Films: Oct.2024『ヴェルクマイスター・ハーモニー』ほか
Nov,01 2024 11:00
相変わらずのアルバムミックス、マスタリング地獄で一向に進まない今日この頃。その間にリリースしたいシングルが増える一方でにっちもさっちも行かない状況。
そんな10月は五所平之助監督の『猟銃』から始まり、小林正樹監督『この広い空のどこかに』、『あなた買います』で佐田啓二ばっかり観てる印象。小林正樹繋がりで脚本を担当した木下恵介監督『破れ太鼓』もまた素晴らしい。そして成瀬巳喜男監督の『妻よ薔薇のやうに』と昭和の日本映画はほんとよく出来ている。『旅の重さ』の斎藤耕一監督の『海はふりむかない』も味があった
また、フランス映画、もしくは舞台設定がフランスなのが多い月で、圧倒的な演技力なグレタ・ガルボ主演、ジョージ・キューカー監督『椿姫』からクロード・ソーテ監督の『僕と一緒に幾日か』、『とまどい』とやっぱりどれも面白い2本立て、これ以上ないってくらいに目の保養ができるデヴィッド・ハミルトン監督の『テンダー・カズン』とどれも素晴らしい。
再鑑賞ものは少なく、マイケル・ラドフォード監督の『ブルー・イグアナの夜』のみ。ここ10年くらいで3回観てるって云うのはかなり好きなんだと思われる。
そんな訳で10月の顔はタル・ベーラ監督の2000年の作品、『ヴェルクマイスター・ハーモニー』に決定。どの作品も共通して凄いのがほんとスゴイ。
兎にも角にもどんどん進めなくては。
観た映画: 2024年10月
映画本数: 18本
ブルー・イグアナの夜
いつ観ても良い作品だな。それぞれのキャラの所謂『回廊のある洞窟の先の光』の描き方がジーンとくる。からの早朝締めで実に素晴らしい。レナード・コーエンのとこも最高。関係ないけど『イグアナの夜』もまた観たい。
鑑賞日:2024/10/31 監督:マイケル・ラドフォード
とまどい
人生の一筋縄で行かない部分が凝縮されてる感じ。ある面では上手いこといってる様で、こっちの面ではいまいち上手くいかないって云う様々なケースに直面した時の大人のあれやこれ。そんな大人の恋慕模様でエロティックな描写ほとんど無しにしてのこの官能感で恐れ入る。そして、出会いや展開などの物事の推移の唐突な面と、本を書き上げる過程と徐々に蔵書が減って行く辺りの時間の長さとの塩梅が絶妙。これで遺作のクロード・ソーテ監督の熟練具合に加えて、画面のこちら側からでも吸い込まれそうなエマニュエル・ベアールの魅力と、ミシェル・セローの余裕と嫉妬の入り混じる二面性を表現する演技とでとても良い作品に仕上がっている。
鑑賞日:2024/10/29 監督:クロード・ソーテ
破れ太鼓
絶対的家長の破れ太鼓っぷりをとことんエラソーにとことん可笑しく演じる阪妻。度重なるアドルフ発動がてんかんの女中レベルに病的でやばい。『奮闘努力』の甲斐もなくって具合に裸の王様と化してしまった父親と家族の温度差を1人ずつキャラを説明しながら巧みに操るって感じで、木下恵介監督的なコメディ力と小林正樹的な脚本の構築の妙みたいな組み合わせでとても上手い事できてる。珍しく表に出て来る木下忠司がまた良い役どころで、煽ての上手さで阪妻がボナパルト発動まで良くできてる。比較対象としての宇野重吉と、藤沢に居ながらにして場所関係なくフレンチを維持する東山千栄子と滝沢修がこれまた良かった。傑作。
鑑賞日: 監督:木下恵介
ヴェルクマイスター・ハーモニー
丁度別のとこでピタゴラスと和声の話があってタイムリー。ピタゴラス音律、純正律、ヴェルクマイスター音律に平均律と不安定さを孕みつつも便宜上の成り立ちで取り敢えず形になるって云うのはあらゆる不安定なイデオロギーの上に成り立つ人間社会のソレと似たものがある。神の和声を引き合いにしつつ、完璧なものとは破壊されたものと逆説的な話をしながら人間の愚かさを露呈する。タル・ベーラ作品に共通の長回しで、回り込んだりしながらそれぞれの顔を始めとする対象にきっちりスポットを当てて行くのが見事。で、すっかりおばあちゃんになってるハンナ・シグラのラデツキー行進曲→音飛び→暴徒の不穏な足音群とか凄過ぎ。そして暗闇から白昼に姿を現すクジラのなんとも言えない目(人間アホだなー的な)。傑作。
鑑賞日:2024/10/27 監督:タル・ベーラ
あなた買います
醜悪と滑稽の渦ってな具合で、札束の暴力(喰らってみてェー)って表現がしっくりくる。ドラフト会議導入前でやれる事は何でもやるって云う凄い時代。映画を観てる側の疑心暗鬼の対象としての前半の伊藤雄之助から後半の選手含めた四国の兄弟への入れ替わりが絶妙。それに対して各々の人間不信と葛藤する佐田啓二と岸惠子で、最終的には何となく2人結果オーライな雰囲気を滲ませる。『巨人の星』の梶原一騎的な美意識とは真逆な現実世界の汚なさ満載ではあるけれど実に面白い。傑作。
鑑賞日:2024/10/25 監督:小林正樹
プリシラ
ちょっと小川真由美チックなプリシラと、言われたら何となくそう見えてくるどっちかというとポール・ウェラー的なエルヴィス像。初監督作品以降、ガーリィを撮らせたらお手のモンなソフィア・コッポラではあるものの、正直なところ年々衰えてる気もしなくはない。籠の中の鳥感と寵児の内訳で大体『マリー・アントワネット』なんかと同じテンションの上、どうしたって監督自身のお嬢目線とミーハーさでなんか鼻につくのは否めない。基本的に大体の作品が庶民不在な体でやっぱりどこか共感が鈍るとこがある。とは云え相変わらず音楽の趣味は良い感じで、LSDのとこのファラオ・サンダースほか結構熱い。スペクトラムをハリウッド作品でババーンと流したって功績もありで、その辺は認めざるを得ない。リサが出てきてマイケルを思い出し、同じ地球上の出来事とは思えんなぁとしみじみ感じてしまった。
鑑賞日:2024/10/23 監督:ソフィア・コッポラ
この広い空のどこかに
佐田啓二と久我美子のイチャコラ夫婦像の爽やかさと眩しさが突き抜けていて、嫌味を通り越して好感が持てる。後妻の浦辺粂子、ちんば役が上手いデコちゃん(ホント凄い)にロマンチストの石浜朗と入り組んだ家族模様。よそから見たら恵まれた家庭と言えどそれぞれどこの家庭にも相応に悩みはある。煙モクモクで成長まっしぐらの川崎で戦後の傷痕や都会と田舎等々の社会問題を混ぜ合わせつつとても出来ている。他人の幸福を願う魔法のボール的なやつが卑屈さを上回るって云う、劇中の石浜朗みたいな青臭さでありつつも、フィクションたる映画だからこそ描くべきな真っ直ぐさで実に気持ちが良い。傑作。
鑑賞日:2024/10/21 監督:小林正樹
ずべ公番長 夢は夜ひらく
良い時代の新宿の風景。パンチラは当たり前で惜しげもないって具合で、ずべ公ってワードからして現代じゃ色々とアウトな感じ。ちらっと看板写る『ワイルド・バンチ』に出てきそうなメキシコタイプの金子信雄(一万円しか払わない下衆さ!)を仇に最後は宮園純子と辰兄で良い感じに締める。サイケからアングラまでとんがったあれやこれで憧れるわー。若い子に混じって葵紋付けた左卜全も良い役。で、なんと言っても藤圭子の歌唱力。面白かった。
鑑賞日:2024/10/18 監督:山口和彦
僕と一緒に幾日か
上級から下級まで結構キャラが出てくるも、そこまでゴチャゴチャ感はない。ジャン=ピエール・マリエール始めとしてヴァンサン・ランドンと険悪になりそうな人々とは一切険悪ならないって云う良い意味で期待を裏切る作り。パリに帰る前と後での区切りな感じで、パーティ面子の結びつきが『友情』みたいな展開で実に良い。一体全体何考えてるか分からないダニエル・オートゥイユとサンドリーヌ・ボネール、更には失恋に苦しむ者や横領する者とで娑婆いる者でも精神病院にいた者でも行動のコントロールに関しちゃ大差ないって云う傑作群像劇。焦げたヤギぐるみがちょー切ない。
鑑賞日:2024/10/17 監督:クロード・ソーテ
FALL / フォール
高い所駄目マンの身としては画面の中の出来事と言えど、カリン塔みたい建造物への挑戦に股がヒューっとしっぱなし&手足の汗で大変。生還方法が気になって観始めたものの、予想以上に天空ASMRサバイバルで映像は頑張った感はあるけど、生還のとこは大胆に端折っててズコーっとなりつつ疲れ果ててもうどーでも良いやって気分でもある。つまらんドラマ部分に微妙に文明の利器頼りな内容でよくよく考えるとサバイバル感に疑問はあるけれど、夜中にやってたら最後観ちゃう系で面白かった。恐怖を感じるタイミングが遅過ぎー、とFALLってタイトル...。
鑑賞日:2024/10/15 監督:スコット・マン
海はふりむかない
パヤパヤ始まり能天気なやつかと思ったらかなりヘビーだった。'60年代後半の被爆二世の青春で、上手いこと筋書きが出来ている。兄弟丼に向かいそうな雰囲気を保ちつつ、徐々に被爆問題の確信を突いてくる感じが巧み。で、『旅の重さ』同様にヒロインに逆立ちさせがちな斎藤耕一で、悲しみの表現が実に良い。ラストの問題が継続中な如くな静止画の広島の風景もズーンとくるものがある。企画からして西郷輝彦はじめとしたゲストの面々で完全なる歌謡映画な側面ありでちょっとクドくはあるも、イタリア映画っぽい劇伴も相まって何やら不思議な雰囲気の作品に仕上がっている。
鑑賞日:2024/10/14 監督:斎藤耕一
テンダー・カズン
羨まけしからん。ソフトフォーカス気味な映像で展開されるヴァカンスのあれやこれって事で大変良い。挫折と欲望とがドバッと起きる思春期で、ドイツ人の逗留者宜しく大人になるほど良さが分かる喪失の美学みたいなもんが凝縮されとる。戦前から戦中の物々しさは皆無で大人世界の疲弊感なんかは抑え気味で、あくまで性の目覚めの周りを見ない時代にばっちりフォーカスを合わせてる辺りがほわっとした映像の対比で素晴らしい。で、今から後を生きる若者への祝福か犠牲者への追悼か放たれるパツンパツンな魂の解放と、念願成就からのビンタ一発ENDで最高。プルースト読んでる最中だからか乱れたフランス的群像劇が楽しくてしょーがないんだけど、露骨な男色パパはもうちょい憚りなさい。
鑑賞日:2024/10/13 監督:デヴィッド・ハミルトン
椿姫
派手な序盤から田舎、からの高級娼婦の過去がついてまわる後半とで上手いこと出来てる。自己犠牲的な悲劇で流石な古典って感じなのは良いとして、映画では説明されてないけど紅白の椿装着する理由がスゴイ。完全に年増な嬢と前途ある若者の図になってるものの、いちいちグレタ・ガルボの演技力が圧倒的。欲望の社交界、乙女な田舎とアルマンの父親の下りを経てクールフェイスと瓦解しそうなのを行ったり来たりする表情が絶妙。で、ただでさえ凄まじい演技の末のラストのアレで大女優は伊達じゃないって感じ。素晴らしい。
鑑賞日:2024/10/11 監督:ジョージ・キューカー
ライトハウス
一言で表すとブラックな職場すな。火を欲しがるプロメテウスと超キビシイ規律のゼウス(それっぽい髭面な上に目から光線出ててヤバい)な構図って事でともかく荒れる。で、ルーベンス等々よろしく、末路は鷲ならぬ海鳥に何やらついばまれてる画。主演2人の閉鎖空間でのバチバチな怪演対決を側から眺めつつ、画面のこちら側にも狂気を伝染させる様な鳴り止まない数多のノイズとでなかなか効果的で面白い。木下恵介の灯台守のやつとの差ったらない。
鑑賞日:2024/10/09 監督:ロバート・エガース
妻よ薔薇のやうに
人生におけるどうにもならん部分が上手いこと描かれている。親世代と子世代、都会と田舎を織り交ぜた白黒つけられない人間模様。問題の発生源として全面的に父親が悪いんだけど、双方の女達から取り敢えず赦されてるのを考えると本妻よりは父親が一番勝ってる感はある。そんなかんなで恨み節の負の部分よりは人の真心でもって心を動かす面が強調されており、総じてとても品がある。隆盛を極めた戦前の東京の記録としても素晴らしい。何はともあれ『或る夜の出来事』ばりに車を停めるモガい千葉早智子が超キュート。
鑑賞日:2024/10/07 監督:成瀬巳喜男
ワン・フロム・ザ・ハート
無駄に豪華な痴話喧嘩ってな具合。『地獄の黙示録』の諸々のトラブルの反動でスタジオ内に再現されたラスベガスにて撮影。巨額の制作費を投じて再現されたのも納得な気合い入ってる映像美に仕上がってるものの、代償は大きかった模様。兎にも角にもいまいち華のない主演2人と肝心の話がつまらんってのに限ると思うんだけど、照明ほかエフェクディヴな撮影にトム・ウェイツ×クリスタル・ゲイルの音楽に、イイ女過ぎな鬼体幹なナスターシャ・キンスキーとでバランスを取ってきてる感じ。後の『ラ・ラ・ランド』の先取りと考えると流石は流石。
鑑賞日:2024/10/05 監督:フランシス・フォード・コッポラ
シティ・オブ・ジョイ
自分探しでインドにやって来てハンバーガーを要求するアメリカ人の何しに来た感ってのは置いといて、終わってみれば良い話ではある。ものの、若干捻りがないと云うかご都合展開で色々と弱い気もしなくはない。『ミッション』のガブリエルのオーボエの抜け殻みたいなモリコーネの劇伴も然り。カースト(底辺内での)のエゲツなさ模様と、カルカッタの大スラムセット、モンスーンの水浸し撮影具合は圧倒的。西インド的ターリー描写が皆無なのがちょいと残念。
鑑賞日:2024/10/03 監督:ローランド・ジョフィ
猟銃
重厚な具合に演出されたどこまでも文芸的ドロドロ。誰が一番可哀想って岡田茉莉子なんだけども、溜め込む嫉妬の炎の小出し感が絶妙。それに対して山本富士子の中にいる捉え所のない『白い小蛇』が微かに表情に出てくる演技が上を行ってるって感じ。そんな中に混じって大体出来上がっているものの、ゴージャス感はまだ身につけていない鰐淵晴子とで美女揃いな具合。で、ちょい役で安定の不安定役をこなし、キョーレツな印象を残す乙羽信子も流石。そんなかんなで、神戸の山の手な雰囲気で展開される大人の世界の報いの話って感じで非常に面白かった。『猟銃』ってモンが機能してるのかなんなのか良く分からんけども、細やかな伏線と鮮やかな色味等々の大胆な部分を上手いこと演出する五所平之助に、メロウなのから緊迫感まで芥川也寸志の劇伴の盛り上げ具合とで素晴らしい。蒲郡クラシックホテル行きたーい。
鑑賞日:2024/10/01 監督:五所平之助
category: 映画レビュー
tags: 2024年映画レビュー, クロード・ソーテ, タル・ベーラ, フランシス・フォード・コッポラ, マイケル・ラドフォード, 小林正樹, 成瀬巳喜男, 木下恵介