Films: Sep.2024『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』ほか
Oct,02 2024 10:30
アルバムのミックス、マスタリングの基準がなかなか決まらずな毎日。そうこうする間にシングル曲も録音しなきゃで頭が回っていない具合。
そんな9月は原田眞人『突入せよ!「あさま山荘」事件』からで、トリュフォー祭りの続きで『日曜日が待ち遠しい!』、ペドロ・アルモドバル『オール・アバウト・マイ・マザー』、『男はつらいよ 純情篇』に成瀬巳喜男『あらくれ』等々、再鑑賞ものが多かった気がしてたらそのほかは意外と初見が多かった。
あんまり馴染みのなかった加藤泰監督の遺作にして傑作な『炎のごとく』が9月の日本映画の中では特に印象深かった。
そしてジャック・ベッケル『エドワールとキャロリーヌ』、エルンスト・ルビッチ『ニノチカ』、ジョセフ・フォン・スタンバーグ『上海特急』とクラシック作品も名作揃い。
更にはオランダ人監督のディーデリク・エビンゲ『孤独のススメ』、ペネロープ・スフィーリス『ブロークン・ジェネレーション』にパティ・ダーバンヴィル繋がりでデヴィッド・ハミルトン『ビリティス』、先月に続いてハンガリーのメーサーロシュ・マールタ『アダプション/ある母と娘の記録』と'70~'00年代の質の高い作品が多かった印象。
しっかりクオリティーを維持してくるクリント・イーストウッド『運び屋』もとても良かった。
そんな訳でフレンチ感満載なケン・ラッセル『フレンチ・ドレッシング』にほっこりアニメーションとは裏腹な重さで気分がどん底になるジミー・T・ムラカミ『風が吹くとき』と傑作な英国ものと悩んだ末、ようやくのクローネンバーグ新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』を9月の顔とする。
とにかく一息つきたい今日この頃。
観た映画: 2024年9月
映画本数: 20本
キューブリックに愛された男
キューブリックの無茶な要求に応えるから愛されるのか、愛されてるから無茶な要求をされるのか。恐らくはどっちもなんだろうけど、いずれにせよ完璧を要求するキューブリックみたいな男を支える人間が居たからこそで、秘蔵の写真やグッズに裏話でなかなか楽しい。始まりはあの卑猥な巨大オブジェからで、最後はスパルタカスでズコーなオチ。逆に下手な映画好きだったならばこの関係は築けなかっただろうって具合。で、ニャンコやワンコやロバを保護するキューブリックで印象が結構変わる。
鑑賞日:2024/09/30 監督:アレックス・インファセリ
クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
他の追随を許さないってのがしっくりくる独創っぷり。ここ20年くらいは内面的な痛さとグロにシフトしていたクローネンバーグ。そんな監督が今作は久々に表面的に攻めまくってる訳なんだけど、お家芸とも云える磨きこまれた痛さとグロ表現をやりつつも、痛みを感じない近未来の設定ってのがもう付いていけんレベルで凄い。『イグジステンズ』みたいなコントローラーでウニウニと弄り回し、いわば進化の岐路の時代な具合。神の摂理を冒涜しつつ未来に適応するか否かの渦中で、有毒バー食べて人間である事を取り戻すヴィゴ・モーテンセン(泣)って話で、超が付くほどに屈折した人間賛歌作品となっている。見た事のない世界をドーンと提示し、上手いこと問題を提起するって事で、映画ってのはこうでなくちゃって感じ。長年一緒のハワード・ショア劇伴も雰囲気があってとても良い。傑作。
鑑賞日:2024/09/29 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
アステロイド・シティ
相変わらずなウェス・アンダーソンのお家芸って感じで、鬼構図で情報過多な映像もパキっとした色彩も観てるこちら側が年齢を経る度にくたびれる。ものの、『目覚めたいなら眠れ』の意味合いを含む二重ならぬ多重構造仕立てと、宇宙規模と地球規模で考える大人たちと子供たちそれぞれの死生観とで割と沁みる作りにはなっている。総じてなんのかんので出来は良い上に色んな事やってる印象。
鑑賞日:2024/09/27 監督:ウェス・アンダーソン
風が吹くとき
デヴィッド・ボウイのイケてるOPから、まさに英国な牧歌的風景、そこからの秘密基地的ワクワク感とがピークでその後はもうしんど過ぎ。お上を盲信する老人像はインターネット時代になったとは云え馬鹿に出来ん。核の怖さは勿論の事、国家を始めとした人間の愚かさをこれでもかと浮き彫りにする。例えるなら、台風に備えて窓にバッテンしたとこで脅威に対しては人間はあまりに無力みたいなやつの上を行く最も怖いタイプの話を、ヌルヌル動くレイモンド・ブリッグスキャラに実写を上手い事合わせつつ、適度な『コミューター』・グラフィックで作られている。'80年代に頂点を極めたアナログアニメーションの中でもかなりの力作って感じ。で、『THE WALL』同様の虚脱感げなロジャー・ウォーターズ締めで文句なしって具合。傑作。
鑑賞日:2024/09/25 監督:ジミー・T・ムラカミ
上海特急
一応群像劇なものの、当然の事ながらマレーネ・ディートリッヒありきで、美しさを追求した撮影はお見事。そしてサスペンスよりは純愛って感じなんだけど、『誰でもしたこと』と涼しい顔した信頼関係の図がとても粋。時に含みがあったりする会話の返しも大人のソレって感じで良い。事件的には大して盛り上がらずなんだけど、配置されたキャラ立ちと役割もスムーズでストレスなく観られる。で、動乱を通過する道中において大変お利口さんだったワッフルズちゃん。にしても、時代的に仕方ないにせよ、ハリウッドの差別具合がエゲツない。
鑑賞日:2024/09/24 監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
八月の狂詩曲(ラプソディー)
公開時以来。ストレートな反戦、家族愛の内容で、これ見よがしな部分とわざとらしい部分に説教臭い部分とが多く含まれつつもこの説得力。教育作品っぽさがありつつも、黒澤明の美しさや怖さを孕む絵コンテをそのままな具合の映像化に、ハッとする赤い野バラや婆ちゃんの傘のとこ等々、絶妙なシューベルトとヴィヴァルディ使いと共にやっぱり圧倒的。そんなかんなで、なんと云うか自分の記憶にも残る、遠い昔の婆ちゃんのあの感じからして泣けてくる。にしても、付託通常運転で団塊以降骨抜きにされ過ぎなのと、失われ過ぎな日本の原風景とで複雑な胸中。その昔行った長崎旅行であちこち見たつもりだったけれども、まだまだ見るべきものは多いって感じ。
鑑賞日:2024/09/23 監督:黒澤明
フレンチ・ドレッシング
長過ぎな桟橋を中心に全シーンが絵心ある感じでイイ。ジャック・タチってよりはフェリーニ的ドタバタ、ジョルジュ・ドリューの劇伴と自転車使いでトリュフォーっぽくもある。BBならぬFFの招聘が殆ど喧嘩売ってるレベルなのが英国的で面白い。保守層のスケベっぷりの皮肉にペイズリー柄を着こなす若い世代な'60年代感も好き。兎にも角にもセーラー襟のジュディちゃんことアリタ・ノートンが可愛い過ぎるので、これだけで良いモン観た気分。
鑑賞日:2024/09/22 監督:ケン・ラッセル
運び屋
ジェームズ・ステュアートに似てる設定のクリント・イーストウッド監督主演作って事で、毎度の事ながら映画の作り方と年齢問わずカッコいいと悪いが同居した男の描き方が上手い。今時の若いモンはとインターネットや携帯を槍玉にボヤきつつ、メールを一所懸命覚えるキュートさと、それに対してマフィアに囲まれてもビビった表情は見せず、なんなら往年の頃の如く自力で何とかしそうな迫力すらある演技。その辺の積み上げた経験値は俺の力だけではないと、自身の家族への感情も垣間見る事の出来る実に良い出来。後悔しない生き方をせよと云う教えで、このレベルのジジイに言われると流石に説得力がある。と、アンディ・ガルシア似の何かが出てきたと思ったら本人だった。
鑑賞日:2024/09/18 監督:クリント・イーストウッド
ニノチカ
笑わないガチガチなボリシェヴィキ女からの『グレタ、笑う』までの演出とその後のエンジョイっぷりが秀逸過ぎ。あちらには高い理想があるけれど、こちらには暖かい気候があるって事で見事に資本主義(アメリカ)的プロパガンダ映画に仕上がってはいるも、ビリー・ワイルダー脚本で流石に無駄なく面白い。更に言えばイデオロギーを超越した幸福ってモンをしっかり描いている辺りにとても好感が持てる。レーニンの時代からスターリンの時代でニノチカの風向きが変わるってのも細かい。と、速攻で資本主義に飲まれる駄目3人組キャラと序盤のファシズムで人違いってネタも最高。
鑑賞日:2024/09/17 監督:エルンスト・ルビッチ
アダプション/ある母と娘の記録
願いが叶えられた後の憂鬱っぽい表情や不安感で擬似親子から現実の厳しいとこにガッと持って行くラスト5分くらいが見事。ほとんどアップ気味なとこから、最後にサーっと引いてくカメラで女性にとって生きにくい社会ってものを暗示させる。劇伴もなかなか。
鑑賞日:2024/09/16 監督:メーサーロシュ・マールタ
ビリティス
生まれ変わったら鎌倉の女子高生になりたいと常々思っているけど、こっちも楽しそうでイイナ。先日観た『ブロークン・ジェネレーション』よりパティ・ダーバンヴィル繋がりで鑑賞。OPから目の保養しかないって感じで、写真家デイブ・ハミルトンのソフトフォーカスに性的嗜好とに相まって力の入れ具合なのか全てのシーンが画になる。で、盛り沢山の百合要素と思春期の謎行動原理を上手い事拾っていて実に良い。まだまだお子ちゃまなほろ苦ヴァカンスとフランシス・レイのメロウな劇伴もとても合ってて良いもん観たって感じ。
鑑賞日:2024/09/15 監督:デヴィッド・ハミルトン
日曜日が待ち遠しい!
久々。大人になれない子供よろしく、やりたい放題は映画の中でやるトリュフォー。とにもかくにもファニー・アルダンへの愛情に溢れていると云うか、彼女の魅力を最大限に引き出してる感じ。地下室からの窓にEDにと脚フェチも極まれりって具合。ヒッチコック的なサスペンスをやりたかったのは勿論なんだけど、それ以上にらしさが詰まっている辺りが流石。お洒落過ぎな銃の使い方とかも堪らん。原作『土曜を逃げろ』→『日曜日が待ち遠しい!』とか天才的。んでもって鎌倉に行きたくなってきた。傑作。
鑑賞日:2024/09/13 監督:フランソワ・トリュフォー
ブロークン・ジェネレーション
ボンボン...。ハブられまくる卒業式、パーティー後の妙な節目のテンションからの始まりってのも結構ポイントな気がする。そこから繋がったままのLAにて野蛮人の日開幕からノンストップな終幕で、憐れな無敵2人組でしょーもないんだど面白い。短絡でありながら打算的(甘いんだけど)でもある怖さと、殆どゲームの中の事の様な非現実世界な感覚で、一つの現代病な具合(馬鹿とも言う)。いずれにせよ絶対にエンカウントしたくないけど、わが国も無敵の人の増加率が凄いので普通にリアルに怖い。チョークのアウトラインに始まり、終わるのがキマってる。
鑑賞日:2024/09/10 監督:ペネロープ・スフィーリス
あらくれ
暮れの室内でホース水かますあらくれ全開のデコちゃんが観たくて久々に。大正デモクラシーの時代にすらチト早すぎるタイプの破茶滅茶っぷり。不遇に対する爆発でありながら、大体自分が原因で引き寄せてる感じが何とも言えん。髭だるまこと加東大介が一番食らってる感じもジワる。で、大きいらしいのを揉みっとする志村喬のあの表情。傑作。
鑑賞日:2024/09/09 監督:成瀬巳喜男
孤独のススメ
基本的に電話応対から筋書きまで後出し、倒置法で上手い事構成されている。いわゆる善きサマリア人的な考え方よりもっと人間的な願望に忠実と云うか、隣人にソドムとゴモラ認定される程にかなりアナーキーな事になってる。雨の教会にて神は何をしてくれたの問答からの、隣人と息子への理解、許しに繋がる流れにマッターホルンぶつけてくる感じで、信仰心の遍歴の表現が見事。バッハ尽くしの中、中盤以降ずっと脳内で「誰もひとりでは生きられない〜」が流れてちょっとややこしい事になっていた。傑作。
鑑賞日:2024/09/07 監督:ディーデリク・エビンゲ
男はつらいよ 純情篇
久々。柴又のメインストーリーを五島列島の森繁久彌+宮本信子エピソードで挟み、空撮から始まる6作目。おばちゃんのいとこの嫁行った先の旦那の姪=若尾文子に森川信(寅さんとのやり取りの勢いが違う)+松村達雄の新旧おいちゃん共演とややこしい要素で攻めてる感じ。と、前田吟の独立未遂とで全体的に上手いこと郷愁を絡めた出来で良い。若尾文子に門前払いをくらう寅次郎でそれぞれのエピソードが中途半端な印象も否めないものの、さくらとの柴又駅でのやり取りでオールオッケーになる感じ。で、杵演出が上手過ぎ。
鑑賞日:2024/09/06 監督:山田洋次
オール・アバウト・マイ・マザー
20年振りくらい。101分とは思えない程な濃密さって感じで、アルモドバルの女性賛美の部分に変態要素に流れる様な筋立てにお馴染みのお洒落内装(今作はバルセロナに合わせた)と脂が乗りまくってる時期で改めて完成度が高い。出来過ぎではあるけれど、この生命の因果は愛する者を失った人間にはかなり来るものがある。そんな本編にあってハマり過ぎな劇中の『欲望という名の電車』で、マリサ・パレデスのブランチさんもなかなか。そんなかんなで、ロッシ・デ・パルマとか出る隙がない感じのシリアスさだけども傑作。
鑑賞日:2024/09/04 監督:ペドロ・アルモドバル
炎のごとく
時折何言ってるか分からないレベルに興奮する菅原文太の熱量に尽きる。男子たるものこうあるべきと、倍賞美津子ほか主要女優それぞれの美しさの引き出し方が上手過ぎる。幕末動乱の渦中にて男の人生の掛けの失敗に次ぐ失敗の2部構成で内容としては凄いボリュームなんだけど、シリアスとコミカルの緩急、各種構図に、静と動を使い分けたハッとする編集にと圧倒的な巨匠の仕事で長尺も全く飽きる事がない。翻弄され燃え滓になりそうで、まだ燃え尽きないで熱い映画。傑作。
鑑賞日:2024/09/03 監督:加藤泰
エドワールとキャロリーヌ
犬も食わない夫婦喧嘩を最大限に面白くしてる感じ。通りからパンして室内の始まりから最後はその逆で締め、鏡目線や階段ほかそれぞれのシーンの繋げ方もお洒落。階級差結婚に電話にと微妙なズレで構築しつつ、危機感を盛り上げてきっちりイチャコラで締める実に綺麗な出来。最近プルーストでどっぷり浸かってるサロンの役割と滑稽さも網羅されてる感じ。何はともあれ、喧嘩しててもイチャついてても主演の2人が微笑ましいキャラとして成立しているので、それだけでも成功してる。
鑑賞日:2024/09/02 監督:ジャック・ベッケル
突入せよ!「あさま山荘」事件
公開時以来。『金融腐蝕列島 呪縛』に続いて得意な対策本部系。結局のところ警視庁と県警の主導権争いのバタバタを描きたいのはしっかり伝わってくる。そんな訳で別に題材はあさま山荘じゃなくても良かった気もしなくはないけど、作者に同世代の監督とでやはり思うところはあったと思われる。音声も崩壊する興奮状態描写にキャスト多数で誰が誰やら等々、微妙なとこを上げたらキリがないけど、流石に原田眞人作品って具合で腐ってもそれなりに盛り上がる。警察側視点で現場描写を徹底し、籠城する連合赤軍を極力描かない事での実態のなさと不気味さの演出も結構成功している。そっち側を観たければ若松孝二の方を観て『総括せよ』って具合。大本命権力側の縦割り的しょーもなさと団塊世代のしょーもない部分を怒りを持って作品に仕上げつつ、息子もしっかりバックアップする原田眞人でなんだかんだでやっぱり好き。シロハタ感の失われた矢島健一と川崎真弘劇伴じゃなくなったのは残念。んで、当時仕事て毎日予告映しててノスタルジー。
鑑賞日:2024/09/01 監督:原田眞人
category: 映画レビュー
tags: 2024年映画レビュー, エルンスト・ルビッチ, ケン・ラッセル, ジャック・ベッケル, ジョセフ・フォン・スタンバーグ, デヴィッド・クローネンバーグ, フランソワ・トリュフォー, ペドロ・アルモドバル, 原田眞人, 山田洋次, 成瀬巳喜男, 黒澤明