Films: Jun.2020『放浪記』ほか
Jul,01 2020 13:00
世の中が無理矢理に経済回す風潮になっているものの、映画館には足が向かない。
昨年末くらいから『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』公開に備えて過去の劇場作品、アニメ版の『愛の若草物語』、『ナンとジョー先生』からL・M・オルコットの第一から第四までの『若草物語』と無駄に映画のエピソードと関係ないところまで気合を入れて備えていたものの、二の足を踏んでる状態。早く観たいんだけど。
そんなかんなな6月は『放浪記』、『乱れる』、『女が階段を上る時』、『娘・妻・母』と完全に成瀬巳喜男監督とデコちゃん一色な感じ。
『モンキー・ビジネス』、『赤ちゃん教育』等のハワード・ホークス作品も多めで両者ともにハズレがなくて安心して観ていられる。
久々のギャスパー・ノエ『CLIMAX』やパオロ・ソレンティーノ『LORO 欲望のイタリア』の準新作群もなかなか。
森崎東作品『女咲かせます』のタケノコの下りみたいな強烈な泣きと笑いを同時に誘発するあたりもまた安定の森崎東な具合。
普通に外出できるってのは贅沢な事なんだなとしみじみ思う今日この頃。
観た映画: 2020年6月
映画本数: 28本
囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件
ジャングルでも麗しいユペール様は良いとして、神の名の下にってのは大方が独りよがりな気がしなくもない。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を彷彿させる身勝手かつ劣悪行軍の酷さと同じくらいに政府と軍隊の対応も最初からずさん過ぎて胸糞が過ぎる。ユペール様動揺の英語→フランス語の所は流石の貫禄。で、極楽鳥が意味深過ぎてまた怖い。無理矢理ジャングルに引き込まれる様な謎の勢いのある映画だった。
鑑賞日:2020/06/30 監督:ブリランテ・メンドーサ
女咲かせます
軍艦島の途中で立ち寄った高島。訪れた際にお勉強した炭坑夫の末路のあれこれに寄り添う形の話で余計にグッとくる。これ以前の森崎東作品に比べるとやや弱い気もしなくはないけれど、竹の子の下りの強烈な泣きと笑いを同時に引き起こす感じはいつもの森崎東。乙女ないじらしさで紆余曲折してるのに筋がビシッと通ってる役をキッチリこなしつつ、ぶら下がり健康器具で腹筋虐めながら妄想する松坂慶子もとても良い。ボタ山に昇りつめるラストってのは今作的にはこれ以上ないんでないだろうか。
鑑賞日:2020/06/29 監督:森崎東
仔鹿物語
ペット的可愛いと害獣は両立しないと、飢えと戦う開拓者の厳しいあれこれ。全てが憧れの生活でありつつも、フニャフニャの現代人な自分にはとてもレベルが高い。この環境下において色白&演技が微妙な美少年でも、開拓者的荒くれ成分が足りないグレゴリー・ペックでも、美しい画とひとつの成長の物語とで結構見応えがある。つぶらな瞳を克服するのは簡単じゃない。サバイバル。
鑑賞日:2020/06/28 監督:クラレンス・ブラウン
娘・妻・母
兄弟は他人の始まりって事でほのぼのした雰囲気の中、黒々としたあれこれが渦巻くお家騒動が展開される。原節子(出戻り)、デコちゃん(嫁)のニ大聖女設定を軸に絶妙な緊張感を保つ前半から新旧の血縁達のエゲつない後半と目が離せない。あまりの緊迫感で劇中の桜餅、煎餅同様にこっちも煎餅が止まらなくなる。そして最後に良い感じに全てをかっさらう笠智衆。親子設定の実年齢、還暦扱いの三益愛子(50)、森雅之(49)だそうで...。
鑑賞日:2020/06/27 監督:成瀬巳喜男
娘よ
あくまで現代の価値観としての男尊女卑的な言いたい事は分かる。山岳地帯、羊、ワンコ、羊、牛、デコトラから最後の喧騒までの見せ方も美しく撮影されており、それだけで観る価値がある。で、メインテーマの児童を嫁がせるなんざは勿論もってのほかではある。ものの、娘の命の為の犠牲は良くて強者のエゴは絶対的に悪ってのをベースに涙を誘ってくる感じがちょっと安っぽい上にモヤっとしなくもない。
鑑賞日:2020/06/26 監督:アフィア・ナサニエル
悪魔の美しさ
大分脚色されて、ワルプルギスの夜とかはない。ファウストとメフィストフェレスの反転や鏡を使った入れ子構造、音楽の使い方なんかもとても良く出来ている。なんだけど、脚色し過ぎで革命だのなんだの無理矢理フランス寄せな話になっているのはどーなんだろ。人間が一番悪魔的ってとこに落ち着けば、これはこれでアリなのかと云う気もしなくはない。
鑑賞日:2020/06/25 監督:ルネ・クレール
わが青春のフロレンス
イタリアでよく見かけるブルジョワジーが〜ってやつ。階級格差が世代に渡って続く19世紀後半と現代とではちょっと事情が異なるのは否めない。良くも悪くも筋がストレート過ぎてナンなんだけど、当時のフィレンツェの風俗を再現する気概とほわ〜んとした画は結構好きだったりする。死ぬほど流れるモリコーネの大袈裟なテーマは勿論良いに決まってる。
鑑賞日:2020/06/23 監督:マウロ・ボロニーニ
リオ・ブラボー
みんな結構なポーカーフェイスな上に殆ど籠城戦だからなのか、ほのぼの平和的雰囲気がある。それでいて各所の場面が実にリズミカルと云う。色んな『投げる』がモーションテーマとして最初から最後まで徹底されてる感じもまた凄い。ジョン・ウェイン筆頭で年齢順にヌケがあって各々が完全無欠じゃないキャラ設定も良い(リッキー・ネルソンは除く)。で、「...逮捕する///」のダイナマイト級な名言。隅から隅まで良く出来ている。
鑑賞日:2020/06/22 監督:ハワード・ホークス
ありふれた事件
胸糞が酷いけども、フィルムに音声にとそれらならではの凝り様で実に出来が良い。まともな美意識と正論とは裏腹にいや〜な陰湿さが内に蠢いてると云う、絶対近寄りたくないタイプな悪夢系男子。そんな主人公からの感化か恐怖か撮影側がしれっと登場人物化(勿論悪い方に)してくのが非常に怖い。フリーズするタイプのお誕生日会にフルートと要所の味付けも強烈。
鑑賞日:2020/06/21 監督:レミー・ベルヴォー他
プロムナイト
出来の良し悪しは別として、プロムだと表と裏舞台が駆使できて楽しくなるな。一番良いところでキャリーみたいな豚の血的なやつを想像してたら、斜め上(誤)のが転がってビビる。プロムにかける青春と復讐にかける青春とで前後半共々、結構哀しい青春映画。
鑑賞日:2020/06/20 監督:ポール・リンチ
黄金の腕
完全に明日からやる夫なヤク中熱演のシナトラ。OPや音の使い方やら結構上手なんだけど、黄金の腕とか自己犠牲とか設定が盛り過ぎな気もしなくはない。ドラムも殆ど叩かないし。閉塞感のある数々の室内撮影からの落下の縦はちょっと目が覚める感じでイイ。爆笑必須のエリノア・パーカーの戻りの表情、キム・ノヴァクの色気もなかなか。
鑑賞日:2020/06/19 監督:オットー・プレミンジャー
女が階段を上る時
女の階段を比喩直喩を交えて実に上手いこと作ってある。セルフの縛りを胸中に性に合わない水商売でキビシイ冷風に吹かれまくるデコちゃん。死守した心の隙間の堤防決壊からのお見送りで女を上げたと云うか、己が弱さと決別するデコちゃん。終始難しい顔から最後にようやく見せる吹っ切れた表情でこっちが安堵する。そんな孤高の演技のみならず、衣装も手がけるとか有能過ぎる。
鑑賞日:2020/06/18 監督:成瀬巳喜男
彼女について私が知っている二、三の事柄
知っている様でいて何も知らないと考え始めたら、収集がつかなくなってくるので考えるのをやめた俺。資本主義が現実的に綻び始めた21世紀から見ると先走りまくっていて凄い。やがては廃墟のアーバンなニュータウンで団地妻の実態と壮大な思想。己が脳内をガンガンに素通りしまくる言葉の数々に、つまり言葉ってのがそう云うものなんだろうとチラと気付いたような。
鑑賞日:2020/06/17 監督:ジャン=リュック・ゴダール(ハンス・リュカス)
潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ
楽園の様なフロリダと孤独な年寄り達。武勇伝オンリーな老人なリチャード・ハリス、年齢を積み重ねた故のシャーリー・マクレーンの眼差し。そんな老人達を見て段々と実感が湧いて笑ってられなくなってる自分がいる。キューバ革命脱出のピュア男を演じるロバート・デュバルはナパーム弾落としてた人とは思えない程。ドラマチックな髭剃りシーンだったら映画史上トップクラスなんでないだろうか。
鑑賞日:2020/06/16 監督:ランダ・ヘインズ
海燕ジョーの奇跡
トロピカルな雰囲気で良いけれども、時任三郎に対して大物役者達の格の違いが浮き彫りにされた感じ。それぞれ存在感がある中で、原田芳雄の赤いタオルだけで誰か分かるってのも凄い。この時期の藤田敏八のいつもやってる風な空撮はともかくとして、スラムの撮影は臭ってきそうな程。総じて主演以外は結構イイ線行ってる気はする。キッチリ濡れ場をこなしつつ、藤谷美和子の沖縄弁が萌えまくるだけでまぁ、良い作品かと思われる。宇崎竜童感はちと薄い。
鑑賞日:2020/06/15 監督:藤田敏八
さよなら銀河鉄道999 -アンドロメダ終着駅-
気合いの入ったアナログだけど立体感のあるアニメーションとメーテルとの再会のシーンはかなりグッとくる。のだけども、正直なところ前が良かったので蛇足な気もしなくはない。ホルストかジョン・ウィリアムズに寄せてる感じのスコアはまだしも、ファウストの露骨なダース・ベイダー感はちょっと引く。メーテルは青春の幻影って言葉が思春期的なエロさを感じた。
鑑賞日:2020/06/14 監督:りんたろう
テルマ
ブブブ...。とんだエスパーっ子だな。能力的にはキャリーよりヤバい感じがする。大袈裟な画に大袈裟なスコアと、どうしても比べちゃう叔父の手法(なんならドグマ95的)とは対極にある気がする。叔父さんの方は多種多様なユーモアがあるからこそ引き立つ諸々があるものの、こっちはずっとシリアスでピーンっと張ってる風でちょっと疲れた。リミッター外れて正常化。
鑑賞日:2020/06/12 監督:ヨアヒム・トリアー
乱れる
おらが街にイオンができて小店が危機みたいな事案は今と変わらずあったのね。そんな一つのトリガーから始まる今作で、義弟の告白からの後家義姉ことデコちゃんの胸中乱れっぷりが凄い。徐々に瓦解する普通と思われた生活。常識と女心の間で揺れまくって葛藤している様子が画面を越えてこっちまでグラグラしてくる。目に溜まる涙の加減とダッシュからの止まってしまう際の表情の見事さっと云ったら溜息が出るほど。加山雄三はいつもの加山雄三(全く問題ない)なんだけど、お互い上手だからなのか、高峰秀子とのリズムがバッチリ合ってる気がする。微妙な関係の進展に併せながらだけに余計に凄い。ビッチな感じの浜美枝はどうかと思うけど、素晴らしい。
鑑賞日:2020/06/11 監督:成瀬巳喜男
聖者の午後
ワールドカップやらを控えて特需ムードの蚊帳の外の人々の存在ってどこかの国でも見たような。こう云うのがソフトに死んでいるって事か。真面目に仕事をする事が尊いのは良いとして、夢も何も抜け出す術もないときたら怠惰にするしかねぇと。ポスター宜しくストレンジャー・ザン・パラダイス風な雰囲気なものの、これはよそ者どころか土地を離れる事すらできないブラジリアンイシューな一つなんだろう。フォーカス外しからのポラロイドのシーンがとても美しかった。
鑑賞日:2020/06/10 監督:フランシスコ・ガルシア
赤ちゃん教育
人の話を聞かないどころか完全なる狂人そのものなキャサリン・ヘプバーンとバラエティ豊かな奇声を発する通常営業なケイリー・グラント。化石より生きてるアニマル達って事でみんな躍動感が異常。で、惚れ惚れする程に道筋が完璧に作り込んである天才的なハワード・ホークス。拒否犬ならぬ拒否豹で悶絶。
鑑賞日:2020/06/09 監督:ハワード・ホークス
LORO 欲望のイタリア
酒池肉林(肉欲的な意味合いで)ってのは虚しいもんなんだな。現実に引き戻される入れ歯洗浄剤の臭いが超哀しい。最近のパオロ・ソレンティーノ作品での雛形っぽい前半が乱痴気、後半が哀愁ってのは嫌いじゃないけどちょっと長い。と思ったら2部構成だったのね。それを捻じ伏せるほどの映像美なんだけど。不自然かつ似過ぎなトニ・セルヴィッロは毎度良いとして、アリス・パガーニちゃんなる子以外全員好みじゃないのは自分にラテンの血が入ってないからなのか。OPの倒れる子羊から暗示する悪政、からのEDの子羊たる民衆の惨状とで怒りが存分に伝わってくる。ACミラン無双な時代を考えるとこの人の存在はご贔屓にとっちゃ複雑なんだろうけど。
鑑賞日:2020/06/08 監督:パオロ・ソレンティーノ
放浪記
満点を振り切るな。高峰秀子が圧倒的過ぎとしか言いようがない。神様がいないとぼやきの限りを尽くしつつ、仏のごとしな加東大介がいつでも側にいてほっこりする。女の人の自立が難しい時代の話ながら、男女時代問わず底辺で足掻く人にはグイグイきちゃう筈。素晴らしい。
鑑賞日:2020/06/07 監督:成瀬巳喜男
ビバ!マリア
設定とか考えると普通に面白い筈だし、ミラクルなシーンも山盛り満載なのに何かテンポが悪い。B.Bとシワシワになりかかってるジャンヌ・モローが邪教レベルに持ち上げられつつ、革命成就して行く様はまぁフランスっぽくはあるんだけども、メキシコである意味が全く分からん。
鑑賞日:2020/06/06 監督:ルイ・マル
カフェ・ソサエティ
いつもの細かいアイロニー連発ってよりは規模がデカいアイロニー。上手くは進まないもんで、まさに人生は喜劇だわねぇ。で、ユダヤ人ネタは鉄板として、力でねじ伏せられる共産主義とか相変わらずサラッとピリっとしたモンを交えてくる。そんなウディ・アレン。歳を取っても『車のライトを見て動けなくなった鹿』等々の天才的な台詞回しと男子も濡れてくるロマンティックな情景の上手さは変わらずと云った印象。と云うか過去作を掘り出してる風な所がチラホラあってまた良い。そして得意のベルイマン的神の沈黙に対して『答えがないのが答え』とセルフでツッコミした上であのラスト。ほろ苦いどころじゃない。
鑑賞日:2020/06/05 監督:ウディ・アレン
Mr.BOO!ミスター・ブー
香港のマルクス兄弟ってのも肯ける。色んな映画のオマージュなのかパクリなのか挑発なのかスレスレの感じのネタが攻めてる風でとても良い。おまけに癖になる劇伴とやたらとお洒落なトランジションとで映画的クオリティも高い。冷蔵車の下りとかデ・パルマを瞬間的に超えてる気がするな。キッチリ映写室出してくるし。銭ゲバ以下の秀逸なキャラ設定と色んな布石回収の妙も然り。不謹慎な程に食い物で遊びまくりつつ、ちゃんと笑わす鶏肉とアーモンドチョコの達成感にちょっとグッとくる。
鑑賞日:2020/06/04 監督:マイケル・ホイ
CLIMAX
武富士からの阿鼻叫喚。みんな何やら大変だけど、冒頭のモニターの脇に積んでる作品群をパロってる? 見てるだけでこっちの肩が脱臼しそうな連中の身体の柔らかさがキモさを増してる感じ。色んな反転やらかすギャスパー・ノエではあるけれど、あんな反転は見た事ないな。色彩含めてカルネとかの頃から大分変わった様にも思えるし、変わってない様にも思える。いずれにせよ、宣言通り現代のフランス映画として存分に誇って良いレベルのお下劣映画。
鑑賞日:2020/06/03 監督:ギャスパー・ノエ
内海の輪
按摩で悶えるのっけから、ひたすら可愛いけど大袈裟演技の岩下志麻を愛でる。ヒロインを虐めがち且つ、瀬戸内海近郊の楽しい名所巡りな斎藤耕一っぽさと松本清張の崖感で嫌いじゃない。薄幸女子に捕まった中尾彬の言い分も分からんでもないけども、まぁクズだわな。ドロドロな火サス感満載の痴情のもつれながら、音楽の入れどころとか三國連太郎の寛容さとか結構キマってる箇所も多い。で、極めつけの落下する岩下志麻人形。
鑑賞日:2020/06/02 監督:斎藤耕一
モンキー・ビジネス
冒頭からスタイリッシュでグッと掴まれたと思いきや、それ以上だった。ドラッギーなケイリー・グラントの怪演は想定内なものの、それにジンジャー・ロジャースが加わって超カオス。冷静に考えるとLSDどころじゃないケミカル映画で実にアメリカらしい。結構しょうもないネタ詰め合わせみたいなんだけども、それらをスムーズに流れる様に話を持って行くハワード・ホークス。凄い。ピンナップ・ガールことモンローちゃんは存在してるだけで最高。
鑑賞日:2020/06/01 監督:ハワード・ホークス
category: 映画レビュー
tags: 2020年映画レビュー, ギャスパー・ノエ, ハワード・ホークス, パオロ・ソレンティーノ, 成瀬巳喜男, 森崎東, 藤田敏八