Films: Apr.2024『ファースト・カウ』ほか
May,01 2024 11:30
新曲『Starbright』を2024年4月23日に先行リリース、更には次のアルバム1曲目のマスタリングを終えてようやく一息の4月。
先月の『モリコーネ 映画が恋した音楽家』の流れでローランド・ジョフィ『ミッション』より。その他どれ観ても面白いクロード・ソーテの『友情』、アキ・カウリスマキ『罪と罰』、ジャン・ルノワール『ラ・マルセイエーズ』、小津安二郎『長屋紳士録』と質の高い作品が多かった。
再鑑賞ものとしては『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』に『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』と疲れているのか寅さん多め。そしてトリュフォー再びで『大人は判ってくれない』ほか。その昔に初期作のライブラリをごっそり潰してしまって以来でようやく。
新作ものは、相変わらずキレキレに攻めてるギャスパー・ノエ『VORTEX』にケリー・ライカート『ショーイング・アップ』、『ファースト・カウ』の2本。悩んだ末に4月の顔は『ファースト・カウ』に決定。
まだまだやる事いっぱいで何から手をつけたら良いのやらって感じの今日この頃。
5月はもう少し映画を観たい。
観た映画: 2024年4月
映画本数: 19本
上海ルージュ
前半の上海と島の後半、全てを知る親分と何も知らない少年、その間の女心で黒社会(トライアド)と絡めたなかなか良い作品。のっけから頻繁に映し出される主人公の目のクローズアップとその変化で、驚きの眼差しから怒り、更には厳しい世界の洗礼を受けた何とも言えない目線と7日間で結構揉まれた感。個人的にはどうしてもコン・リーが美女とは思えないんだけど、高飛車な歌姫と少年との間の妙なシンパシーは繊細かつ丁寧に描かれてる。2人の接点みたいな象徴だったコインを大海に落とし、右も左もどころか、上下も分からなくなってしまった田舎出身の少年であった。血縁に流される血、鮮やかさを通り越したリップと夕焼けとでまさに紅の作品。
鑑賞日:2024/04/30 監督:チャン・イーモウ
二十歳の恋
潰してしまった我が家の初期トリュフォーライブラリ、久々にしてドワネル其のニ。OPテーマのコレコレ感。で、やっぱり足から入るトリュフォー。チラ見するレオーからで、17歳にして奥手なんだか積極的なんだか良く分からんって云う若さゆえの云々で、こっちの胸が苦しくなるわ。そんなかんなで、大人風な描写の数々と未だ残る少年部分なドワネル肖像画を配置するあたりの上手さ。
鑑賞日:2024/04/28 監督:フランソワ・トリュフォー
あこがれ
少年期の欲望のめざめの描写の細やかさとバツの悪さの加減の妙。圧倒的なベルナデット・ラフォンのサドルの匂いを嗅ぎたい気持ちも分からんではない...って云う男子のアホな部分の的確な表現。初っ端から足フェチ全開で完璧。
鑑賞日:2024/04/28 監督:フランソワ・トリュフォー
長屋紳士録
ブル入った土佐犬面で、コチコチの握り飯みたいな面した餓鬼に『めっ!』って放つ飯田蝶子だけで満点上げる。展開が急なのはともかく、アンを引き取るマリラ・カスバートばりに人情に絆されるからの、小沢栄太郎登場後のラストの一幕がもう泣ける。今とは異なり孤児が野良猫レベルだわ自己中だらけの戦後模様だわで、独りよがりは駄目だと軽いお説教ラストなんだけど、後の方は現代になってもあんまり変化が無いようで虚しい。構図はもとより茅ヶ崎の海やら写真暗転やら完成度が高い小津戦後第1作で安心して観ていられる作品。笠智衆ののぞきからくりの口上のとこも良かった。と、『たれ逃げ』って言葉のインパクト。
鑑賞日:2024/04/27 監督:小津安二郎
VORTEX
配役も含め変わる事なくキレキレに攻めてくるギャスパー・ノエ。どうかすると人との繋がりを錯覚する世界で、徹底的に分断された人間って云う個体の現実を見せつけられる。あの世(もしくは病)には物も過去も更には愛すらも持って行けず、最後は只々灰になる事を思うと、持たざる者の強さを再認識する。『夢は短く、夢の中の夢はさらに短い』と人生とは一本の映画、夢の様な儚さですなって事で、なんと云うか苦しくなってくる。で、ダメ押しみたいな具合に生者と死者もキッチリ分けてくる丁寧さ、ソラリスの海みたいな都合の良いもんは画面の中だけでこの世は受難の渦なキビシイ描写にダリオ・アルジェントじゃないけど発作を起こしそう。そんな儚い人生なのに悪い奴らがウヨウヨいるフレンチの現状を憂う辺り、我が国の未来も対岸の火事じゃない模様。と、モリコーネバックに薬の吸引と処分の絶望的CLIMAX。傑作。
鑑賞日:2024/04/26 監督:ギャスパー・ノエ
男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け
20年振りくらい。金銭感覚がバグる寅次郎。マドンナと云々ってよりはな筋書きでシリーズ中でもかなり綺麗な話に仕上がってる。ルンペン仕様の宇野重吉を拾ってくるとこから始まり、人助けの連鎖の流れが絶妙。合間の岡田嘉子(ウチの婆様と同じ名前)との播州にて老人同士で人生の後悔について語り合うって一幕がラストに繋がっていて、これまた絶妙で話が綺麗になってる所以。太地喜和子の辛さ隠して、表面は軽め、更には金では人の優しさは売らないとイイ女過ぎて、この辺りもかなりくるものがある。で、常にちゃぶ台に鎮座する提供のブルドッグソースは良いとして、揚げもんパーティ→上野駅ラーメンがまた泣ける。傑作。
鑑賞日:2024/04/24 監督:山田洋次
ファースト・カウ
夕飯が焼肉だったので、ケリー・ライカート新作を敢えて今日観る。開拓ものって事で、荒野にて水辺を求める『ミークス・カットオフ』の風景とは異なり、スタンダードサイズでオレゴンの川を含めた色んなシーンをパンしまくる。一言で云うと、全てが新しく歴史が始まる場所、もしくは時代の見渡す限り何もないって云う豊穣さに尽きる(※そう見える人にはと煽ってる感もある)。他人に手を差し伸べ、ソローの様な小屋で生活し、決して友を裏切らないって云うのをアフターの現代から問う素晴らしい作り。『オールド・ジョイ』の都会には木が多くて、田舎にはゴミが多い的な発想〜の考え方に通ずる。そして過去作同様に色々登場するアニマル達との本当の意味での関わり方や提案の熱い心も静謐な映像から伝わってくる。傑作。
鑑賞日:2024/04/23 監督:ケリー・ライカート
大人は判ってくれない
トリュフォー初期作詰め合わせライブラリを駄目にして以来で久々。大人とは違うとこを結構良く知っていて、それでいて大人の世界の全ては知らない微妙な年頃描写が実に素晴らしい。良い子を目指してせっせと作ったバルザック祭壇は無情にも燃え、どんどん悪い方を流されるドワネル少年。遠心力で自由を奪われながらも弾ける様な笑顔と、自由を手に入れ海を走るレオーの険しい顔付きとの対比が強烈。最早失われてる感じのパリ描写に、細かいとこまで描かれる多種多様の子供の生態系のテーマ、あらゆる映画ネタ、カメオ出演とひっくるめて傑作。
鑑賞日:2024/04/22 監督:フランソワ・トリュフォー
男はつらいよ 柴又より愛をこめて
ロケット打ち上げから始まり、ジェームズ・ボンド級のネットワークを駆使してあけみを探し出す寅次郎。プリっと尻出す美保純がいちいち可愛い過ぎて、23.5の瞳からの栗原小巻のシーケンスが霞む。'85年公開作品でとらやの面々に英語ガイドのインターナショナルな御前様にと流石に老化が進んでいるものの、呼吸はぴったり合ってる印象。モーニングショー出演のタコ社長の入れ歯が飛び出さないかが一番ハラハラする。で、満を持しての登場なウォッカをがぶ飲みする川谷拓三で、短い出番で強烈な印象を残してくから凄い。
鑑賞日:2024/04/21 監督:山田洋次
高原列車が走った
美保純の牽引力だけで最後まで行った感じである意味凄い。軽井沢の四季をやりつつ、国鉄時代のあれやこれなんだけども、やや散漫な気もしなくはない。とはいえ、ちょいちょい冴えてる台詞も出て来て、中でも『空気を運んでるんじゃない、青春を運んでるんだ』のとことかミニバンで空気運んでる現代から見るとなかなか考えさせられる。微妙に届いてない『都会のアリス』っぽいラストの列車のとこは結構好き。
鑑賞日:2024/04/19 監督:佐伯孚治
タイムズ・スクエア
ロキシー・ミュージックほか劇中で使われてる楽曲群は申し分ないんだけど、映画の内容は淀んだ中年には青臭過ぎていささかキツい。ものの、ゴミ袋達が集まる午前0時のタイムズ・スクエアのルーフトップはなかなか。際どいカッコで『ワイルド・サイドを歩け』を踊る、クソ可愛いパミーちゃん(後の若草物語メグ)だけでも観る価値はある。
鑑賞日:2024/04/17 監督:アラン・モイル
炎の人ゴッホ
超が付くほど面倒くさい奴との伝説を持つゴッホをきっちりウザい感じに仕上げるカーク・ダグラス(ケツアゴは見えない)が圧巻。アンソニー・クインのゴーギャンも付き合いきれんわって云う、ヤバめな構ってちゃん具合で皆がサーっと引く中で献身さを見せるテオとポストマンにグッとくる。後の黒澤明同様に画題の再現度のクオリティの高さと、アルルの光だーからの嵐攻め、メンタル崩壊=線がグニャグニャの晩年のとこもなかなか。耳切りのとことかの直接描写をしないのも良いけど、ラストのアレは山田五郎ので言ってた他殺説(傷害事件)の方がしっくりくる。逆にイギー・ポップな原題がカッコイイ。
鑑賞日:2024/04/15 監督:ヴィンセント・ミネリ
ラ・マルセイエーズ
金持ちが始めて貧乏人が完成させるって事で、ラストの盛り上がりがなかなか。会話多めの戦闘描写少なめで無血気味でほのぼの進んで行く訳だけど、撃たれるボミエのとこで混乱と有事の最中なのにハッとする。で、ラ・マルセイエーズをあの曲なに?から始まり伝染し、やがては国歌になるのはちょっと胸熱。ものの、要所に流石なとこはあるんだけども、ドラマチックなベルばら脳に侵され過ぎてるのか良く分からないけども、ジャン・ルノワール作品にしては退屈なとこも多い。
鑑賞日:2024/04/13 監督:ジャン・ルノワール
この子の七つのお祝に
ふっとスイッチが入って芦田伸介の顔をグサグサやる岸田今日子の怪演は見事。それとは対象的に本性顕したヤバめな岩下志麻が面白いんだけど酷い。人生を賭けた壮絶な勘違いで、戦争に操り人形なんかを盛り込んだ筋自体はなかなか。大映から松竹でなんか具合が違う増村保造って感じなんだけど、次から次へ出てくる豪華キャストでそのあたりも結構楽しめる。出てきた瞬間から明るい顔してフラグ立てまくる杉浦直樹は特に良い演技してた。やたら洒落てる大野雄二も良い。あと、フォントと予告が怖すぎ。
鑑賞日:2024/04/10 監督:増村保造
ショーイング・アップ
『ウェンディ&ルーシー』然り、鳥描写が上手過ぎなケリー・ライカート。飼い猫に傷を負わされた鳩を汚物の様に捨てるとこから始まり、次第にちょっとした情が湧き、恐る恐る指先で撫で、最後は自らの個展をほっぽり出して飛び立つ鳩を追うって云う意識の変化を監督らしい繊細さで描く。その繊細さとは裏腹に笑える程に分かりやすいストレスの数々が全方向からミシェル・ウィリアムズに向けて降ってくるのも実に効果的。些事にこだわらずに上を見上げるのが大事ENDでとても良いもん観たって気分になる。と、イーサン・ローズ(超久々!)の本質的に変わらないミニマルな劇伴もマッチしてて、こちらも良かった。
鑑賞日:2024/04/09 監督:ケリー・ライカート
美わしき歳月
戦争と格差とで生まれてしまった色んな溝に悩む若者たち。いつしか変わってしまった関係性にテコ入れするかの如くな墓場のシーンが結構ドラマチックなんだけど、戦死した友人も含まれた仲間の変化と、その変化に対するフラストレーションの爆発ってとこが実に上手い。そこからのデカダンやら斜に構えた態度は捨てて素直になれば未来は明るいゾ若者よと、とても良い締めとなっている。小さなお花屋さんにいても上流の気品溢れ出てしまう久我美子が眩しい。
鑑賞日:2024/04/07 監督:小林正樹
罪と罰
ナポレオン主義とかどこ行ったって具合で、脚色が大胆と云うか若干話が変わってる気もしなくはないけども、原作を削ぎ落として尺に収めた上で要所は抑えてる。もはやドスト氏ってよりカウリスマキ印に仕上げてるあたり、26歳デビュー作にして音使いも含めて既に出来上がってる印象。良心に苛まれて額に汗かきながら妙な行動に走るラスコーリニコフ描写とかの再現度も流石。マッティ・ペロンパー若いな〜。
鑑賞日:2024/04/05 監督:アキ・カウリスマキ
友情
ピコリ『俺たち二十歳じゃないんだよ』と。季節は巡り、土砂降り冴えない事だらけの中年たちに感じる人生模様。順風満帆でなくても、とりあえずは食って飲んでの変わらぬ日常とささやかな希望を持って生きていくって事で、並んで歩くラストの図が異常に沁みる。三者+ドパルデューでそれぞれ良い演技なんだけど、仔犬の様な目をしたイヴ・モンタンが同じ中年から見ても可愛いく見える。クロード・ソーテの哀愁演出にフィリップ・サルド劇伴の組み合わせがホント好き。
鑑賞日:2024/04/03 監督:クロード・ソーテ
ミッション
布教が植民地政策の先遣隊みたいになってる実態って事で、そこからの現地軍隊に対抗するイエズス会反乱といかにヨーロッパ諸国と教会がしょーもないかと大航海時代の暗部みたいなものが良く描かれている。中間管理職状態で悩ましい役がハマってる麗しい頃のジェレミー・アイアンズに、奴隷商人→神父→修羅の道な全盛期デ・ニーロでこの2人はまず圧倒的。なものの、展開早い割にダレる中盤と迫力のない水上の戦闘シーンなんかで全体的にはちょいと物足りない内容ではある。主役2人に、ドジャーっとした雄大なイグアスの滝とオーボエソロから始まりコーラスで畳み掛けるモリコーネ劇伴に助けられてる感は否めない。ラストの生ける屍の人間達と、神の意志に守られて...いなかった(絶命)からの継承される死者の不滅の魂の図はとても良かった。
鑑賞日:2024/04/01 監督:ローランド・ジョフィ