
Films: Mar.2025『夫婦善哉』ほか
Apr,02 2025 11:30
音楽活動に私生活にとバタバタしている3月。
疲れてる時に観がちな寅さんって事で『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』から始まり、同じく再鑑賞もので工藤栄一『野獣刑事(デカ)』など。微妙に内容を忘れていた2本なものの、改めて色々と発見があった。
何となく(大体いつもか)フレンチ〜イタリー気なものが多かった印象の月で、ジャック・ドレー『太陽が知っている』、ルネ・クレマン『危険がいっぱい』、ルイ・マル『私生活』にジャンヌ・モロー"監督"の『思春期』と傑作揃い。
アメリカものとしてはメル・ブルックスの『プロデューサーズ』にロバート・マリガン監督の『おもいでの夏』、『アラバマ物語』とどれも最高。
日本映画は松山善三監督+高峰秀子&小林桂樹の『名もなく貧しく美しく』が非常に素晴らしかったのだけれども、それの上を行く感じで豊田四郎監督+森繁久彌&淡島千景の『夫婦善哉』がとても良かった。
そんな訳でロバート・マリガン監督作品なんかと迷った挙句、3月の顔は『夫婦善哉』に決定。
そんな今日この頃。
観た映画: 2025年3月
映画本数: 14本
アラバマ物語
メチャ良い映画だな。ガチガチの怒りの葡萄時代を背景に、世の中の汚れた部分とそこに対抗する為の誠の強さを初めて見た夏の記憶。子供らしい恐怖を影や謎の隣人って云う良く分からないものから始めて、父親の信念を一つずつ辿る様に理解して行くって演出が見事。グレゴリー・ペックの内外の強さをきちんと表現しつつ、伏線の『無害なツグミは殺してはいけない』を秋に回収で素晴らしい。予備知識なしの若過ぎるロバート・デュヴァル登場で度肝を抜かれたのも束の間、優しさの溢れるあの目元だけでもキャスティングが完璧に成功してる。ハムっ子の狭い視界穴から見えるものなメタファーもまた良い。傑作。
鑑賞日:2025/03/29 監督:ロバート・マリガン
思春期
失われたものの郷愁と美しさが詰まっていて監督業も素晴らしいジャンヌ・モロー。OPから挿入される月の満ち欠けと初潮のお手本みたいな組み立て、マリーちゃんのビフォーアフターの表情(特にアンニュイ気なのが混じる後の方)が実に良い。ちょっと敵認定な母親との微妙な関係、女を取り合う男の関係、村の噂に人間関係と色々あるけど遠くの軍靴より遥かに愛しい記憶って具合で、万人に対しての説得力がある。そんな中で、三猿の様を諭すシモーヌ・シニョレのとこが人の争いのしょーもない歴史に対して結構真理を突いてる感じ。とりあえず絵面だけでも全シーン美しい素敵ヴァカンス映画。フィリップ・サルド劇伴もたまらん。原題&聖水作りの下りからの幾原邦彦繋がりで、ピングドラムのカエルのあれ思い出しちゃった。
鑑賞日:2025/03/27 監督:ジャンヌ・モロー
チャイコフスキーの妻
チャイコフスキー感はあんまりない。執着系女の一生で黒魔術やらなんやらで、結構ヤバ目な猪突猛進っぷり。序盤からハエ使いが秀逸で伏線を見事に回収してる具合(チャイコフスキー目線で)で、そこら辺の作り込みはなかなかだったものの、観た事ある過去作よりはちょいと弱い。私の心は暗闇〜♪とコンテンポラリーダンス的なのが始まるラストは無いな。19世紀後半の雰囲気と題材の一部とも言える神がかり的なロシア感は嫌いではない。⚪︎んこ率が異常に高い一本。
鑑賞日:2025/03/25 監督:キリル・セレブレンニコフ
野獣刑事(デカ)
追悼いしだあゆみって事で、全然関西弁のイメージないものの、なかなかの薄幸ぶりで流石な感じ。10年くらい前に観てたみたいだけども記憶から抹消されていたおかげか意外と新鮮な気分で楽しめる。藤田まこと曰くところのインケツな底辺キャラ目白押しって具合で酷面白い。そんな中で芽生える2人の男の父性愛と女と子供って云う複雑設定も改めて観ると良く出来てる。火事でモードが切り替わる泉谷しげるのとことかヒリヒリしててヤバい。で、小林薫とのバディムービーで行くと思いきや、程よく放置で斜め上方向に突き進んだ末にど迫力なカーチェイスで全体としてはかなり見応えあり。他の映画でも見かける工藤栄一的ロケーションもそれぞれ良い味出してる。成田三樹夫のポジもこれは最適だったと言わざるを得ない。そんな訳で野獣って云うか、かなり人情刑事な緒形拳。
鑑賞日:2025/03/23 監督:工藤栄一
名もなく貧しく美しく
戦中から30年代のハードな時代を生きる聾唖夫婦って事で不幸の詰め合わせって具合。なものの、真の幸福ってものはハンディがあるから得られないって訳でもないって云うのを健常者と比較して上手い事描いている。ほぼサイレント映画状態な主役2人の圧倒的で豊かな表現力って云う演技派っぷりで映画自体の説得力がより増している印象。どの作品でもそうなんだど、デコちゃんの真に迫る嗚咽演技はそれだけで涙腺崩壊しそうになる。んで、それ以上に電車の一幕の小林桂樹の優しさがもうたまらん。泥濘からコンクリートの道路やら心理的斜め画面等々、あれこれやってて今作監督デビューを感じさせない松山善三の作り込みもまた良かった。ここで出るかーとバキバキの笑顔で登場の加山雄三とラストがあまりにあんまりでツラい。
鑑賞日:2025/03/20 監督:松山善三
私生活
部屋とYシャツとプリンプリンなB.B.感。群衆からの回避→囚われの女化→人が居ない場所へ(そこ行くかー)って云う孤独系女子の結構悲しい話。閉鎖的な題材でありつつも、開放感のあるレマン湖からパリ、ソレイユ燦々なスポレートのロケーションでバランスも良い。そして冒頭の細かいフィルムの繋ぎから、スターダム、どん底を経て脳裏に焼きつくあの走馬灯みたいなラストって云う巧みな組み立てをするルイ・マル。素晴らしい。ユーロ圏の対パパラッチ戦争の根が深い感じも良く描かれている。絶頂期マルチェロ・マストロヤンニとの強すぎ二枚看板で非常に華がある一本で大満足。暇を持て余して孤独にギター爪弾くB.B.のシーンもとても好き。
鑑賞日:2025/03/18 監督:ルイ・マル
ロスト・ワールド / ジュラシック・パーク
不穏な感じにアレンジされたテーマを徹底して流し続ける辺りに、前作と同じ事はやらんって云うスピルバーグの意気込みは分かる。ものの、いちいちスベってる感じのジェフ・ゴールドブラムの返しから始まって、全体的に脚本の作り込みが弱い気もしなくない。とは云え、ピンチのシーンやらCGのクオリティなんかは前作を上回るドキドキ感だったりもする。まぁ、でもスピルバーグ作品としては駄目な方なんだろな。
鑑賞日:2025/03/16 監督:スティーヴン・スピルバーグ
おもいでの夏
OPの静止画のみならず、全編に渡ってアメリカ北東部的なアンドリュー・ワイエスの絵を見ている様な画面構成と、ソフトフォーカスのほんわり具合とでとても良い。内容はと云うと、中学生男子が経験するあらゆるシチュエーションを的確に捉えており、これまた良く出来てる。で、強制追体験させられてるレベルでドキドキ感を味わえる脱童貞の下りなんかは実に見事。コーヒーの伏線ジャブに始まり、大人の世界はビターな味がしましたENDで、終始流れるミシェル・ルグランの甘いテーマと混ざって、観てる方にはとっても味わい深い感じになっている。続編も観てみたい。傑作。
鑑賞日:2025/03/14 監督:ロバート・マリガン
夫婦善哉
法律上の間柄でも冷え切ってるより、何はともあれ一緒が一番良いって事でジンワリ来る。芸者と駆け落ちする化粧品問屋の跡取り放蕩息子。勘当され生活が追い詰められて行く顛末が描かれている訳だけども、側から見ればキツい状況下でも底抜けに明るいのは2人の世界が確立されているからで、故に暗い気持ちにはならない。そんな心理的な内部構造を上手く扱いつつ、多用する俯瞰撮影からクライマックスのグッと寄ってくとこが実に素晴らしい。2人で仲良し自由軒のライスカレー(食べたい)からソロライスカレー云々と、それらの季節を経て雪降る夫婦善哉の下りの組み立ても絶妙。で、憎めない駄目男の森繁久彌とキュートな淡島千景の演技力なくしてって感じ。傑作。荒ぶる猫とワンコの一幕も良かった。
鑑賞日:2025/03/12 監督:豊田四郎
危険がいっぱい
序盤から無駄に連続する物理的なやつから始まって、陰謀的なのに巻き込まれるって云う、邦題が内容にピッタリ合ってる一本。全てが倒置法みたいな組み立てで、劇中アラン・ドロンと同様に不明瞭な状態を鑑賞者が共有するって感じで良く出来てる。女2人の秘めたるそれぞれの思惑にセットの屋敷、それらとは裏腹に太陽で丸焦げになりそうなクリアルーフの小道具としての車の露出度がまた絶妙。『ツメをとぎはじめた仔猫』ことジェーン・フォンダに仔猫あてがわれて隠遁生活突入は、人によっては(自分としては)結構幸せに見える。ラロ・シフリン劇伴が『殺しの烙印』みたいで(今作の方が先だけど)、これまた最高。
鑑賞日:2025/03/10 監督:ルネ・クレマン
居酒屋兆治
久々。去年の夏くらいに観た『あにき』と配役と時代が被り過ぎててたまに混乱する。それにプラスして伊丹十三に細野晴臣等々のゲスト出演がなかなか楽しい。で、池部良ほか東映面子が多く締めてるものの、東宝配給って云う不思議な雰囲気な作品に仕上がっている。そんな訳で地雷系メンヘラ女こと大原麗子(小学生の頃好きだった)のおかげであれよあれよと話が展開して、見事にどすーんと暗い感じの映画に仕上がっている。人生ってのは挫折の連続であり、それでも『人が心に想うことは誰にも止められない』って事で酒でも飲まにゃやってられんと。また、不幸があったからこそ今があるって云う人生の節目についての言及も沁みるものがある。グッっと抑えつつも雄弁な健さんの演技力と、どのシーンも絵心あり過ぎな木村大作撮影が非常に素晴らしい。加藤登紀子×井上堯之×高倉健の主題歌コラボがまた濃い。と、大滝秀治の目玉焼き3つの下りが倉本聰っぽくて好き。
鑑賞日:2025/03/08 監督:降旗康男
プロデューサーズ
夢のある映画だわぁ。堕ちた演劇プロデューサーと赤ちゃんの頃からのタオルを手放せない発作持ちの会計士って云う謎結合。悪魔的発想から化学変化に次ぐ化学変化で最低を作る筈が最高へって事で最高か。主要キャラ全員がキてる具合で甲乙付け難いんだけど、やっぱりナチ残党な脚本家とLSD(恐ろしい子!)が良かった。キャンベル缶ネックレスしながら爆唱する『愛の力』の下りなんかはアヴァンギャルド過ぎて面白い。で、絶望のハーケンクロイツダンスを経て、無理矢理美談に持ってこうとする無理矢理なラストで良いモン観たって感じ。
鑑賞日:2025/03/06 監督:メル・ブルックス
太陽が知っている
ミシェル・ルグラン大先生の劇伴を背景に、ゆらゆらっとした水面の反転映像のOPからして良い。表面上のやり取りとは裏腹な、各々の挫折などの心中の秘められた感情から、プールで起きるでっかい秘密までを最初に暗示しているみたいな作りで冴えてる感じ。目力とオーラ強めな4人の太陽光線にこっちの目がやられそうな有閑夏休みっぷりは程々に、きっちり段階を追って拗れて行く作りでクオリティも高い。闇夜の犯行な上に、普通に人間にバレてるので、邦題はちょっと外してる感じだけども雰囲気で嫌いではない。サマーはエンドレスじゃないとばかりな哀愁エンドで良い作品だった。で、ウロウロしてるだけの役なのに、かごバッグ期のバーキンの存在感がとにかくスゴイ。
鑑賞日:2025/03/03 監督:ジャック・ドレー
男はつらいよ 寅次郎頑張れ!
久々。大分忘れてた。冒頭の寅次郎以外の景気良いとこからラストの金借りるとこで地味に結構来るものがある。『正月はじゃんじゃん金貯まるから』が虚しい寅次郎頑張れ。そんなかんなで、指南系寅さんって事で20作でそっちモードが混じって来始めた頃合い。さくら曰く「好き同士、ほっとけばくっつく」を敢えてのキューピッド役で引っ掻き回す寅次郎で安定した面白さ。奥手な中村雅俊と役者オーラが漂い始めてる大竹しのぶとで初々しくてとても良い。で、マドンナ藤村志保が出て来てからは、『I LOVE YOU』と言えない男とどうにかしようとする男が逆転する作りで上手な山田洋次。寅次郎部屋爆発に二間で展開する大パーティの図と画的にもちょっと珍しさもある。爆唱シューベルトの『冬の旅』からの寅次郎、さくらの横顔の切ない描写で緩急も絶妙だったものの、猿の下りはもうちょい膨らませて欲しかった。
鑑賞日:2025/03/01 監督:山田洋次