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ロンサム・ダブ

Films: Feb.2024『ロンサム・ダブ』ほか

Mar,01 2024 10:30

続きものが多くて本数が少ないものの、鑑賞時間は長めだった2月。
どれ観ても面白いマイク・ニコルズ『愛の狩人』から始まり、テレンス・デイヴィス『遠い声、静かな暮し』とちょいちょい良い発見があった。
何故か開始してしまった中島貞夫の『やくざ戦争 日本の首領』シリーズで中盤はこればっかだった気もする。最近の江戸的気分のおかげで観た深作欣二『赤穂城断絶』と日本映画は東映色強め。
再鑑賞ものはラストのトニーノ・ヴァレリ『ミスター・ノーボディ』、シドニー・ルメット『狼たちの午後』の鉄板ものに加えて、ノア・バームバック『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』と傑作揃い。
そして未鑑賞のラース・フォン・トリアー『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦』と『ボス・オブ・イット・オール』の2本立てもとても印象深い。
そんなかんなで、やはり長年観たかったロバート・デュヴァルとトミー・リー・ジョーンズ主演の計6時間の大作『ロンサム・ダブ』が2月の顔に決定。

マスタリング地獄を抜け出せない今日この頃。
早いとこ落ち着けて、3月は穏やかに映画を観られる様にしたい。

観た映画: 2024年2月
映画本数: 13本

ミスター・ノーボディ

大衆の願望を具現化したみたいなノーボディで、後始末までする。足を洗いたいヘンリー・フォンダにしてみれば鞍が羽根の如き天使みたいな奴。レオーネ的演出にモリコーネの神曲連発に名言の多さに古き良き西部劇映画を消化させるネタ等々でもって完璧。床屋で始まり床屋のズブリで終わる、何度観ても最高の映画。

鑑賞日:2024/02/28 監督:トニーノ・ヴァレリ


赤穂城断絶

太秦的な気分だったので。松の廊下の下りで流れ程々にいきなり天誅となる訳だけども、金子信雄の憎たらしい吉良上野介が出てきた瞬間に説明不要なシーンに仕上がってて凄い。実録タッチで演出された、耐えて耐えてからの派手な討ち入りで深作作品っぽさもあり、千葉真一vs渡瀬恒彦のチャンバラも迫力があってイイ。で、肝心の主人公大石内蔵助の萬屋錦之介が1人何がなんでも歌舞伎な空気感を曲げない具合でちょっと違和感はある。最後の方は慣れてくる上に何人か演技がつられているのも面白いんだけど深作欣二とは合わない気がする。どのジャンルでも問答無用で場を加藤嘉に変える加藤嘉や女郎落ちが萌える原田美枝子ほか、東映の活気があった頃の豪華なキャストだけでも楽しくはある。

鑑賞日:2024/02/27 監督:深作欣二


遠い声、静かな暮し

郷愁風に描かれてるけど、過酷な労働者階級の一家の歴史って事で英国あるあるなお話。監督自身が生まれた頃の話っぽいので、伝聞中心にでありつつ、当時の世相を反映しながらまとめ上げられた印象。OP始まった瞬間から傑作の雰囲気漂う作品で、『失われた時を求めて』ばりな記憶の断片を飛び交う映画的魔術、音声と映像の時間的なズレ、パンニングからの時空移動など凝りまくった具合に時間が紡がれて行く。そして隙間なく入る独唱合唱のシーンで演出される50年代感もとても良い。幼少期の過去、と多分親の結婚の頃の過去とでどちら側にも良いも悪いもがあり、どっちにしろ終わってるなこの国はって感じと身内への愛がヒシヒシ伝わってくる。素晴らしい。

鑑賞日:2024/02/25 監督:テレンス・デイヴィス


ボス・オブ・イット・オール

さすがボス・オブ・イット・オールねの威力。一から十までラース・フォン・トリアーと云うか、ノリがキングダムの続編+イディオッツ的な何を観てる錯覚に陥る。出てくるキャラと動き、会話の流れがそのものって具合。で、コンピュータにランダムにカメラをコントロールさせるって云うオートマヴィジョンを用いつつも、劇中「ドグマ95が〜」のセリフでの監督自身の身体を張った最大限の自虐、自傷行為からして面白いので満点上げちゃう。アイスランドの恨み節は『ヴィンランド・サガ』読んどいて良かった。

鑑賞日:2024/02/24 監督:ラース・フォン・トリアー


狼たちの午後

15年振りくらい。ゲイでベトナム帰還兵で反権力って云う当時の世相を反映した盛り。見せ物もしくはお茶の間エンタメと化した現場と報道の様子を更に画面のこちら側から観てる図式。シドニー・ルメット特有な繊細に変化する風向きでオーディエンスを煽ると思えば、ゲイ団体の声援にウンザリしたり、人質と妙な連帯感が生まれたかと思えば罵倒されるって事で、中心にいながらにして社会に属さない孤独感が映画の進行と共に深まる。演出はもとより、勢いある期のアル・パチーノの上げ下げ演技にフレドことジョン・カザールの安定の駄目演技とで飽きる暇がない。傑作。

鑑賞日:2024/02/22 監督:シドニー・ルメット


ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦

敬愛する監督にリスペクトと無茶振りの限りを尽くす鬼畜風ラース・フォン・トリアー。卒なくこなしてくるヨルゲン・レスに対してのセラピーとしつつも、全部自分に跳ね返ってきっちり自虐になってるって云ういつもの感じになってる。からのオチの皮肉でホント性格悪いな。そんなかんなで過程が実に面白い作品。元ネタちゃんと観てから観るべきだった。

鑑賞日:2024/02/20 監督:ヨルゲン・レス、ラース・フォン・トリアー


日本の首領 完結篇

フィクサー片岡千恵蔵に主役に変更の三船敏郎、老衰死フラグ立ちまくる元主役の佐分利信で年寄り同士が血で血を洗う。天の采配ってな具合で漁夫の利風な感じなんだけど、「俺は人を殺した事はない」の下りの三船敏郎のドンの貫禄っぷりは流石。全体としては主役級よりも脇役の方が目立ってる印象で、不能菅原文太と大谷直子の松葉杖プレイ→再三に渡ってカラオケ大会かます西村晃と大谷直子のプレイ→落ち目著しい高橋悦史とアタシの店大谷直子って事でこの辺りが過剰なくらいの演技で映画を引っ張ってる感じ。あと、レモンからの襖開ける速度がヤバい三船敏郎。完。

鑑賞日:2024/02/19 監督:中島貞夫


ベン・スティラー 人生は最悪だ!

十何年振りくらい。今現在の段階で親近感湧きすぎてキツいけど面白い。おまけにオレMIXのギャラクシー500やらカレン・ダルトンほかの趣味趣向も他人とは思えん程。捻くれた子供おじさんに真正面からぶつかる、文字通り身体張ってる若い時のグレタ・ガーウィグも改めて良いな。で、どの作品も共通して絶妙な匙加減で演技するノア・バームバック。ユダヤネタはウディ・アレンばりにもう少しやっても良かった気はする。MySpaceの時代が既に一昔前でゾッとする。しかし邦題が最悪だ。

鑑賞日:2024/02/17 監督:ノア・バームバック


日本の首領 野望篇

展開する度に負け戦の予感しかしない2作目。風前の灯みたいになってる佐分利信とシャキッとしてる三船敏郎とで勝負にならないけど、負けへんで〜ENDで3作目はどうなる事か。頭の四角さが際立つ東大卒設定の松方弘樹と岸田今日子の絡みに、デヴィ夫人みたいなシンデレラ育成物語はなかなか面白いものの、肝心の政治の話が全然入ってこない。そんなゴチャゴチャした中でも安定して高めなテンションと存在感を発揮する成田三樹夫、金子信雄、鉄砲玉な菅原文太にアラカンは流石。チョイ役ながら後ろ姿でも出てきた瞬間にソレと分かる野坂昭如も良かった。

鑑賞日:2024/02/16 監督:中島貞夫


ロンサム・ダブ

原田眞人のタフ(と『北の国から '92巣立ち』のタマ子)でずっと観たかったやつをようやく。ロバート・デュヴァルとトミー・リー・ジョーンズのジジイ2人の控えめながら最大限の効果を発揮する演技力が見事過ぎて文句の付け所がない6時間。男と男の間には言葉は要らん(一人前の男認定の寧ろ馬の方が価値があるのとこも含む)のだよって事で漢が迸る。男達の生きるよすがと死の数々で、安岡力也曰く、『ロンサムダヴに感動しないやつとは仕事しない』と、全くその通りって感じ。感無量、大傑作。

鑑賞日:2024/02/14 監督:サイモン・ウィンサー


我ら山人たち

ソラリスの首都高みたいなOPからして好感が持てる。後の『山の焚火』に繋がるドキュメンタリーって事で、ハイジで云うところのおんじが住んでるゾーンの厳しいあれやこれを浮き彫りにする。紀元前3千年頃にやって来たやつから始まり、二級市民と呼ばれながらもなんでこんなとこに住んでるのかの美徳と辛さを細やかに切り取っている。360°のパンニングで撮影される見渡す限りの絶景に純朴そうな山人で観てる方の心もアルプスの清純な雪解け水の様になるレベル。自然に従い、乱すなの意識を高めなくてはと感じさせる。

鑑賞日:2024/02/10 監督:フレディ・M・ムーラー


やくざ戦争 日本の首領(ドン)

仁義なきオールスターズな東京東映の実録ものって事で結構なボリューム。ニーノ・ロータ風テーマ曲からしてゴッドファーザーに寄せてきてる感じで、ヴィト・コルレオーネ風な佐分利信(結構似てる)と西村晃の序盤の流れとかまんまだし、馬の代わりの首のとこもそう変えて来たかって具合で楽しいとこは沢山ある。ものの、無理矢理ソレっぽくしようとしてるせいか、若干ダレる、もしくはショボくなってる気がしなくはない。時折、ボケ老人みたいな表情をする鶴田浩二に高橋悦史の役割と締めは上手い事考えたって感じでなかなか。一家じゃなくてファミリーって言ってるのがちょっと寒いけど。山守以上のクセ演技な金子信雄で目が覚める。

鑑賞日:2024/02/06 監督:中島貞夫


愛の狩人

俺の遍歴の中に混じる親友の彼女と愛娘...。精神は若いが身体がついて行かない悲惨なやつで、調子こきタイプの男の役がまぁ上手いジャック・ニコルソン。天使の歌声を封印しても赤ちゃんみたいな風貌のアート・ガーファンクルの童貞ピュア男→スレた大人もなかなかで、後の『ジェラシー』同様にケツ出すのに抵抗がない様子。24時間寝る女に「意義のある事をしろ」と怒鳴り散らして特大ブーメランが突き刺さっても人生を顧みる事のない男に愛の道は遠い。『卒業』しろと言いたい。傑作。

鑑賞日:2024/02/02 監督:マイク・ニコルズ