
Films: Apr.2025『古都』ほか
May,01 2025 10:30
年明けくらいから久々に富野由悠季の圧倒的な演出力を堪能しつつ観ていた『機動戦士ガンダム』が終わり、『0083 STARDUST MEMORY』も終わって『機動戦士Ζガンダム』の10話辺りな今日この頃。
いまいち映画が少なめなものの、ニール・サイモン脚本の『グッバイガール』より。続いて『タクシードライバー』の脚本のポール・シュレイダー監督作品『ハードコアの夜』に、アラン・ドロンとシモーヌ・シニョレの2大強いが共演の『帰らざる夜明け』、監督業でも才能がほとばしるジャンヌ・モローの『リュミエール』と傑作揃い。
新作ものはイタリアのアリーチェ・ロルヴァケル監督作品『墓泥棒と失われた女神』。女性の監督との事で、他の作品のタイトルも前々から気にはなっていたけれども、こんなに良い映画を撮るんだったらもっと早くに観ておくべきだった。
毎月暗黙に入れてる寅さん枠、今月は趣向を変えて『下町の太陽』を鑑賞。河原具合とか男はつらいよが既にほどほどに入っている気もするが、いずれにせよ素晴らしい作品。
そんなかんなで、ひょんな事から観た『夜の片鱗』より、『土砂降り』、『古都』、『紀ノ川 花の巻・文緒の巻』と怒涛の中村登監督作品が続いたので、問答無用で4月の顔とする。どれも素晴らしかったけれども、岩下志麻主演で特にビジュアルが良い『古都』をチョイス。
そんなかんなな4月。微妙に体調が悪くてしんどかったけれども、大分回復してアルバム制作の方も進んできているので一安心。
1年くらいかけて読んでいた『失われた時を求めて』が終わってしまいロス感が凄いけれど、なんとか色々と埋めて行きたい今日この頃。
観た映画: 2025年4月
映画本数: 15本
ある一生
同じ山岳地帯でもハイジとは違う感じのハードさで、まんまタイトル通り綺麗に仕上がってる。知識や物理的なものが拡張傾向にある現代と対をなすって具合。無限の選択肢の錯覚の中で生きる時代において、限られた選択肢の中で懸命に生きるって云う人間本来のキャパシティみたいなもんを考えさせられる。かわいいのとか大角のだんなとか出てこないのは置いといて、映像的には問答無用で素晴らしい。大袈裟さな音楽をもうちょい控えてくれたら尚良かった気もしなくはない。
鑑賞日:2025/04/29 監督:ハンス・シュタインビッヒラー
墓泥棒と失われた女神
上下反転の妙。現実かあの世か、その能力はひたすら赤い糸を見つける為だったって事で良く出来てる。探求の果てなや暴いた中から外に向かっての発見のラストはちょっと鳥肌もの。ビスタ、スタンダード等々で捉える映像美に音使いもなかなかで、特にクラフトワークのとこが堪らん。女神を生者として位置付けるジョシュ的オコナーとおばあちゃんになっても可愛いイザベラ・ロッセリーニのシンパシーがこれまたグッとくる。傑作。
鑑賞日:2025/04/28 監督:アリーチェ・ロルヴァケル
風の慕情
吉永小百合のサービスショットがあると聞いてってソレか〜。日本の陰翳を上手い事捉えた他の作品とは異なり、完全なる観光映画と化している中村登作品。ところどころ構図とかキマってて画面的には良い。ものの、結婚の相談をすべく顔も知らぬ姉に会いにオーストラリアへ行く超見切り発進な筋書きからして無理がある。からの戦争を絡めた説教臭い橋田壽賀子脚本で絶望的に良くない。若い頃の石坂浩二が何かトニー・レオンみたいでカッコいいんだけど、演技は酷くてこれまた残念。いずみたくの大袈裟な劇伴は単体ではドラマチックで結構好き。
鑑賞日:2025/04/26 監督:中村登
リュミエール
若さに引きずられる部分と死に引っ張られるミドルエイジクライシス的なやつをビンビンに感じる。孤独を拒否しつつ誰にも会いたくないって云う種類の矛盾が沢山出てくる。贅沢ではありながらその世界における特有の苦悩が描かれている訳だけども、心の動きや台詞や演技の繊細な瞬間の連続で恐れ入るって感じのジャンヌ・モロー監督。『失われた〜』のゲルマント夫人的な赤い衣装にあちこち設置された名画シリーズと視覚的にも実に楽しい。駆け出しな頃のブルーノ・ガンツのクサい男っぷりもとても良い。ピアソラ劇伴も雰囲気あって最高。
鑑賞日:2025/04/23 監督:ジャンヌ・モロー
別れの朝
クドさを通り越したソフトフォーカス仕上げに、晴天、曇天、葉のある木にない木、室内から海と各シーンの絵面がかなりキマってる。それにフランシス・レイのベルばらみたいな音楽でかなり雰囲気は出てる。愛のない味方より愛ある敵の禁断の筋ベースで、ユダヤ人問題や同性愛を含めたフランスのあれやこれが詰まってはいる。面白い上にかなり好物な感じなんだけど、全体的には若干ダレる気もしなくはない。そんな中で異彩を放つ不幸を具現化した叔母さんの存在が、不幸になる種類の人間を上手いこと描いていて反面教師にしなきゃと思っちゃった。月光しか弾かないナチ将校に周りは何を思うのか。
鑑賞日:2025/04/22 監督:ジャン=ガブリエル・アルビコッコ
紀ノ川 花の巻・文緒の巻
祖母と母と娘の関係性で繋がる川の流れの如くな明治、大正、昭和の50年を描く。戦禍に遭ってもなお女が守り続けた家が没落して行く様で諸行無常感が凄い。丹波哲郎の言うところの支流本流の話で、結局は大きい流れに飲み込まれて行くって云う必然。そんな訳で嫁入りから老け役までこなす司葉子が圧倒的なのは勿論として、感情的過ぎな大正女学生な岩下志麻はなんだかなぁって感じなものの、年齢を経て母の心に気付く流れはとても良い。脚本的にやや散漫なところも感じつつも、その度に本流に戻ってくる感じも川テーマっぽくはある。ひたすら人間目線の撮影からの、天守閣からブワッと開けた俯瞰で『紀ノ川...』で終わるラストは素晴らしい。緊迫感のある武満劇伴も良い。菅原文太はどこに出てたのか分からん。
鑑賞日:2025/04/20 監督:中村登
フランスの女
第二次世界大戦後のフランスの植民地再編問題であっちこっち行く旦那のせいでってよりは、固有の問題な模様。エロい何かを振りまきながら尻軽の限りを尽くすエマニュエル・べアールで、そそる女っぷりと馬鹿女っぷりが混ざったドロっとしたモンが良く表されている。ものの、どっちかって云うとダニエル・オートゥイユ、もしくは遠い目をしながら語る監督(隣の部屋で聞いちゃった子か)の困惑っぷりの方が共感はできる。
鑑賞日:2025/04/18 監督:レジス・ヴァルニエ
古都
映し出されるのは明治以降に作られた古都の美しさと風情で、それすら失われつつある現代から観る。異なる環境で生きた双子設定で見事に演じ分ける岩下志麻も見事だけど、全然違和感ない合成演出もまた見事。古都や別離の長い歴史と突然の濃縮された幸福で、ロケーションから設定まで幻の如くって感じな雰囲気に仕上がっている。嫌な人間は一切出て来ず、互いに謙虚さを持っての交流がベースとなってるんだけど、それすら今から(60年代当時から)見ても幻に見えてしまう一種の失われた美徳って具合なのがやるせない。不穏な武満劇伴で何か起きそうな気配を醸し出しつつも、幻夢的な静謐さと美しさを維持しつつ終わったのでこれはこれで素晴らしい。幸福の形も色々なんだな。と、攻めすぎなクレー風帯。
鑑賞日:2025/04/15 監督:中村登
帰らざる夜明け
お袋さん感あふれるシモーヌ・シニョレと一家に1人欲しいアラン・ドロンで画面が強い。互いにチラ見合戦する序盤からして2人共上手い。田舎に舞い降りた異邦人と田舎特有のしがらみの中で暮らす寡婦の建前と内面の両方を孕む切なげな動機の合致。なんだけど、若いのによそ見したり年甲斐もなく嫉妬したりと人間臭いとこが入ってくる辺りにまた説得力がある。OPで音が鳴り始めた瞬間に分かるフィリップ・サルドの美しいテーマがこれまた最高。孵卵器成功の2人の甘い夢も束の間、『こんなにいい天気なのに』からのクライマックスが素晴らしい。運河を行き来する船を眺めつつの陸地でのドラマにOPEDの空撮の塩梅がまたたまらん。
鑑賞日:2025/04/14 監督:ピエール・グラニエ=ドフェール
土砂降り
最近土砂降りな事が多いので鑑賞。親が二号さんで家が♨︎マークだったばかりでって云う悲劇。松竹梅の名の付いた子供達とお妾の母親、時折尋ねてくる山村聰の家族事情。何となく和気あいあいとやってた序盤から岡田茉莉子と佐田啓二の結婚話からこじれてきて、たまったモンがドシャーっとなる正にココん家限定の土砂降り模様。誰が悪いって云う人間関係の白黒付けられない感じと弱さの部分をきっちりと表現した具合で、それを何とか前向きにって事でとても良い作品に仕上がっている。繰り返す南千住の線路際を横断しつつのやり取りに、幾度も走って行く機関車使いの伏線が上手過ぎ。
鑑賞日:2025/04/13 監督:中村登
愛と追憶の日々
35年振りくらい。劇中のシャーリー・マクレーンと同年代って考えると複雑な胸中。デブラ・ウィンガー(カワイイ)にジャック・ニコルソンと演技派がドシっと揃ってるだけにそこで引っ張ってる感じ。泣かせに来る感じと温めな劇伴で昔観た時よりは冷め気味だったものの面白くない訳ではない、もののやっぱり何か安っぽい感じがしちゃうのは自分が純粋じゃなくなったからなのか。原題の良さを邦題が駄目にしてる感じ。
鑑賞日:2025/04/09 監督:ジェームズ・L・ブルックス
下町の太陽
東京五輪目前の押せ押せの時代を背景として、君たちはどう生きるかを問う若き山田洋次。向島くんだりの下町に対する郊外の団地(今じゃタワマン的な)って云うパワーワードで、日本人の本質としてはあんまり変わってないのよね。再三に渡る『貴女には分からない』に対する倍賞千恵子の『何故?』の問答で人の美しくあるべき姿を描いている訳だけど、悩める美の化身たるさくらみたいな存在が既に土手を歩かされまくっている。で、流れ星の音は『ルールルル』で敵なしな感じ。貧乏より金はあった方が良いものの、美徳を失うのは如何なものかと高度経済成長期に敢えて逆張りしてる山田洋次って感じで、非常に良い作品に仕上がっている。古巣の浅草某劇場近辺の当時の記録も嬉しい発見だった。と、錚々たる脇役の中で異彩を放ち過ぎな東野英治郎。傑作。
鑑賞日:2025/04/07 監督:山田洋次
夜の片鱗
絵に描いたような転落人生なんだけど、なかなかに複雑な人間心理で面白い。動機ってもんは一筋縄ではないってのを良く描いている。そんなかんなでタイトルバックからきっちり掴んで来る感じで、青色やらネオンの転換等々が非常にスタイリッシュ。各シーンの構図もキマってる。清純派スタートから落ちて行く桑野みゆきの荒みっぷりと、荒くれからシュンとなる平幹二朗とで2人共華やかじゃないけど、説得力のある演技。広能になる前の菅原文太のただならぬオーラもヤバい。浄水場がガッツリ残ってる西新宿と『安保がー』とかやってる繁華街の当時の雰囲気が堪能できてこれまた楽しい。天丼・寿司。
鑑賞日:2025/04/06 監督:中村登
ハードコアの夜
エプスタインリストまで行かずとも闇深なアメリカ様の日常。割と腕力で行くタカ派タイプって辺りがバック将軍とダブるジョージ・C・スコット親父。精神的にキツい方へどんどん行く姿に憐れみと同時にマゾっ気すら感じるレベルで切ない。からのラストステージの張りぼて〜シスコの坂でのお仕置きは結構な迫力。ポール・シュレイダー監督脚本+ピーター・ボイル出演で『タクシー・ドライバー』感があると云うか、更にポルノの世界のみに焦点を当てたって感じで面白い。カルヴァン派の親父の道連れとなる『ヴィーナス教』なるニキちゃんで、丸く収まると思いきやキリスト教とギリシャ・ローマ神話が相容れない感じのラストでなかなかビター感じでこれまた良く出来てる。と、時代背景的なSW推しが凄い。
鑑賞日:2025/04/04 監督:ポール・シュレイダー
グッバイガール
劇中の無駄がありそうなやり取りでありながら、映画的には全く無駄のないニール・サイモン脚本。『欲望という名の電車』ほか劇作家的な推しと設定キャラとの絡みも絶妙。雨の始まりと締めに遠雷使い、コブ付き等々でありながら結末の見通しの良さも含むNYの一コマって感じでとても綺麗な仕上がり。リチャード・ドレイファスとマーシャ・メイソンの激しくやり合う2人が良かったのは勿論の事、常におしゃまなルーシーちゃんの涙にやられた。デヴィッド・ゲイツのAORなテーマにデイヴ・グルーシン劇伴も最高にイイ。
鑑賞日:2025/04/01 監督:ハーバート・ロス
category: 映画レビュー
tags: 2025年映画レビュー, アリーチェ・ロルヴァケル, ジャンヌ・モロー, ピエール・グラニエ=ドフェール, ポール・シュレイダー, 中村登, 山田洋次