Films: Aug.2023『殺人捜査』ほか
Sep,01 2023 11:30
私事で夏季休暇どころでなかった8月。ゆったり映画って感じでもなかった割にはほどほどに観ている。
先ずは『美しき小さな浜辺』から始まり、『夜の騎士道』とジェラール・フィリップものを先月から継続中。
初鑑賞ものではフィリピンのラヴ・ディアス監督作品『北(ノルテ)-歴史の終わり』を筆頭にプレストン・スタージェス『モーガンズ・クリークの奇跡』、ジョン・カーペンター『マウス・オブ・マッドネス』、サルヴァトーレ・サンペリ『スキャンダル』、マーク・ライデル『黄昏』、ダミアーノ・ダミアーニ『群盗荒野を裂く』と普段あんまり観ない監督のでジャンルもてんてんバラバラな印象。
気力に乏しかったせいか再鑑賞ものが多く、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ベロニカ・フォスのあこがれ 』、ハル・アシュビー『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』、小津安二郎『麦秋』、山田洋次『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』、岡本喜八『戦国野郎』等々に加えてラストにルイス・ブニュエル『哀しみのトリスターナ』と疲労感MAXのところに傑作の安心を求めていたのが窺える。
最後の方に観たオーストラリアのジャスティン・カーゼル作品『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』に増村保造+若尾文子の壮絶な『赤い天使』と悩んだものの、今年の夏はひたすらモンドな気分だったので、8月の顔はエリオ・ペトリ監督の『殺人捜査』に決定。
次のアルバムもなかなか捗っていないものの、とにかく継続している今日この頃。
観た映画: 2023年8月
映画本数: 21本
哀しみのトリスターナ
フェルナンド・レイ首に片足ドヌーブ様ほか多種多様な変態をやりたい放題するブニュエル。視覚的なのに加えて偽善だらけで欠落しまくりな人間ばっかり出てくるエスパニョール。喪服の黒で清純な少女から始まり、最後はドス黒いオーラを放つカトリーヌ・ドヌーブが見事。丸くなったフェルナンド・レイには門を閉ざし、聾唖者にご開帳と屈折した性を披露する下りのあの顔がヤバい。あの頃には戻れない感の絶望でこっちが哀しくなるわ。傑作。
鑑賞日:2023/08/31 監督:ルイス・ブニュエル
トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング
植民地時代のグレート・ブリテンあるあるな具合で、流刑地先でも恨みを買いまくるの図。アイリッシュ絡みの根が深いやつで、史実ベースに実にアナーキーな仕上がり。各種犯罪に加えて甲冑武装で、宗主国側から見るととんでもない蛮族な感じなんだけど、観てる分には面白い。ブリテン面のアイリッシュ設定なジョージ・マッケイを筆頭に映像やら演出がゴリゴリしていて良く出来てる。音使いもスタイリッシュ。ラッセル・クロウは言われなゃ分かんない。
鑑賞日:2023/08/29 監督:ジャスティン・カーゼル
戦国野郎
久々。今時の下手な監督だったら3時間くらいやってそうな情報量なんだけども、喜八的テンポで無駄なく効率が異常に良い。真っ直ぐ生きたくともポーカーフェイス必至な駆け引きの応酬。今の時代は映画は然り、国家レベルの上から下までこの手の狡猾さがなくなってしまっている印象。岡本組含む役者も適材適所でいちいち上手い。普通に傑作。
鑑賞日:2023/08/28 監督:岡本喜八
夜の騎士道
夜の〜なスケベっぽい邦題はともかくとして、身から出た錆状態で騎士道のカケラもない感じなジェラール・フィリップ。当時の花形のチャラい&しょーもないところが沢山出てくる。お初カラーなルネ・クレール作品って事で、鮮やかな色合いから始まり、やたらテンポの良い展開の軽い感じやら窓使いの妙なんかの見所は多い。親友の相手役のB.B.が一番カワイイ。
鑑賞日:2023/08/27 監督:ルネ・クレール
群盗荒野を裂く
その金でパンを買うんじゃない、ダイナマイトを買えと、マカロニながらメキシコ魂を感じる。作り物っぽいサボテンなんかも気にならないほどに民衆のショボくれ具合もイイ味出してる。極力理由を明かさないのが仇となってるのか、いまいちテンポが悪い気もするんだけども、終わってみるとメキシコ国内事情に被さるアメリカの拝金主義な図式でなかなか。俺はやんなきゃ駄目なんだと、友情の上を行く愛国が今時で考えるとなかなかにヤバい。途中で存在を忘れる程な神の僕風クラウス・キンスキーと適当モードなモリコーネ劇伴でちょっと中途半端ではある。
鑑賞日:2023/08/24 監督:ダミアーノ・ダミアーニ
黄昏
人生の黄昏時のあれやこれに美しい黄金色の湖とで良く出来てる。実の父娘のオランウータン面が並ぶといささかキツいものがあるものの、ボケ散らかしながら虚勢と恐怖の入り混じった老人の演じ切り遺作となったヘンリー・フォンダは見事ととしか言い様がない。で、夫への理解を元にした、全方向に愛ある緩衝材としての役割をこなすキャサリン・ヘプバーンがまた泣ける。しかし、アメリカ人は大自然でマス釣りが好きだよな。自然との調和を大切にしつつ、自己を省みるって云う見習わなきゃいけないやつ。。デイブ・グルーシンの優しげなピアノ劇伴もとても良かった。
鑑賞日:2023/08/22 監督:マーク・ライデル
双頭の鷲
追い詰められた者同士で燃えまくる。自分に似た者との対峙を予感させる最初のこだまのフラグ等々、上手いところ満載なんだけど何故か眠くなる。ものの、窓から闖入以降の緊迫感と、最後のツンでグサり→気合いの権威表明→デレでエンドの流れは結構なもの。ジャン・マレーの『私の人生は窓から始まった訳じゃない』ってやつ良い台詞だな。
鑑賞日:2023/08/21 監督:ジャン・コクトー
遺産相続
台東区だけどオリエント工業ではない。同時期な伊丹十三っぽい雰囲気を狙ってる風だけれども、超えられない壁がある模様。と云うか、降旗康男の強みは別のとこにあると思われる。バブル期を舞台に人間として生きるか畜生として生きるかって事で、そんな事より'90年のあれやこれの全てが改めてセンス悪過ぎてビビる。で、役者もみんな何やら空回りしてる感じなんだけど、話自体はまぁまぁ面白いし、ウェス・アンダーソン(逆に)みたいな全景やら各所でビシッと決まった木村大作撮影もクオリティは高い。佐久間良子はともかく、小川眞由美は歳取っても可愛らしい。
鑑賞日:2023/08/20 監督:降旗康男
スキャンダル
ナチ進行前夜のフランスのイタリア映画って事で、表で展開する世間の混乱関係なく家庭内が大変な事になってる。常に生ハムサンド食ってる番頭フランコ・ネロとリザ・ガストーニのドSとドMのプレイからして面白いんだけど、行き過ぎて洗脳まがいな事になってるのが恐ろしい。『家族の肖像』にも出てた安田道代ソックリな娘との嫉妬混じりのやり取りなんかも胃にくる。で、ただでさえ不思議物件の特徴を活かし、照明と音だけで演出されたクライマックスの崩壊感はなかなか見もの。そしてフランスの春川ますみことアンドレア・フェレオルも『最後の晩餐』同様に良い脱ぎっぷり。もの哀しいテーマ曲がまたイイ。
鑑賞日:2023/08/19 監督:サルヴァトーレ・サンペリ
男はつらいよ 寅次郎恋やつれ
13作で久々。寝過ごして国府台から矢切の渡しで引き返してくるOPからしてイイ。島根県はマドンナ以外の脇役に失恋+さくらとタコ社長同伴の旅って事でなかなか珍しい形。で、歌子ちゃんこと吉永小百合登場でさくらと並ぶと強力過ぎるツートップ。恋にやつれつつ、ワシントンで酔っ払う寅次郎本人の知らないとこで物語が進行する具合。我が道を歌子ちゃんに対して、宮口精二の泣ける一幕と「浴衣きれいだね...」のとこに尽きる。で、去り際がカッコいい。二代目おいちゃんラスト。
鑑賞日:2023/08/17 監督:山田洋次
殺人捜査
権力を有して腐りまくる図で、この上ない不条理劇。警察を、組織を舐めるなってとこから始まり、あの手この手でギリギリのとこをスリリングに突きまくる。有無を言わせぬ佇まいに、他を圧倒するトーク力とで法サイドの人間でございって云うキャラ設定も秀逸で、この辺りの演技力で映画が決まってる具合。で、ブラインド降ろして隠蔽みたいな具合で真の正義の所在を問うイタリアンEND。この間見たモリコーネのコンサートでも演ってた癖になる系の劇伴も最高。で、建築物から服装に小物まで全てが洒落てる。
鑑賞日:2023/08/15 監督:エリオ・ペトリ
麦秋
30年振りくらい。実りの秋って事で、菅井一郎と東山千栄子の一幕「今が一番良い時だ」、「今日は良い日曜日だった」からの飛んでく風船に集約されてる具合。今は特に沁みてしょーがない。戦時中に失ったものや厳しい生活の記憶をあくまでほのかに出しつつ、基本的に明るい感じで進行するのもまた見事。麦畑を行くよその家の婚礼で、嫁いだ原節子を重ねて表現するあたりも然り。総じて全てにおいて品と云うか、やり過ぎず塩梅が絶妙。それからショートケーキの豊かさの象徴と家系のダブル・ミーニングも惚れ惚れする。で、みんなそれぞれ上手いんだけど、泣きからのアンパン食べる?で脇役ながら強烈な印象を残す杉村春子はいつもながらに凄い。傑作。
鑑賞日:2023/08/13 監督:小津安二郎
ハロルドとモード 少年は虹を渡る
収容所から生き延び、徹底的にオリと死を生活から排除するモードと、殆ど死者からどんどん血色が良くなるハロルド。レベルの高い芸術肌同士のシンパシーは大前提なんだけども、歪んだ若者をきっちり正しい方向へと導くデキる婆ちゃん。鉄道車両の住宅からしてワクワクする。霊柩車と拗らせを葬りバンジョーを奏でるラストがホント素晴らしい。心地良いキャット・スティーブンス劇伴も映画にピッタリ合ってる。
鑑賞日:2023/08/12 監督:ハル・アシュビー
マウス・オブ・マッドネス
不条理悪夢系。リンチとクローネンバーグを混ぜ合わせた具合なんだけど、スティーブン・キングより売れてる設定って事で分かりやすく作ってあるあたりがまた流石。この手の映画ならサム・ニールなのは勿論の事、ツインピークスのトレモンド夫人や、リーガンのブリッジの上を行く感じのヤバいやつ等々で不気味なのが満載。カーペンター繋がりなのか流れる『愛のプレリュード』で、ドス黒い雰囲気でも爽やかに変化する天才的なロジャー・ニコルズの作曲力が偉大過ぎ。
鑑賞日:2023/08/11 監督:ジョン・カーペンター
赤い天使
壮絶。手を血で染めた天使こと若尾文子の従軍看護婦っぷりが敵なしな具合。あの手この手でおもちゃにされた末に男物の軍服コスの「靴!」でSとM等々ごった煮なプレイが網羅されてて頭がクラクラする。このレベルの高さな上にあの従順さを発揮されたら、モルヒネ漬けでフニャッた芦田伸介を奮い立たせるなど朝飯前な気がする。からの『さくらの認識票』交換でまぁドラマチック。凄惨な現場が舞台とはいえ、調子に乗って要求上げてくる川津祐介には画面のこちら側から怒声を浴びせたくなる。極限なる様をそのまんま切り取った様な作品。傑作。
鑑賞日:2023/08/10 監督:増村保造
モーガンズ・クリークの奇跡
あらかじめ親父の予言があるのはさておき、力技な感じのオチ。高位に生まれる者云々のシェイクスピアの言葉通りって事で、神から愛されてるタイプの文字通り奇跡な具合。雪だるま式に問題が積み上がる中、クールな妹ちゃんが良い味出してる。アメリカ様のプロパガンダ全開な雰囲気ながら、'44年にしてこの調子ってのは強いとしか言い様がない。忙しさ極まるおそ松映画。
鑑賞日:2023/08/09 監督:プレストン・スタージェス
ベロニカ・フォスのあこがれ
久々に『サンセット大通り』ばりのやつを見たくて。夢の工場の光と影をチクリとやりつつ、ドイツの暗部を曝け出してる具合。『殺人狂時代』の天本英世がいるあそこみたいな、一番真っ黒なクリニックが一番眼に痛いってとこからして冴えてる。
鑑賞日:2023/08/08 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
恋ひとすじに
序盤は男女の頭が沸いてる感じのやり取りなんだけども、段々と荒れてきて面白い。ヨーゼフ・ロート的オーストリア=ハンガリー帝国の決闘ありきな雰囲気はかなり好きなので、それなりに楽しめた。この時代の軍隊の花形具合により成立してる感はある。ベタ過ぎな『運命』挿入も嫌いではない。で、アフレコで妙な事になってるロミー・シュナイダーはキュートではあるけど、やっぱりもうちょい年取ってスレた感じの方が好き
鑑賞日:2023/08/07 監督:ピエール・ガスパール=ユイ
北(ノルテ)-歴史の終わり
フィリピンを舞台に冤罪の方を膨らませる等で脚色しつつも、なかなか『罪と罰』してはいる。原作にあるナポレオン理論は上手い具合に現代の政治事情に置き換えられてコトに及ぶ訳だけども、たった一件でガクブル状態なラスコーリニコフに対してこっち方は随分荒れてる模様。冤罪の方の悟りや、ソーニャっぽい役回りの奥さんの顛末なんかもいささかやり過ぎな気もしなくはない。記憶にも新しいフィリピンの刑務所事情(あっちは収容所か)は、緩いと言われてる方でも結構サバイバルな感じで超怖い。しかしまぁ長い。
鑑賞日:2023/08/06 監督:ラヴ・ディアス
クレイジー・ママ
初期ジョナサン・デミ×ロジャー・コーマンって事で、そんな感じの匂いはある。'30年代にアーカンソーの農場を差し押さえられて、'50年代終わりに逆『怒りの葡萄』状態で舞い戻る大枠はとても良い。銀行ほかの巨大な敵にやられた昔から、今度はやり返すってのも面白いんだけど、少々とっ散らかってる印象。故郷に戻ったらカリフォルニアと似た具合に発展してる悲壮感は良いとこ突いてる。家族が減り、新たに増えた家族と共に生きていくと結末も無駄に原作の『怒りの葡萄』を踏襲してる感じで評価する。で、1958年にはない曲がいっぱい流れる。
鑑賞日:2023/08/03 監督:ジョナサン・デミ
美しき小さな浜辺
訳ありで濡れそぼった仔犬みたいな目をしたジャラール・フィリップがハマってる。孤児と大人の厳しい関係性でも小さな浜辺はいつまでも美しい。辛い記憶でも足が向いてしまう迷走感にメンタル共にズブ濡れ状態で重い。同じ境遇の少年に肯定されるラスト〜浜辺のシーンが実に皮肉的。固定位置の爺さまがかなり良い演技しとる。
鑑賞日:2023/08/01 監督:イヴ・アレグレ
category: 映画レビュー
tags: 2023年映画レビュー, エリオ・ペトリ, ジャスティン・カーゼル, ジャン・コクトー, ジョン・カーペンター, ハル・アシュビー, ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー, ルイス・ブニュエル, ルネ・クレール, 増村保造, 小津安二郎, 山田洋次, 岡本喜八