
Films: Jun.2025『家族 / 民子三部作』ほか
Jul,02 2025 12:30
暑い。涼しいうちに済ませておくつもりだったボーカル録音が大幅にズレ込んでいてキツい今日この頃。
そんな訳で6月はGQuuuuuuXも終わっちゃって、ちょっとしたロス状態。
再鑑賞の鈴木清順監督『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』以外は初鑑賞者で埋め尽くされた月だった。
日本映画は先ず千葉泰樹監督の『悪の愉しさ』がなかなか印象的。なんだかんだで久我美子を見ない月はないって感じ。
洋画はマーク・サンドリッチ監督『スイング・ホテル』から傑作続きな感じ。ビル・フォーサイス監督『ローカル・ヒーロー 夢に生きた男』、ダニエル・シュミット監督『デ ジャ ヴュ』、フィルダー・クック監督『テキサスの五人の仲間』とどれも素晴らしい。
中でも夏の初めに観るサーフィン映画の金字塔的作品、ブルース・ブラウン監督の『エンドレス・サマー』もとても印象的。
新作系もちょいちょいと月末にまとめて、マッツ主演の『愛を耕すひと』、マイアイドルなオーウェン・パレットが音楽を担当し、ニコケイ主演の『ドリーム・シナリオ』が予想以上だった。
そんなかんなで158分の壮絶なまわり道を描いたジェーン・カンピオン監督『エンジェル・アット・マイ・テーブル』('90)と悩むも、やはり山田洋次監督の『家族』、『故郷』、『遥かなる山の呼び声』からなる民子三部作が印象深かったので、その中でも『家族』を6月の顔とする。
しかし、やる事があり過ぎて進み具合が非常にゆっくりで困る。
色々と開催したいマイ映画祭りは夏休みあたりになりそう。
観た映画: 2025年6月
映画本数: 16本
ドリーム・シナリオ
オーウェン・パレットのサントラがリリースされた時に聴いたけど、本編もなかなか。ニコケイから始まる承認欲求の嵐って事でしょうもない現代の図。みんながそれをやる事に対しての逆説的な縞馬理論の皮肉も面白い。絶対的状況で早漏+放屁のコンボをかまし、挙げ句にフレディ呼ばわりのニコラス・ケイジで相変わらず最高なんだけど、『ストップ・メイキング・センス』のデカスーツで更に最高かと。
鑑賞日:2025/06/30 監督:クリストファー・ボルグリ
シビル・ウォー アメリカ最後の日
敢えての情報不足で臨場感と疑心暗鬼的な演出の意図は分かる。大統領3期目から荒れてるのは良いとして、カリフォルニアとテキサス対政府軍ってのが良く分からん。現実味のありそうな話を上手い具合に付託しつつな印象。で、ジャーナリスト女子の世代交代みたいなので、ソフィア・コッポラデビュー作主演と最新作主演の競演で、作りものの内線描写より何か時の流れの残酷さを感じる後味だった。予告編が一番面白くて話題性のあるタイプの映画って感じ。
鑑賞日:2025/06/28 監督:アレックス・ガーランド
愛を耕すひと
時代背景は異なれど、話の筋がほぼヴィンランド・サガの農耕やってる時期のやつみたい。北海道の入植者の話が沢山あるみたいな感じで、恐らく元ネタ的なデンマークの話が一杯あるんだと思われる。とは云え、悪玉の傍若無人っぷりや拷問にとに耐えかねてシャキーンとナイフ二刀流のマッツの下りは、流石にトルフィンがチラつく。しかし、この人の頭にデカデカとRESPECTって書いてある頃から一貫して演技は素晴らしい。
鑑賞日:2025/06/26 監督:ニコライ・アーセル
ルパン三世 バビロンの黄金伝説
久々。攻め過ぎって事で降板の押井守に変わっての鈴木清順で結局攻めてる感じな劇場3作目。TV版の演出担当回と同じく素っ頓狂な出来で、世間一般的には酷評の今作なものの結構好き。随所に大和屋竺節が散りばめられていて、カルーセル麻紀のナヨっとしたマルチアーノとか完全にそんな感じ。大腸菌がしゃっくりする程のドジおじさんとICPOガールズなんかも豪華な上、UFO要素からラピュタっぽいのまで盛り沢山で色んな意味で楽しいので満点にしとく。
鑑賞日:2025/06/24 監督:鈴木清順
エンドレス・サマー
夏を追いかけたらエンドレス・サマーって動機からして良い。浪漫に溢れてて劇中の人物が楽しそうなので、サーフィンやった事がなくても楽しい。=夕焼けのイメージにかなり貢献してる映画な気がする。個人的にはエンドレス・サマーと云えばフェネスのそれだったけれども、なんと云うか源流を垣間見た感じ。サンダルズのサントラも最高。
鑑賞日:2025/06/22 監督:ブルース・ブラウン
悪の愉しさ
人間を上手く扱っている気でも周りの人間もそれほど馬鹿じゃないって云うのを絶妙な塩梅でやる。割と素のイメージな脂ぎったこと森雅之と、不可抗力とは云え♨︎マークに出入りする久我ちゃんの主役級を抑え、世にも小賢しい役どころを心の声を大に熱演する伊藤久哉(イケメンやわ〜)。愛してくれる人が欲しいんだと本心を吐露しても、冷ややかにあしらいサッと服を脱ぐそんな久我ちゃんは嫌じゃ。若干、狼少年みたいな身から出たサビ状態とは云え、こんなんやられたら堪らんわ。そんなかんなで社会への恨みつらみから発生した悪巧みの末でも尚、聖書を破り捨て徹底して世間に敵対する姿勢はなかなか辛いもんがある。隣人達は例え騙されやすくとも寛容さやある種の賢さを持ち合わせているものってのを信じられなかった人生でまぁ絶望。加藤嘉と鰻重の下りが一番ホッとする。
鑑賞日:2025/06/20 監督:千葉泰樹
テキサスの五人の仲間
ヘンリー・フォンダが出てきた瞬間から何やら胡散臭い。ちょっとだけだからから始まるいかにもな芝居で、観てる方としてはあれこれ推理するもなかなか斜め上を行ってる。これまた終始嘘クサいジョアン・ウッドワードの徐々にエンジンがかかり、小気味良く啖呵を切る銀行のシーンからのテンポもとても良い。何よりも勝負する男達が嫌な思いをしないどころか、一皮剥けて帰って行く筋の気持ちの良さ。『ロッキー』のミッキーことバージェス・メレディスのラストの笑顔も最高。原題よりネタバレ気味な邦題はともかく、品を保ちつつ楽しい気分にさせる一本で劇中も制作陣もみんな良い仕事してて素晴らしい。
鑑賞日:2025/06/18 監督:フィルダー・クック
エンジェル・アット・マイ・テーブル
精神的、物理的にと壮絶なまわり道の158分。どんな状況下でもやるべき事をやり続ける大切さはこの歳になると良く分かる。若い時の苦労は買ってでもせよってレベルじゃないあらゆる障害で、『モジャ』から始まって結構エグい。羊たちと戯れながらなガーリィ度高めなニュージーランドファミリーも水難の相どころか、次から次へと襲ってくるあれやこれに耐え抜くメンタルだけでも相当なもの。『ピアノ・レッスン』の自己表現としてのピアノと同時に表現手段を持つ者の忍耐力みたいなものも感じる事が出来る。総じてジャネット・フレイムを知らずとも見応えのある作品に仕上がっている。ほぼ切り捨て級に切られるエピソードの数々であるけれども、行間読めって云う強気なスタイルはかなり好き。
鑑賞日:2025/06/16 監督:ジェーン・カンピオン
遥かなる山の呼び声
何となく観始めた民子三部作も早々に最終章。出てきた瞬間に訳アリ顔の健サンに、母子家庭の警戒→女の顔(人工受精を...的な)を使い分ける倍賞千恵子、北の国のやつのロケーション中に抜け出してきたみたいな純と満男の合い子状態の吉岡秀隆といずれも演技が上手い。ほぼ『幸せの黄色いハンカチ』的キャスト+αで雰囲気も被ってるけど良い。と、一番良いところの出番な若きムツゴロウさんも最高。泣き言はなるべくグッと我慢する大人2人、オジサンを呼ぶ子供の図式で『シェーン』っぽくもある西部(道東)劇で日本人としてはしっくりくる。んで、泣き必至なラストの電車内の下りから、ヴェンダースみたいな空撮なんだけど、曇天から陽の光がチラと見える終わり方に山田洋次の上手さを感じる。傑作。
鑑賞日:2025/06/13 監督:山田洋次
デ ジャ ヴュ
既視感ならぬ前世の記憶って事で、傍観者から当事者への移り変わりが実に上手く組み立てられている。真鍮の鈴に斧、能面からの仮装舞踏会でのキャロル・ブーケの妖艶なやつの繋がりなど小道具使いから始まり、ケーブルカーに列車にタクシーの乗り物群、城と塔にパブなどロケーションの繰り返しながらの変化が絶妙。ちょっとずつ変化するキャラに囲まれながら、核心に迫る具合もまた見事。並走する列車のシーンと鈴一個に対しての山盛りの梱包材のラストが美しい。
鑑賞日:2025/06/11 監督:ダニエル・シュミット
故郷
時代の流れ、もしくは大きなものってのは今時だとGAFA的なやつ。もっと身近なとこだとオラが街にイオンが出来たおかげで個人商店が駆逐され、現在は大きな店がオンライン通販に駆逐されかかってるって云うのと近い。弱者が淘汰されて行くこの世の摂理みたいなものへの嘆きとは裏腹に、追われて行く故郷の図が美し過ぎるのがまた胸にくる。渥美清のやっぱり船長と労働者は違うよって台詞も重い。瀬戸内海の島で淡々と仕事に精を出す夫婦の姿が新藤兼人の『裸の島』を彷彿させ、更には男はつらいよ的な節がないドキュメンタリータッチで進むものの、なんだかんだで山田洋次って感じ。良かった。
鑑賞日:2025/06/09 監督:山田洋次
ローカル・ヒーロー 夢に生きた男
隣の芝は青いって事で、都市型のやつは田舎に、その逆も然りで人はないものを求め続けるって云う英国圏らしい作り。村人の歓迎っぷりのボルテージが上がるにつれ、村に魅せられていくミイラ取りタイプ。更には『泳ぐひと』ばりに何やら病んでるバート・ランカスターで、ご当地入り後の絶好調具合が微笑ましい。可愛がる為のうさぎと食べる為のうさぎ的な立場と場所の考え方の違いって話と、砂の例えがこれまた良かった。仕掛けとして大いに役立った末の鳴り響く電話ボックスラスト、堪らん。
鑑賞日:2025/06/08 監督:ビル・フォーサイス
男はつらいよ 寅次郎恋歌
久々。渡世人の侘びしさが沁みる8作目。生温かい出迎えも束の間で毎度な感じなとらやの下りから、博母親の葬式でやらかし続ける寅次郎の前半。中でも、まくら...じゃないさくらの独唱シーンが泣ける。からの帝釈天側の喫ちゃ店経営の池内淳子ヒロインの後半で、志村喬の受け売りのリンドウの花の話の繋ぎが見事。寅次郎の想いと裏腹に完璧にあさっての方向いてる池内淳子と、逆の立場で心配させたいと言いつつ全てを理解するさくらとで風がピューっと吹き荒ぶ具合。そんなかんなで、おいちゃんはやっぱり初代の森川信(遺作)が一番好き。劇中で殺しに来まくってて笑えると笑えないが同時にきて大変。
鑑賞日:2025/06/06 監督:山田洋次
スイング・ホテル
ちょっと前に読んでたカート・ヴォネガットの『母なる夜』の中で、戦時余剰物資の『ホワイト・クリスマス』のLP26枚ってのが出てきてたのでタイムリー。どっちかと云うとビング・クロスビー目線な筋なものの、時に酔拳ばりに、ワシントンの誕生日では無茶なマッシュアップに、独立記念日には爆竹等々、フレッド・アステアの魅力が炸裂してる感じ。役者の頑張りもさる事ながら、ホリデイ・インの中のホリデイ・イン×2の構成に二度目のホワイト・クリスマスが結構泣ける。マージョリー・レイノルズの芯がある感じもとても良い。こんな国と戦争してたんだぜ。傑作。
鑑賞日:2025/06/04 監督:マーク・サンドリッチ
家族
貧しい生活の長崎伊王島から北海道の開拓村へって事で、南北になかなかに広い日本列島の旅。道中、八幡製鉄所から始まって、大阪万博、新幹線に東京と高度経済成長真っ只中のあれやこれを横目に北上するんだけど、次から次へともうひたすらに辛い。なんでそこまでいかにゃならんのかと。そんな方々で倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆の家族を中心に山田洋次常連の面々勢揃いにエキストラで、時折寅さん的脳内混乱が発動するも、層が厚くてその辺りも見応えがある。スタインベック『怒りの葡萄』的な動機の元に、まんま似たような感じの厳しい旅路なものの、最後に6月の春で終わってホント良かった良かった。傑作。
鑑賞日:2025/06/02 監督:山田洋次
L.A.ジョーンズ
これはTVものなのね。演出含めて全体的に懐かしいニオイがする。景気のピークって具合で、金があるところに発生する構造って話でそこまでつまらなくはない。露出が皆無なのは仕方ないとして、ナオミ・ワッツのパチモンみたいなしゃくれた主人公が全然魅力的じゃなくて、その辺りでこの作品自体の何かが失われている気もしなくはない。そんなかんなで、終始ユルい感じの『グレート・ギャツビー』の引用でもラストのとこをきっちりやれば、尚良かったかもしれん。
鑑賞日:2025/06/01 監督:ジョイス・チョプラ
category: 映画レビュー
tags: 2025年映画レビュー, クリストファー・ボルグリ, ジェーン・カンピオン, ダニエル・シュミット, ビル・フォーサイス, ブルース・ブラウン, マーク・サンドリッチ, 山田洋次, 鈴木清順