Films: Mar.2024『いのちぼうにふろう』ほか
Apr,03 2024 10:45
AirPodsの不調に始まり、挙句はOS各バージョンのクリーンインストールの繰り返しまで何やら散々だった3月。
昼夜逆転、自律神経乱れまくりで治すのに苦労している今日この頃。年齢的に流石にキツくなってきている。
そんな中の映画鑑賞で、小津安二郎『宗方姉妹』に始まり3月も良質なのが多い印象。
ロバート・ハーメル『カインド・ハート』、キャロル・リード『落ちた偶像』でイギリス物が多いと思いきや、パトリス・ルコント『夢見るシングルズ』、ジャン・ルノワール『マッチ売りの少女』に再鑑賞でルネ・クレール『リラの門』のフレンチ気分+ルイス・ブニュエル『自由の幻想』、そこからのフェリーニ、アントニオーニ他のオムニバス『街の恋』のイタリア感。
終盤付近ではポール・ヴァーホーヴェン『ベネデッタ』のオランダ的イタリア感に極め付けの『モリコーネ 映画が恋した音楽家』で泣く。
前々から観たかったクリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャのアニメーション作品『オオカミの家』も素晴らしかった。
そして2月から続いていた江戸幕末気分も合間にちょいちょいとで、再鑑賞の岡本喜八『赤毛』に今村昌平『ええじゃないか』と相変わらずの傑作。
そんな中で、ピリピリと緊張感の度合いが別枠な小林正樹2作品がやっぱり一番良かったとは思うのだけれども、『上意討ち 拝領妻始末』と『いのちぼうにふろう』で迷うも、魂のアツさを求めて3月は『いのちぼうにふろう』で決定。
だいぶリズムも修正されてきたので、4月はもう少し意識がハッキリした状態で映画を観られると良い。
にしても、ミックス、マスタリング地獄な日々。なんでこんなに時間取られてるんだろと真剣に悩む今日この頃。
観た映画: 2024年3月
映画本数: 17本
モリコーネ 映画が恋した音楽家
マイアイドル、モリコーネの存在自体で星100コでも足りないくらい。レオーネ作品ほか、数多の名作の音楽の素晴らしさは今更言うまでもない。無音から始まりあらゆる環境音やノイズをも操る上に、必ず特徴的なメロディやリズムが軸にあるって云う完璧の度合いを超えてる曲が多過ぎ。そんなかんなでモリコーネが劇伴をやれば必ず強烈な印象を残す訳だけども、個人的に特にお気に入りの『ある夕食のテーブル』<未>ほかの映画は観てないけど先にあの曲もあの曲も音楽は知ってるって曲の数が異常なのも、モリコーネの作品が映画音楽の範疇を超えてる良い証拠だろうと思われる。と云うか、これらの歴史的アーカイブレベルのもので未公開が多過ぎ(特に60年代のイタリアもの)なので、誰か日本でも観られる様にして頂きたい。しかし、歴史にifはないにせよ、『時計じかけのモリコーネ』は考えるだけでワクワクする。
鑑賞日:2024/03/30 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
ベネデッタ
聖女と狂言師の側面を併せ持つ鑑賞者的イメージも、ヤバめな神がかりのとこも含めて世俗的な考えからは超越してる一個体な模様。欺く事すらも神の御業って事で、ぼかされた神秘の真偽を演出的に上手い事操りつつ、あくまで描くのはブレない圧倒的な信仰心の力強さと、対極のリアリストって云う組み合わせの無理かつ難しい人間描写をきっちり映画にするヴァーホーヴェン。で、何がなんでも出してくるお得意の汚物系に『苦悩の梨』、エロに聖像玩具に露骨に痛いのにとやりたい放題で凄いわー。最後に天国入りを約束されたか、ジト〜っとした目のシャーロット・ランプリングは最初から最後まで良い演技。『嘘ばかりだな』vs嘘も方便が激しく闘う傑作。
鑑賞日:2024/03/29 監督:ポール・ヴァーホーヴェン
オオカミの家
悪例を比較対象としたマインドコントロールのお手本みたいな筋に、無制限にペリペリと形態変化する異常さ、劣化テープの不気味な音楽に極めつけなコロニア・ディグニダのキモいロゴとでコミューン系の気持ち悪さを最大限に表現してみた的な狂いっぷり。アニメーションの面ではシュヴァンクマイエル的でもある手法にして、細かさと立体感はやるとこまでやってる風で、作ってる人間のエンドレスな労力を考えても気が狂いそう。
鑑賞日:2024/03/27 監督:クリストーバル・レオン, ホアキン・コシーニャ
いのちぼうにふろう
何やら美味しそうな深川安楽亭ってのからして良い。病魔が蔓延るかりそめの天下泰平にあって、尊いものの為に命を投げだす陶酔感に儚さとの善悪の対比がグッとくる。効果絶大な武満劇伴とでパツンパツンに張り詰めて行く弦の如き緊張の前半から、人間たる事の発露の後半で実にドラマチックな仕上がり。何やらトンがってる仲代達也と怪しげな仲間で、バイ設定の佐藤慶に病弱系の多い岸田森に貫禄の中村翫右衛門、それらを執拗に責め立てる神山繁ほかで役者配置が絶妙。劇中殆ど酔っ払っていながらも、圧倒的存在感を醸し出す勝新も勿論最高。男社会に埋もれながら、いざって時にはケツ叩く栗原小巻と子スズメの下りも良い。深川設定の相模川のアトラクションっぽいオープンセットも見事。傑作。
鑑賞日:2024/03/26 監督:小林正樹
街の恋
アントニオーニ、フェリーニほかからなるオムニバス。甘い感じのタイトルとは裏腹に結構過酷な現実の詰め合わせなネオレアリズモってな具合。敗戦国のあれこれもあっての状況だとは思うけれども、溢れる立ちんぼに子供、目で追い求め行動する動物的本能で男も女もガツガツしてる辺りは現代日本よりはよっぽど未来がある。娯楽の多さとインフラの塩梅でやる事が限られるってのも以外と大事なのかもしれないと思わせる一本。ローマの元からある美しさと痛んだ部分の二面性と街の人間たちのポジとネガって感じで上手い事切り取られている。
鑑賞日:2024/03/24 監督:フェデリコ・フェリーニ, ミケランジェロ・アントニオーニほか
自由の幻想
この世の固定観念の向こう側から色々と投げつけてくるルイス・ブニュエルって具合。こちらの不条理はあちらの条理って事で、自由の名の元に生きている(生かされている)キリスト教圏あるあるな考え方と皮肉が根底に伺える。かりそめの自由に踊らされず、頭を柔らかくして生きていかにゃといかんな。色々と屹立したエロくない建造物写真に欲情するモニカ・ヴィッティに萌える。
鑑賞日:2024/03/23 監督:ルイス・ブニュエル
マッチ売りの少女
主演の監督嫁がマッチ売りのおばさまってくらいな感じで、どうせ立ちんぼするなら春を売った方が暖かくなれる模様。なのはともかくとして、人力、あらゆるトリッキーな技巧を凝らしたアイデアの宝庫みたない幻想パートは流石なジャン・ルノワール。工夫してあーでもないこーでもないと作ってて楽しそうなのが伝わってくる。時代考証を無視した後付けの音楽はセンスなさ過ぎなのが残念。
鑑賞日:2024/03/20 監督:ジャン・ルノワール
落ちた偶像
無垢の要素と旧約の蛇みたいな要素を合わせ持つ子供で、引っ掻き回すだけ回して面白い。本人は至っては真面目にやってるつもりの末に、狼少年認定され大人が子供に目線を合わせなくなるってとこまで実に良く出来てる。真実の世界から一歩遠くなり大人に近付いく少年END。
鑑賞日:2024/03/18 監督:キャロル・リード
赤毛
赤毛のアンならぬ赤毛の三船って事で15年振りくらい。高橋悦史曰く『葵が菊に変わるだけのこと』の一言に完璧に集約された幕末のあれやこれに赤報隊偽官軍事件をベースとしながら、三日天下とは言えども真の百姓天下と世直しのあるべき姿を描く熱さ。民衆の子羊級なフラフラ具合のリアリティから、ええじゃないかの爆発まで実に素晴らしい。で、岡本組ほか、岩下志麻に望月優子、包丁振り回す乙羽信子、岸田森ほか遊撃一番隊の面々と役者もみんな上手い。岡本喜八的リズムとユーモアと悲愴さのバランスの良い傑作。
鑑賞日:2024/03/17 監督:岡本喜八
夢見るシングルズ
建物と色彩でアルモドバルがフランスで撮ってるみたいな80年代パトリス・ルコント作品なんだけど、よくよく考えると後の作品と共通するもんが色々とある。どっからどう見てもキモメンなミシェル・ブランが、自ら脚本にも参加との事で役者業と共に才能をビンビンに感じる出来。最良を追い求め続けるって云う日本にはないポジティブさで、ラスト含めてある意味とても清々しい映画。生卵+塩+牛乳やウニの殻ほかの謎飯描写も非常に良かった。
鑑賞日:2024/03/15 監督:パトリス・ルコント
カインド・ハート
絞首刑直前から始まり、回想を経て戻ってくる。8人のオビ=ワンことアレック・ギネスが葬られる描写の軽くてブラックなのに対して、終わりまでの筋の組み立てが実に綺麗。で、アイロニーと所謂ウィットに富んだって云う洗練さの混じったいかにも英国な応酬でこれまた面白い。完璧な犯罪映画で気持ち的には満点なんだけど、最後のドジっ子に併せてマイナス付けとく。
鑑賞日:2024/03/14 監督:ロバート・ハーメル
ええじゃないか
倒幕を目論んでる勢力の扇動っぽい感じで乗せられてる下民達でありつつも、抑えの効かなくなった半狂乱なラストのエネルギーたるや結構なものでござる。「踊ってるだけですから」って云う反抗のスタイル(放尿も含む)の秘めたる怒りの不気味な感じは良く描かれている。気合いの江戸セットにエキストラ云々なんかは昨今のちゃちい映画とは比べもんにならないものの、他の今平作品と比べると微妙によくないじゃないかと云う感じもしなくはないけど、フラストレーションの燻りから蔓延していく演出は流石。桃井&泉谷コンビも勿論の事、山さんこと露口茂の微妙な立ち位置の演技もとても良かった。
鑑賞日:2024/03/12 監督:今村昌平
新・夕陽のガンマン 復讐の旅
スカした台詞を吐いた後に何度もやられる主人公2人。安定のリー・ヴァン・クリーフは良いとして、イーストウッド風ないでたちのジョン・フィリップ・ローはちょいと弱い気もしなくはない。映画的に上手いとこも沢山あるし、微妙なシンパシーで通じ合うなかなかアツイ話ではあるものの、セルジオ・レオーネ級を期待するとやはり物足りない感は否めない。良くも悪くも普通のマカロニと云った具合。と、やっつけモードのモリコーネ劇伴。椅子ごと落下するやつに頭万力、炎天下生き埋め+塩のシュンとしたそれぞれの顔つきと、「お前は何者だ」→「怒りを抑えられない者だ」→「一体何が言いたいんだ」のとこがジワる。
鑑賞日:2024/03/10 監督:ジュリオ・ペトローニ
リラの門
久々。思いやりが通じる相手と恩を仇で返す相手とでピリっとしとる人間模様。お洒落なカメラワークにジョルジュ・ブラッサンスの哀愁劇伴でやっぱり素晴らしい。
鑑賞日:2024/03/08 監督:ルネ・クレール
上意討ち 拝領妻始末
現代とはレベルの異なる理不尽に次ぐ理不尽に、恐れ多き事ながらと押して駄目なら引いて引いて引く三船敏郎。グツグツと沸騰して行く反駁のソレと、この世の理不尽に対するマジピュアな動機とで火傷しそうなくらいにアツイ。窮地にしてオレ今生きているな!って云う下りの感情ごた混ぜの、太鼓から静寂ってシーンがまた実に良い。拝領妻司葉子と加藤剛の真っ直ぐな情と、おいちゃん殿松村達雄以下の神山繁やら非情の者達の対比もとても上手くできてる。で、刃→フォーカスのOPから繋がる仲代達也との決闘からのラストの緊迫感。そして生乳晒す市原悦子。『切腹』に比べるとやや間伸びしてる印象も否めないけれども、武満劇伴も効いてるし普通に満点映画。
鑑賞日:2024/03/06 監督:小林正樹
あなたに降る夢
劇伴担当かと思いきや天使担当のアイザック・ヘイズで先ず掴まれる。ユダヤ系ゾーンにて拝金主義とその反対をやるって事で面白い。で、どの映画で何やってもイケメンに見えてくるニコラス・ケイジなんだけど、今作では善人+αでより際立ってる感じ。善行の対象として※全盛期ブリジット・フォンダに限るって感じは否めないけど。全体としてフランク・キャプラのなんかの映画みたいな具合にスッキリさっぱり綺麗に片付いてとても良い。出てきた瞬間に金を掠め取って行きそうなシーモア・カッセルの存在感も流石過ぎて笑える。
鑑賞日:2024/03/04 監督:アンドリュー・バーグマン
宗方姉妹
戦後の外国かぶれの新時代において、新しいとはなんぞやと。戦前の青春に引きずられる人間模様な訳だけども、奔放と我慢と新旧を象徴とした強力姉妹を軸に適応力の有無の男2人と配置が絶妙。全盛期とまではいかずとも、内に秘めたる黒々しいのや、アングルから何まで出来上がってる小津作品って具合。頑固一徹な田中絹代に上原謙に山村聰+おまけ枠みたいな笠智衆、そんな中で1人だけエンジン全開って感じのデコちゃん(ペロッ)が小津作品としては浮きまくってるけど何はともあれ良いって云う役者力。大森の家の子猫たちは山村聰が悪いやつじゃないのを分かってる。
鑑賞日:2024/03/02 監督:小津安二郎