Films: Jan.2024『アパートの鍵貸します』ほか
Feb,01 2024 11:30
休む間もなく元旦からザワザワしている2024年。
自作の作業も難航気味で困った感じの今日この頃ではあるものの、新年気持ちを新たに映画だけはそこそこ観ている具合。
新年一発目は毎年好きなやつって事で、ビリー・ワイルダー『アパートの鍵貸します』にゴダール『女と男のいる舗道』、岡本喜八『結婚のすべて』、アベル・フェラーラ+ハーヴェイ・カイテル『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』と鉄板なラインナップで結構良い流れで始まる。
多彩さとどの作品もクオリティの高いピエール・エテックスに魅了された月でもあり、『ヨーヨー』からスタートして『女はコワイです / 恋する男』、『破局』、『幸福な結婚記念日』、『絶好調』の短編をコンプリートして『健康でさえあれば』、『大恋愛』と長編もあるものは全て満喫。天才的。
そして先月から続きのラース・フォン・トリアー祭りで久々の『エレメント・オブ・クライム』に『エピデミック〜伝染病』と初期作2本で只者じゃない感を既に醸し出している。
再鑑賞ものとしてはリチャード・C・サラフィアンの『荒野に生きる』にペドロ・アルモドバル『アタメ』、ノア・バームバック『彼女と僕のいた場所』と手堅い感じ。
初鑑賞ものは石黒健治の芸術的な切り取りが光る『無力の王』、川島雄三の不倫ものって事で『飢える魂』の前後編、所謂グランド・ホテル形式の元ネタでエドマンド・グールディング『グランド・ホテル』、渋谷実『酔っぱらい天国』に1月最後は小林正樹『切腹』と得体の知れない凄みを持つ日本映画も印象深い。
そんな具合で2024年最初の顔は『アパートの鍵貸します』に決定。
最近は美しい八千草薫の『岸辺のアルバム』を観始めてしまったので時間のやりくりが大変なものの、2月も色々と観たい。
観た映画: 2024年1月
映画本数: 25本
切腹
武士にしてみると生きにくい泰平の世の中。武士に二言はないの揚げ足取り合戦を始めとする武士道なるものの、上部か否かのあり様を異常な緊迫感の中一つずつ紐解いて行く。腐った上級に物申す図式なんだけども、「いや、待たれい」と終始ペースを握る仲代達也が超不気味。その他三國連太郎を始めとする顔面強いオールスターズってな具合で役者を始めとして、脚本に撮影、介錯なしの竹光HARAKIRIに、張り詰めるが如くな武満劇伴とで隙が見当たらない。お歯黒岩下志麻もなかなか。大傑作。
鑑賞日:2024/01/31 監督:小林正樹
エピデミック〜伝染病
フロッピーが消えるって云うしょーもないとこから始まってダラダラしてる風なんだけど、きっちりした起承転結の上にかなり攻めてる若かりしラース・フォン・トリアー。湧き出る脚本のアイデアに、挿入される色んな種類のWAG TANNとでジワリジワリと恐怖を積み上げる。からの最後の晩餐〜戦慄のラストで超怖い。話の持って行き方や視点の位置にユーモア等々、後年の作品群見られるあれこれが既に固まってる印象。ヘリのシーンにホルバインのキリストのやつみたい象徴的な画面作りも実に上手い。キングダムのタヒチの奴に病院の雰囲気なんかも、この後活かす気満々でこれまた楽しい。録画中みたいな左上の赤字のやつは劇中劇のとこだけでも良かった気はしなくもないけど、真意のほどは分からん。
鑑賞日:2024/01/29 監督:ラース・フォン・トリアー
現金に手を出すな
やれやれだぜって雰囲気を醸し出しながら仲間のケツをふきまくる、どこまでも渋メンなジャン・ギャバン。最後に残ったのは哀愁のみって事でなんとも言えぬあの表情に、ピチピチなジャンヌ・モローほかに結構本気な連続張り手など演技が実に素晴らしい。テーマのグリスビーのブルースもとても良い。取引シーンなんかの緊迫感のあるジャック・ベッケル演出堪らんわ。
鑑賞日:2024/01/27 監督:ジャック・ベッケル
破戒
部落問題どころかあらゆる差別があり、臭いものには蓋をしてしまう国民性なのは今も変わってない気がする。それどころか弱者の声が大きくなって何やらおかしくなってると云った方が正しいか。日本のみならずカースト他で世界各地に存在する根深い問題で重いテーマではある。部落出身を隠せと云う戒を破り、社会運動に身を投じて行く筋で、継承の話としてはなかなかに見応えはある。ものの、ちょっと説教臭いのと、池部良のオーバーな演技は若干鼻につく。公開処刑の場に赴く長回しやお琴の扱いなんかの演出の上手さは流石な木下恵介。島村藤村のモデルと思われる宇野重吉がイイ奴過ぎて泣ける。
鑑賞日:2024/01/23 監督:木下恵介
苦い涙
性別や職業設定なんかの変更はあるものの、筋と構成はほぼそのまんま。オリジナルで若さと奔放さを発揮するファスビンダー作品常連のハンナ・シグラを母親役に迎え、ついでに若作りして妙な事になってるアジャーニ様出演とで意気込みは伝わってくる。ものの、オリジナルでは限定される舞台空間の拡張や、いらん台詞やシーンがちょいちょいあって色々と損なわれている印象。ジャック・ブラックみたいな主人公の爆発のとこもちょっと過剰で醒める。ラストのマレーネちゃん改めカールのとこも、荷造りしてぷいっと出てくのがキツいのであって、唾棄までするってのは逆に安っぽい上にカールの求めているものが上手く表現されてない感じがする。緊迫感を維持しながらキチンと苦さを演出するオリジナルとは別物と言わざるを得ない。
鑑賞日:2024/01/23 監督:フランソワ・オゾン
エレメント・オブ・クライム
四半世紀ぶりくらい。タルコフスキー的びしょ濡れ感に影響受けまくり且つ、攻めてる映像は初期衝動で尖りまくってる風。そんなネオナチ(カメオで登場)みたいな若きラース・フォン・トリアーではあるけれど、改めて観ると後のキングダム他の画作りやスローの見せ方なんかは既に固まっている。追体験の入れ子的ストーリーに80年代っぽいヨーロッパのディストピア感とで全体的に必要以上に凝りまくってて好きよ。
鑑賞日:2024/01/21 監督:ラース・フォン・トリアー
大恋愛
妄想の完全なる具現化の連続に次ぐ連続ってな具合。OPの歌入れの絶妙なタイミングから始まり、バキバキのシンメトリー構図に色彩を含む映像自体の美しさなんかは当たり前って感じで展開する。で、あらゆるifを表現するのは色んな映画であれども、疾走するベッドに共有財産分割までやる監督はなかなかいないんじゃないか。男女に限らず街の誰もかれもが何かに気を取られているって云う全体の様子に、そこから発生するあれこれの切り取りの細やかさも驚嘆の域。そんな中でパッとした表情と共にもの凄い勢いで鍵閉める老秘書が忘れらんない。傑作。
鑑賞日:2024/01/20 監督:ピエール・エテックス
グランド・ホテル
美しく青きドナウでドイツ圏っぽい雰囲気は出てる。グランド・ホテル形式の元って事で密室群像劇として完成度が流石に高い。ちょっとしたきっかけで人間同士の物語が展開され、お金がなきゃ駄目なんだけど、お金があっても駄目って云う辺りの大人な話をしっかりやる。弱者の強みとその反対のキャラ設定が秀逸で実に良いバランス。悪さをするけどジェントルマンであれって云うジョン・バリモアの粋な感じが特にイイ。で、回転ドアの如く入れ替わって次の話へでスマートな締め。見事な躁鬱演技のグレタ・ガルボの鬱予感がツラい。
鑑賞日:2024/01/18 監督:エドマンド・グールディング
続・飢える魂
泥沼度は増してるものの、いささか助長な気もしなくはない続編。なんだけど、シーンの繋ぎやら各所の構図に障子ほかの照明の上手さを含めて全体的になかなか緊張感はある。男優位な前編から女の主体性が明確になって行く流れながら、結果全員モヤモヤエンドって事で、人生はままならない具合な締めで結構なリアリティ。悪魔的なおっしゃり方と云う轟夕起子のパワーフレーズ良い。
鑑賞日: 監督:川島雄三
飢える魂
南田洋子×三橋達也と轟夕紀子×大坂志郎のそれぞれの不倫劇で、若年のストレートなそれと中年のしたたかなやり取り(時にそれぞれ逆になったりする)とで展開する。微妙な接点のとこから始まり、関連ない風に進みながらあちこちで編集等で映画的接点を持たせる川島雄三。で、ギリギリのとこで安い演出に落ちないのも流石。偶然偶然を重ねた末に混浴風呂に乗り込む三橋達也の行動力がヤバい。西日本を巡る旅映画としても楽しく、続きが気になる気になる気になる。母ちゃんのそー云うの見たくないヨと坊やなアキラ(デビュー)の初々しさ具合と、平屋の金子信雄おじさん宅が素敵。
鑑賞日:2024/01/15 監督:川島雄三
絶好調
行楽地の都会化=収容所って事でチクリとやる登山仕様のピエール・エテックス。頭に花で絶好調ってな具合で、『大脱走』のオマージュみたいなラスト最高。
鑑賞日:2024/01/14 監督:ピエール・エテックス
健康でさえあれば
OPのピント合わせ→コマずれ修正の映写演出からひたすら細かい。4つのどれも出来が良い上に抜群に面白いんだけど、カモの二度見のとこがヤバい。画面上下反転→逆さ読みのとこほか映像表現でできるものをひたすらやってる具合。最高。
鑑賞日:2024/01/14 監督:ピエール・エテックス
幸福な結婚記念日
小綺麗にまとめたお皿演出のOPからギリギリ駐車のフランスあるある等々で、寄せて停めるから発生し増幅するズレと細かいとこまでホント良く出来てる。走る車から飛び出るひまわりが可愛い過ぎ。
鑑賞日:2024/01/14 監督:ピエール・エテックス
破局
今日はなんかツイてないなってレベルじゃない。上手く行かない細かなあれやこれから落ち!まで流れる様に展開して一切無駄がない。デビューのエテックス+カリエールで密度の濃さが既に職人の域。
鑑賞日:2024/01/14 監督:ピエール・エテックス
彼女と僕のいた場所
途中まで観たの忘れてて既視感を抱きながらだったけど、改めてなんか色々ほとばしってて最高の映画じゃないか。デビュー作にして冴えまくった脚本と演出で完成系なノア(Cow Fucker)バームバック。満を持してのエリオット・グールドパパの性生活の下りなんかの塩梅もとても良い。段階を経て成長する時代において、親の離婚問題なんかを間近に見ながらも老夫婦の様にキスしようゼ(終劇)って云う若さ故のすっ飛ばし具合がキューっとなる。
鑑賞日:2024/01/13 監督:ノア・バームバック
酔っぱらい天国
キチガイ水でほんわかご機嫌な話と思いきや、時間の経過と共にどんどん話が重くなって行く。酒の席での過ちに寛容な天国の如き国家での地獄の様相って具合で、責任能力なしの無罪の話とも通づるものがある。そんな社会の中で楽しく酔うのから狂気まで酒に飲まれた男のあれこれを演ずる笠智衆が見事。若かりし倍賞千恵子は有馬ネコちゃんの可愛いさには勝てん模様。
鑑賞日:2024/01/11 監督:渋谷実
女はコワイです / 恋する男
天体から推し活に目覚める子供部屋おじさんで情熱が空回りしてて最高。パリらしいパリを舞台にやっぱりユロ氏チックでありながらも、こっちの方は結構アクティブで別の良さがある。擬似サイレント含む絶妙な音使いと、ありとあらゆる小ネタの宝庫な具合でとても楽しい。共同脚本ジャン=クロード・カリエールで更に抜かりない印象。星を追い求めた末のラストの宇宙の振り子運動みたいな演出がまた上手過ぎ。
鑑賞日:2024/01/10 監督:ピエール・エテックス
荒野に生きる
久々でやっぱり圧倒的。神と気が合わない男が見る瀕死からの奇跡と恩恵の数々。のっけの熊攻撃の凄惨なやつからの光る水の描写とか鳥肌もの。白ウサギとのほっこりタイムを挟み、血生臭い復讐や無謀な道を通らずに家路への着地に心が震える。色んな意味で生命力に溢れた映画。傑作。
鑑賞日:2024/01/09 監督:リチャード・C・サラフィアン
アタメ
このヤバい内容から清々しいラストに持ってくアルモドバルの凄さ。色彩感覚とインテリアデザインとモリコーネ劇伴のおかげで犯罪具合が中和されて加減が絶妙。と、チョイ役でも主張の激しいロッシ・デ・パルマ。
鑑賞日:2024/01/08 監督:ペドロ・アルモドバル
ヨーヨー
オープニングから最後までガッチリ掴まれっぱなし。隅から隅まで完璧に設計された映像でサイレントからTV時代を駆け抜ける。師匠ユロ氏チックなのはご愛嬌で、8 1/2にザンパノとジェルソミーナのフェリーニネタ、独裁者ネタ、グルーチョが混じったマルクスコラボ等々映画愛に溢れててたまらん。星10コ級の大傑作。
鑑賞日:2024/01/07 監督:ピエール・エテックス
無力の王
1980年代初頭のYOKOHAMAでナウい。投げやりと繊細の間を行ったり来たりな若者達のグダグダな実態と酩酊具合とは裏腹に、バッチリ決まった構図でゆっくりと展開する長回しが素晴らしく流石写真家って感じ。後のスチュワーデス物語で正統派エロスを振りまく以前に普通に脱ぎまくってる高樹澪で、原田美枝子の領域には届かないもののなかなかアンニュイで良い。台詞が「山羊座?」だけで存在感ありまくりな内田裕也。"All Tomorrow's Parties"ってな具合で楽しそうだな。これは良い青春映画。
鑑賞日:2024/01/05 監督:石黒健治
バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト
画面のあっちこっにジーザスのあれやこれが映されながらも、ハーヴェイ・カイテルには徹底的に神が不在の図。悪行の極みからの『カラマーゾフの兄弟』の大審問官の問答の如き一幕、そこからの赦しによる魂の救済でスッキリ良く出来てる。意味不明レベルな変態取締りほか、LTの動きの全てが最高。アベル・フェラーラ監督自らのテーマも良い。
鑑賞日:2024/01/04 監督:アベル・フェラーラ
結婚のすべて
正月3本目も華やかなやつ。監督デビュー作にしてテンポも何も出来上がってる岡本喜八。「アタシの心の呼び鈴は...」の男全員を殺しにくる新珠三千代に、ヒエラルキーの頂点に君臨するみたいな上原謙を軸として東宝役者盛り沢山の結婚のあれやこれって事でホント良く出来てる。と、チョイ役ながら高速ビンタで強烈に主張する佐藤允。傑作。
鑑賞日:2024/01/03 監督:岡本喜八
女と男のいる舗道
『裁かるゝジャンヌ』のとこが観たくて久々に。冒頭のモンテーニュの引用『他人に自分を貸すこと。ただし自分を与えるのは自分にだけ限ること』から役者が娼婦かって事で堕ちるアンナ・カリーナ(可愛い)で、身を売る方法、もしくは己の人生を売る方法を間違えると大変だなと。ゴダールの愛に満ちた眼差しの如くな撮影は勿論の事、後頭部含めた感情が動くとこと無心のとこの匙加減がまた素晴らしい。11章の話す事についての哲学の下りがまた熱い。傑作。
鑑賞日:2024/01/02 監督:ジャン=リュック・ゴダール
アパートの鍵貸します
2024年1本目は新年っぽいので好きなやつ。エレガ界の女王レベルなシャーリー・マクレーンを愛でるだけで幸せな気分になる。軽快なテンポと流れる様な展開でジャック・レモンを容赦なくどん底まで落とす(人間にはなる)ビリー・ワイルダー。小道具使いから自作を含めた台詞、極寒の極みからフワッと暖かくなるラストの一幕に至るまで全てが粋。大傑作。
鑑賞日:2024/01/01 監督:ビリー・ワイルダー
category: 映画レビュー
tags: 2024年映画レビュー, アベル・フェラーラ, ジャン=リュック・ゴダール, ビリー・ワイルダー, ピエール・エテックス, ペドロ・アルモドバル, ラース・フォン・トリアー, リチャード・C・サラフィアン, 小林正樹, 岡本喜八, 川島雄三, 木下恵介