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潮騒 / LE HASARD ET LA VIOLENSE

Films: Nov.2023『潮騒 / LE HASARD ET LA VIOLENSE』ほか

Dec,01 2023 12:00

次作のシングルとアルバムに向けてミックスとマスタリングの沼に浸かって溺れかけてた11月。
何やらバタバタしていたので、腰を据えてってよりは気軽そうなやつをチョイスしていた傾向がある。
初鑑賞ものとしてはアレクサンダー・ロックウェル監督作でスティーヴ・ブシェミ主演の『イン・ザ・スープ』、ロバート・ダウニー・シニア監督の『パトニー・スウォープ』、溝口健二監督と田中絹代主演の『西鶴一代女』、小津安二郎監督作『戸田家の兄妹』、ギャスパー・ノエの時間軸バージョンでオリジナルと変わらないクオリティな『アレックス STRAIGHT CUT』なんかが特に印象的。
再鑑賞ものはヴィスコンティ『ルートヴィヒ 完全復元版』にラース・フォン・トリアー『イディオッツ』、ジェームズ・アイヴォリー『眺めのいい部屋』と傑作揃い。
そんな中で11月の顔はイヴ・モンタン主演のフィリップ・ラブロ監督作品『潮騒』が好きすぎるタイプの映画だったので、これに決定。

とにかく色々と片付けて次の事をやりたい今日この頃。

観た映画: 2023年11月
映画本数: 14本

西鶴一代女

御所勤めから旗本、化け猫様を経て托鉢ENDで諸行無常が過ぎる。一つずつ身を落とす方向を前提に上がったり下がったりしつつ、結局どん底へって事で体張ってる流石の田中絹代。走馬灯如く、五百羅漢を前に過去の男達を思い浮かべる演出で不憫の度を超えてはります。適材適所な溝口的長回しも品を感じる。人の世から行き着く先は解脱で少しホッとする。傑作。

鑑賞日:2023/11/30 監督:溝口健二


イディオッツ

イディオッツ

久々〜(^q^)。社会的弱者に優しい風世界が加速してる昨今を遡ること四半世紀前にこれをやるラース・フォン・トリアーで改めて尖ってるなと。ドグマ95の理念の元に生々しく描写された不謹慎&悪ふざけの数々のキレと、人間の偽善の現場の切り取りが半端ない。厳しい原始時代から豊かな現代社会で、今こそみんなで愚者を演じる時だ!!なものの、結構鋼の意志が必要。キングダムキャストも一杯出てる。

鑑賞日:2023/11/28 監督:ラース・フォン・トリアー


アレックス STRAIGHT CUT

時は全てを破壊すると謳いつつ、時間軸に直しても攻めまくってる印象が全く変わらんギャスパー・ノエ。シーンごとの完成度が高いからこそってな具合で、圧巻壮絶なモニカ・ベルッチの地下道一連とガクブル演技やミンチ肉生成から始まるそれぞれのシーン出来が良過ぎ。「悪はない、あるのはただの行為だ」と説明されるところの極暴力の数々と、目を覆いたくなりつつも安全圏からチラ見したい鑑賞者の欲求を見透かした様な作りで恐れ入る。血眼なヴァンサン・カッセルがホモ達の要求に対してだけ冷静にお断りしてたのがジワる。ベートーヴェンの7番第2楽章のとこは、オリジナルの配置の方が好き。

鑑賞日:2023/11/26 監督:ギャスパー・ノエ


銀座カンカン娘

名曲堪能。若々しいデコちゃんが可愛いのは勿論の事、笠置シヅ子に古今亭志ん生、浦辺粂子からワンコまで脇もきっちり見せ場がある。世田谷辺りの野っ原に住むややこしい構成の一家が戦後のソレを思わせるけれども、悲観的なところなく全力で明るい感じでとても良い。クラッシャーな巨漢パートも楽しい。ラストの落語ENDの流れの演出が粋。

鑑賞日:2023/11/24 監督:島耕二


ルートヴィヒ 完全復元版

ルートヴィヒ 完全復元版

ツルっとした即位のとこから夜型ニキな狂王っぷりまで見事なヘルムート・バーガー。ドリアン・グレイ然り、この手の役どころがホントハマる。統治能力0、文化力100、容姿100な無茶なパラメーターで、王の特権を持ちつつも不遇の生涯を送ったルートヴィヒ2世ではあるけれど、ワーグナーにバイロイトに各建築物と後の世に残したものは大き過ぎる。イタリア語がちょっと雰囲気出ない気もするけども、哀しく退廃的で素晴らしい作品であるのは言うまでもない。ロミー・シュナイダーの姐さんっぷりも最高。

鑑賞日:2023/11/22 監督:ルキノ・ヴィスコンティ


みかへりの塔

子供の頃に悪さをすると「戸⚪︎ヨットスクールに入れちゃうよ」と脅され、子供心に何やら怖さがあった記憶がある。今作の感化院は流石に今の時代にそぐわないにせよ、自身の子供時代も含めて段々と教育(モラル的な)がヌルくなってるのは否めない印象。行き過ぎな個人主義と世の中に甘やかされ我がもの顔な親と子供達の昨今の様子をみると、この作品の精神論メインなとこと全体主義っぽいのは置いといて協調性を育む辺りは見習うべきかと。集落を縦横無尽に駆け巡る活き活きとした子供達を切り取る撮影に清水宏の愛を感じる。クライマックスの鐘のシーンで音声が劣化しまくって、ポワ〜ンとなってるのが実に残念。

鑑賞日:2023/11/18 監督:清水宏


バウンス ko GALS

バウンス ko GALS

記憶にある形態の渋谷と時代過ぎて、色んな意味でキツい。当時にして大人も子供も既に壊れてるニッポンで、そこから四半世紀後の現在でコイツらが大人になってる世界(同世代)で崩壊待ったなしなのも納得できる。あの時代のキツいのに加えて、国の有様を憂い過ぎて説教臭い下りまで飛び出すんだけど、金じゃないんだよって下りの熱いのと川崎真弘劇伴とできっちり原田眞人作品ではある。役所、桃井、ミッキー・カーチスで映画を締めてくるバランス感覚は流石。でもズッ友感含めて、全体的には小っ恥ずかしくて耐えられん。

鑑賞日:2023/11/15 監督:原田眞人


眺めのいい部屋

久々。OPの『私のお父さん』からして良い。20世紀初頭の若い世代は如何にして生きて行くべきかって事で、自分の気持ちに正直であれば見えてくる景色も自ずと変わってくると。絶頂期のヘレナ・ボナム=カーターに先立ちフィレンツェの広場にて生を見出すジュリアン・サンズで、そこからの黄金色なケシの花と麦畑のシーン(イケメンに限る案件ではある)が実に美しい。まだツルッツルなダニエル・デイ=ルイスはあんまり活かせてない気もするけど、結構漢気のある好印象な役どころをきっちりこなす。しかしまぁ、微妙な上下関係とお作法があっても英国有閑階級のあの感じに憧れる。

鑑賞日:2023/11/14 監督:ジェームズ・アイヴォリー


戸田家の兄妹

上流階級の部分的没落って云う上手いとこを突いてくる筋。ベースになる米映画の元ネタがあるらしいけど、流石に小津色に染まってる。居候になると立場が逆転するやつで、憂さを晴らせない方のモヤモヤ感の積み上げが実に丁寧。と、ピアノの下りなんかの「お言葉ですけど〜」に繋がるハラハラ感が絶妙。一周忌で佐分利信がかます誠意の鉄槌!からの気持ち良い流れ。けども、だからって老婆と嫁入り前を連れて天津は無いわ。この辺りは戦中と現代の差だな。まだピチピチしてる可愛らしい高峰三枝子の泣き暮らし→上げ♪な感じが堪らん。家族以前に音声が崩壊してるので、まずはそっちをキチンと修復しなきゃいかん作品。

鑑賞日:2023/11/12 監督:小津安二郎


扉の影に誰かいる

お手のものって感じのアンソニー・パーキンスのサイコ演技に記憶が欠落してオロオロしているチャールズ・ブロンソンとで役者同士のぶつかり合いの熱量がスゴイ。新世界よりの『家路』を流しながら家の中で展開する訳だけども、悲愴と快楽の半々でコツコツと殺人マシーンを作り上げる作業がまぁまわりくどくて面白い。人を操る+家の中にいてはならない奴がいるが組み合わさったタイトルと演出もなかなか。ラストと交互のドッキンドッキンも良かった。で、カミさん役のジル・アイアランドはリアルブロンソン夫人って事で余計にややこしい作りとなっている。フレンチ映画の顔したイギリス映画ってな具合で、海風と一緒に何やらジメっとした出来で嫌いじゃない。プリーツスカートのお手伝いちゃんが可愛いかった。

鑑賞日:2023/11/10 監督:ニコラス・ジェスネール


パトニー・スウォープ

シニアの方のロバート・ダウニー監督作って事で、内容も中の人間も真っ黒に攻めてる。クールなタイトルバックから始まり、無害無味無臭な現代とは真逆な具合でピリリとしたアイロニー尽くし。やっぱり必要悪というか毒を見ようとしない世界の方が不自然だわと思わせる出来。意味解らないレベルに冴えまくってる素敵カラーな劇中広告もイイ。集団で踊ってるのやら、しょーもない芸人ばっかで溢れた昨今の我が国のCMとどうしたって比べてしまう。一昔前に比べると独創性が地に落ちてしまった広告屋は正座してこの映画を見た方が良い。

鑑賞日:2023/11/08 監督:ロバート・ダウニー・Sr


サンストローク ロマノフ王朝の滅亡

サンストローク ロマノフ王朝の滅亡

赤い勢力との負け戦後で、失われた白ロシア。ありし日と交互で現代まで続く、なんでこうなった感をやる。華開いた19世紀のロシア文学に音楽にと大国ロシアと民族の行く末は明るく、ドスト氏の言葉を借りると『宿命的なトロイカ』の行き着いた先がおかしな方向へ進みガックリ来てる模様がヒシヒシと伝わってくる。ビフォアなロシアの夏の描き方は監督お手のものって感じで、嘘くさい色味云々は置いといて実に美しい仕上がり。『アンタッチャブル』ばりの乳母車のとこや、ピアノを弾くシーンのダイナミックな回り込みも身震いするほど。個人的には微妙なヒロインにVFX、無駄に親切な説明が無ければ尚良し。安定のエドゥアルド・アルテミエフ劇伴はとても良かった。しかし、10年くらい熱望してるニキータ・ミハルコフの初期作品はいつ観られる事やら。

鑑賞日:2023/11/07 監督:ニキータ・ミハルコフ


イン・ザ・スープ

ドストエフスキーにニーチェ、ルノアールやゴダール、更にはタルコフスキーが好きなのは良いとして、映画制作に本当に必要なのはソコじゃないって云う説得力。映画を一本作れそうな体験をしたアレクサンダー・ロックウェルが、映画の中で映画を一本作れそうな体験をブシェミにさせる。で、元凶にして天使の如きシーモア・カッセルが最高。良い時期のジャームッシュにツインピークスの小人にと脇も楽しい。

鑑賞日:2023/11/05 監督:アレクサンダー・ロックウェル


潮騒

岡本喜八もびっくりな切りまくり鬼編集と、全てが予測不能な事故や災難の様でありつつも、原題然り劇中でも引用された『客観的偶然』って事で最初から最後まで綺麗に一本の線で繋がっている。所構わず爆音で『ロメオとジュリエット』を流すイヴ・モンタンで最初から嫌な予感しかしない訳だけれども、同じ線上に描かれた暴力と愛の顛末が滑らか過ぎて見事。8号の独房の過去から8号の更衣室の扉を叩くラストとか痺れるわ。モンタンの「俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」の絶頂からの運命の悪戯で超悲愴。エロ可愛いキャサリン・ロスから謎のカンフー男まで人に歴史ありな感じがきっちり伺える作るとなっており、前衛風に見せながら設定もしっかり奥行きを感じさせる仕上がりとなっている。映像も全シーン美しくキマりまくってる。松崎しげるみたいなミシェル・コロンビエのテーマが我が家的にツボった。

鑑賞日:2023/11/02 監督:フィリップ・ラブロ