otom

THE FALLS

Films: Feb.2025『THE FALLS』ほか

Mar,01 2025 14:30

あれこれやるうちに気がつけば2月終了で、なかなか捗らない今日この頃。
映画本数もやや少なめ。
2月初めは再鑑賞者でリドリー・スコット『ブラック・レイン』より。その後もマイケル・ラドフォード『イル・ポスティーノ』、スピルバーグ『ジュラシック・パーク』と懐かしめのやつが揃う。配信のみで円盤リリース予定もなさそうなハミッシュ・リンクレイター, リリー・レイブの『1984年、ダウンタウン・アウル』も再び。どれも傑作揃い。
初鑑賞ものはアニエス・ヴァルダ『創造物』、ティント・ブラス『サロン・キティ』、エットレ・スコーラ『ル・バル』、デヴィッド・ハミルトン『愛と追憶のセレナーデ』とフレンチ感強めでどれも素晴らしい出来。また古いアメリカなアーサー・ペン『奇跡の人』、アンソニー・マン『裸の拍車』もとても良かった。『ガラスの仮面』を読んでた最中だったので、特に奇跡の人が印象的だった。
新作系はクリント・イーストウッド『陪審員2番』くらいで抜群の安定感。
そんなかんなで悩んだ挙句、一番強烈だったのって事で、ピーター・グリーナウェイ『THE FALLS』を2月の顔とする。

いつになったらアルバム1曲目が終わる事やら。早く新曲シングルに着手したいと云うか時間の使い方を上手くしないとと今更考える具合。
3月はもうちょい映画を観よう。

観た映画: 2025年2月
映画本数: 14本

裸の拍車

のっけのグワっとパンして拍車を映し、ドーンとタイトルからして期待感があった。賞金首と女、それを追う男に手伝う男、訳ありの退役軍人って云う結束力皆無なパーティで行くコロラド〜ロッキーマウンテン、ハイ〜♪ そんなかんななロード・ムービーで、雄大な風景を背景にバチバチと交錯する心理的駆け引きとで見応えのある作りになっている。見渡す限りの澄んだ空と岩山と激流の水の自然の静と動に絡めた演出で、束の間の食器の雨だれのとことか特に素晴らしい。テーマの段階的アレンジも実に良い。そして文字通り凶器の拍車(痛ァー!)攻撃しながらも、やっぱり最後は善人キャラなジェームズ・スチュワート締めで安心感もある。アンソニー・マンはほんとどれ観ても面白い。

鑑賞日:2025/02/27 監督:アンソニー・マン


1984年、ダウンタウン・アウル

円盤も出てないし、その内なくなりそうなので再鑑賞。ジョージ・オーウェル的なソレとベクトルは違えど悩める1984の図って事で改めて良く出来てる。各所の推しコステロのタイミング(テンション上がる)とその他音楽問答の下りも最高。登場キャラの悩み最高潮のところから圧巻のホワイトアウト→アラフォー女ほか、ある人間は目的を見出し、ある奴は解放されまっさらな状態からそれぞれの自由を得るラストで素晴らしい。舞台や設定が違えど結構なオマージュっぷりでクオリティが高い。

鑑賞日:2025/02/25 監督:ハミッシュ・リンクレイター, リリー・レイブ


ジュラシック・パーク

ジョン・ウィリアムズとウィーン・フィルのやつを聴いて久々に観たくなったので四半世紀振りくらい。『シンドラーのリスト』と同年の今作で、振り幅って云うか懐が深いスピルバーグ。バーンっとテーマが入るタイミングから、伏線を撒き散らし綺麗に回収するまで、結構な禁忌を扱いつつもしっかりお客が喜ぶツボを心得まくるエンタメになっていてスゴイ。今にしてみればショボいCGも、映画自体の作りが良いので全く気にならない上に脳内補完は余裕。ローラ・ダーンが出てくる度に『スイス・アーミー・マン』のローラ...ダーン!のとこがチラついてちょっと困った。

鑑賞日:2025/02/24 監督:スティーヴン・スピルバーグ


陪審員2番

陪審員2番のこっち見んな、俺に言うなって云う心の声が画面のこちら側に伝わり、正義の裁きの行方のドッキドキを共有する体感型映画に仕上がっている。『十二人の怒れる男』のヘンリー・フォンダばりにコイツは何を言い出すんだ的な評議の始まりからの丁寧な組み立てで、シドニー・ルメットオマージュしながらも設定含めそのまんまはやらない卒寿越え流石なクリント・イーストウッド。正義とはなんぞやに加えて、司法制度のある種の欠陥に踏み込む作りで、AI時代にありながらまだまだ悩める人類の実に人間臭いアナログな仕上がりとなっている。『セッション』の元刑事役のイケおじ、アイツさえいなけりゃクッソー!って云う主人公の残念無念な罪と罰。傑作。

鑑賞日:2025/02/22 監督:クリント・イーストウッド


THE FALLS

ずっと観たかったやつ。鑑賞者立場的には割とこの作品自体がVUEって感じ。未知の暴力的事象(Violent Unknown Event)に遭遇した名前にFallが含まれる92人の索引からなるフェイクドキュメンタリー。盛大に名前オチから始まり、『鳥の責任理論』やら謎言語に後遺症などが数に溺れながら淡々と語られて行く訳だけども、民明書房ばりのでっち上げ具合で本物のドキュメンタリーな気になってくる意味不明な力がある。そんな映像にグリーナウェイ期初期ナイマンのミニマル感がまた最高に合う。再び観るかと言われたらどーだろって感じだけど、デレク・ジャーマン然りこの時代独特の英国式前衛のトンガり方はかなり好きではある。ちょい出のクエイ兄弟もイケてる。およそ3時間の92人終了の後、俺戦エンドっぽく終わってちょっとゾッとする。

鑑賞日:2025/02/20 監督:ピーター・グリーナウェイ


都会のひと部屋

とりあえずジャック・ドゥミ的ナント感は良い。ものの、先の傑作2本とは比較にならないレベル。短期間で人生が狂うって云う鬼展開のメロドラマしてて、怒涛な具合なその辺りは面白いんだけど肝心の音楽が酷い。ルグランに対してコロンビエのメロディーの弱さと云うか、歌っぽくしてるだけの台詞が駄目過ぎる。ミシェル・ピッコリの偽物みたいな嫉妬に狂う旦那も何か弱い。劇中殆ど裸に毛皮で頑張るドミニク・サンダは馬鹿っぽくてちょっと良かった。

鑑賞日:2025/02/17 監督:ジャック・ドゥミ


日本のいちばん長い日

デビュー作の冒頭で『肉弾』を捩じ込み、90年代中盤以降は岡本喜八譲りな対策本部系を連発する原田眞人。東宝のスターがズラリと揃った67年版に対して、やや控えめキャストで松竹配給の今作。誰か止める奴はいなかったのか。緊迫感ある24時間の描写ではなく、その前の日々から丁寧に描いているとの事ではあるものの、完全に蛇足となっている感は否めない。役所阿南も悪くはないけど、あんまり見えなくしてるSEPPUKU等々、三船敏郎のアレには及ばずな印象。そして67年版では在位中で露骨に描写されなかった昭和天皇をやるモッくんで、「あ、そう」とかなかなか特徴は捉えていたと思うものの、イッセー尾形のソレと並んで何かモヤっとはする。何はともあれ、山崎鈴木の台詞、『國を護る事の情熱』って云う、現在の日本に一番足りないもの、それを訴えるべく無謀にも敢えてこの時代にリメイクした原田眞人の心意気は買う。

鑑賞日:2025/02/16 監督:原田眞人


愛と追憶のセレナーデ

ほかのデヴィッド・ハミルトン作品同様に羨まけしからん上に芸術が爆発しとる。ソフト・フォーカスのほわっとした質感と少女たちの捉え具合だけで満点上げる。親子丼かます全オジサマの夢みたいな話なんだけど、美しさへの追求をきちんと描いているので単なるエロスには止まらない感じ。シャワーの少女たちの画なんか非常に絵画的であり、自然界あり様そのものを捉えてるって具合。なんて事ない筋と除草剤の伏線が超雑なんだけど、とにかく撮りたいものをって事で映像力に振り切ってるのが好感持てる。

鑑賞日:2025/02/14 監督:デヴィッド・ハミルトン


ル・バル

ダンスホールで観る1930年代から1980年代のフランス史。その時々の音楽に乗せて、台詞なしのサイレント状態にも関わらず表現が実に豊か。報われる人に報われない人、時代に合った人にそうでない人と流れる様に入れ替わる。中でも時にはホール、時にはカウンターを挟みながらの目線の交差の演出が見事。それらの目線と交わらないド近眼メガネちゃんの待機っぷりがまた泣ける。生き証人状態のウェイターとトイレおばさんもとても良い。傑作。

鑑賞日:2025/02/12 監督:エットレ・スコーラ


奇跡の人

丁度、ガラスの仮面で北島マヤ(おそろしい子!)と姫川亜弓のWキャスト、同じ演目のとこを読んだので鑑賞。アーサー・ペンが舞台で演出したやつを漫画でも演ってると思われる。で、演出家本人が監督って事なんだけど、構図はもとよりフィルムエフェクトにと、舞台にはない映画ならではの要素をきちんと追求している辺りに大変好感が持てる。何はともあれ主演2人の死闘が圧倒的で、そこからの『W-A-T-E-R!』で闇から光の世界への移行のシーンは鳥肌もの。導く事の尊さを描くと同時に躾とは甘やかす事ではないとで真理を突いている。現代の親、教育者に足りないものが溢れているな。

鑑賞日:2025/02/10 監督:アーサー・ペン


サロン・キティ

鉤十字、ノーパンガーターベルト、脇毛、ぼかし、ぼかし、ぼかしな印象。古くは『嘆きの天使』に『地獄に堕ちた勇者ども』、またはファスビンダー的な欲望渦巻くデカダンスなドイツ模様は大好物。上昇志向強めなSS将校の謀略の元にリニューアル爆誕した高級娼館のあれやこれで、国民社会主義や理想はなんぼのもんじゃい、力とはパワーだ状態で人間の怖さを垣間見る事ができる。ハニトラを手段に使う国も簡単に引っかかる国、人のどっちもしょーもないんだけど、政治的な常套手段の汚なさを上手い事描いていると思われる。何はともあれ、いちいち早漏過ぎなヘルムート ・バーガーが最高。

鑑賞日:2025/02/08 監督:ティント・ブラス


創造物

タイトルの通りって具合。冒頭事故後の浅瀬の見晴し台のポツンとピッコリからひたすらに孤独感が強い。つまりは街で必ず先にインスピレーションを得ては出来の悪い話を書いていく様に、ドヌーブ様然り生命の誕生まで孤独な男の産物と思われる。真実の出来事と創造との間には決定的な隔たりを書き手である監督が自負しつつもそこら辺は曖昧に拵え、更にはカラーフィルターとサウンドで全能者として感情を持て遊ぶに近いピコリ<ヴァルダで頭の中どーなってんのって感じ。各種構図からお洒落SFチックな人力ゲーム盤の描写なんかも攻めてる感じで素晴らしい。

鑑賞日:2025/02/05 監督:アニエス・ヴァルダ


イル・ポスティーノ

30年振りくらい。詩人と島の素朴な郵便配達人との交流。手紙や詩作での繋がりでありながら、最初のベルを鳴らすところから徹底的に音を主体として(島の美しい風景の視覚の切り取りが見事なのは勿論の事)表現されている。それらの伏線を積み重ねての録音作業から、時間を経ての再生されるラストな訳だけども、過去の一点での濃密な関わりから変化してしまった現在の哀愁の構築が見事。主演のマッシモ・トロイージの序盤の台詞『人間である事に疲れる』から、世界に含まれているあらゆる隠喩を見つけ出しアイデンティティを確立して行く過程と、寛容と優しさのうちにそれを後押しするフィリップ・ノワレのトトとアルフレッド的関係性に胸が熱くなる。美を発見し自信を得てしまったが故に社会に出て行く事になり命を落とす者のジレンマがまた切ない。何はともあれ、ルイス・バカロフのテーマが良すぎ。マイケル・ラドフォードはほんとどれも面白い。傑作。

鑑賞日:2025/02/03 監督:マイケル・ラドフォード


ブラック・レイン

30年振りくらい。圧倒的なうどん感と二つで十分ですよ感。脚本と作り込みが異常に上手いとこと微妙なとこが混雑する、まさにリドリー・スコット作品な具合。マイケル・ダグラスを中心にイケメンなアンディ・ガルシアから渋メンな健さんへとスムーズに移行する熱いバディものではある。若山富三郎、神山繁にパワー・トゥ・ザ・ピーポー等々、日本側の役者が結構充実しててこれまた楽しい。ハリウッドとバブリーな頃の日米合作で火薬量も東映作品なんかを無駄に凌駕してる具合。何はともあれ、主役を喰う勢いの怪演を見せる松田優作(遺作)に尽きる。ダサめなハンス・ジマーのテーマに教授にディーン・マーティン等なサントラもなかなか。

鑑賞日:2025/02/01 監督:リドリー・スコット