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夕陽のガンマン

Films: Sep.2023『夕陽のガンマン』ほか

Oct,01 2023 11:00

人間極度に悲しい事があってもご飯は食べるし映画も観るって事で、なんだかんだであれこれ観てる9月。
新作を心待ちにしていたリューベン・オストルンド監督の『逆転のトライアングル』、ケイト・ブランシェット in ベルリン・フィルな『TAR/ター』、月末にはエストニアのライナル・サルネ監督作品『ノベンバー』と新しめでクオリティが高いやつが揃って結構刺激になる。
初鑑賞ものではダニエル・シュミット監督『ヘカテ』にヴァレリオ・ズルリーニ監督『鞄を持った女』、日本映画では成瀬巳喜男『』に倉本聰脚本の『うちのホンカン』で自分の中でちょっとしたブームな八千草薫目当ての市川崑『プーサン』とその辺りが印象的だった。
再鑑賞ものではチェコのヤロミール・イレシュ監督『闇のバイブル 聖少女の詩』、今敏監督『パプリカ』に、フェリーニ『甘い生活』とそれに併せてなマイケル・ラドフォード監督『トレヴィの泉で二度目の恋を』で改めて出来の良さを感じる。
そんな訳で、9月の顔は通常なら『逆転のトライアングル』や『ノベンバー』などあたりに行きそうなものの、その日を記憶に止めるべく敢えてチョイスした『夕陽のガンマン』と『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』とする。

振り返ってみるとやたらとイタリア映画が多い月だった。
なかなか捗らないアルバム制作の最中に新曲が始動してしまい、何やら頭の中がゴチャゴチャしている今日この頃。

観た映画: 2023年9月
映画本数: 17本


ノベンバー

悪魔に魂を売るってはそう云う事だよねってやつ。シンプルな筋に肉付けされる欲望丸出しの生者と死者達のあれやこれって事で、抽象的風に見せかけて設定から映像美に至るまで徹底されてる具合で、終わりまできっちり分かりやすく丁寧に作られている。スパイスとしての、全クラットのポンコツっぷりがまた上手い。エストニアと言えばなアルヴォ・ペルト的な静謐さを感じさせる音源の出来でこちらも大好物。

鑑賞日:2023/09/29 監督:ライナル・サルネ


トレヴィの泉で二度目の恋を

『甘い生活』を久々に観たので、こっちもついでに。シャーリー・マクレーンの細かい仕草なんかも含めて全てが上手くてキュート。陽に当てられて行くクリストファー・プラマーもとても良い。泉の噴水ならぬ水道のトラブルからの2人で、中盤以降は何やら前に観た時より胸がキューっとなりっぱなし。最高潮の新旧トレヴィの泉のシーンはジジババが輝いて見える。やっぱ良いなマイケル•ラドフォード。傑作。

鑑賞日:2023/09/26 監督:マイケル・ラドフォード


甘い生活

久々。人生を謳歌してる風でいてソフトに死んでる空虚感。川を挟んだ先の天使ちゃんとの徹底的な隔たりにいるって云う現実。下から上まで本当の美しさをそっちのけで生きる事の罪深さったらない。お空でジーザスが見ているゾと。接吻寸前で噴水が止まるトレヴィの泉のシーンは他、秀逸な演出の連続な具合。傑作。

鑑賞日:2023/09/24 監督:フェデリコ・フェリーニ


闇のバイブル 聖少女の詩

久々。お耽美全開で大好物。無垢な少女の性の目覚めは夢にまで侵食するキョーレツなやつって事で、兎にも角にも映像美が気合い入り過ぎ。サイケなテーマ曲と劇伴も最高。

鑑賞日:2023/09/21 監督:ヤロミール・イレシュ


クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男

とにかく出てくる連中がことごとく似てない。で、ユエン・ブレムナーってのもあるかと思うけれども、2020年代に『トレインスポッティング』的なやつをまたやる感じで映画的にはいまいち。とは言え、アラン・マッギーとクリエイションが俺的青春の9割方締めてるので、とりあえずは観たって具合。ことあるごとにU2(アイリッシュ)に対抗意識を燃やしまくるスコティッシュの図。まぁ今にして思うと濃密な時代だったなと。

鑑賞日:2023/09/20 監督:ニック・モラン


ショーガール

初期ポール・ヴァーホーヴェン的な直接的汚物感はないものの、序盤の謎嘔吐から始まり『人生はゲロ、クソ運』とハリウッド的に可能な限りは出してる模様。'95年のラジー賞総ナメと云いつつ、ショービズ界の下剋上な内容がなんだか大映ドラマみたいでなかなか面白い。ホワイトとブラックロッジの両方の表情を見せるみたいなカイル・マクラクランも存在感がある。ちょいちょい流れるラブシンボル期なプリンスも映画に合ってる。玄米、野菜よりバーガーよ。

鑑賞日:2023/09/18 監督:ポール・ヴァーホーヴェン



すったもんだがあって戻る日常ループがより重くなってる、ままならなくなってるのが林芙美子らしい印象。ひたすら何かをつまみ食いし、歯をほじくり、適当な家事をこなす超ガサツな高峰三枝子が実に良い。それに対しての煮え切らない上原謙で、夫婦が互いに問題有りのコミュニケーション不足で映画的にはどんどん面白くなる。浮気相手の丹阿弥谷津子の元へ行き思いの丈をぶちまける妻な訳だけれど、自立型女性をやり込める依存型女性の図で妻としては最低な感じがするけどなんだか凄い。ラストではたきを一生懸命にかけるシーンで、そこやってもどうにもならん的な虚しさの演出が秀逸。脇で良い感じにサポートする三國連太郎に新珠三千代(なんか顔が違う)も大変良かった。

鑑賞日:2023/09/17 監督:成瀬巳喜男


鞄を持った女

キラキラした瞳でガン見するジャック・ぺランのチェリーボーイっぷりが良い。に対して絶妙なスレ加減のクラウディア・カルディナーレで、善とチョイ悪な心が混じり合った大人風子供ってな具合。仔犬の様な真っ直ぐな瞳に度々良心をチクチクされながらも、結局最後の『お手紙』も分かっていながら受け取るのが貧しさ故って感じでリアル。豪邸内のあちこちに飾ってある恐ろしげな絵画に劇中のサウンドチョイスとなかなかな1本。で、先日観た『殺人捜査』のジャン・マリア・ヴォロンテのデビュー作なんだそうな。

鑑賞日:2023/09/16 監督:ヴァレリオ・ズルリーニ


パプリカ

15年振りくらい。スパイス過多な不思議の国のパプリカちゃんって事で、『妄想代理人』からこの頃の今敏+マッドハウス+平沢進に筒井康隆原作で言う事ないくらいに完成度が高い。公開前にお膝元で試写会映写できたのは良い思い出。

鑑賞日:2023/09/14 監督:今敏


プーサン

プーサン

スーパー天使時代の八千草薫が見たくて。ナース役って事でこの世のものとは思えないレベル。特需景気時代の世相を反映したあれやこれって事で、これでもかと色々盛り込まれてる。キャベツを頭に乗っけるくらいに正気を保つのが難しい混沌とした時代ってのは分かるけど、戦争や権力アレルギー的なのやつの表現が露骨過ぎで若干好みではない。徹底的弱者設定の伊藤雄之助はどこのシーンも一貫してお見事。最後はトラックを回避して良かった良かった。萎びい丼物が食べたくなる。

鑑賞日:2023/09/13 監督:市川崑


TAR/ター

実話なくらいに見えるケイト・ブランシェットの演技力とイケメンっぷり。ベルリン・フィルで職権濫用ほかのやらかしをしたらしっぺ返しも世界最高峰レベルが待っていたでござるな具合。映画的にはいささかフェミニズムとゴシップよりな上にちょいと抑揚が弱い感じもしなくはない。そこのとこだけ一生懸命稽古して撮影した風なマーラーの交響曲5番ほかのとこは、なかなか様になっててカッコよかった。ヴィスコンティのとは違う感じとか、マーロン・ブランドの映画のやつのワニとかのネタも面白い。フルトヴェングラーvsカラヤンの定番問答に、ドゥダメルの写真が出てきた時に「今その話をする必要ある?」って下りのベルリン・フィルあるあるもまた楽しい。なんだかんだで師匠設定のバーンスタインの偉大なお言葉が一番泣ける。

鑑賞日:2023/09/11 監督:トッド・フィールド


続・夕陽のガンマン/地獄の決斗

続・夕陽のガンマン/地獄の決斗

久々。レベルアップの仕方が半端ない具合の続編。どう考えてもイーライ・ウォラック(トゥーコ)が一番オイシイ役どころだわな。凸凹コンビに対してのリー・ヴァン・クリーフとの絡みが少々弱い気もするけれども、ラストの演出で有無も言えなくなる感じ。善玉(大悪党)なクリント・イーストウッドはゲスな部分と戦士への慈しみのバランスがホント上手い。三つ巴のモリコーネ劇伴が映画史に残る傑作なのは勿論の事、南北戦争シーンのテーマもまた美しい。大傑作。

鑑賞日:2023/09/10 監督:セルジオ・レオーネ


夕陽のガンマン

夕陽のガンマン

久々。言うまでもなく圧倒的な出来の良さ。リー・ヴァン・クリーフとクラウス・キンスキーのマッチの下りと帽子で射程距離の測りっこするシーンが堪らん。クライマックスのオルゴール懐中時計がヌッと出てくるとこもホント上手い。モリコーネ劇伴の細かい割り当てなんかも秀逸過ぎてため息が出る。

鑑賞日:2023/09/08 監督:セルジオ・レオーネ


ヘカテ

北アフリカな迷宮具合に、時間の外にいるみたい女の組み合わせって事で、見事にMPを吸い取られまくってあらぬ方向へ迷走する主人公がロケーションとマッチしてる。で、異国にて迷いまくる図としては、後の『シェルタリング・スカイ』とも通ずるものがある。脳内の産物みたいなファム・ファタールに苦しむ様が泣けてくる。青い感じな夜にモロッコと西洋音楽の畳み掛けがとても良かった。

鑑賞日:2023/09/07 監督:ダニエル・シュミット


殺人行おくのほそ道

殺人行おくのほそ道

ひたすら八千草薫を愛でる事で耐えた。

鑑賞日:2023/09/06 監督:池広一夫


逆転のトライアングル

ビミョーな気まずいあれやこれを付いてくるのが毎度上手いシニシズム全開なリューベン・オストルンド。H&Mネタから始まり、飯代云々のジャブみたいなとこから最後は明確な殺意まで、人間の保身なんかから成る浅ましさが網羅されてる具合。それに反してヒエラルキーの形態が前後半で逆転して行くと云う見事な構成。で、人間社会の内容がひっくり変える中間地点のゲ○大会で幕を開けるカオスっぷりがまぁ凄まじい。ヌテラを無理要求する 『プッシャー』のオッサンことズラッコ・ブリッチと最適な登場タイミングのウディ・ハレルソンが、揺れに揺れてる混沌の中間地点で酒盛りしてる図の安定感がまた素晴らしい。で、最後は『めぞん一刻』の番外編みたいになる。傑作。

鑑賞日:2023/09/04 監督:リューベン・オストルンド


知りすぎた少女

解決してるのに色々モヤモヤする。10年前の〜って事で虚言風に追い込むのは良いけれども、ちょっいとヌルい感じもしなくはない。ナレーションなんかも要らん感じ。推理ものってよりは、推理したい素人のドジっ子っぷりを眺める方向だとなかなか楽しく観られる。ローマのあれやこれにモンドなテーマと良いところは結構ある。どっかからマリワナ煙草降って来ないかしら。

鑑賞日:2023/09/02 監督:マリオ・バーヴァ