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セント・マーティンの小径

Films: Feb.2020『セント・マーティンの小径』ほか

Mar,01 2020 12:00

2月も継続して毎日映画で地味に傑作が多かった気がする。
久々の神代辰巳作品から始まって、大島渚、ペドロ・アルモドバルなどなど馴染み深い監督作をちょいちょいと。
今まで全く観て来なかったイタリアの映画監督、エルマンノ・オルミ作品は最大の収穫だった。
1900年間近の農村を描く『木靴の樹』にルトガー・ハウアー主演の『聖なる酔っぱらいの伝説』と両方ともに素晴らしい。
先月に続いての多彩なオランダの監督フィンセント・バル作品も全てにおいてクオリティが高い。
その他、イランのマジッド・マジディの傑作『運動靴と赤い金魚』やスタローン主演の超掘り出し物『刑事ジョー/ママにお手あげ』と傑作多数。
そんな数ある傑作を凌駕するヴィヴィアン・リーの可愛さったらない。

観た映画: 2020年2月
映画本数: 30本

ローサは密告された

美人なカミさん(40kg痩せれば)を筆頭に大体クズしか出てこない。環境が人に罪の意識を感じなくさせるのかは良く分からんけれども、見渡す限り美徳と云う文字はかけらもない。私腹を肥やすのが当然な弱肉強食の世界でケツの毛までむしり取られないと改心するのは難しいと。保釈の為に家族が協力して良い話風にしているけども、冷静に考えると色々酷いフィリピン事情。画に合ってるんだか合ってないんだか、やたら良い感じのアンビエントと雑多な街模様とで傍から見る分には面白い。

鑑賞日:2020/02/29 監督:ブリランテ・メンドーサ


ビッグ・リボウスキ

昔懐かしシネマライズ。あっちこっちとモメるアメリカと云う国の様な一本だな。中年的「そう云うものだ」の精神が諦め半分に適当半分で滲み出ながらも結構熱いってのは若い頃よりも今の方が楽しめた気がする。色んなLAがあるけども、イーグルスが流れる様なLAもやっぱり好きよ。実家に束でポストカードとチラシがあった。

鑑賞日:2020/02/28 監督:ジョエル・コーエン


ジグザグキッドの不思議な旅

ネコのミヌースが面白かったので観てみる。テイストは似た感じだけどもテンポが良いので全く飽きない。ニュータイプ級な少年のたくましい想像力で捻じ伏せる様に謎を解決するのは、優秀な少年って事で納得する。ユダヤ教の13歳成人になるにあたって一皮剥けたか既に割礼されてるかは分からんけれど、ラウンジーな選曲と雰囲気でこれは好きなやつ。

鑑賞日:2020/02/27 監督:フィンセント・バル


刑事ジョー/ママにお手あげ

非の打ち所が全くないぞ。数多の母ちゃんネタや存在だけでほっこりするピクシーちゃんに始まって、オーバー・ザ ・トップよりキマってるトラックシーンとつまらんところがない。更にはロッキーでも使用の若い頃の写真とまた細かい。吹替えしかなかったものの、これは当時っぽくてむしろ正解だった。母ちゃんのパイナップルケーキと云うワードに胸がときめく。

鑑賞日:2020/02/26 監督:ロジャー・スポティスウッド


ピータールー マンチェスターの悲劇

上品に過剰防衛する感じがイギリスっぽい。ナポレオン戦争による国家の疲弊に王政の腐敗とで起こる民主化運動。劇中の大部分で民衆は演説してるのだけども、そこにあるのは何か耳を通り抜け続ける感じの無力さで、おまけにちょいちょいぶった切られる。そこからの非武装の民衆への虐殺って事で、自由を渇望しながらもキリスト教的には自由を統治者に差し出している無力な者達への死体蹴りみたいな事態になっていると云う虚しくまさに愚かな歴史。最低限のパンを与えられないお上の無能さの歴史は我が国含めて古今東西見られるけども、確かにこの事件は酷いねぇ。後半の為に退屈な前半を狙ってたら凄い。

鑑賞日:2020/02/25 監督:マイク・リー


薔薇の名前

異端審問な時代の犬神家って感じで、若干ヘンリー・ジョーンズっぽくもある。出てくる修道士が全員極悪人面で酷い。エロ本探してるみたいな感じで発禁本なギリシャ哲学を巡り、知識の保存か探求のせめぎ合いなんかの末に現代があると思うとなかなか感慨深いものはある。しかし原作のせいか分からないけども、謎解き要素を筆頭に色々詰め込み過ぎな気はしなくもない。クリスチャン・スレーターに語らせる感じとF・マーリー・エイブラハムのサリエリ感はこの時代の映画っぽくて嫌いじゃないけど。にしてもラマン然り、ジャン=ジャック・アノーは濡れ場シーン撮るのが上手いねぇ。

鑑賞日:2020/02/24 監督:ジャン=ジャック・アノー


エリザのために

不正に手を染めるのは性根が腐った奴だけとは限らないと。しかし己が正しいと思う不正を皆がやれば法もへったくれもなく国家は混沌とする。少しのズルがあちこちを巻き込んで不運続きってのは映画的に話が面白すぎるけども、ややもするとそう云うもんかもしれない。バカ正直はつまらない目に遭うって時代はいつかは終わるんだと信じたい。

鑑賞日:2020/02/23 監督:クリスティアン・ムンジウ


運動靴と赤い金魚

この凄まじい貧乏にしてこの兄妹が全くいじけた性格じゃないってのが泣ける。こんな子供たちがこの世にいる気がするしないは別として、これがおもんぱかるってやつなんだな。そんなお兄ちゃんが妹を忘れて瞬間的に長距離走者の孤独になり、直後の泣き顔と賞品の靴とのツーショットとこんな素晴らしいシーンはなかなかない気がする。とても良かった。

鑑賞日:2020/02/22 監督:マジッド・マジディ


ジェシカ

クソださい武装をしつつ、bokete欲しそうなキメシーンが多すぎて笑いを堪えきれん。序盤の掴みこそ結構良い感じではあったんだけども、ぬるめな設定と妙なCG多様とで段々クドくなり、低予算っぷりが露呈してくる。コミュニティうちの数人にしかスポットの当たらないそれぞれの人間の内部の葛藤をリゾート地っぽいところでやるって云うある意味前衛的な作品ではある。おまけにディストピア感もドローンの恐怖もが全くないのも残念。フォーエバー。

鑑賞日:2020/02/21 監督:キャロリーヌ・ポギ


セント・マーティンの小径

中年男子的には死にたくなるけども、男前なラストで締めるチャールズ・ロートンで更に泣ける。下手したら殺人事件が起きてもおかしくないケースだな。すっとぼけ全開の超天使な自由ちゃんことヴィヴィアン・リーの潜在的な高嶺の花感で結構良い子、それだからこそ惹かれるし、諦めもついて丸く収まっている状態。外から中へ、中から外へと絶妙な具合に描かれる生きる環境の差の切なさったらない。イギリス的4人のルーフトップコンサートっぽい描写や良い仕事するワンコとサブな見所も多数。

鑑賞日:2020/02/20 監督:ティム・フェーラン


レミニセンティア

自主制作っぽいと思ったら自主制作との事。電脳ハック状態で早いとこデフラグしなさいって感じでちょっと懐かしい雰囲気で嫌いじゃない。安易なSEとエフェクトはともかくとして、締めに向けての盛り上げ方は結構良い。ロシア正教の画はあんまり関係なさそうだけど。

鑑賞日:2020/02/19 監督:井上雅貴


ある過去の行方

家族関係が複雑な上に修羅場過ぎる。火に油を注ぐってよりは、すでに怒ってるのでどんどん大変になる感じ。皆が何かしら想いを抱えこんでいて、どよーんと重い空気に支配されている辺りをキッチリと作り込んでいて凄い。OPのガラスと危なっかしい車、しょっちゅう悩まされる雨模様にいつまでたっても乾かないペンキと心理描写とのリンクが実に秀逸。答えは自分で全て分かっていても、上手い事処理できない人間臭さ。人ん家の痴話喧嘩の何が原因であーしたこーしたなんぞには興味ないんだけど、これは傑作。大事なのは今です、ハイ。

鑑賞日:2020/02/18 監督:アスガー・ファルハディ


夜は短し歩けよ乙女

原作読んだのが昔過ぎて忘れてるけど、こんなだったんだろう。樋口師匠、羽貫さん、ジョニー、小津っぽいの等々、キャラ含めてほぼ四畳半神話体系。空間な四畳半に対して今作は時間的な意味での壮大(魔の山みたいな)さで結構楽しい事は楽しい。大人の事情の産物か、ざーさん声は良いとして星野源は通りが悪いねぇ。

鑑賞日:2020/02/18 監督:湯浅政明


アフリカの女王

訛ってる風で小汚いボギーと無理ゲー要求が過ぎるキャサリン・ヘプバーンのイチャイチャが実に微笑ましい。やってる事は地獄の黙示録の川下りの数倍ハードだとは思うのだけれども、笑ってられるってのは愛がある故と。苦労して下る人間と何があっても下流へと向かう自然の摂理の比較も秀逸。良かった。

鑑賞日:2020/02/17 監督:ジョン・ヒューストン


マーラー 君に捧げるアダージョ

超難解さと他を凌駕する至高の旋律との両側面なイメージのマーラー。フロイトの精神分析の詳細はあくまで創作との事ではあるけれども、深く潜って上昇と映画的には上手いことできている様に思われる。幸福な時代とその後の時代のアダージョとで天才的なのは言うまでもない。時代のミューズ的なエロいカミさんとガチ天才の良い勝負って感じの見応えのある作品で、パーシー・アドロン的なところもちゃんと確認できてかなり楽しい。サロネン指揮はTVでしか見た事ないけどもキチっとしてキャッチーな印象(容姿含む)でありつつ、結構熱い感じなので好き。

鑑賞日:2020/02/16 監督:パーシー、フェリックス・O・アドロン


暴走パニック 大激突

仁義なきで云うところの鉄砲玉クラスなキャスト揃いのせいなのか血の気が凄くてやたらと活きがイイ。そんな中で狂気の三谷昇にエピソードとしてはほぼ不要な林彰太郎の男色描写と余計なもんが詰め込まれていて、それがかえってバランスが取れている気がする。チンピラ側じゃない川谷拓三はやっぱり川谷拓三だった。膨れ上がるカーチェイスは玉突きってレベルじゃない大惨事でタイトルど直球。10年分のカーチェイス見た気分。

鑑賞日:2020/02/15 監督:深作欣二


パディントン 2

ドジっ子キャラで礼儀正しくてモフモフってのは敵なしじゃないか。伏線回収とその構成が前作より格段に丁寧になっている気がする。より豊かになった表情で電話やら水中のシーンの目なんかはこっちの目から水出す勢い。心、洗われました(ガトー風)。

鑑賞日:2020/02/14 監督:ポール・キング


パディントン

EU離脱とか言わずにみんな仲良くやりましょう的な。緩い鉄板な筋、よその監督風のドールハウス等々の詰め合わせでもご都合過ぎでもモケモケが動いてるってだけで楽しいぞ(たまに目が怖いけど)。礼儀がクマにも劣るヒト科なんぞゴロゴロいる世の中と考えたら、下半身丸出しでもキチンとしたクマの方がよっぽど好感が持てる。ミッション・インポッシブルを敢えてやってのけるニコール・キッドマンは流石だねー。

鑑賞日:2020/02/13 監督:ポール・キング


ウエストワールド

ブブブ...。若干西部に偏り気味だけど、ネズミの国もびっくりなテーマパークだな。欠陥だらけな使えないシステムに右往左往な使えないキャスト、更には穴だらけでディテール無視な方向とカオスな感じで面白い。ターミネーター化した恐怖のユル・ブリンナーほかキャストがゲストに襲いかかるってのはよく考えると超怖い。未来系なセットとツボを押さえた劇伴も結構良かった。

鑑賞日:2020/02/12 監督:マイケル・クライトン



久々。キャハハウフフな時代からのお先真っ暗な倦怠期。愛の不毛は即ち死に値するものの、中途半端な感じで世界が続いて行くものでもあるって云う。後のBad Bad Thingのやつとも通ずるものがある感じ。それにしても人物と建築物の構図、反転等々がいちいちキマり過ぎてて痺れる。

鑑賞日:2020/02/11 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ


聖なる酔っぱらいの伝説

ある意味では共通の脆さがあるんだけども、レプリカントより圧倒的に人間くさい。死を目前としたボーナス連鎖みたいな感じなミラクルで結構怖い。ストラヴィンスキーの調べにのせて酩酊が増すにつれて起き続ける人生の走馬灯みたいな邂逅。常にどこか引っかかりながらも再生を先延ばし酒に走るの図はまさしく酒呑みのそれっぽい。そんな酩酊に合わせての夕暮れ時の赤から青への変化、雨の沈黙、十字架のプレッシャーやらの繊細な見せ方が実に素晴らしい。サンドリーヌ・デュマ可愛いな。

鑑賞日:2020/02/10 監督:エルマンノ・オルミ


真昼の死闘

ラバ風擬音にホーリーなのにウエスタンと天才的なモリコーネ。キュートなシャーリー・マクレーンに小刻みにケツを叩かれまくるラバ+ラバ(クリント・イーストウッド)。最後の奇襲も含めて大体のシーンが行き当たりばったりなんだけども適当で緩い感じで良い。シスターと紳士面している二人の無理しきれないでたまにお漏らしする本性、そんな緩さと通ずるものがあるからまた面白いんだろうね。エグい感じのドン・シーゲルのバラしの数々もしれっと入っている。

鑑賞日:2020/02/09 監督:ドン・シーゲル


催淫吸血鬼

1stの頃のピンク・フロイドみたいなサイケがぶつ切りされながらも延々と流れる。確実に笑いを取りに来ている三度の女吸血鬼の登場シーンは良い。無意味な露出、ロケーション、絵面、もはや素人くさい黎明期の様な編集効果と申し分ないんだけども、困った事に話が全然面白くない!! でも雰囲気は好き、不思議だねぇ。

鑑賞日:2020/02/08 監督:ジャン・ローラン


母の残像

死後どころか生前まで亡霊の如くなユペール様を軸として残された者たちのそれぞれの視点、記憶を描く。断片化され、スムーズでないシーケンスと家族関係の距離とでなかなか上手い事できているかと思われる。トリミングされ隠されたみたいな真実によってギクシャクしてます的な。後に引きずるまでの衝撃音と呼吸音はそれぞれの内面で凄い事になっている。憧れのチア部の聖水と共に流れる涙は良いシーンだったな。叔父の名前がなくとも成立している。

鑑賞日:2020/02/07 監督:ヨアヒム・トリアー


ハイヒール

美しい。色彩で目が痛くなる秋のソナタ。ハイヒールに絡めてシンデレラ状態のホクロのイチモツとか上手過ぎ。ラストにそこを開く為のごとくな地下室も実に秀逸。憎さで愛は殺せない母娘。号泣なところとキッチリ笑わせるところと抜け目ない。この頃の教授は後の五輪とスペインと関係が深かったのね。圧巻なマリサ・パレデス。

鑑賞日:2020/02/06 監督:ペドロ・アルモドバル


愛と希望の街

どこまで行っても分かり合えないブルジョワジーとプロレタリアアート。愛も希望もこの溝を埋める事は難しいようで。あまりに安い金持ちの同情に己れの恋路とを秤にかける中間の先生と根が深い貧困問題に打ち勝つにはあまりに頼りない上にちょいと筋が安っぽい。生きる為には鳩売りますわってのは分かるけど。ラスト近くの不穏な斜め描写と鳩小屋破壊でようやく大島渚って感じになる。

鑑賞日:2020/02/05 監督:大島渚


木靴の樹

ベルトルッチで云うところの1900年の前夜で封建制度が色濃く残る社会背景。バッハのせいか時折タルコフスキー観ている気分になる。ダイレクトに社会の犠牲者である農民の生活なんだけれども、ミレーよろしく淡々と描き出される彼らの営みはそんな社会とは関係ない出来事のようにも思える。彼らの生活において重要視されているのは貧困からのひたすらな救済、隣人愛と家族愛で、迷える仔羊達の弱者脱却の為の反抗の機はまだ熟していない(熟しつつはある)。道端に寝っ転がっている人間をスマホ見ながら素通りする現代からみると信じられない生活ではあるとは思うけれども、彼らの生活の中には現代にはない幾ばくかの真理が確実に含まれていると感じずにはいられない。

鑑賞日:2020/02/04 監督:エルマンノ・オルミ


フジコ・ヘミングの時間

観たかったやつ。可愛らしい。現在もさることながら、昔から絵心ひとつとってもガーリィだわね。ビジュアルから生い立ちまで含めて唯一無二って言葉が全く持ってしっくりくる演奏家の一人なフジコ・ヘミング。発言の多くが達観している風な彼女にオリジナリティと云うものはこう云うものなのよッ、ハッ!と諭されてるような一本。そして彼女が築いた各所の美しい別宅は建もの探訪に出てくる全てを一蹴できるレベル。MONSTERのEDばりの歌声も堪能できる。ちょんちょん...(爆泣)。

鑑賞日:2020/02/03 監督:小松莊一良


ジョーカー

暗い上に屈折してるナー。ホワイト・ルームから出しちゃいかんけど出ちゃう運命であり悪運と云う。話自体はまぁ面白いんだけど、妄想の下りとか説明は不要だよねぇ。兆しから確信へと変わるってのも分かるんだけど、いちいちスローでやられてちょいとダレる。巷で溢れかえっているようなスコセッシ風ネタもどうだろう。ホアキン・フェニックスの演技力だけで十分に映画は成立はしているとは思うけど。ブルースのゴミを見るような冷ややかな目、つまりそう云う事だ。

鑑賞日:2020/02/02 監督:トッド・フィリップス


赫い髪の女

雨、雨、雨。どこもかしこもビショ濡れ。なんだあのオープニングは、素晴らし過ぎだろ。そして卑猥な歌のスタイリッシュな挿入をさせたら神代辰巳にかなう人はいないんじゃないかとすら思われる。ポルノのフィールドでのエロ事師的職人技(強引なのも沢山あるけど)が見事なのは勿論として、滑稽さに腹の底から笑うと同時に突き刺す様な悲しさに見舞われる痛い感じってのは神代作品ならでは。三谷昇等の脇役もまた濃ゆいのが揃ってる。いやまぁ、しかし亜湖って可愛らしいよね。

鑑賞日:2020/02/01 監督:神代辰巳