Films: Dec.2023『裁かるゝジャンヌ』ほか
Jan,06 2024 12:00
12月も例年の如く忙しさの極みで、映画どころじゃないながらもちょいちょいと。
観てなかったやつをまとめって事で、『アンナの出会い』、『街をぶっ飛ばせ』、『一晩中』、『家からの手紙』、『ゴールデン・エイティーズ』、『アメリカン・ストーリーズ 食事・家族・哲学』のシャンタル・アケルマン祭りを開催。どれ観てもしみじみ良い。
年末のくたびれモードもあってか、再鑑賞もの多数で、フィリップ・ド・ブロカ『まぼろしの市街戦』、ニコラス・ローグ『美しき冒険旅行』、ジャン=ピエール・ジュネ『デリカテッセン』、ジェームズ・アイヴォリー『モーリス』に2023年締めにアラン・コルノー『セリ・ノワール』と傑作揃い。
顔には問答無用って感じでカール・テオドア・ドライヤー監督作品『裁かるゝジャンヌ』で決まり。
2024年はもうちょっと映画を観よう。
観た映画: 2023年12月
映画本数: 18本
セリ・ノワール
2023年の締めは好きなやつ。ひとり芝居のOPから始まり、最後までキレ具合が増し続けるパトリック・ドヴェールのドジっ子&どん詰まり感で圧巻。月夜に『俺たちに怖いものはない』と世界の怖さはあんまり変わってないけど、今はここにとりあえず愛があるラスト(この後どうなるか分からない)の刹那感がまたグッと来る。トランティニャン娘はやっぱりエロ可愛い。
鑑賞日:2023/12/31 監督:アラン・コルノー
裁かるゝジャンヌ
新しいドライヤーが届いた日に観たのは単なる偶然偶然。尋問に怯えつつも神への忠誠は絶対に曲げないって云う、勇猛果敢なイメージとは異なるも強固な意志を持つ(ちょっぴり人間的な)ジャンヌ像。涙に濡れ大きく見開かれた目と顔で描写される細かな心理の数々に対して、異端審問官のシワだらけや脂ぎった邪悪極まる顔、顔、顔や、十字に拷問器具等々とクローズアップとアングルの妙を中心とした対象物の明確さ的確さが際立つ。甘言の飛び交う人間的な裁きの室内の前半から、青天井の下の火刑の受難の下りと混沌への静から動で、燻る火種からあらゆるものを舐めつくす炎へと変化する燃焼のエネルギーみたいなのを映画を通してもやってる感じ。大傑作。
鑑賞日:2023/12/29 監督:カール・テオドア・ドライヤー
モーリス
25年振りくらい。草の上で戯れる絶頂に流れる『悲愴』が悲愴。英国上流階級のあれやこれを描かせたら敵なしな感じのジェームズ・アイヴォリーで安心して観ていられる。理解される事の難しい時代にあって袂を分つ対極的な2人の道筋がなかなか丁寧に描かれており、青春時代の延長線上に留まる友人の面影を見つめるラストのヒュー・グラントの色々混じった複雑な表情が切ない。奥さん役にブライヅヘッド('81)の妹ちゃんが出てる。
鑑賞日:2023/12/28 監督:ジェームズ・アイヴォリー
11人のカウボーイ
ほのぼのボーイスカウト体験記と思いきや、予想を遥かに超えたハードっぷり。ドッシリと構えて決して誇りを失わないジョン・ウェインから次世代へ大事なモンの継承をきっちりしっかり描く。頼りないカウボーイズから最後は厳しい眼差しを取得したカウメンズへと成長する旅路でかなり熱い。途中退場できるジョン・ウェインの器のデカさと相まって非常に良い脚本。と、旅先での女房役のロスコー・リー・ブラウンの作る飯がどれも美味そう。'70年代初頭にしてジョン・ウィリアムズ節が完成された劇伴も良かった。
鑑賞日:2023/12/26 監督:マーク・ライデル
デリカテッセン
四半世紀ぶりくらい。長編デビューにしてほぼ完成形のジュネ+キャロで、90年代の青春の匂いが蘇る様。映像は勿論の事、音符からノイズまでの音使いが細かいとこまで徹底されていて飽きるシーンがないから見事。肉食の暴走っぷりと菜食主義のせめぎ合いってな具合で、現在ではその立ち位置も大分イーブンになってる気もしなくはない。テリー・ギリアムなんかと比較されがちなディストピア感だけども、後の作品含めてサウンド含めた映像センスと細かさは唯一無二って感じ。で、建物の雰囲気が逆にシネマライズっぽい。
鑑賞日:2023/12/23 監督:ジャン=ピエール・ジュネ, マルク・キャロ
武蔵野夫人
戦後の時点で既に失われまくってる武蔵野の風景に道徳観念。今じゃ家だらけでモラルも底な具合な我が国。オトすの無理な感じな貞操の塊みたいな田中絹代が死を持って前に進めと手向けの言葉を送るも、誇りまで失っちゃイカンわな。姦通野郎と化した森雅之はじめとして登場人物それぞれの一方通行な意志のおかげで極限までドロドロになってて面白い。そんな中でひたすら清さを保つ田中絹代のキッとした演技が素晴らしい。
鑑賞日:2023/12/21 監督:溝口健二
チェンジリング
激しいタイプのポルターガイストな具合で駄々っ子の如き全自動ハウスっぷり。妻娘を亡くした主人公が上手い事使われてるも、大体怨念自身で解決出来るんじゃないかとも思われる勢い。OPに随所のカットバックに後の映画にパクられそうな要素多数で結構ドキドキする良く出来た作品。住んでみれば最悪の騒音物件を、隅々まで内見しないで決める感じのおかげで映画が盛り上がってる。
鑑賞日:2023/12/19 監督:ピーター・メダック
花咲く港
木下恵介デビュー作って事で、戦時下の半ば無理矢理な国策映画っぷりが激しいものの、実に良く出来たコメディ作品。小沢栄太郎といつでもイケメンな上原謙のペテン師2人組に常に神風が吹きまくってるのもイケイケな時勢な具合で良い。プロパガンダありきはともかくとしても、登場人物の誰も傷付かない上に詐欺師達の心をも変えて行く筋の綺麗さ加減が既に熟練の域な木下恵介。ラストの負けっぷりなんかは国の未来を暗に予測してるみたいで悲しい。
鑑賞日:2023/12/17 監督:木下恵介
アメリカン・ストーリーズ 食事・家族・哲学
アメリカへ再びって事で、『家からの手紙』のラストから逆転する様なオープニングからして良い。故郷なきポーランド系ユダヤ移民のアメリカでの結構壮絶な生活体験のあれやこれでありつつ、ウディ・アレンばりの自虐っぽさもある。迷うモーゼ(?)に全員道案内出来ない異国での混迷っぷり。ユダヤの女性を口説くにゃ「食事・家族・哲学」の話をすれば良いらしい。傑作。
鑑賞日:2023/12/16 監督:シャンタル・アケルマン
ゴールデン・エイティーズ
トリュフォー+ジャク・ドゥミが始まりそうなカラフルな足OPからして最高。景気は悪くとも馬鹿みたいに突き抜けて明るい黄金の80年代って事で、どこか仄暗い70年代のシャンタル・アケルマン作品とは敢えて別物にして来てる風の目にくる色彩感。WW2の暗い記憶の末に辿り着いた先の80年代の明るさがまずありきで、理解不能レベルな辛い事があっても人生はまた必ず良くなるって云う『私のように美しい娘』の害虫駆除のオッサンことシャルル・デネルの結びでグッと来る。この辺りの基本構造のレイヤー具合がホント上手い。で、現代にしてみるとシャポー的地下閉鎖空間から地上のラスト、作られた色彩→自然光みたいな流れもちょっと唸る。キャラそれぞれの曲と劇伴もサントラ欲しい級に大変良い。
鑑賞日:2023/12/14 監督:シャンタル・アケルマン
家からの手紙
写し出されるNYって云う刺激の塊と、必要とあらば雑音でかき消すも止む無しなちょっと煩わしい母ちゃんの便りの内容と故郷のニュースで、画面には決して映らない娘アケルマンの滞在の記録と気持ちが浮かび上がる立体感。固定から始まり、センター決めた構図にパンに奥行きに方向にと徐々に変化し、しまいには撮ってる方が動き出す、展開と云うかタイミングとモーションのさじ加減が結構絶妙。夏でなんか色々と臭ってきそうな近い距離の最早苦行に近い雑多なあれやこれから、遠ざかりどんどんと色が褪せて行く街の図のラストはちょっと息をのむほど。
鑑賞日:2023/12/12 監督:シャンタル・アケルマン
一晩中
眠る事のない夜から夜明けの(ヴァカンスに行かない人々の?)活動のあれやこれ。暑さや涼しさや匂いまでが伝わってくる様。きっちり起承転結のある個々の短いシーケンスの連続でありつつ、それぞれのキャラのストーリーもまたちゃんと筋があるって云うなかなか凄い作り。人体は勿論の事、場面転換にあらゆる小道具に至るまで静から動のほんのちょっとしたモーションなんだけど、それらがいちいち劇的な効果を生んでいてこれまた素晴らしい。で、キュンとなる瞬間の詰め合わせって具合。夜明けのまとめ部分まで全てが良い。
鑑賞日:2023/12/11 監督:シャンタル・アケルマン
街をぶっ飛ばせ
創造と破壊、生存活動と死への活動、静寂の中の陽気さでより寒々しくなる。'70年代を前にして既にアナーキーさ全開なシャンタル・アケルマン18歳(カワよ)で色んなもんが凝縮されとる。ニャンコを事前に避難させてる辺りもポイント高い。
鑑賞日:2023/12/11 監督:シャンタル・アケルマン
アンナの出会い
シンメトリー尽くしながらも、アンナの心理に合わせてポジションが変わって行くのが秀逸過ぎる。ジャンヌ・ディエルマンでもあったけどホント上手い。世間様のこうあるべきだを押し付けてけてくる様々なキャラとの噛み合う事のない温度差を保ちつつ、行けども行けども孤独に彷徨うアンナで少々気持ちが分かる。家に辿り着いても人生の行き先不明で、映画ながら結構気が滅入る。ナチ的話からのすし詰め車内の図とヴェポラップハンドでケツに向かうとこにゾッとした。傑作。
鑑賞日:2023/12/10 監督:シャンタル・アケルマン
美しき冒険旅行
久々。岩肌→壁→街→壁→砂漠ののっけから数多のカットバックとでキレまくってるニコラス・ローグ。原住民の放浪と文明社会の迷子の組み合わせって事で両サイドからの通過儀礼な具合。アボリジニの青年の歩み寄りに対しての文明社会側の姉に中間を行く弟な図式。常にラジオから発せられるか細い文明のシグナルで繋ぎ止められ、見てる方向が決定的に異なるってのがやるせない。満を持しての旧愛もドン引かれ、交わりそうで交わらなかった異文化交流でションボリするのも無理はない。描かれる失われゆく美しきあれやこれで、'70年代から現在で更に失われまくってる世界で悲しくなってくる。傑作。
鑑賞日:2023/12/09 監督:ニコラス・ローグ
まぼろしの市街戦
久々。完璧なる平和の描写だわな。整列からの射撃でバタバタと倒れてく狂った様が狂人達の健全さをより際立たせる。ハートのキングを戴き、それに追従する国が素晴らしいんだよって具合。全編に渡って美しいシーンがてんこ盛りなんだけど、コクリコちゃんの綱渡りのとこがときめく。
鑑賞日:2023/12/06 監督:フィリップ・ド・ブロカ
暗黒街の美女
清順名義の最初のやつって事で、初期作品ながらそれっぽさが満載。ハートのやつ居たっけって感じなんだけど、スペードやクローバー等がダイヤを巡るって構成からして洒落てる。〜と見せかけての人を喰ったカメラワークとか、体の中へ入ってはほじくり出されるダイヤの成り行きとか後の片鱗を伺う事ができる。4階建+地下室の静から動の緩急もなかなか。美女設定に納得行かないのと、あんまり悪玉が似合ってない芦田伸介と存在感のない二谷英明は置いといても面白い。
鑑賞日:2023/12/04 監督:鈴木清順
セブン・デイズ・イン・ハバナ
寒いので陽気なやつを求めて。インフラほか国的には結構酷い感じなんだけども、幸福度はソコじゃないと云った具合。全編上手い事まとまりつつ、リンクが良い塩梅。クストリッツァ出す反則技(良い意味で、水辺のトランペットの下りがホント美しい)は置いといて、監督ごとにそれぞれ味があってとても良い。そんな中でも突出してゴリゴリにギャスパー・ノエしてる辺りは流石。エリア・スレイマンのシンメトリー尽くしもたまらん。
鑑賞日:2023/12/02 監督:ベニチオ・デル・トロほか
category: 映画レビュー
tags: 2023年映画レビュー, アラン・コルノー, カール・テオドア・ドライヤー, シャンタル・アケルマン, ニコラス・ローグ, フィリップ・ド・ブロカ, 木下恵介, 溝口健二, 鈴木清順