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天本英世

肉弾 / 日本のいちばん長い日

Aug,08 2006 15:00

新・習劇 第3回 『肉弾 / 日本のいちばん長い日』

「死んじゃ駄目だよ、兵隊さん。死んじゃちゃあなにもかもおしまいだ。」

靖国問題がヒートアップしそうな今日この頃、もうすぐ8月15日である。
私はもちろん戦争を知らない世代である。731関連の本も読んだ。
しかしアジア諸国の反発にはいささか納得がいっていない、特に若者たちのそれは、少しおかしいとさえ感じる。
だから、まず実際に体験した人の話に耳を傾けるべきなのだ。

私の最も好きな監督の5人の中の一人、昨年2月に他界した岡本喜八監督の68年公開作品が今回取り上げる『肉弾』。
前年にこれまた名作の67年『日本のいちばん長い日』。
私はこの2作品がとても好きである、要するに納得がいくのである。

終戦間際の日本の上層部をシリアスに描いた『日本のいちばん長い日』。
終戦間際の日本の末端をコメディで描く『肉弾』。 この対象的な2作品は他に類を見ないほど素晴らしい。
戦争を知っている喜八監督の言葉だからこそ、説得力がある。

私が喜八作品に出会ったのは23歳くらいと結構遅く、それまでは単館系の映画ばかりをとにかく毎日の様に観ていた。
初めて観た岡本作品は『近頃なぜかチャールストン』、こちらも戦争の生き残りをコメディタッチで描いた作品だが、まず開始してすぐにエンドロールが始まったのに驚愕。
日本にもこれほどまでに面白い映画をつくる人がいたのかと。
今、考えるとまったく逆でこの時代の日本の監督が世界に与えた影響はかなり大きい。
そんな訳で日本映画に興味を持ち始め、○草東宝のオールナイトにも頻繁に足を運ぶ様になる。
ここで観た『日本のいちばん長い日』は凄かった。
何が凄いかと言うと、観客の大多数が浮浪者で、まぁ、恐らく戦争を経験してきているであろう人々。
その後、浅○の別の映画館に勤める事になり、この様な人々は大体、宿代わりに寝に来ている事が分かったのですけれど。
この一例からとってみても戦中派の生命力は強い。とは云え働いている時に座席で死んでる人見ましたが。
多分、凍死か餓死か、私の嫌な経験の一つです。

肉弾』の寺田農が演じる主人公の「あいつ」はまさしく喜八監督自身の分身であり、古本屋の親父の笠智衆の語る「死んじゃ駄目だよ、兵隊さん。死んじゃちゃあなにもかもおしまいだ。」と言う言葉は説得力がある、なるほどと素直に思えるのである。
...と全く解説にはなっていないが、日本人として観ておくべき映画の一つと私は位置している。
今の時代にアルチザンはどれだけいるのか、あらためて偉大な監督を失ったのだと思う。