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キングダム エクソダス / 脱出

Films: Oct.2023『キングダム エクソダス / 脱出』ほか

Nov,01 2023 12:00

ひたすら同じ曲のミックス、マスタリングをやり続けて何やら脳が飽和気味な10月。
キングダム エクソダス / 脱出』の配信開始に併せて月の序盤は『キングダム Ⅰ』、『キングダム ⅠⅠ』からの数日間キングダム漬けの毎日。終わった後の喪失感が半端なかった。そんな訳で月の顔は迷う事なくコレに決定。

月の序盤のキングダム以降は再鑑賞ものがずらっと並ぶ。
早く次の新作が見たいミランダ・ジュライの『さよなら、私のロンリー』、観る度に発見のあるデヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』、アフターキングダムでなんとなくチョイスの大学病院ものな『白い巨塔』、圧倒的な虫プロ『哀しみのベラドンナ』、更には待っていたパゾリーニの『テオレマ』と傑作揃い。
後半には黒澤明『まあだだよ』とミヒャエル・ハネケ『白いリボン』で結果として10月は結構なラインナップとなった。

初鑑賞ものは、我が家空前の出崎統ブームって事で『スペースアドベンチャー コブラ』から、マリオ・バーヴァのイタリアンシチュエーション・スリラー『ラビッド・ドッグス』、アレックス・プロヤスの初期作で攻めまくっている『スピリッツ・オブ・ジ・エア』、リチャード・ドナーの色んな意味で凝ってる『おませなツインキー』、『モア』の翌年出演のミムジー・ファーマーの『渚の果てにこの愛を』、極め付けに隙無し完璧過ぎなライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』と面白いのばっかりだった。

そんなかんなな10月。
いい加減、1曲目のミックス、マスタリング地獄から抜け出したい今日この頃。

ついでに2007年頃にキングダムについて書いたブログ
新・習劇 第12回 『Kingdom』
https://otom.jp/narageki_012_kingdom/

ついで公開時2011年頃に白いリボンについて書いたブログ
Das Weisse Band
http://otom.jp/blog/das-weisse-band/

観た映画: 2023年10月
映画本数: 17本

白いリボン

記録によると公開時含めて3回目。世界が壊れる時と話しつつ、既に人間も社会も壊れまくってるWW1前夜のお話。強要と形だけの純潔で清浄化する訳もなく、最後はゆっくりとドス黒く暗転ENDでやっぱり胃が痛くなるハネケの傑作。疑心暗鬼地獄で良心代表な語り部先生の未来の嫁の『池は...』って発言すら裏がある様に思えてくるわな。籠の鳥よろしく抑圧で心が病んでる人の多さ=社会の状態って事で救われないと云うか、『醜く汚く皺だらけで息が臭い』社会を温厚面で一刀両断するハネケ。大好き。

鑑賞日:2023/10/31 監督:ミヒャエル・ハネケ


渚の果てにこの愛を

何考えてるか良く分かんない表情のミムジー・ファーマー(脱ぎまくる)の配役がまずハマっている。『モア』の翌年の出演作って事で、ピンク・フロイド崩れみたいなサイケな劇伴と白っぽい太陽の感じとで雰囲気は結構共通してる。家出した兄の謎を藪の中的な感じでやるのとで、なかなか嫌いじゃない一本。全員が己の願望第一なおかげで破綻スレスレで映画が面白くなってる。そんなかんなで『ギルダ』感が薄れまくったリタ・ヘイワースがラストで雨降りの中を本名を叫ぶ演出がとても良かった。フランス語のメキシコ設定で飯描写が少ないのは残念だけども、サリナ・クルスが良さげな場所過ぎてヴァカンスしたい。

鑑賞日:2023/10/29 監督:ジョルジュ・ロートネル


まあだだよ

黒澤明遺作。25年くらい前に観た時は普通に良い映画程度ってほどだったけれども、年齢を経て改めてみると今はもう沁みてしょーがない。特にノラのとこで涙腺がブッ壊れる。金無垢先生こと内田百閒とその門下生の交流と優しい世界が描かれている訳だけども、現代日本からしてみると最早ファンタジーの領域。日教組ともモンペに屈する腑抜けた教師にも属さない、先生が先生たる所以の像がここにある。そもそも愛読書が方丈記で猫に泣ける人間ってだけで信用できる。役どころとしては、二代目おいちゃんこと松村達雄がハマりまくってるのと、香川京子の控えめ加減のバランスがとても良い。で、戦中スタートからラストの美しい薄暮まで一時も色彩感を失わない流石な世界のクロサワ。控えめに云っても傑作。と、憧れの庵生活。

鑑賞日:2023/10/27 監督:黒澤明


ペトラ・フォン・カントの苦い涙

寝室兼仕事場な一室(お洒落)だけで繰り広げられるいびつ過ぎな愛憎劇。主人公ペトラ曰く『人間は他人を必要とするけども、共生の仕方を知らない』とこれで話を的確に説明しつつ、特大ブーメランが刺さりまくる具合。男性の支配を拒絶しながら、相手の女性を支配できない苦しみで悶絶するのが軸でありつつ、オチを観た後だと物言わぬ助手マレーネ目線で全く異なる作品になる。声の代わりの如くなタイプライター打鍵音の印象も変わる二度美味しい仕上がり。いちいち構図が決まりまくりなのが見事なのは勿論な事、劇伴無しの作中においてプラターズほかの効果的使い方がシビれる。いやまぁしかし、色んな愛の形があるもんだ。傑作。

鑑賞日:2023/10/24 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


おませなツインキー

オッサンの妄想と願望と挫折も16歳の少女のソレと大差ないって具合。リヴァプールサウンドっぽいのをバックに、チャリで行くパブリック・スクール制服のミニスカJK達のOPやらトリッキーなカット割りなんかの演出でこれだけでもかなり好き。『少々無理してる』チャールズ・ブロンソンのやれやれ演技で何やらせても上手くて流石な感じなんだけども、肝心のツインキーが微妙に可愛くなくてあんまり羨ましくないってのが残念なところ。どっかで見たと思いきや、『わらの犬』のスーパー馬鹿嫁役なスーザン・ジョージでハマり役って事なんだろう。洋服に始まり家具や車のプロダクトデザインに至るまでやっぱ'60年代は強い。『オーメン』風のロケーション出てきたと思ったら、後の監督作だった。

鑑賞日:2023/10/22 監督:リチャード・ドナー


スピリッツ・オブ・ジ・エア

荒野に赤い錆だらけのあれこれにパキッとした空、それに加えて謎オブジェの数々との決まり過ぎな構図とでまぁ美しい。土地に釘付けにされるタイプの人間と、通過し超えてくタイプの人間との束の間のシンパシー。俺達スゲェもん作ったナ感で胸熱なのと同時に、足萎え&気狂い妹の何処へも行けずに空と神を見上げる日常のループが超哀しい。開拓者には世界の終わりはないけど、動かない者の安住の地獄でなんだか分からんけど凹むわー。妹ちゃんの'80sなゴスメイクもとても良い。傑作。

鑑賞日:2023/10/20 監督:アレックス・プロヤス


あしたのジョー

あしたのジョー

これはこれでって感じ。石橋正次と辰巳柳太郎の丹下サイドは音声だけならかなりイイ線行ってる。衣装なんかと併せて原作とリアルタイム進行形なアニメにきっちり寄せてる感じで好感が持てる。ものの、モブっぽい力石とクラス感の全くない葉子で白木ジムサイドはもう少し何とかならなかったのか。光の速さでストーリーが展開するのは仕方ないとして、色フィルターに漫画風演出と結構攻めてる所も多く、映画としてはなかなか頑張っている印象。そして同時代って事もあり劇伴もマッチしてるので安心感もある。石橋正次の主題歌もとても良い。

鑑賞日:2023/10/19 監督:長谷部安春


哀しみのベラドンナ

絵を描くのが上手い人がアニメーションを作ってるって云う当たり前の事が現代との違いな具合で、改めて観てもまぁ凄い。映倫的にアウトな部分をギリギリ攻めてアウトになってる風だけど、それが何か?ってな感じでやりたい事をやりたいだけやる制作陣の妙な気迫が伝わってくる。極限に迫ってるレベルな表現の宝庫。ピンクからどす黒く、時に紫にもなる毛むくじゃらの○んこさんこと仲代達也がやっぱり楽しそう。大傑作。

鑑賞日:2023/10/18 監督:山本暎一


テオレマ

15年くらい前にエルメスシアターで観て以来。そう云うものだ(定理)、もしくはそうあるべきだって事でブルジョワジーには破滅をプロレタリアには奇跡をな図式。モーツァルトのレクイエムと共に描かれるアイデンティティの崩壊に、その逃げ道すらも貧富の差がある具合でこれまた泣ける。からの持たざる者の強さ表現がまた圧倒的。悪魔みたいな眼で聖人っぷりを発揮するテレンス・スタンプは前半だけって構成に、あらゆるフィールド音使い、朝焼けやら夕焼けやら決まりまくりな風景と構図とで冴えまくってるパゾリーニで文句なしの傑作。モリコーネ+ブルーノ・ニコライ劇伴もオシャレでイイ。

鑑賞日:2023/10/17 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ


白い巨塔

今月は『キングダム』を一気に観たせいか、なんとなくチョイスの大学病院ものって事で20年振りくらい。悪い奴ほどなんとやら、額に悪って書いてありそうな目元の黒い田宮二郎でいつもの眩し過ぎな笑顔はなくとも良い演技。モラルを欠いた悪役的描かれ方をしつつも、人命を救う点についてはこの上なく有能って設定からして良く出来てる。何にしてもあらゆる根回しが下手過ぎなおかげで映画が面白くなっている模様。明治生まれ風でちょっとめんどくさい(絶対に空気を読まない)感じでイキリまくる加藤嘉に田村高廣と藤村志保がこの映画の良心ってな具合で、残りはことごとく悪と云うか弱い存在なのが日本社会の縮図の様。先述した根回しのヌケがなければもっと面白かったと思うものの、山本薩夫と橋本忍脚本で重厚さはこの上ない出来。で、小川真由美はなんの役をやらせても可愛いらしい。

鑑賞日:2023/10/16 監督:山本薩夫


ブルーベルベット

やたらとカメラ目線なバダラメンティ(ピアノ)+イザベラ・ロッセリーニのブルー・ベルベットのとこと、イン・ドリームスでく〜ッとなってるデニス・ホッパーが観たくて。なんだかんだで20年振りくらい。金髪と黒髪の使い分けにツイン・ピークスの面々に夜のハイウェイにと後の作品のあれやこれが既に出来上がってる感。圧倒的な悪がまずありきな筋で、スパンキングでグッとくるカイル・マクラクランの善の内にも秘めたるブラックロッジを覗かせる辺りも上手い。OPから始まってどのシーンも切れ味抜群の冴えまくってる時期なリンチって具合なんだけども、沸点低過ぎな上にツボが不明過ぎなデニス・ホッパーのキレ芸がやっぱり強い。後のボブにきっちり活かされているかと思われる。そしてThis Motal Coilがやりたくて作ったジュリー・クルーズの名曲『ミステリーズ・オブ・ラブ』でどっちも俺的青春で好き要素が多過ぎ。で、清々しいコマドリEND。『賢い血』のブラッド・ドゥーリフ出演は今回初めて気が付いた。

鑑賞日:2023/10/14 監督:デヴィッド・リンチ


ラビッド・ドッグス

ほぼ車内のシチュエーション・スリラーなベーシックなとこが良いのは勿論の事、ドジっ子と下劣が組み合わさった最低最悪な犯人達で面白さが増してる感じ。インチかセンチかタガの外れた32の暴挙はそこまで映画でやるかねって具合でなかなか強烈。コイツと後から乗ってきた喋り過ぎの女とで車内を乱す奴から監督によって粛正されてる模様。そんなかんなで途中は若干まったりするものの、オチで評価がググッと上がる。'80年代を先取りしてる風なチプリアーニ劇伴もオシャレで良い。

鑑賞日:2023/10/12 監督:マリオ・バーヴァ


スペースアドベンチャー コブラ

スペースアドベンチャー コブラ

劇場版より先にTV版を観始めちゃったので、コブラの声の黒い人が違和感があるもののすぐ慣れる。純国産アニメーションってな具合で、のっけのベラドンナみたいなタイトルバックから始まり作画と演出が鬼級。後の方のTV版もやたらクオリティ高いと思ったものの、余裕でそれ以上だった。細部の余計な説明は最小限の行間読め的な姿勢で、昨今の風潮と真逆だけどやっぱり劇作品はそうあるべきと思われる。それでも稚拙な表現なしにきっちり分かりやすく仕上げてるからまた素晴らしい。風吹ジュンの「好き...」に激萌え。と頼りになる(安心感がある)レディ(榊原良子)。

鑑賞日:2023/10/10 監督:出崎統


さよなら、私のロンリー

さよなら、私のロンリー

525ドルとミスター・ロンリー(歌入り)のとこが観たくて。モヤモヤを積み重ねて鮮やかに回収するミランダ・ジュライでホント上手い。暗がりから出る生まれ変わりの儀式から一人前になるまでの道のりを、成人が一晩でやるって筋は普通は思いつかんよな。早く次の作品が観たい。

鑑賞日:2023/10/09 監督:ミランダ・ジュライ


キングダム エクソダス / 脱出

キングダム エクソダス / 脱出

長い歳月を経てまさかの続編って事で、善も悪もあることを心得ながら再びキングダムの世界に戻る。思い返せば最初に観たのはVHSで四半世紀以上前で役者も自分も老ける訳だ。その後、主演2人の続投が不可能になり、2000年代始めくらいからはドグマ95の誓いの次元を超越してしまったラース・フォントリアー。この作品の続きはもう観る事はできないんだと脳が決め続けていたところに寝耳に水状態な3rdシーズンとなった訳だけども、あらゆる不可能要素を開き直りまくった帳尻をきっちりしっかり合わせるばかりか、更に上を行く感じで恐れ入る。画面が茶色じゃないと思わせてからの茶色突入演出や、皿洗い2人にポンコツロボ投入の斜め上な辛口アップデートから始まり、経過した時間や公開した事実をそのまんま作品に取り込んでいる辺りに監督レベルが違い過ぎなのを再確認。頭だけ出演のウド・キアーなんかも唖然とするレベル。阿片窟のレオーネ+モリコーネパロディみたいなのや、ソラリス状態のやつに、板に付いてる感じのトリスタンとイゾルデ使いなんかのとこも素晴らしい。ドリフか『陽炎座』、もしくは惑星メランコリア級な締めで綺麗さっぱりケリを付けると同時に、とんでもない後味の悪さ(人魚姫とヘルマーの遺灰のとこも含む)をセットにしてくる辺りも流石でもう言う事ないって感じ。で、監督不在のエンドロールで完結感がこの上なく超寂しい。

鑑賞日:2023/10/07 監督:ラース・フォン・トリアー


キングダム ⅠⅠ

キングダム ⅠⅠ

エクソダスを観るべく最初からの続き。キングダムから発生する乱気流よろしく荒れるだけ荒れる2ndシーズン。キャラの背後ではキャラが必ず動いてるって云う、既に完成された『ドッグヴィル』方式で、物語を進行の滑らかさの精度はきっちり維持されている。で、ヘルマーの排泄物診断とか短小っぷりなんかの1stよりくだらなさが増してると思いきや、巨体で奇怪極まるウド・キアーで本気で泣かせにくるラース・フォン・トリアー。アンチクライストどころじゃない良い奴っぷりを端々に出してくるのが困る。そんなこんなな2ndシーズンで、20数年前の初見の時は続きを熱望したもんだけども、「もうすぐ、かつてない悲惨な惨劇が起きる」の訪れるのが分かりきった破滅をわざわざ描かないスタイルにシビれていたってのもある。そんなTigerことRigetの傷ついたと云うかほぼ死に体なレベルの破滅的なラストから、まさかの続編3rdに到達でワクワクが止まらん。

鑑賞日:2023/10/04 監督:ラース・フォン・トリアー


キングダム Ⅰ

キングダム Ⅰ

エクソダスを観るべく最初から。この情報密度でありつつ、展開が流れる様で全く無駄がないラース・フォン・トリアーの全盛期っぷり。登場人物の後ろの見えない所にも話があるって云う後の『ドッグヴィル』みたいな事を既に自然かつ滑らかにやってて改めて恐れ入る。産まれるウド・キアーが毎度笑撃。

鑑賞日:2023/10/02 監督:ラース・フォン・トリアー