荒島晃宏著『されど魔窟の映画館—浅草最後の映写』
Dec,21 2024 15:30
『されど魔窟の映画館——浅草最後の映写』
荒島晃宏 著
昨日届いて本日読了。
現在途中のプルーストの読みにくさからの一時的解放と、自身の記憶による補完とでまさに流れる様に読む。
馴染みのある荒島氏の文体で、これに加えて本人の声が脳内変換されるのは、氏と接点がある人間にとっての特典でもある様に思われる。
中にいた者にしか実感しにくい魔窟としての浅草のあり様を、良い感じな喜怒哀楽のバランスに、同僚には伏せられていたどん底からの氏の実生活を踏まえた起承転結でしっかり読ませるものに仕上がっているのは流石物書き屋と云った具合。
本の中に出てきた『浅名アニキ』こと故川原テツ氏の『名画座番外地「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記』発刊の際の下りが個人的には印象的で、やはり当時荒島氏から隠し通せない滲み出る様な羨望の雰囲気をなんとなーく感じていたものではあるけれど、そこから現在に至り荒島氏がせっせと築き上げたものを眺めてみるとなかなかに感慨深いものがある。私自身にとっては浅草勤務時に創作や生き方の指標ともなるべき全く異なるタイプの2人の年上の人間であり、それぞれに魅力があった。
本の中で登場する私と思われる者と荒島氏との会話で魔窟においてスタイルを守る云々の下りがある。
出戻りで最初の時よりは慣れていた上に、新劇の居心地が性に合い、新たに出会った荒島氏の様に会話して楽しい人がいる分、実際にはそれほど苦ではなかった記憶はあったものの、新劇の魔窟具合に加えてこのまま映写だけで良いのか、もっと音楽に力を入れなくてはいけないのではないかと思い悩んでいた時期であり、その中でそんな様な事を言った記憶はある。『こんなところで良くスタイルを貫けますね』はあながちハズレではないものの、私自身は状況に応じて手を抜く器用さは待ち合わせていない訳で、それだから適当にやるって事ではなく、単純に劣悪環境下においても己のペースを崩さず生きている姿に只々素直に感嘆していた事をこの場で記しておきたい。
私自身なんでも面白がる精神は音楽、映画の世界においては昔からあったものの、実生活においてそれを実行するメンタルが乏しい為に傍目に荒島氏が物事を受け入れる様を見て羨ましくもあったのだと思われる。日記を書く習慣ほか荒島氏から受けた影響は多くあるものの、当時その実生活における『面白がり方』をもう少し影響されていればとふと考えてしまった。
また、浅草閉館に関連し、劇伴を担当させて頂いた映画『フィルム・フェチ』の撮影裏話の下りなども荒島氏の人となりを感じるものとなっている。
そんなかんなな荒島晃宏氏の2024年の新刊『されど魔窟の映画館——浅草最後の映写』。
8年間を過ごした荒島氏と、実名仮名で登場した顔の浮かぶあの人この人に改めてお疲れ様でしたと言いたい。
荒島晃宏監督作品『フィルム・フェチ』オリジナルサウンドトラック / otom
『フィルム・フェチ』
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