
Films: Oct.2025『四月』ほか
Nov,01 2025 11:00
次作アルバムも後半戦に辿り着いたものの、なかなかスムーズに行かずちょっと進んでは足止めを食らう毎日。
そんな10月は森崎東監督『ラブ・レター』より。後半の山田洋次監督と共同脚本の『なつかしい風来坊』に『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』、三村晴彦監督作品『天城越え』と松竹作品が目立つ。
かと思いきや、久々の成瀬巳喜男監督『女が階段を上る時』、『女の座』で東宝かと思いきや、山下耕作監督『脱走遊戯』で東映と結構なラインナップ。
四半世紀ぶりくらいなウディ・アレン監督『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』で勿論面白いんだけど、それよりも最近の動向が気になってしまった。
スタンリー・クレイマー監督+シドニー・ポワチエ出演の『手錠のまゝの脱獄』は期待を裏切らない出来。
そんなかんなで10月はお初のジョージアはオタール・イオセリアーニ監督の短編『落葉』、『水彩画』、『珍しい花の歌』、『四月』、『鋳鉄』、『ジョージアの古い歌』からの長編作品『田園詩』、『歌うつぐみがおりました』とどれも素晴らしい。
安定の出来の良さと敵なしなヴィジュアル親子で10月の顔はアニエス・ヴァルダ監督『カンフー・マスター!』と悩むものの、やっぱり量でオタール・イオセリアーニ監督な感じ。そんな訳でどれも良かったけど、一番印象深い『四月』に決定。
やっぱり良いものは勢い要素が入っているなとしみじみ思う今日この頃なんだけども、日々の制作作業や娯楽の時間の使い方をもう少し考え直さなくてはなとマルチタスクしながら考えている。
観た映画: 2025年10月
映画本数: 18本
なつかしい風来坊
冒頭の有馬一郎のナレーション『あの当時、私は痔で苦しんでいた』の一言でこれは面白いやつだと感じる。山田洋次と森崎東共同脚本で、あちらこちらにそれぞれの良さが出てる具合。アラン・ドロンみたいな顔面でなくても、漢はハートよって云うテーマからして熱いんだけど、出会いの疑心から始まり信頼と行ったり来たりする人間臭さの演出が実に上手い。森崎東的な笑わせるところと泣かせるところの緩急の末に、山田洋次的なきっちり綺麗にまとめてくる感じで良く出来た一本。上司松村達雄の繰り返しも最高。
鑑賞日:2025/10/30 監督:山田洋次
カンフー・マスター!
家族ぐるみのレベルが凄い。んで、ブランドの話はしょーもないと劇中で言及しつつ、アニエスべーやらの着こなしのサラッと感でお洒落が突き抜けとる。ショタに目覚めるバーキンの中年→乙女の変貌っぷりに対して、旅に出なさいと後押しする母ちゃんとで洗練度が他所ん家とは異なる模様。と、困惑顔の思春期シャルロットの透明感とでそれぞれ良い演技するな。スパルタンX(初めて買ったファミコンのソフトだ!)の横スクロール的ドゥミ息子の狭い視点と大人のしがらみを気にしつつなバーキンの視点とで胸が詰まりそうになる出来。で、男友達には無駄に虚勢を張るエンドも実に人間を良く観察してるアニエス・ヴァルダって感じ。完コピ、完クリとかくだらない事をやってないで本読みなさいと言われてる様。ボリス・ヴィアンは登竜門よってな感じ。
鑑賞日:2025/10/28 監督:アニエス・ヴァルダ
手錠のまゝの脱獄
冒頭とラストの語尾が⤴︎っとなるポワチエの美声で掴まれる。公民権運動真っ只中の時代なブラック&ホワイトのバディムービーでなかなか露骨なところから始まる。も、見えない鎖は絆と呼ぶんだぜ!オマエラってな具合でほっこりと良い感じに終わる。色んな選択を経て手錠と汽車と来たら切るだろと思いきや、斜め上を行きつつもこれはこれで実に上手い使い方と思われる。最近読んでた本でマルディグラが出てきたのもちょっとタイムリーで気分に合ってた。心に開いた穴は涙じゃなく夢で埋めるんだゼって殺し文句はメモメモ。全体的にアメリカン・ニューシネマ先取りって感じで、まぁ大好物。原題痺れるな。
鑑賞日:2025/10/24 監督:スタンリー・クレイマー
女の座
久々。改めて視線の繋ぎがホント凄い。笠智衆の石から始まり、宝田明って云う燃料投下のタイミングも絶妙。ハイエナの如き血縁と心ある他人って事で、親しき中にも礼儀がないとイカンのだなとしみじみ思わせる。人間の浅ましさを細か〜いところまで容赦なく描くからこそ、デコちゃんのポジションがより光るって云う実に上手い作り。
鑑賞日:2025/10/22 監督:成瀬巳喜男
田園詩
合宿回は練習は捗らないものだってのは相場が決まっているって事で、田舎には田舎の色々がある模様。都会人の妄想を覆す様な辛辣なシーケンスが次から次へと出てくるんだけども、全体的には牧歌的な様相を崩さないのが凄い。家畜が歩いてるのは当たり前で、アナログ過ぎな水路変更、無茶な近代的農薬散布があるかと思えば数少ないトラックに無茶乗りと、不便さと少しずつ田舎にも来ている時代の潮流みたいなものが絶妙に混じってる感じ。金銭で世話を焼く迎える側も老いた世代と若い世代で差がある感じで、段々と楽団員と打ち解け大胆に溌剌とした生足を曝け出す監督娘のナナちゃんが色々含んでる感じでこれまた良かった。
鑑賞日:2025/10/20 監督:オタール・イオセリアーニ
脱走遊戯
鰐淵晴子を愛でるだけの目当てのつもりが、なかなか本編も楽しかった。ジャック・ベッケルか、はたまたイタリア映画っぽい洋物感が混じった任侠とも実録とも違う東映作品で面白い。何より千葉真一の動作のひとつひとつがビッっとしてキマっていて実に良い。東映ヤクザ映画観てぇヨォ→ポルノ→暴動って云うのを山下耕作がやるのがまた。鰐淵晴子と天ぷら定食堪らんわー。ラストの締め方もカラッとしてて良い。劇伴がお洒落。
鑑賞日:2025/10/18 監督:山下耕作
ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう
四半世紀ぶりくらい。『バナナ』から『ボギー!俺も男だ』を挟んで『スリーパー』までの時期はおふざけの域が突出してて大好き。シェクスピアからイタリア映画にSF、ユダヤ含む宗教ネタに人種問題まで幅広く網羅しながらな性の追求する無限の引き出しな具合。ソド⚪︎ーって言葉を印象深く使ってるのは、今作と『流されて』とで甲乙付け難い。そんなジーン・ワイルダーの羊もの、マッドサイエンティストからの巨大なおっぱい、『ミクロの〜』の場違いな黒いアイツが特に最高。ウサちゃんとコール・ポーターのタイトルも最高。
鑑賞日:2025/10/16 監督:ウディ・アレン
歌うつぐみがおりました
都会人の忙しなさって具合で、ほんとにせわしないなー。あっちこっちに散りばめられた時計も良いアクセントになっており、活発にしてる割には何も進んでいないって云うアンチマルチタスク映画に仕上がっていて面白い。現代的都会の受難か、笛のから始まり色んなマタイ受難曲にあるゆる街のノイズ、前作に続いての多声合唱とで音使いも実に多彩。フランキー堺主演で倉本聰脚本のやつでシンバル担当のがあったけど、こっちはティンパニーで別の種類の緊張感。結構深刻な話なのに、異常なテンポの良さで極上なコメディになっててスゴイ。
鑑賞日:2025/10/14 監督:オタール・イオセリアーニ
ジョージアの古い歌
ジョージア各地方の多声合唱の違いのドキュメンタリー。四方を囲まれたここの国の立地的な事情に高低差とにでポリフォニーの具合も西洋っぽいのからイスラムっぽいのやヨーデルっぽいのまで多彩な感じ。どれもかなり良い感じのドローンサウンドなんだけど、持続音の中に結構激しめなリズムのがあったり、不協和音っぽいのでグイグイ行ったりで実に面白い。
鑑賞日:2025/10/13 監督:オタール・イオセリアーニ
鋳鉄
日本だと八幡製鉄所のやつとか、新しい鉄とかみたいな感じ。ただでさえ熱量高そうな溶鉱炉って以前に、なんというか人間的なエネルギーを感じつつも労働者の機械っぽさもある。職場で焼くシャシリクが異常に美味そう。
鑑賞日:2025/10/13 監督:オタール・イオセリアーニ
女が階段を上る時
久々。フォルトゥナの車輪ってな具合で、悪い時期をひたすらな感じでなかなかにキツい。成瀬的な目線による空間なんかの繋がりとかはあんまりないものの、バーにアパートにとそれぞれの舞台で出たり入ったりで上手い事出来てる。衣装担当兼任のデコちゃんのただでさえ上手い演技が、実生活を反映してるみたいで更に妙な説得力がある。珍しくゲスな役回りな加東大介が鉄の貞操を破る。傑作。
鑑賞日:2025/10/12 監督:成瀬巳喜男
四月
得て失う良い例ってな具合。映像と音の両方のリズムが凄い。自然と自然の形に沿った、あるいは成るべくして成った街から、ピシッと真っ直ぐな住居へ。空間が窮屈に満たされノイズがどんどん増して行くんだけど、そうなると人の心も淀んでくるのもよーく分かる。物に囚われる生活ではなく、地球が俺の家だからと言える様になりたい。とりあえず、断捨離加速しようって気にさせる。
鑑賞日:2025/10/10 監督:オタール・イオセリアーニ
珍しい花の歌
鬼編集って感じのカッティングで純度の高い自然を次々と見せつけてからのオチ。あらゆる色と形を潰してのっぺりとしたものへ置き換えられゆく現代。
鑑賞日:2025/10/10 監督:オタール・イオセリアーニ
水彩画
駄目を偽っても駄目から良い方へ行きそうな終わり方で良い。想像は現実と剥離するって云う皮肉がまた面白い。スマホで撮った写真の余計なものは消すみたいな感じでもある。
鑑賞日:2025/10/10 監督:オタール・イオセリアーニ
男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋
久々。マジカルなアニメーション入りのオープニングから始まり、とらやの下り含めて全体の構成がちょいといつもと異なる。前半の片岡仁左衛門のジジイ相手には相変わらずめっぽう強い寅次郎なんだけど、グイグイくるいしだあゆみにはヘタれる。シリーズ中最も色気のあるシーンと云っても過言ではないくらい、丹後の一夜の下りはドキドキする。で、寅次郎を挟んで北の国からサンドイッチ状態な江ノ島の下りがまた苦しい。満男の買った亀が何となく踏み込めない2人を表している様ないない様な。そんなかんなで吉岡秀隆の活躍も実に良い29作目。夏の初めの雨と涙に颯爽と去る寅次郎。傑作。
鑑賞日:2025/10/09 監督:山田洋次
天城越え
ただでさえ堪らん絶頂期の田中裕子で、渡瀬恒彦の手荒な尋問に失禁、雨に打たれながらの罪人ファッションまでこなす超がつく程の演技派っぷりで凄い。出てきた瞬間に空気が変わる具合。思春期心をビンビンに刺激する色気とその甘さと苦味の混じった記憶の感じが、逆に後の時代のトルナトーレの何かも感じさせる。時間軸を崩して、吉行和子の濡れ場の伏線から核心へ繋がる作りもなかなか。40年どころか100年くらい余裕そうな威力の『さ・よ・な・ら』の呪縛か、ほぼ困惑顔で魂をどこかに置き忘れてきたみたいな演技の平幹二朗も良い味出してた。
鑑賞日:2025/10/07 監督:三村晴彦
落葉
初イオセリアーニ。事なかれ主義や欺瞞で成り立つ大人社会に対応するには強く言ってみるって事で、検閲的にはちょっとアレなのも頷ける。人の良さや若さを散々突かれてからの豹変で、そこまでの持って行き方がなかなかに秀逸。温厚さん(社会的黙認者)を怒らせるのは怖いゾって云う教訓めいたものも感じる。シンプルに出来た作品でとても良かった。と、チジビジなる謎ジョージア飯が気になり過ぎる。
鑑賞日:2025/10/06 監督:オタール・イオセリアーニ
ラブ・レター
前後半での笑いから泣きへの流れがいつもながらホント上手い森崎東。『喜劇 女は男のふるさとヨ』の君が代の下りにも通じた国家への強烈な皮肉に対して、末端の人間への視線はどこまでも暖かい。四半世紀過ぎて斡旋は国家ぐるみでエスカレートし滅茶苦茶なっている現代を見たらなんて思うのか。しかし中井貴一の演技のポテンシャルを最大限に活かしたったってくらいに良い演技だった。山本太郎もかなりの演技派って感じ。手紙と北海道の下りがちょいクドいけど実に良かった。
鑑賞日:2025/10/02 監督:森崎東
category: 映画レビュー
tags: 2025年映画レビュー, アニエス・ヴァルダ, ウディ・アレン, オタール・イオセリアーニ, スタンリー・クレイマー, 山田洋次, 成瀬巳喜男, 森崎東









