Fortunia
- Without You (6:12)
- Hidden Sun (5:41)
- Wanderers (6:27)
- Talk (4:08)
- So It Goes (5:10)
- You Lost Me (5:24)
- Seasons (6:48)
- Normalize (5:35)
- Snowfall (7:07)
- 24 (8:12)
- Grapes (for nana) (5:53)
Now on Streaming
Lyrics
Without You
明らかに違う 違う 良く見える 良く見える 戸惑いを隠す 隠す 良く見える 良く見える 良く見える 良く見える 全世界をここへ 捨て去った時よ 消えたのは 僕じゃない 僕じゃないよ 掌の向こう側を 覚えている 覚えている
Hidden Sun
三日月の朝に 目を覚ます 揺らめく水面に 囚われた光 夢現際の世界 ぼやけた視界 束の間の知識を 焼け付く記憶を 太陽に向かう 雲の柱を ぼくは見た 虹色 灰色 灰色 虹色 重なる未来 重ねる その時 誰もが瞬きしていた その時 誰かが貫かれていた 太陽に向かう 雲の柱を ぼくは見た
Wanderers
めくるめく 最果ての星 持ち寄れば 瓶に詰めて 彷徨う僕らの糧とする 途絶えた 言葉は妙にどうも着飾るの 気付いた 気付かない振り たったそれだけさ ありふれた日 特別な日を思い描く 響くサイレンと(ト) 眠れないこの夜に 途絶えた 言葉は妙にどうも着飾るの 気付いた 気付かない振り つまりそれだけさ 捉えた 霞むくらいの微かなシグナル 気付いた 気付かない振り あと少しだけ
Talk
そう そう云う風に成り立ってるそうだ そう こう云う場合 よくある話 そう そう云う事でまたも僕等は そう 無意識に ありがちな方へ
So It Goes
さっきまでは全て消えてた さっきまでは同じ風でいた 南へ行く日を風向きで選ぶ 僕はそれでも 時々辿るいつかの名残 忘れた振りして さっきまではとても光ってた さっきまでは陰る方にいた 南へ行く日を風向きで選ぶ 僕はこれでも 時々辿るいつかの名残 ここへ置いてくよ あたりの景色が上ずっているの こだまが不規則なリズムを刻む 戸惑いを歌う僕らは星屑 ためらいながらそう云うものさと笑う 願いは変えない 欲張りは分かるけど
You Lost Me
何処へ行く 何処へ行く 不確かな優越感 隙が見えてる 削がれた後から行け 派手に売る良心で 目を醒ます 虚ろに問う影 足元を見ろ 継ぎ足す言葉が 震えている よこしまな声を聞け
Seasons
二十日未明のあの道のりを 未だに進む僕らを待つ未来 指先から宇宙の果てまで 選ぶ自由を僕らは備えているだろ 雪のような雲のような 雨のような霞の中 風のような揺れるような 止まるような嵐を見た 燃えるような凪のような 渇くような海辺の二人 夜のような虹のような 満たすような あの恵みの季節に 知恵寄せる 寄せあう
Normalize
ふわふわと漂う もの言いたげなやつ まるで昨日を損なうように 見えないとこで見えないとこの ざわめきを今感じている 正しい事 正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい くらくらと瞬く あるべきな姿 たぶん今日が 始まりの日 見えないとこで 見えないとこの ざわめきの音を感じている 正しい事 正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい 正しい事 正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい ぐらぐらと移ろう 固めかけた未来を 忘れてたあの日のように 見えないとこで見えないとこの ざわめきはまだ感じている 少しずつ形を変える 正しい事 正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい 正しい事 正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい 捨ててしまえ 見せかけの時間 捨ててしまえ 錆び出した風景 とどまっては正しい事をしたい 正しい人 正しい人でいたい
Snowfall
あとどのくらい埋め尽くせば 全てが変わる 変われるならば 僕らがそっと言う感じ 透けるレモンのような黄色の太陽 目を凝らせ 満たされたなら 僕らがそっと言う感じ まだ自分を知らないような知ってるような 曇るガラスに繰り返しなぞる 僕らがそっと言う感じ 僕らはそんな風だろ そっと そっと あとどのくらい埋め尽くせば (静まる もう) 全てが変わる 変わってしまうなら 僕らがそっと言う感じ 僕らはそんな風だろ (ひらひら)
24
Fake, Classify, Egoism, Love, Under pressure, Issue, Distance, Find number 24.
Grapes (for nana)
道行く人よ 静かな目で堪えている 溢れた砂の 中に見えた瞬きが 夜明けまでに 何処か遠くへ 行けば良い 一つの意図が 垂れる垂れる垂れる 夜明けまでに 何処か遠くへ 行けば良い 馴染みの過去は 終わりにする 夜明けまでに 何処か遠くへ 闇の中で 会えるならば それで良い
Intro
2026年7月7日リリースのフルアルバム『Fortunia』。2008年7月7日リリースの4thフルアルバム『Hidden Sun』以来となり、サブスクリプション配信では初となるアルバム作品。 2015年から2021年までに発表されたシングル曲を中心に厳選された楽曲群であり、現在のotomの音楽性と世界観を最も純粋な形で凝縮した、キャリアの集大成であり名刺代わりとなる作品となっている。
Note
単なるシングルコレクションではなく、すべての楽曲をミックスの段階から再構成。フェードイン・フェードアウトによる重ね合わせ、小曲やSEの挿入、あるいは間髪入れずに切り替わる展開など、多角的なアプローチによって全曲をシームレスに繋ぎ、ひとつの大きな流れを形成した全曲リマスター音源。アルバムというひとつの有機的な構造の中で、各楽曲が新たな響きを持って再構築されている。
サウンドの核にあるのは、‘90年代由来のドリームポップやシューゲイズが持つ浮遊感と、やわらかなウォール・オブ・サウンド。そこに’60-‘70年代のソフトロックやサイケデリック、映画のサントラが持つ特有の空気感を織り交ぜつつ、エレクトロニカやフォークトロニカ、静謐なアンビエント、アコースティック、そしてリアルタイム処理や自作Maxパッチによるエレクトロニックな実験要素、ドローンサウンドを積極的に融合。テープフラッターのような揺らぎを帯びたリバースギター、フィードバックギターによる反復、サビなどの概念を排除したミニマルな展開、そしてかすれたニュアンスや多重録音を重ねたささやくような多声ボーカルワークが、緻密なギターアンサンブルと柔らかなノイズの中で漂うように響く、これまでのサウンドデザインを網羅した作品群。
Title
タイトルは「Fortuna (運命・幸運の女神、運命の車輪)」と「Utopia (理想郷)」を組み合わせた造語。制作期間中に通読した『失われた時を求めて』『ドン・キホーテ』『百年の孤独』『愚か者同盟』『哲学の慰め』といった、世界の論理から少し外れた場所に生きながらも、確かな尊厳を持つ者たちを描いたそれらの読書体験の空気をも内包する。
Art Work
アートワークは、独自の言語コーディングと肉筆の質感を融合させたコンセプチュアルな視覚表現。アルファベット26文字を、それぞれ幅(Width)と高さ(Hight)の2つのパラメータのみで定義された縦長の長方形へと変換。全文字が固有の形状を持つこの長方形は、時間的・聴覚的言語である「モールス信号」と、空間的・触覚的言語である「点字」という独立した2つの記号体系を掛け合わせてエンコードされている。届くかどうかわからないが発信し続ける「運命の信号」としてのモールス、見えなくなっても触れれば読める「喪失の後に残るもの」としての点字。一見読めないが確かに意味を持つその長方形の構造は、日々の明暗や運命の浮き沈みを経た上でなお、確信的な愛とそれらを焼き付けた作品だけが残る実在の場所としての『Fortunia』の核心をそのまま体現している。 この設計思想から導き出された長方形群を、最終的にアクリル絵具を用いてキャンバスへと描画。約3年に及ぶ制作期間の中で急速に発達したAIとの在り方を深く模索し、AIの可能性と、人間の手でしか生み出せない筆触やテクスチャーの両方を巧みに使い分けることで、現代の表現手法と手業の調和を見せる仕上がりとなった。 また、現代のデジタル空間に溢れる高コントラストなサムネイルや画像群に対するカウンターとして、自身の美意識に基づき、敢えて淡い階調を選択。
1. Without You
このアルバムのオープニングトラック。2018年にシングルとしてリリースされた『Without You』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。
本作は、太さを意識したショートリバースギターの強いコード感を軸に展開するミドルテンポの楽曲であり、ドリーミーなサウンドスケープと重みのあるエクスペリメンタル・ポップの空気をあわせ持つ。土台となるのは、少し前につんのめるような前のめりで重めのビート。キックの「ドスッ」とした感触を強調したリズムが、広がりのある音像の中で楽曲全体のうねりを決定づけている。
その重厚なリズムと対照をなすのが、かすれたニュアンスのボーカルとコーラス。ウィスパー気味の歌声を幾重にも重ねることで、ドリーム・ポップやシューゲイズを基調とした独自の浮遊感がサウンドに静かに溶け込んでいく。サビでは、テープフラッターのように揺らぐドローン状のギターが重なり合い、音像の奥底に敷き詰められた逆回転のギターループとともに、隙間のない圧倒的なサウンドスケープを作り上げている。
原曲は、2005年制作のEP『The Night in the Rainbow』に収録されていたもの。その後、日本語詞への書き換えを行い、ギター、エフェクトペダル、ラップトップを駆使してサウンドをアップデートした。歌の録り直しや構成・マスタリングの見直しを重ねるなど、長年の試行錯誤を経て磨き上げられた、渾身の思い入れが詰まった一曲である。
2. Hidden Sun
2016年にシングルとしてリリースされた『Hidden Sun』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Without You』の歪んだギターの余韻からシームレスに続く構成。
エレクトリックピアノのフレーズを軸に、ドラマチックな展開を見せるミッドテンポのエクスペリメンタル・ポップ作品。ローで太いベースとエレクトリックピアノのフレーズループを起点に、徐々に熱量を積み上げていく構成となっている。序盤は抑制されたトーンで進行し、曲が進むにつれてサウンドは荒さを帯び、後半では激しい表情へと変化。その流れに呼応するように、テープフラッターを思わせる揺らいだ質感から、エモーショナルに歪んだサウンドまで、多様なギターフレーズが次々と加えられ、楽曲全体を押し広げていく。メロディアスかつローファイなフレーズから生まれるエモーションなギターサウンドと、かすれた雰囲気のボーカルのオーバーダビングが印象的な一曲。幾重にもオーバーダビングされたボーカルは、ギターと溶け合うように配置され、シューゲイズ的な浮遊感を意識した仕上がりを見せる。
原曲は2005年発表のEP『The Night in the Rainbow』、2008年発表のアルバム『Hidden Sun』に収録された同名曲であり、今作はそれをベースとした完全なリメイク作品。長い時間を経て再構築されたことで、音像や表現の変化がはっきりと現れている。シングルリリース時に日本語詞に書き換えるとともにサウンドを再構築。歌詞の内容は原曲と共通して、とある一日に見た夢を題材としている。過去の楽曲を出発点に、今の感覚で再構築した『Hidden Sun』。制作を進める中で、ミキシングやマスタリングの奥深さをあらためて実感することになった思い入れの深い一曲。
3. Wanderers
2016年にシングルとしてリリースされた『Wanderers』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Hidden Sun』から、2009年のオリジナルの音源を使用したSEでシームレスに続く構成。
ミッドテンポのドリーム・ポップ/エクスペリメンタル・ポップソング。リズミカルなディレイギターサウンドを軸としたシングルであり、最初から最後まで同じひとつのコード進行をベースにし、その限られた枠の中でフレーズやアレンジを少しずつ細やかに変化させながら展開していく構成になっている。音色やアレンジに実験的な要素を取り入れつつ、ギターを中心に多彩なフレーズが折り重なる一曲。テープフラッターを思わせる揺らいだ質感や、幾重にも重ねたボーカルによる浮遊感は、シューゲイズ的な感触を意識したものだが、結果としてこれまで以上にポップなまとまりのある仕上がりを見せる。跳ねるようなドラムと軽やかなベースラインを土台に、エレクトリックピアノやE-bow、ループ的なギターフレーズが随所に加えられている。「ひとつの進行の中で、どれだけギターフレーズを詰め込めるか」という発想に向き合っており、音を足し引きしながらフレーズが重なっていく感触も聴きどころの一つとなっている。
この曲の原型は2009年頃にはすでに存在しており、当時はヴェラ・ヒティロヴァ監督作品『ひなぎく』(1966)のSEが入ったバージョンも存在。当時は音もかなり薄く、試作段階の印象が強いものであったが、長い時間を経てようやく今の形に落ち着き、日の目を見ることができた作品。長い時間をかけて形を整えた一曲であり、ギタリストとしてギターでできることをあれこれ試した実験的な思い入れの深い一曲。
4. Talk
2017年にシングルとしてリリースされた『Talk』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Wanderers』の終わりに挟まれた、2006年作成のフレーズをイングリッシュホルン中心に構成された小曲から続いて始まる。
ディレイを効かせたギターと太いベース、軽快なビートを軸に展開するシューゲイズ/ドリーム・ポップソング。ディレイを効かせたリズミカルなクラシックギターとエレクトリックギターのフレーズを軸に、シンプルで太いベースラインと跳ねるようなドラムを土台として、アルペジオのフレーズや12弦+リバースギターが重なっていく構成となっている。シンプルなコード進行に、かすれた質感のボーカルと浮遊感のあるサウンドが重なり、かすれたトーンのボーカルでコーラスラインを形づくっている。全体的にやや粗さの残るサウンドに仕上がるも、そのざらついた質感は独自の魅力を放つ。
イントロのアルペジオフレーズをきっかけに発展した楽曲で、2009年頃から温めていた音のアイデアがようやく形になった作品。曲作りにおける初期衝動の大切さをあらためて実感しながら制作されており、最初に生まれたアイデアを大事にしつつ、シンプルな構成で仕上げられた思い入れの深い一曲。
5. So It Goes
2020年にシングルとしてリリースされた『So It Goes』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Talk』から間髪入れずにクロスフェードされ始まる。
シューゲイズやドリームポップの質感を持つミドルテンポの作品。シンプルな構成ながら、かすれたボーカルやコーラス、フィードバックやボリュームペダルを用いたギターが淡く重なり、サチュレート気味なドラムとマシンガンのように均一なベースの上で進行していく。ドラムは意図的に飽和気味に処理し、コンプレッションを強めにかけることで全体のトーンを押し出しすぎず均質に保ち、ベースラインはダイナミクスを排した「均一な打ち込み」として設計され、曲全体の土台となる反復感を支えている。ギターはボリュームペダルによるフェード処理をアクセントとして散りばめ、4つの同じコード進行が反復される中で、前半から後半に向けてストロークの密度とエッジが増していく。滑らかに立ち上がるフレーズと荒いニュアンスが重なることで、音像が緩やかに揺れながら広がる質感を生み出し、ボーカルはかすれた質感をそのまま活かし、深めのリバーブと控えめなコーラス処理で空間的な奥行きを付与。短いフレーズが繰り返される中で、静かなニュアンスを携えた一曲となっている。
この曲は『New Life EP』(2020)の制作期間中、疲労が溜まる中でふと浮かんできたもので、最初のシーケンスはおよそ10分ほどで組み上がった。大幅なアレンジ変更は行わず、制作初期のバランスを保ったまま録音からミックス、マスタリングへと進行。結果として当時の制作状況や心境がそのまま封じ込められた、「そういうものだ」と諸行無常を歌う反復と静かな熱量をもつ思い入れの深い一曲。タイトル『So It Goes』はカート・ヴォネガット著の『スローターハウス5』の中に頻繁に登場するテキストから取られている。
6. You Lost Me
2019年にシングルとしてリリースされた『You Lost Me』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。シングルリリース時に収録されていた激しいグリッチサウンドリミックスのショートバージョンが前曲『So It Goes』の終わりに配置され、そこから曲が切り替わって本編へと続く構成。
歪んだギターとクリーントーンが絡み合うアンサンブルに、軽快なドラムと多重ボーカルが重なるアップテンポのシューゲイズ〜ドリームポップ寄りの作品。疾走感ある雰囲気の前半から、曲後半ではさらに飽和へと向かう展開を取り入れている。また、当時多用していたMax/MSPの自作パッチによるグリッチ処理も随所に組み込み、音像に表情を与えている。ベースのフレージングも特徴的であり、鋭さと柔らかさが共存するサウンドが印象的な一曲となっている。
元々は2009年頃に作った楽曲であり、当時の自分の癖がよく表れたギターフレーズを軸に形になった作品。強く影響を受けていた作品群の空気を今も残したサウンドとなっており、過去のアイデアに向き合いながら再構築された。何か言いました?…ええ、もちろんアノ曲は大好きです。
7. Seasons
2019年にシングルとしてリリースされた『Seasons』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『You Lost Me』の終わりから今作のループが始まり、そこから曲が切り替わって本編へと続いていく構成。
ショートリバースギターを中心に、リズミカルなピアノや木琴が重なり合うミドルテンポのポストロック寄りの作品。メロウでありつつも、少し変わった展開を持つ構成に加え、間奏では強めで単純なストロークが感情のピークを作り、曲全体の勢いを支えている。振り返ればサビらしいパートはなく、生涯の目標でもある“Aメロだけで曲を作る”という試みが、わずかに形になった一作でもある。
元々は2005年頃に作った楽曲であり、当時の景色や気分を思い出させる一曲。シングルリリース時に原曲の空気を残したまま音像を整え、日本語詞へと置き換えられた。ポストロックやマイブラチルドレンの流行が落ち着きはじめた時期で、さまざまな楽器を重ねてみたい衝動のままに形になった。諸事情でシングルリリース時まで未発表だったものの、ようやく光に当てられた、「あの恵みの季節に」へとつながる思い入れの深い作品。
8. Normalize
2018年にシングルとしてリリースされた『Normalize』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Seasons』の終わりからフェードインするように音が重なり、そこから本編へと続いていく構成。
テープフラッターのような揺らぎを帯びたリバースギターが重なり合い、やわらかなウォール・オブ・サウンドへと溶けていく、ドリームポップとシューゲイズの溶け合う質感を持つややテンポ感のある作品。アクセントとしてリズミカルなクリーンギターが差し込み、ドラムのビートと共に浮遊する質感のなかに軽やかな推進力を与えている。かすれたニュアンスを重ねた多層のボーカルはサウンド全体に柔らかい陰影を加え、柔らかなノイズの中で漂うように響く。
原曲は2005年頃に制作したものであり、当時の4thEP『Melody of Second Year』(2006)にはアコースティック版のみを収録していた作品。シングルリリース時に日本語詞へ書き換えられ、ギターと多くのペダル、ラップトップ、そして自作のMaxパッチを組み合わせて音を作り込み、新しいサウンドとして再構築された。ミックスでは、左右に現れる細かなギターのノイズ成分に悩まされながらも、時間をかけて調整を重ねて仕上げられている。My Bloody ValentineやSlowdiveのようなサウンドの空気を内包した一曲。
9. Snowfall
2018年にシングルとしてリリースされた『Snowfall』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Normalize』の終わりから間髪入れずに曲が切り替わり、本編へと続いていく構成。
雪の降る日の音が消えたような静けさの中で生まれた、独特の浮遊感を描き出すミドルテンポの作品。テープフラッターのように揺らぐギターに、ささやくようなボーカルが多声合唱のように重なり、柔らかに響く。控えめに寄り添うピアノのフレーズが淡い広がりを添えて静かな余韻を残し、打ち込みながらも気だるいリズムを刻むドラムが曲全体の推進力を支えている。
元々は2009年頃に作曲された未発表曲であり、シングルリリース時に日本語歌詞に置き換えて再構成された作品。制作過程ではミックスとマスタリングに苦労しつつも、細部まで丁寧に積み上げて完成された背景を持つ。otomらしい緻密なコーラスワークを堪能できる一曲。
10. 24
2020年にシングルとしてリリースされた『24』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『Snowfall』の終わりから、2004〜2007年頃に作ったギターアンサンブルのループフレーズを経て、本編へと切り替わっていく構成。
ループやフィードバックギターによる反復が淡い揺らぎをつくり出す、シューゲイズやドリームポップの質感をまとった作品。どこか皆が大好きな“あの曲”を思わせる雰囲気も特徴であり、短いモチーフが重なり合いながら進行する構造、そして当時こだわっていたサビなどの概念を排除したミニマルな展開をもつ。
楽曲の原型は1998年頃に制作されたものであり、サビのないループの心地よさや、ある種の既視感のある響きを実践した最初の作品。当時はデモとしての仕上がりに納得がいかず長く眠っていたものの、試行錯誤の末にアレンジを進めたバージョンが1stアルバム『November Morning』(2004)に収録されている。楽曲制作の初期段階はMac以前のハードディスクレコーダーで行われており、当時のオーディオデータの発掘が不可能だったため、シングルリリース時に初期バージョンを新たに録り直し、現在可能なノイズ的なフレーズを組み合わせて新しいサウンドとして再構築された一曲。
11. Grapes (for nana)
2017年にシングルとしてリリースされた『Grapes』。今回のアルバム収録にあたり、ミックス段階からの再構築とリマスターされた音源。前曲『24』の終了後、今作の前に収録されている『Seasons』のエンディングモチーフのアカペラコーラスを経て、本編へと切り替わっていく構成。
ショートリバースギターのフレーズとゆったりしたリズムを軸に曲全体の空気を作る、浮遊感のあるミドルテンポのドリームポップ作品。かすれた質感のボーカルから始まり、サビでは多重録音のコーラスが一気に広がり音場を埋め尽くす構成をもつ。ソロや要所では、リバースをかけたクリーンギターがさりげないアクセントとして加わり、幻想的な広がりを与えている。
歌詞はアメリカ文学の巨匠ジョン・スタインベック著『怒りの葡萄』の主人公トム・ジョードをテーマにした一曲(母親サイドをテーマにした楽曲『Life Will Work Well』は2006年リリースのEP『Ride on the Cloud』に収録)。オリジナル版は2005年リリースのEP『The Night in the Rainbow』に収録されていたものであり、シングルリリース時に日本語詞に書き換えつつサウンドも新しく再構築された。制作当時は格段に広がった環境のなか、あえて限られた要素に絞ってシンプルさを意識しながら仕上げられた作品。
この楽曲は2023年に亡くなった愛猫『なな』に捧げられている。

nana
はじめに
去る2023年9月8日の午前1時55分頃に妻と私の愛猫『なな』が永眠する。享年22歳と約2ヶ月だった。 遡ること8月の初めに以前から疑いのあった腎不全が悪化し、約1ヶ月の闘病の末の事だった。この間にアルバム『Fortunia』に向けての作業をしつつ、外出を控えてほとんどの時間を一緒に過ごす。 悪化の直後は1週間程水も食事もせずのところから、工夫の末に少量ながら徐々に水も食事も摂る様になる。更には脱水症状緩和の為の点滴を定期的に打ちながらの看病となった。その後、再び水も食事も受け付けない状況が続き、やがて最後の日には立つ事も困難になるも、亡くなる数時間前には好きだった鮭を少し口にする。 見ていて痛々しい程の衰弱で辛い日々を過ごしたかと思うものの、看取ったのは深夜で2人揃って見守る事ができたのは不幸中の幸いだった。
Grapes
『Grapes』の解説の通り、元々は2017年12月10日にシングルとしてリリースされた楽曲で、スタインベックの名作『怒りの葡萄』(1939)に登場するトム・ジョードについての歌詞となっている。
ななが亡くなる半日ほど前の午後にアルバム収録の1曲目から順番に行っていたテストミックスでラストソングとなる今作のテストを終えてひと段落となった。サウンドチェックの際に異なるテーマながらも、歌詞の内容がその午後の状況に合致する事に我ながら驚いた記憶がある。
更にその日の夕刻、横たわる猫と向かい合う様に自分も横になり、店の運営をしている妻の帰りを待っていた。折しも、翌日の午前に関東に上陸する台風の前の静けさの中、ジーッと目と目を付き合わせていると、空も部屋の中もマジックアワーにも似た赤い色に包まれる。その数時間後に亡くなるとは予想もしていなかったものの、見つめ合うその不思議な赤い時間に何故かは分からないが涙が止めどなく溢れてきたのを記憶している。今にしてみれば、朦朧とした意識の合間に、ななに別れを伝えられている様なそんな予兆の如きものだったとも感じる。
全てを終えたあくる日の夜に、強い印象を受けたその夕暮れ時の記録として、『Grapes (for nana)』として捧げる事を決めた。
歌詞について
- 道行く人よ
静かな目で堪えている - — 約1ヶ月の闘病が過ぎ、差し向かいになった時の吸い込まれる様な眼を見つめた際の印象 —
- 溢れた砂の
中に見えた瞬きが - — 朦朧とした中の濁りと交互に見える何かを訴えてくる様な眼、赤く風景が変わった時の印象 —
- 一つの意図が
垂れる垂れる垂れる - — その赤い夕暮れの中で肉体の消滅と喪失は避けられない事を知った —
- 馴染みの過去は
終わりにする - — なな永眠から過ごした翌日の昼以降にもまだ家中のどこにも感じられる、歩いている様な気配。
これらが強く心を痛ませるものの、同時に慣れて行かねばと感じた事 — - 夜明けまでに 何処か遠くへ
行けば良い - — 空が白むまで寝ずの番をしていた際に次第に体が冷たくなり魂がどこかへ行ってしまった事、
しかし悲しみと同時に苦しみから解放された事を認める事 — - 闇の中で 会えるならば
それで良い - — 10数年一緒に生活した記憶、感触、匂いや、夜の闇の中でまだそこで寝ている気配、
それらは自分が生きている限り失われる事はなくいつでも感じることができる。
そう思いたいと辛さの中で願った事 —
ななについて
妻がまだ若い頃の2001年頃に飼い始め、セルジュ・ゲンスブールの犬のナナから名前を取った『なな(日本語だと『なな』は7なので、リリース日は7月7日と決めていた)』は、こわがりの癖に家人には傍若無人かつ非常な甘えん坊だった。 ななを失ってもなお、寝床などの定位置や、食事処、トイレなど痕跡は既にないのに、未だ家中のいたるところで歩いてるのが見える様に感じたり、ミッチミッチと近づいて来るのやカリカリを食べてる音が聞こえてくる気がするような、何度もななが復活した錯覚に陥る日々を残された2人は過ごしていた。(以上の記事は亡くなった直後の9月9日に無理矢理に心の平衡と日常を取り戻そうとしつつ、そして鎮魂の意味も含みつつ書いたものになる。)
後日談
2ヶ月後の11月8日、夜なべの明け方に闘病中の水飲みを思い出す。その日の午後に内田百閒の『ノラや』の「クルやお前か」の下りで堰を切ったように号泣。著者と同じく「実に深刻に猫の可愛さを知った」を痛感することとなる。あれから
長い制作期間を経てアルバムが完成し、改めてななの喪失を振り返る。未だ心はチクチクと痛むものの、残された2人は十分に乗り越えられたと感じる。 ななの供養の意味合いが大きいこの作品で、何か区切りをつけられたらと願っている今日この頃。
Outro
制作に3年を費やしたフルアルバム『Fortunia』は、otomの音楽を最もよく表した作品であり、自身にとっても特別な一枚となっている。
『Fortunia』はSpotify、Apple Musicをはじめとする主要ストリーミングサービスで配信中。Bandcampでは高音質版の購入も可能です。