
Films: May.2025『幸福なラザロ』ほか
Jun,01 2025 11:00
毎度お馴染みアルバム制作は4~5曲目付近をウロウロしつつ、スタジオ入りにウェブサイトリニューアル作業にとせっせとあれこれやってるうちにあっと云う間に過ぎ去った5月。
どれ観ても面白いジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品『モロッコ』から始めて、『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』以外は初鑑賞者で埋め尽くされた月だった。
日本映画は先月くらいから観ている中村登監督作品の『波の塔』に、木下恵介監督の『衝動殺人 息子よ』と『この天の虹』、それから山田洋次監督『吹けば飛ぶよな男だが』など。
中でも小林正樹監督『怪談』のトータル的な美意識の高さには唸る。
海外者では、こちらもどの作品もクセ強なキリル・セレブレンニコフ監督『ザ・スチューデント』、初体験なジョン・セイルズ監督『希望の街』ほか傑作揃い。
新作系も多めで、イーサン・コーエン監督作で、今をときめくマーガレット・クアリー主演の『ドライブアウェイ・ドールズ』にアレクサンダー・ペイン監督『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』とこれまた良質なのが多い。
そして楽しみにしていたペドロ・アルモドバル『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。毎度のごとく洗練されていて期待を裏切らない。
そんな訳で、『怪談』、『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』と悩んだ末に5月の顔はイタリアのアリーチェ・ロルヴァケル監督作品『幸福なラザロ』に決定。素晴らしい。
そんなかんなな5月。
このところ、GQuuuuuuXの日が一番楽しかったりして、何やら疲労が溜まってるんじゃないかって云う今日この頃。
しかしやる事はどんどん進めたい。
観た映画: 2025年5月
映画本数: 16本
吹けば飛ぶよな男だが
観たの忘れてて鑑賞。母親疑惑なミヤコ蝶々の下りが寅次郎とのやつみたいで既に出来上がってる。『喜劇 女は男のふるさとヨ』と甲乙つけ難い薄幸の乙女こと緑魔子の存在感を始めとして、主要人物全員のキャラ立てに話の流れ、ラストの畳みかけなんかで流石な山田洋次。小沢昭一のナレーションもイイ。そして街並みが古くても神戸は非常に魅力的。美樹克彦の『花はおそかった』の使いどころがこれまたイイ。
鑑賞日:2025/05/31 監督:山田洋次
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
イイハナシダナー。閉鎖空間の3人を中心とした人間関係と色んな距離感で面白い。校風としての嘘禁止から方便許容のグダグダ感が人間っぽくて良い。丁度今読んでる『ウンラート教授』みたいなポール・ジアマッティが、若者の為に老骨に鞭打つみたいな現代日本ではファンタジーレベルの現象を垣間見る事が出来てほっこりする。全体的にちょっと緩い感じが70年代にありそうな作品で好きなんだけど、2時間越えの内容かと云うともうちょい削れるとこがない気もしなくはない。雪解けしててもガッツリ雪積もってるボストンの冬。老兵が白紙のページを埋め始めるラストで、ジジイでも成長できるって感じでとても良かった。
鑑賞日:2025/05/28 監督:アレクサンダー・ペイン
ドライブアウェイ・ドールズ
Y2KなLGBTが題材って事で、綺麗に収まって流石に上手くは出来てはいる。どうしたって払拭出来ない監督の歩んできた90年代臭さで、良くも悪くもと云ったところ。LSDっぽやつの見せ方とか、おデブちゃんの持って行き方とかテンポを含めてホントしょーもないんだけど全体的に嫌いではない。結果的に民主等をディスっているのかそうじゃないのか良く分からん。
鑑賞日:2025/05/26 監督:イーサン・コーエン
ザ・ルーム・ネクスト・ドア
アルモドバルの隅々まで行き渡った洗練っぷりが更に研ぎ澄まされてる感じ。初期作品やたまに差し込まれる初期っぽいやつとシリアス路線とおんなじ監督とは思えないんだけど、やっぱり両方ともアルモドバルでもある。ジョン・タトゥーロの『新自由主義や右翼が台頭し、人々が正しいと思う事を信じる事が出来ない』の監督の思いの丈をぶちまけたみたいな混乱のていな世の中にあって、尊厳のある死と云う自己の持つ絶対的な正しさを粛々と遂行する女たち。この完璧に出来上がった筋な上に、雪降れど雪解けの親子関係なラストの演出がこれまた洗練されてる。ロッシ・デ・パルマ感とスペイン語が聞こえてこなくとも、実にアルモドバルらしい傑作。
鑑賞日:2025/05/24 監督:ペドロ・アルモドバル
でっかいでっかい野郎
一言で表すと、やや凶暴な寅次郎が常に酔っ払ってる状態。無法松っぽさを取り入れつつなんだけど、いかんせん話がとっ散らかってる印象で、山田洋次はホント上手いんだなと改めて感じる。伴淳に長門裕之、岩下志麻、加藤嘉と役者陣もそれぞれのシーケンスでは面白いんだけど、全体的にはいまいち活かしきれてない感じ。そんな中で瞬間的にさらっていく財津一郎は流石。ともちゃん役の中川加奈が可愛らしい。
鑑賞日:2025/05/22 監督:野村芳太郎
ドクター・スリープ
再現度高めな冒頭も束の間って感じで一気に安っぽくなる。ニュータイプ的なやり取りを散々やった挙句に、舞台がオーバールックホテルに移ってようやく盛り上がってくるも、結局なんだかなって感じ。そっくりさんを集めて、再現したところで肝心の筋書きが駄目だとどうにもならん。高いクオリティでオマージュしつつ、台無しにするって云う派手な自滅っぷり。役どころとか全然関係なく、レベッカ・ファーガソンはエロ可愛い感じだけは良かった。
鑑賞日:2025/05/20 監督:マイク・フラナガン
この天の虹
全編に渡る八幡製鉄所の提供でお送り致します感。毒々しい虹色の煙の下に展開されるひとつの社会で、精製すれば儲かる押せ押せな『新しい鉄』的な活力具合が現在から見ると眩しい。至れり尽くせりの施設に整い過ぎな魅力的建築物のあれやこれ、それに加えて日本の技術力は凄いゾってなもんで、共産主義国家のプロパガンダ映画を観てるみたいで面白い。かと思えばウィーン国立バレエ団に鼻で笑われそうな『美しく青きドナウ』で、敗戦上がりでまだまだ途上な具合の絶妙な混ざりっぷりが当時の日本っぽい。巨大な中に蠢く人間のドラマが、丁度今日YouTubeでお勉強してたブリューゲルのバベルの塔の巨大さと精密さの同居ぶりと重なってなかなかにタイムリーでもあった。笠智衆&田中絹代の理想の親像ほか実に色んなタイプの人間が出てくるも、製鉄所にいても尚、高貴なオーラを醸し出す久我ちゃんが素敵。宣伝をしながらも、隙のない木下恵介作品って感じで流石。
鑑賞日:2025/05/18 監督:木下恵介
普通の人々
冒頭、ハレル"ヤー!!"と爆唄して始まるも神頼みしないで頑張る人々。弁護士の父親に毒タイプな母親、思春期と精神病のコンボな息子で、長男の死亡をトリガーに現実問題とひたすら向き合う現実的な人々(の崩壊)。親世代になると分かるけど、中身は永遠の18歳だったりする。そこら辺を子供には決して理解する事は出来ないし、それを見守りながらのらりくらりとやるのも普通の人々の一つの形と云う事で、そこからのビターな締めで初監督ながらなかなかなロバート・レッドフォード。非常に良いんだけど、監督業の観た事ある作品からするとどれも何かが足らないと云うか、やり過ぎ(ジャド・ハーシュの友人の下りとか)、もしくは嘘くさい所がある印象は否めないんだけどなんだろコレ。『ワンス・アポン〜』前のエリザベス・マクガヴァンが可愛らしい。『M*A*S*H』と違ってゴルフしてて楽しそうじゃないドナルド・サザーランド。
鑑賞日:2025/05/16 監督:ロバート・レッドフォード
怪談
小林正樹が手がける小泉八雲原作の4篇オムニバス。日本的美意識が詰まってる感じ。
『黒髪』
新珠三千代を捨てた三國連太郎の後悔先に立たずな具合。夢想の時の意識が飛んでる感じの表現に、その後のお手本の様な傾斜撮影の心理状態の表現が見事。二兎を追う者は一兎をも得ずをやつつ、結末が分かるのに緊迫感がスゴイ。
『雪女』
イケメンな仲代達也に魅せられる雪女こと岸惠子。なんのかんの言って与えて奪わないから結構イイ女ではある。口は災いの元で、幸福は一瞬にして崩れるってのが良く描かれている。背景絵の目が圧倒的。
『耳無芳一の話』
セットなのにセットを全く感じさせない壇ノ浦の一大スペクタルから。丹波哲郎にかどわかされて亡霊の御前ギグに赴く中村嘉葎雄。これでもかってくらいの怨霊の冷気の表現のドライアイスが雰囲気を出しまくってる。そんなかんなで盛大にやらかす志村喬で、耳を持っていかれるも結果オーライみたいな具合でその辺りがまた恐ろしげ。
『茶碗の中』
茶碗の中の仲谷登?がニヤリとやる完全なるギャグ仕立て。結末なしの物語に綺麗にオチが付いててスッキリする。
小林正樹の演出力ありきな上に、戸田重昌が手がける美術、武満徹の緊張感ある音楽で力作・傑作。
鑑賞日:2025/05/14 監督:小林正樹
希望の街
坩堝だなー。イタリア系が幅をきかせている所に黒人にヒスパニック、おまけに日本製品の巨大な波が押し寄せる。上から下まで腐りに腐ったどん底だからこそ、逆説的に希望がある街みたいな感じで、ある意味いまの日本みたいでもある。群像劇のお手本みたいな具合で、流れる様に対象が入れ替わって行くのが実に気持ち良い。日本製品最新TVの前で空虚に言葉を繰り返すアイツの、『助けて』って言葉が空気に溶けてく辺りにこの街の絶望を感じる。傑作。
鑑賞日:2025/05/12 監督:ジョン・セイルズ
男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく
久々。『未知との遭遇』とピンクレディーのマッシュアップで時代感のあるアバンから始まる21作目。リアルSKDのさくらを差し置いて、劇中SKDとして踊りまくり爆唱する木の実ナナ。武田鉄矢のモノマネみたいな武田鉄矢らしい武田鉄矢と全体的に濃厚な具合。レビューの衰退期と同時に国際劇場から滲み出る歴史みたいなモンを味わう事ができる。夢物語な経営論を交わしながら、変わらぬわが道をゆく寅次郎。場内後方でそっと舞台を見守る姿が泣ける。一方で本格的な衰退は数十年先なものの、年中経営難なタコ社長だけども、パンクな髪型披露しつついつも以上に目立ってる感じの回。
鑑賞日:2025/05/10 監督:山田洋次
衝動殺人 息子よ
ゴリゴリの70年代社会派作品で、同時期の新藤兼人監督作品と雰囲気の通ずるものがある。やられ損の社会の形が当時と現在で是正されるどころか拡大されてる昨今。ほぼ日本人だけの時代でさえ国家のこの体たらくで、進行形の『やられ損』の確率の上昇、それに対しての国民の無関心を考えるとゾッとする。奔走する役柄の若山富三郎に今作が映画作品では最後の高峰秀子でどちらも安定の上手さと云うか、細かい仕草や緩急なんかを含めて奥行きがあって見事。無理矢理若作り役をやってても、現在系の役柄にきちんと過ごしてきた人生が反映されてるみたいな錯覚を起こすレベルの演技力。で、デコちゃんの専売特許みたいな、ゔゔぅーっ!って云う嗚咽から、最後の私が引き継ぎますのキリっとした表情がまさに大女優って感じで圧倒的。豪華脇役陣に、鬼カットバックで感情を揺さぶりまくる木下恵介のあんまり見たことない演出でとても良い作品だった。
鑑賞日:2025/05/08 監督:木下恵介
幸福なラザロ
パンを与える束縛と与えない自由でキリスト教あるあるをベースに、20世紀末から何もかもが失われた21世紀をやる。貧しくとも色彩豊かな囚われの時代から、くすんだ色合いで描写される自由と貧しさの現代で、人間の幸福としてはどちらが幸福かを問う。蛍光からLED電球の細かい変わり方から、『テオレマ』チックなブルジョワとプロレタリアと聖者を絡めたパゾリーニっぽい大筋にバッハ使いまで実に良く出来てる。色んな月や音楽の下りも大変良い。見るからに聖者面なラザロの白痴的素養は幸福になる為の一番重要なところでもあり、数々のドスト氏作品ほかでも良く扱われる。それらを鑑みると、もはや昨今の人間社会の不幸の度合いはラザロの復活を持ってしても気休め程度にしかならんって云う悲しさ。獣と隣り合わせくらいなほどほどの距離感な生活を失ってしまった不幸をしみじみ感じる。傑作。
鑑賞日:2025/05/06 監督:アリーチェ・ロルヴァケル
波の塔
世の中狭いなァってくらいに芋づる式に繋がるミラクルな設定も全然不自然に感じないのは、人の心の成り行きを丁寧に描いているからと思われる。ほぼワンちゃんみたいな髪型の有馬ネコちゃんで、本人は大して悪くないのに不幸の発生源みたいな影を背負った演技で見事。六法全書と古代文明の間で苦悩する津川雅弘と、良くある南原宏治的キャラの南原宏治(結構イイ奴)等々、桑野みゆきと石浜朗以外に清廉潔白なのが居ない構成も良い。各所のステーションに下部などの温泉地、松濤から♨︎マークに落ち着く中村登的なのから、最後は樹海までロケーションの懐が深い。昭和的レストランや喫茶が多く出てくるせいか、汚職事件がお食事券(パッフェ的な)に脳内変換されて大変だった。西村晃に佐藤慶とそれぞれちゃんとキャラに合った配役も素晴らしい。
鑑賞日:2025/05/04 監督:中村登
ザ・スチューデント
欺瞞の世界で激しく戦っているな。厨二的理論武装も聖書の引用しとけば結構無敵。一言で言えば、キリスト教原理主義(正教はディスる)にせよ共産主義にせよ妄信するなかれで実にロシア的。ド級な異端分子が学舎に投入され、そいつと戦う者が排除され、結果全体としては見なかった事に落ち着く狂った社会の縮図で全員どうかしてる。馬並みがリモコンで消えないのと、カースト上位女子には弱い等々のブラックなやつ満載。原題の(М)ученикの遊びが洒落てる。
鑑賞日:2025/05/03 監督:キリル・セレブレンニコフ
モロッコ
外人部隊の男と傷ついても保障のない外人部隊の様な女の似たモン同士の共鳴。匂わす程度の戦闘描写とは裏腹に男と女の直接的じゃない駆け引きがバチバチで凄い。群衆を黙らせ、美脚で練り歩くマレーネ・ディートリッヒと何処までも男前なゲイリー・クーパーとで細かい仕草の応酬も含めて一時も飽きない。そして達筆な建前のルージュの伝言と本音で無骨に掘り上げた名前の比較も素晴らしい。からの砂嵐のあのラストである。どれ観ても凄いなスタンバーグ。傑作。
鑑賞日:2025/05/01 監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
category: 映画レビュー
tags: 2025年映画レビュー, アリーチェ・ロルヴァケル, ジョセフ・フォン・スタンバーグ, ジョン・セイルズ, ペドロ・アルモドバル, 中村登, 小林正樹, 山田洋次, 木下恵介