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スワンの恋

Films: Jul.2024『スワンの恋』ほか

Aug,01 2024 12:00

すっかり夏本番の様相で、相変わらずのミックス・マスタリング沼から抜け出せない今日この頃。
あれこれバタバタしていてそんなに映画を観てないと思いきや、そこそこ観ていた7月。
先月からの続きで久々の『悪魔のようなあいつ』も月末に終了。ジュリーの存在感は勿論なんだけども、藤竜也に荒木一郎、若山富三郎がほんとイイ。
月の中盤には配信が開始されてようやくの『タフ PART5 カリフォルニア 殺しのアンソロジー』と『ペインテッド・デザート タフ 劇場版』を観るべく、シリーズの最初『タフ PART1 誕生編』から。5以降はあってもなくても良い感じの続きなものの、きちっと魅せるとこは魅せるって具合な原田眞人ではあった。
ダニエル・シュミット監督+ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー出演の『天使の影』から始まり、ジャック・ドワイヨン監督+ジェーン・バーキン主演の『放蕩娘』、たまたまカラヴァッジオをちょっと勉強したので久々にデレク・ジャーマン監督の『カラヴァッジオ』、更にはイエジー・スコリモフスキ監督作品『EO イーオー』となかなか濃ゆいラインナップ。野田幸男監督の『0課の女 赤い手錠』も色んな意味で結構キョーレツだった。
トリュフォー再鑑賞祭り続きで『私のように美しい娘』、ウディ・アレンの割と新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』と流石の安定感。
7月に特に印象深かったのがマイク・ニコルズ監督の『キャッチ22』で'60~'70年代の監督作品は傑作しかない感じ。
キャッチ22と迷うも、丁度プルーストの『失われた時を求めて』を読んでる事もあり、再鑑賞の『スワンの恋』を7月の顔とする。

そんなかんなな7月で、兎にも角にも早くミックス・マスタリング作業を次に進めたい今日この頃。

観た映画: 2024年7月
映画本数: 18本

ヴァージンフォレスト 愛欲の奴隷

世界の社会派のレベルが違い過ぎて困惑。『北(ノルテ)歴史の終わり』でラスコーリニコフ役やってた主人公がひょんな事からフィリピン社会の暗部に迷い込むって具合。森林伐採やら貧困がテーマと思いきや、性犯罪の胸くそに辿り着く。蛮族感全開でかなり不快なものの、ナイスバディな森の精たちほか、そんなに要らないだろってくらい必要以上に挿入される濡れ場(目を覆いたくなるんだけど)とで飴と鞭状態で混乱する。この監督の『ローサは密告された』とか結構面白かったと思うんだけど、今作は好みではない。

鑑賞日:2024/07/30 監督:ブリランテ・メンドーサ


EO イーオー

ミート・イズ・マーダーってな具合。自然界と調和しているのに、人間のせいで生きにくくなっているのはロバに限らず。あらゆる美しいものの徹底した描写、それに対するアラート的な赤色。恐らく人間特有の危機感や不安を誘発させつつ、サブリミナルチックな感じの仕上がりとなってるので、なんとなくすみませんって気分になる。気合い入りまくった映像に動物の純粋さの切り取りは文句なしではあるも、特定の人々へのアイロニーと共に時折ちょっと説教臭い気もしなくはない。ロベール・ブレッソン的なのは勿論の事、なんでか『母を訪ねて三千里』を思い出してしまった。と、相変わらず美しいユペール様。

鑑賞日:2024/07/29 監督:イエジー・スコリモフスキ


サン・セバスチャンへ、ようこそ

美しいなサン・セバスチャン。ピリッとしたのが弱くなってる気もするけど、相変わらずなウディ・アレン作品ってな具合。『市民ケーン』から始まり『第七の封印』まで好きなやつのオマージュをオレ的フェスティバルと題してこれでもかとやりまくってる。人生の終わりの方で自分は何者かなんてのを自身の分身を使ってやる感じで、完全なる年寄り映画ではある。も、人生における失敗の積み重ねの末で対峙する死神とのやり取りとフェードアウトの締めでキッチリじんわりさせる。

鑑賞日:2024/07/27 監督:ウディ・アレン


ペインテッド・デザート タフ 劇場版

日本に金があった時代の産物って感じ。砂漠を舞台に『ロンサム・ダブ』的な良い雰囲気のやつをやりたかった感は伝わって来る。木村一八と一瞬流れる3~4のテーマとで一応、タフはTUFFなんだけど、物理的にも遠いとこに来てるって具合でこれじゃない感は否めない。どっかでシロハタ登場とかメインテーマが流れてたりしたら印象は大分変わった気もしなくはない。本国の人が散々撮ってるUSA的な映画を、わざわざ原田眞人が撮る必要ないんじゃないかと思ってしまった。ものの、映画としては普通に出来が良いので評価に困る。そんな訳で、今年のタフ週間は終了。
一晩寝たらスッと1本筋が通ったので追記。根岸季衣が次郎には外国で揉まれて欲しいって事で、5から続いての今作。殺しの仕事で砂漠へ来たものの、そこで理想的な仕事を見つけ、生命の誕生に携わり過去に得る事の出来なかった擬似的ではあっても家族としての連帯感を得る。帰る場所を見つけてしまった次郎はミッションを渋るものの遂行し、ギリギリのとこまで料理人か殺し屋のどちらかで悩む演出がなかなか。米国でのテストに合格し『大リーグへようこそ』と言われた時の次郎の複雑な表情とその後の身の振り方で、シロハタは出現せずとも自己証明としての殺し屋の呪縛=罪からは結局逃れる事が出来ず、己がシロハタ状態で砂漠を彷徨うって事で良く出来てる。結局のところ完結篇の上塗りみたいな今作ではあるものの、構想と云うか話の広げ方はやっぱり上手い。別に作らなくても良かった気もするけど。満腹。

鑑賞日:2024/07/26 監督:原田眞人


タフ PART5 カリフォルニア 殺しのアンソロジー

ようやっと観る事が出来たと思いきや、予想以上にガッツリ総集編だった。シリーズ観てないと何が何やらな初見殺しダイジェストでどうなんだって感じなんだけど、ほぼ寝てるだけ次郎の社会復帰辺りのシーケンスの盛り上がり方なんかは流石な原田眞人って感じ。もはや『ベルリン・天使の詩』的な存在なシロハタ(パスポートの都合で遅れてやってくる=薬が抜けてくる)とで、兎にも角にもカリフォルニアロケやりたかった感がヒシヒシ伝わってくる。

鑑賞日:2024/07/25 監督:原田眞人


タフ PART4 血の収穫篇

5作目以降を観るべくな再鑑賞も一区切り。血飛沫を浴びたピザでシリーズ回収=収穫で改めて完成度が高い。根岸季衣との会話にシロハタ被せてくる伏線からの『何言ってるのか分かんねーよ』のとこを始め、冴えてる演出があちこちにあって大満足。介錯するのに弾込められない吉澤健のとことかもほんと上手い。傑作。

鑑賞日:2024/07/24 監督:原田眞人


タフ PART3 ビジネス殺戮篇

久々。原田眞人に戻りタフからTUFFでオカルト+文学な様相で面白い。至る所で交錯する簡単な話とややこしい話の塩梅が絶妙。みんな良い仕事してるけど、有能守護霊ことシロハタがやっぱり目立つ。と、足萎え役が上手い主人公2人。

鑑賞日:2024/07/23 監督:原田眞人


タフ PART2 復讐編

久々。三原じゅん子とシロハタ回。やっぱり原田眞人のキレ具合と比べるとちょっと間伸びした感があるものの、門奈克雄のじっくり見せてくる演出もこれはこれでクセになってくる。しょっちゅう出てくる木村一八の精神状態を表すかの様な逆さ向き撮影もとても良い。

鑑賞日:2024/07/22 監督:門奈克雄


タフ PART1 誕生編

なんとなく夏の風物詩になりつつある。安岡力也曰く、『ロンサム・ダヴ』に感動しない奴とは一緒に仕事しねぇって事で、全編観た後だと余計に納得。も、ネタばらし酷過ぎ。相変わらずタイトルからラストまで実に尖ってる。

鑑賞日:2024/07/21 監督:原田眞人


0課の女 赤い手錠

破茶滅茶って言葉が良く合う。想像以上に何されてもクールな杉本美樹と大物役な丹波哲郎の間の人間が曲者キレ者揃いな具合。切れたナイフ状態で近付きたくない感じの郷鍈治に、ひたすら木彫りのビーナス掘り出すナイフ使いの妙に雰囲気ある荒木一郎とでこの2人を観てるだけで面白い。お上から警視庁、チンピラまで清々しいほどに外道しかいないって具合で、各種拷問の類のエグさが結構来てる。万力+バーナー+ホースが一番キツそうだった。鬼編集とお洒落カット満載で非常に面白い。

鑑賞日:2024/07/19 監督:野田幸男


キャッチ22

不条理ものの傑作って云うとカフカ×オーソン・ウェルズ×アンソニー・パーキンスの『審判』だけども、これも負けてない。上記2人に加えて今作と前後でS&Gなほか、結構なキャストでそれぞれ良い味出してる。戦争って云う巨大な不条理から始まり、笑えるのから狂気の不条理に時間的テクニックまで駆使してかなりな悪夢具合。迎合できる人間とそうじゃない人間って事で、正気を保ち続けたいならお前ら走れ、飛べと熱いメッセージを放つマイク・ニコルズ。傑作。

鑑賞日:2024/07/18 監督:マイク・ニコルズ


私のように美しい娘

久々。ファム・ファタールものでありながら、常にプリンプリンさせつつ、竹を割った様な性格のエロ可愛いベルナデット・ラフォンでどこまでも明るい映画に仕上がってる。軽快なテンポで展開しながら、鮮やかな伏線回収からの急転にラストのほっこりショットと完璧過ぎなトリュフォー。カーレースLPと害虫駆除のオヂサンことシャルル・デネルの純情演技と無駄死に感がまた最高。で、ジョルジュ・ドルリューの劇伴も傑作過ぎ。

鑑賞日:2024/07/15 監督:フランソワ・トリュフォー


文化果つるところ

人を欺く者の末路って事で、結構激しく転落する。ジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(地獄の黙示録)的密林を舞台に落ちて行く筋で通ずるものがある。裏切り者への怒りを通り越した時の冷酷な対応ってのは、お仕置きレベルとして『賢い者』とっては特にキツイものがある。グレート・ブリテンらしい上から目線で蛮族を語り、同国人からそれ以下を輩出するのは冷酷にならざるを得ないって事で、なんのかんのでナチュラルに上から目線で流石って感じ。激しいスコールが打ち付ける中のラストが緊迫感があって良かった。あと、簀巻きブランコ何気に楽しそう。

鑑賞日:2024/07/14 監督:キャロル・リード


青い乳房

上下移動の撮影やら編集やらにカーテンシャツとか謎間取りとかスタイリッシュな清順らしさはあっちこっちにあるんだけど、いかんせん話が面白くない。小林旭筆頭にそれぞれに豹変する奴が配置されてる設定は良いとして、問題なのは演技が全員なんか恥ずかしくてイカン。ロケ地池袋と清川虹子は言われなきゃ分かんない。

鑑賞日:2024/07/10 監督:鈴木清順


スワンの恋

原作読んだので久々に。時代背景とかヴァントゥイユのソナタとか視覚に聴覚にと活字で展開されたものを結構完璧に映像化していると思われる。精神があっちこっちに飛ぶのとか、細かい要所が原作読んでるの前提な感じで進んでは行くものの、ジェレミー・アイアンズ扮するスワンの恋の始めから、気も狂わんばかりを経てのアフターで映画だけでも精神の動きは充分に伝わってはくる。洗練されたスワン像をこなし、娼館でやる気のないアイアンズをかます等々とで、ちょっと前の『ブライヅヘッドふたたび』とか、今作と似た感じの役柄な後の『ロリータ』とか文芸系やらせたらホントピカイチな感じ。ちらっと出てくるシャンゼリゼのジルベルト可愛い。

鑑賞日:2024/07/07 監督:フォルカー・シュレンドルフ


カラヴァッジオ

久々。濃い闇が印象的なカラヴァッジオの絵画の世界を映像で再構成するって事で改めて観ると結構な力作。リアル肖像画に似てる感じの配役からショタ作品ほかの人力静止画までかなり凝ってる。無茶な暴れん坊って人物像って感じではないけども、カラヴァッジオのダークサイドな部分の投影と男色っぷりは良く伝わってくる。逃亡先からの回想から唐突に挿入される'80年代当時のツールで時を飛びまくる具合でバキバキなニューウェーブ感。傑作。

鑑賞日:2024/07/05 監督:デレク・ジャーマン


放蕩娘

旦那様と娘が『レモン・インセスト』のMVでやった危うげなやつを遡ること数年前になんだかそれ以上に身体を張るジェーン・バーキン。邪魔な存在を排除して行く幕仕立てで『出自の男と再会』(スゲー表現だな)するまでとその顛末をやる。常時メンタルぶっ壊れで会話にすらなってない感じのバーキンと常時困惑顔で世話を焼くミシェル・ピコリの図式なんだけども、それも何となく逆転して行く感じ。スッキリした娘と対象的に、最後は娘用の薬を飲み、パジャマを着てどんよりしてピッコリしてるのが印象的。血圧を測る医者に対して『心』の圧を測る事が出来ない(怒)等々の迷言が結構あってなかなか面白い。で、海の上の家が素敵物件。

鑑賞日:2024/07/02 監督:ジャック・ドワイヨン


天使の影

悪質な知の遺産って事で、人間の最低な部分を網羅しながら悩める戦後ドイツを描くって具合。愚かな人間たちの中にて、今作は監督じゃないファスビンダーのクズの中のドクズっぷりが目立つも最後はちょびっと同情。ニャンコの顛末に悲しさと戦慄を覚えつつ、街に蠢く集合体の徹底的な無力さとデカダンス具合とで結構グッタリする。そんなこの世の地獄からの脱出方法が更に無力感が増す感じなんだけど、結構真理だったりするから困る。後のリンチが凄い影響受けてそうな映像と演出も見応えがある。

鑑賞日:2024/07/01 監督:ダニエル・シュミット