあの表情はイヴ・モンタンにしか出来ない気がする。時に訪れる土砂降りをちょっとした雨よけとささやかな灯りでやり過ごし続けるみたいな中年~初老の人生模様で結構キューっとなる。お馴染みフィリップ・サルド劇伴も素晴らしい。

鑑賞日:2024/06/18 監督:クロード・ソーテ


東から

このパンニングの具合と独特のテンポで久々にシャンタル・アケルマン作品を見てるって感じ。旧共産主義国家のあっちこっちよりって事で、世界の多くの人の目的地の一つとも言える『家からの手紙』のNYのソレとリズム感は同じながらも全く別の印象を受ける。Go West気味な人々の何処かへ行こうとしつつ、とにかく順番を待たされつつ、実態不明な素敵な何かを期待しつつ立っているみたいな様子が収められている。寒空もさる事ながら、何やら寒々しいあれこれの大人の世界の中、キャッキャする子供達の風景をほんのひと匙加える加減がまた絶妙。広告やネオンが極端に少ない街中で、時折映る西側大手の商品って感じで移行中の時代を余計なものを省きつつ無駄なく記録してるから凄い。

鑑賞日:2024/06/17 監督:シャンタル・アケルマン


マリア・ブラウンの結婚

ベートーヴェン第9第3楽章から始まり、歓喜の歌に行かず放送中止のOPと読ませる気ないタイトルクレジットからして冴えてる。ファスビンダー常連勢揃いの中心で、国家の速度を凌駕して1人物凄いスピードで復興して行くマリアことハンナ・シグラ。愛情の表現の仕方が奇抜過ぎで、戦後でありながら1人どんどん壊れてきているのが泣ける。爆発から始まり、引き寄せるだけ引き寄せた頂点の末に余計な爆発まで引き寄せるズッコケ具合で最高。W杯ほかドイツの国家状況を知らせるラジオ使いがまた上手い。傑作。

鑑賞日:2024/06/16 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


我等の生涯の最良の年

米国市民で戦後直後なら感動もするだろうけど、日本側から見るとドラッグストアでハムサンド頼むオッサンの肩を持ちたくなる。復員兵はつらいよって事で、ランボーだったら『俺の戦争はまだ終わっちゃいないんだ』でズタボロになりそうなとこだけど、今作はスッキリ綺麗に終わる。そんな雰囲気もあってかいまいち入り込めない作品なものの、航空機の墓場の画とそこで亡霊の如く徘徊するってとこはなかなか。

鑑賞日:2024/06/14 監督:ウィリアム・ワイラー


恋のエチュード

15年振りくらい。恋の始まり、中間を経て恋の終わりまでを時に美しく、時に厳しく描く。20世紀初頭の文化が花開いたパリの男と英国のピューリタン姉妹って事で設定からして過酷なんだけど、幸福な時代の描写が美し過ぎてまた泣ける。丁度読んでるプルーストと同じ様なアンリ=ピエール・ロシェの情景豊かなテキストをまんま映像化した様なトリュフォーって具合で、印象派っぽい点々な光の辺り方とか身震いするほど。色んなパン撮影もこれまた美しい。罪と罰状態なレオーではあるけれど、羨まけしからんレモン絞り+姉妹丼の甘い記憶があれば、それをよすがに生きていけるだろって思わないでもない。ちらっと出演のジョルジュ・ドルリューのグッとくる劇伴もまた素晴らしい。大傑作。

鑑賞日:2024/06/10 監督:フランソワ・トリュフォー


レ・ブロンゼ スキーに行く

どうしたって毛の話に持ってくのは良いとして、フォンデュにフロスはイカン。雪山だけに仲間内で盛ってるのはミシェル・ブランだけって感じなのが良いアクセントになってる。と思いきや、パリジャンドン引きの激しいイタリア人にゲテモノ好きスイス人の山小屋から村へのラストの下りが非常に楽しい。帰路に付くシーンになるとちと寂しくなるほどに、旅気分を堪能できる。モッコモコなペペットちゃんをもっと見たかった。

鑑賞日:2024/06/08 監督:パトリス・ルコント


レ・ブロンゼ 日焼けした連中

のっけのゲンスブールで取り敢えずガッチリ掴まれる。ウディ・アレンっぽくもあるけど、それ以上にハードな立ち位置で何一つ良い事がないミシェル・ブランの心臓に毛が生えた感(頭はないけど)が最高。ヴァカンスにかけるフランス人の情熱はお手本にすべきとして、今作のソレは猿レベルに旅の恥は掻き捨てまくっていて実に面白い。適当っぽい群像劇(みんなそれぞれ良い)且つ、変な間の取り方がちょっと『M★A★S★H』っぽいノリなのも個人的には好感が持てる初期ルコント。

鑑賞日:2024/06/04 監督:パトリス・ルコント


機動警察パトレイバー2 the Movie

OVA押井回の力の抜けた感じも好きだけど、節全開+圧倒的な劇場仕様で只々脱帽って具合。2.26を彷彿させつつ、オウムやらに先立つ事の'93年に東京を舞台とする都市型テロのソレを描き出し、不正義な平和と正義の戦争の元の欺瞞を問う戦後随分あと世代が叫ぶ『平和ボケも大概にせい』って云う超熱いやつ。女を感じさせる色気マシマシしのぶさんと後藤隊長が殆ど主役みたいな進行でありつつ、ラストに向けて特車二課が揃うカタルシスたるや脳から変な汁がでるレベルで素晴らしい。戦闘機に鳥にと飛行物体の扱いの巧さも異常。傑作。

鑑賞日:2024/06/03 監督:押井守