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或る夜の出来事

Films: Jan.2019『或る夜の出来事』ほか

Feb,01 2019 13:00

2019年の初めは好きな『フランク・キャプラ』と『勝新』のやつから。
児童文学の実写化系を気楽に観つつ、クラシックものの多い1月。
エリア・カザンにアントニオーニ等々、監督が被りながらイタリア、フランス、ロシアと練り歩く感じ。
そんな中で『ブルックリン横丁』は頭一つ出る素晴らしさ。
後半はアレクセイ・ゲルマンものを頻繁に。これはまだまだ続く。

観た映画: 2019年1月
映画本数: 20本

戦争のない20日間

戦争のない20日間

戦争がなくともそこら中に立ち込める匂い。チクタクと時間制限アリの上に戦場の様々なお土産付きの休暇は例えるならダーチャでの穏やかなそれらとは程遠い。おまけに中には休暇を取る事のできないアンラッキーな奴も沢山いると云う戦争の実態。幸いな事に戦場に行き休暇を得る経験をした事がないので、束の間の休暇で起こる忙殺であったり刹那的な体温であったりを実感する事は難しい。今のところの生温い我が国の平和であるけれども、有難く享受しようと思ってしまった。

鑑賞日:2019/01/31 監督:アレクセイ・ゲルマン


家路

家路

靴演技やらの見せない演技とカフェの秒単位展開の秀逸さ。映像に対しての環境音の使い方なんかも、キッチリ物理法則に従っている辺りが逆に新鮮。テンペストで云うところの束の間の幻的な人生の一部分を拡大鏡で覗いたような具合で、一個人の孤独も何も100年経てば無に等しい人の営みのあれこれ。それでもせっせと文明に翻弄され、色んな事を考え、経験し、老いながら癒しの殿堂に向かって行く一個人。を静かに表現するオリヴェイラ監督。'00年代初頭の実にパリっぽいパリ感も大変良い。良作。

鑑賞日:2019/01/29 監督:マノエル・ド・オリヴェイラ


主婦マリーがしたこと

主婦マリーがしたこと

個人間の利害一致も国家にしてみれば立派な反逆罪になる。宗教と国と時代によって変化するケースで、キリスト教圏でナチ台頭時のフランスの一般的なモラルとしては完全にアウト。しかし、そんな自分(自分達)に誰がしたと。心も体も堕落の果てに、這い上がる事を却下された地獄落ちで複雑かつ明確にアンチクライスト化するユペールさま。を、鑑賞者がしっかり気の毒に思える時点で成功している作品ではなかろうか。

鑑賞日:2019/01/29 監督:クロード・シャブロル


道中の点検

道中の点検

パルチザンはつらいよ。戦時下にあっては弾(もしくは人)はどこから飛んでくるか分からない故の疑惑。それを払拭して一度失われた同胞の信頼を取り戻すってのはなかなかどうして難しい。裏切りの上塗りと裏切りを後悔する人間のどちらを選択するか。こんな状況下にあっちゃ生き抜く為には綺麗事だけでは片付けられないって側面もある。繊細な心理を描きつつ、ド迫力かつあまりにあんまりな定員オーバーの捕虜船、熱々な機関砲を素手で行く祖国への忠誠の表現などなどの絶妙なバランス。良かった。

鑑賞日:2019/01/27 監督:アレクセイ・ゲルマン


ブルックリン横丁

ブルックリン横丁

後半のビッグ・ウェーブの連続で完全に涙腺が壊れてダダ漏れ状態になる。笑いは天使の歌声とな。シンプルかつ真理だと思われる。星10コで。

鑑賞日:2019/01/26 監督:エリア・カザン


黒蘭の女

黒蘭の女

かなり毒婦。スカーレット・オハラと同等クラスの執念の持ち主ながら、絶望的にキュートさが無い!...からこその毒婦。最近南部のその後的な作品ばかり観ていたので、南部的慣習とその栄光の過去っぷりが痛々しい。ヤンキーなカミさんに敗北宣言しつつもわが道を行くベティ・デイヴィスの玉砕にその後の南北戦争を思わせる実に南部的映画だった。狂気の歌シーン。良作。

鑑賞日:2019/01/24 監督:ウィリアム・ワイラー


ひとりぼっちの二人だが

ひとりぼっちの二人だが

ひとりぼほほぉちぃひぃのふたりぃひぃ〜。メドレー含めて天才的かつ最高だな六八九トリオ。超絶ワガママっ娘な吉永小百合だけれども、完全体な天然天使なのでいるだけで映画自体の評価を底上げする。ボンヤリ観ていたつもりながら、他の日活作品以上な劇中のしつこいCMのお陰でニチボーが頭から離れん。割と黄金期な浅草の風景で在りし日の古巣もガッツリ映っていて複雑な胸中。ただの二枚目にとどまらない高橋英樹のお兄ちゃんポジションもなかなか。良作。

鑑賞日:2019/01/22 監督:舛田利雄


七番目の道づれ

七番目の道づれ

混乱の中で一蹴される良識。ってだから混乱なんだけど。大きな力の前では無力な小さな小さな存在。そんな個人の無力感を主人公を含めた様々な登場人物のうちに垣間見る事ができる。反発は死を意味する時代で、ある者は手のひらを返し、ある者はそれらの様に絶望したりする。放棄する奴もいるけど、それでも流れに任せて生きる多数の人々がいる。プロパガンダ級の赤々しさに現在からみると、どーなんだって感じなんだけど、思想的には素晴らしいんだよな。多分、何かしら持っていたい人間には実現不可能っぽい理想だと思うけど。旧体制を象徴するかの如くな時計を抱え歩き、捨て去るご老体、最後の時に見える風景等々の冴えてるシーンが非常に多い。持たざる者は強くもあり、弱くもある。傑作。

鑑賞日:2019/01/22 監督:グリゴーリ・アロノフ、アレクセイ・ゲルマン


さすらい

さすらい

さすらってるイタリア人と激しいイタリア人たち(特にガス屋の女、ドリアン・グレイ! 凄いネーミング)。不毛かつ荒涼とした風景の中を行く孤独。見方を変えて目の前の現実に満足できれば、あるいは幸福にもなれるのだろうけども、愛に傷ついた人間を癒すのは時ですら難しい。成り行きながら、積み上げてきたものを半ば敢えて失い続ける徹底的な不幸。そんなメンタルな時にはそうしがちってな具合に男をこれでもかと空っけつにする冷酷な描写。愛こそすべてなんだな。

鑑賞日:2019/01/20 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ


暗殺の詩/知りすぎた男どもは、抹殺せよ

暗殺の詩/知りすぎた男どもは、抹殺せよ

先日の『追想』と同様に古城の主でほっこりなフィリップ・ノワレ+赤毛のカミさん。と、精神病院脱走後に迷い込むトランティニャンに乗せられて、なんだか無理のある逃避行へと発展する。一応は重大な国家秘密を知り追われている設定なものの、原題よろしく劇中も観て方もはっきりした事は明かされずにモヤっとした感じで進む。そんな疑心暗鬼の渦の中でも余計な質問をせずブレずに人を信じ続けるノワレの寛容さ。結果的に思いっきり損するタイプなんだけども、無条件で人を信じるって行為がモリコーネのスコアと共に妙に沁みてくる。

鑑賞日:2019/01/18 監督:ロベール・アンリコ


 おいしい結婚

おいしい結婚

秋日和はともかくとして、景気の良さとあまりにあんまりなトレンディ具合に閉口する。公開当時、中学生じゃこんな大人の話は良く分からん。全体的には良くも悪くも森田芳光。で、これまた景気が良い頃のASKA!!のテーマ曲を始めとして雨を効果的に盛り込むも、どこかカラッとしているのは大天使・斉藤由貴の功績。小津的深みと引き換えに骨を断った感じだけども、それがイイ。むしろそれだけでイイ。全盛期の神懸かってる斉藤由貴だけで乗り切れる感じ。

鑑賞日:2019/01/15 監督:森田芳光


太陽はひとりぼっち

太陽はひとりぼっち

思いっきり資本主義の恩恵を受けといてなんだけども、この映画が示すいかに資本主義の嘘っぽいものに溢れているかってのが良く分かる。まぁ、人工的なアーバンな建物の感じはかなり好きなんだけど。オープニングショットの枠だけの絵画やガラス越しのキス等々のしっくりと行かない雰囲気が良く出ている事。普通に見ると超面倒くさいタイプなアンニュイガールなモニカ・ヴィッティだけど、しっくりいってない方の視点で見ると妙に納得できる不思議。素晴らしい。

鑑賞日:2019/01/14 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ


ガラスの城

ガラスの城

まさに禁じられた遊びをするパリの恋人たち。の、よくあるどころか超レアケース。含みのある台詞の多用や嫉妬の布石の回収がモヤっとするものの、アクロバティックな時間操作と黒澤作品かってくらいのキレのある照明使いで見所も多い。ジャック・リヴェットばりのパリ散策映画でもある様な。逆に。

鑑賞日:2019/01/12 監督:ルネ・クレマン


ダニエラという女

ダニエラという女

泣く子も黙りそうなS級娼婦のモニカ・ベルッチを籠絡し、撃沈し、籠絡する為の超高度なあれやこれ...の風でいて蓋を開ければ愛に満ち溢れている。愛されて愛すると云う幸福の為のシンプルな絶対条件を映画の中で見事に操り見せつけている感じ。で、プッチーニ全開なイタリア的暖かさと癒しを求める気持ちは極東からでも何となく分かる。途轍もなく変な一本だけども凄く好き。

鑑賞日:2019/01/09 監督:ベルトラン・ブリエ


ハイジ アルプスの物語

ハイジ アルプスの物語

尺的に無理がある。各エピソードから山小屋の間取りに至るまで、高畑版ハイジをベースにしていると思われる。50話程度を詰め込んだもんだから、展開が超爆速。最初はアドルフ入っているブルーノ・ガンツも段々と慣れ親しんだおんじに変わるし、クララの役の美少女も大変良い。コレクションした白パンの扱いもまぁまぁ...なんだけど、クララの馬鹿からの立つシーンが大事なんでしょうに。それから絶対的裏アイドルのユキちゃんの扱いが軽過ぎる。やるならじっくりと3部作くらいでお願いしたい。メルメルメェー!!!

鑑賞日:2019/01/08 監督:アラン・グスポーナー


サスペリア PART2/紅い深淵

サスペリア PART2/紅い深淵

PART2じゃない2作目。なんでそんな事を思いつくかなってレベルのあらゆる痛い!!!で体の色んな部分がキューっとする。後の無印サスペリア同様にロケーションや小道具、撮影なんかのお洒落度はかなりのもので、スリラー抜きにしても楽しめる。ゴブリンのイタリアンなプログレは曲単体ではかなり良いけれども、サントラとしてはいささか鬱陶しい気もしなくもない。

鑑賞日:2019/01/07 監督:ダリオ・アルジェント


影なき殺人

影なき殺人

魔女狩りに赤狩り等々、正義の名のもとに善良な市民を時として文字通り鬼にさせる結構あるあるな冤罪系事案。わりと最近ではハネケの『白いリボン』でも似たような感じだったな。今作に至っては、更に事件を利用する人間の大小様々な悪意が入り乱れて、一筋縄ではいかない人間社会を上手く表している。「ひとりの命は社会より重い」と考える検事が殆ど弁護すると云う超展開(実話)で各々が宣言する不安定な正義に疑問を呈する...正義。胸熱。それぞれに見事に突き刺さるブーメラン哉。エリア・カザン作品に良く見かける役者とで重厚な作品に仕上がっているんじゃないかと思われる。

鑑賞日:2019/01/04 監督:エリア・カザン


赤毛のアン

赤毛のアン

うーん、雑。完全にアニメ版に毒されているので、尺が足りない感じ。マシュウがマーティン・シーンでも良いんだけど、そうさのぉ...くらい言って欲しかったな。妙なCGとか全体的にいまいちなんだけども、ポン・デ・リングぶら下げずともダイアナが超絶可愛かったので、そこのとこだけは良かった。でもやはり、"はしってもはしっても〜♪"で終わってくれないと物足りん。我が国には出来の良いアニメ版があるので、それだけで十分じゃないかとボンヤリと思ってしまった。

鑑賞日:2019/01/03 監督:ジョン・ケント・ハリソン


顔役

顔役

正月なのでまた好きなやつ。傑作過ぎて言うことおまへんがなっ。勝新の追求したあらゆるカッコいいとアヴァンギャルドなショットが詰まっている怪作。勝新は勿論の事、大滝秀治の扇風機の下り等々の細かな小ネタに至るまで完璧の連続。いくら探しても見つからない『混血児マリー』の音源と一緒に商品化を強く望む一本。久々に警視-Kが観たくなってきた。余裕の星10個越え。

鑑賞日:2019/01/02 監督:勝新太郎


或る夜の出来事

或る夜の出来事

2019年一発目は好きなやつで。最高だな、キレのあるクラーク・ゲーブルの親指。そして秀逸極まる舞台装置の薄くて厚いジェリコの壁。映画に大事なものが全て詰まっている感じ。大傑作。

鑑賞日:2019/01/01 監督:フランク・キャプラ