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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

Films: Dec.2025『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ほか

Jan,06 2026 11:30

やるべき事を置いといて、やたらと忙しい師走。
ようやく鑑賞の押井守監督作品『紅い眼鏡』から。
再鑑賞もので山田洋次監督『男はつらいよ 葛飾立志篇』、森崎東監督『ロケーション』、ジョン・G・アヴィルドセン監督『ジョー』とどれも改めて面白い。
初鑑賞ものは五所平之助監督『挽歌』から、セルジオ・コルブッチ監督『さすらいのガンマン』、ポール・シュレイダー監督『魂のゆくえ』、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督『べネシアフレニア』といずれもクオリティが高い。
先月に引き続いてのオタール・イオセリアーニ監督作品は『唯一、ゲオルギア』、『群盗、第七章』、
素敵な歌と舟はゆく』ときて大分終わりに差し掛かっている感じ。
そんなかんなで、再鑑賞ものなものの、2025年ラストという事でポール・トーマス・アンダーソン監督の傑作、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を12月の顔とする。

冬季休暇をいつになくのんびり過ごし、開けて6日にようやく動き出している今日この頃。
今年予定のアルバムリリースまであと少し。エンジンをかけよう。

観た映画: 2025年12月
映画本数: 13本

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

2025年ラスト。ストローの下りが見たくて、通しで観るのは15年振りくらい。かたや石油でかたや宗教の、血を吸う生命体みたいな師弟対決で、乗ってる頃のPTA。以降の作品の幾つかでも適用されるお家芸の最初の型みたいにもなってる感じ。比喩的な血と血縁や物理的な血も交えつつ、手に取れる本物と偽物、現実世界と神の世界の戦いをバチバチにやる。強さと裏に潜む弱さをきっちり表現するダニエル・デイ=ルイスが良いのは勿論として、先日タランティーノに駄目出しされてたポール・ダノも、出た瞬間の胡散臭さとあらかじめ決められたルーザーっぷりとで最高。ペンデレツキみたいなジョニーの劇伴も素晴らしい。

鑑賞日:2025/12/31 監督:ポール・トーマス・アンダーソン


べネシアフレニア

この監督の前の作品『刺さった男』が面白かったので鑑賞。現代のペストことオーバーツーリズムを扱った社会派スプラッター映画で面白い。地盤沈下中のベネツィアっていう舞台もまた重い。浮かれると同時にTPOをわきまえずスマホをかざすアホっぽい人々も良く描けてる。秘密結社の復讐の矛先が観光客って事で超短絡的なんだけど、まぁ気持ちは分かる。京都、鎌倉辺りも頑張れと思わせるものはある。見渡す限りヴィサージみたいな仮装のニューロマ具合も最高なんだけど、地下のクラブみたいなのは結局どこだったんだっていうモヤモヤ残しEND。

鑑賞日:2025/12/29 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア


魂のゆくえ

終始困惑面のイーサン・ホークで成功してる感じ。やってる事はトラヴィスのそれと共通してる感じで、淡々と進みながらも内面がぐわんぐわん動いているのが良く分かる。答えは神のみぞ知るっていう大前提の元で繰り返される不毛なレベルな宗教問答で、己が聖戦と苦行へとたどり着くプロテスタント的筋な訳だけど、そもそもが設定としてここん家の家系的に教会って商売が向いてないのがこれまた哀しい。行き過ぎた宗教と文明による破壊とをチクリと批判しつつ、やっぱり『マジカル・ミステリー・ツアー』と『愛こそすべて』が最高よなでバスっと締める。傑作。

鑑賞日:2025/12/27 監督:ポール・シュレイダー


素敵な歌と舟はゆく

前作、『群盗、第七章』ほかの続きみたいな感じ。雨から始まり雨で終わりと思いきや、たどり着くは大海へって事で、水の流れの如くな群像劇。一般論としての階級に対して、『失われた時を求めて』的な精神的階級と、イオセリアーニ監督がずっと切り取り続けている豊かさとはなんぞやをパリのど真ん中、人種の坩堝の設定の中でこれをやる。映画的な遊びも多岐に渡るって感じでスゴイ。イオセリアーニパパの子供部屋も堪らんな。傑作。

鑑賞日:2025/12/25 監督:オタール・イオセリアーニ


ジョー

久々。悲しいまでな新旧世代の断絶。若者文化も悪くないじゃないかってとこまで持って行ってからのラストで良く出来てる。ジョーのコレクション説明から始まって、お父さんのハンター覚醒までの流れも無駄がない。一から十までアメリカカン・ニュー・シネマ臭が充満してて最高。

鑑賞日:2025/12/23 監督:ジョン・G・アヴィルドセン


さすらいのガンマン

兎にも角にも、レオ・ニコルスことモリコーネのナバホジョ、ナバホジョ〜♪が脳に焼きつく。『ガンマン大連合』みたいなキチガイっぽいコーラスがアガる。で、本編はヒゲがないと誰って感じのバート・レイノルズの復讐劇で、ひたすらに必殺仕事人してる具合。セルジオ・コルブッチの他の作品みたいに派手さと異様な雰囲気がある訳でもないんだけど、上手い事まとまってるし、キッチリ伏線だらけの演出と映像もカッコイイ。タランティーノが好きなのも良く分かる。あんまり活かされてないフェルナンド・レイは、らしくない役だった。

鑑賞日:2025/12/21 監督:セルジオ・コルブッチ


裸の銃を持つ男

冒頭の船上での自爆コンボが見たくて30年振りくらい。すべてが必要以上にクドくて、オーバーキル当たり前な具合。当時の世界そっくりさんを集めて、テロに対抗するUSAのやりたい放題とコンプライアンス無視のご時世とで、逆に生き生きしてるハリウッド。

鑑賞日:2025/12/18 監督:デヴィッド・ザッカー


群盗、第七章

ドキュメンタリーの『唯一、ゲオルギア』のジョージアの歴史をそのまま凝縮、コメディタッチにして映画にした感じ。映画内の入れ子もありでフィクション前提を建前にしながら、やりたい放題で恐れ入る。イスラムの脅威と隣り合わせな中世、ソ連下、独立化の余波の内戦化と常に穏やかでないイオセリアーニの祖国模様。毎度のごとく映像に編集も見事なんだけど、戦闘にまつわる音と多声合唱の音使いがほんと効果的。貞操帯からの拷問器具の流れなんかも秀逸。祖国を捨てた者とそうでない者のそれぞれ哀愁と末路のおまけ付きで現在進行形(当時の)感を強く感じる。

鑑賞日:2025/12/16 監督:オタール・イオセリアーニ


ロケーション

久々。美保純と二役大楠道代の熱演は勿論なんだけど、乙羽信子と殿山泰ちゃん(毛有)の近代映画協会組のノッてる怪演と、ずっと咳き込む加藤武に愛川欽也に根岸明美の豆腐屋ほか脇が強い。原発背景にどこまでも熱量強めな感じで、『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』と同時期でどっちも素晴らしい。散々笑わせてからの感情の爆発がほんと上手い森崎東。傑作。

鑑賞日:2025/12/14 監督:森崎東


挽歌

タイトルの時点で誰か死ぬって感じで崩壊必然なのは分かちゃいるものの、釧路の霧模様よろしくなかなか先が読めない感じで面白い。主要人物がそれぞれ足りないものを望んでるって図式なんだけど、久我ちゃんの天邪鬼っ子っぷりと我儘っぷりが突き抜けてる。片親でカタワなコンプレックスを全力でぶつけに行ってる具合で、超面倒な娘の役柄を良くモノにしてる。出てきた瞬間にスケベそうなハズ森雅之とモナリザのごときオーラを放つママ高峰三枝子と三者共に流石に細かいとこまで演技が上手い。湿原の眺めも今や太陽光パネルが敷き詰められてると思うとなんだかなと感じる。盛り上げまくる芥川也寸志劇伴も素晴らしい。

鑑賞日:2025/12/12 監督:五所平之助


唯一、ゲオルギア

1994年にイオセリアーニ監督がやらなきゃならなかったって思いが良く伝わってくる3部構成、246分に渡るジョージアの歴史。四方を異なる文化で囲まれた国の懐の深さと監督作品で度々紹介される美徳から始まり、大国による阻害と内部の売国奴による国の不安定化とで国家の光と影の部分をかなり分かりやすく説明してくれる。当時は遠い国の小競り合いって感じだったけど、流れを知ると現在進行系の近隣問題と大体おんなじ事をやってる印象な恐ロシア。由緒正しい国っては、従順を装う事はあっても覇権主義には屈する事のないって感じなのが熱い。

鑑賞日:2025/12/09 監督:オタール・イオセリアーニ


男はつらいよ 葛飾立志篇

久々。西部劇から始まる16作。兎にも角にもブルドックソースがちょいちょい目に入る。ラストに訪れても良さそうな桜田淳子の下りは、大滝秀治で消化。そこからの学問の流れで、御前様姪っ子設定の樫山文枝と小林桂樹を相手に先生師匠のあれこれで構成はちょっと変わっているものの相変わらず滑らかな展開。意中の人ととらやの面々に囲まれながらの去り際もちょっと珍しい。撃沈した己を知らないオッさん2人であるも、パキっとした富士山同様にカラッとしてて良い。

鑑賞日:2025/12/05 監督:山田洋次


紅い眼鏡

異常な出来の良さ。国家の一兵卒としての迷子の迷子の野良犬ちゃんって事で、ほかの押井作品同様に言いたい事を言いたいだけ言ってる感じ。青春の蹉跌ではなく砂鉄としつつも蹉跌を描く。時折、清順作品とかATGの映画を観てる気分になるも、きちんと踏襲しながらアップデートされてるって印象。現在でも古くささはない。アニメーション異常に動くって感じの千葉繁に永井一郎ほか声優の面々に天本英世などと、キャッチーな川井憲次劇伴で完璧。そして蕎麦への愛。傑作。

鑑賞日:2025/12/02 監督:押井守