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人生模様

Films: Jan.2023『人生模様』ほか

Feb,03 2023 12:00

2023年明けて早々から多忙を極める今日この頃。
毎年3ヶ日は好きなのって事で、今年もお気に入りの作品より。マルコ・フェレーリ『最後の晩餐』にフェリーニ『』、ジョン・カサヴェテス『フェイシズ』と鉄板な感じの幕開け。
4日には前から気になっていた木下恵介監督、岡田茉莉子+乙羽信子+田中絹代の長尺『香華』を鑑賞。
去年の夏頃より再鑑賞の『少女革命ウテナ』も観終わったので、こちらも久々な『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』をようやく。イクニ凄過ぎ。
新年から再度読んでいたカミュの『異邦人 (新潮文庫)』に併せてヴィスコンティの『異邦人』を初鑑賞。流石なマストロヤンニ。
初鑑賞ものではスイスの映画監督フレディ・M・ムーラーの『山の焚火』に何故かずっと観てなかったヴィットリオ・デ・シーカの『ふたりの女』、ド直球タイトルなフリオ・メデム『ルシアとSEX』、更にはマイヒーローの御三家の1人『ブライアン・ウィルソン / 約束の旅路』と傑作揃い。
30年振りくらいな『タワーリング・インフェルノ』、『荒野の七人』も長尺ながら素晴らしい。
毎年、元旦に観たものを1月の顔としているものの、『最後の晩餐』は既出なので、今年はO・ヘンリーの短編集を進行するスタインベックな複数監督によるオムニバス作品『人生模様』を選択。
まだまだのんびりできなさそうな2月だけれども、ほどほどに映画を観る時間が取れたら良い。

観た映画: 2023年1月
映画本数: 21本

荒野の七人

久々。本家を良い感じにパクってると云うかリスペクトしてると云うかって具合なんだけど、きっちりクオリティが高いから凄い。志村喬ことユル・ブリンナーから始まってキャラ的にも本家を踏襲してる部分とオリジナルな部分とがあって良く出来てる。個人的には宮口精二のとこのジェームズ・コバーンとチャールズ・ブロンソン(千秋実) が好き。『○6+△1+た』の旗印的なのがないのとか、雨とかがないものの、砂埃メインな感じでこっちにはこっちの良さがある。劇伴まで伊福部昭級にしてくる感じなエルマー・バーンスタインのテーマも最高。

鑑賞日:2023/01/31 監督:ジョン・スタージェス


ブライアン・ウィルソン / 約束の旅路

最も尊敬するアーティスト3人の中の1人、ブライアン・ウィルソン様のドキュメンタリーって事だけで5点上げちゃう。辿ってきた歴史の痛々しさに加えて、現在も続く不安定さと終始モゴモゴしてる感じなお爺ちゃん具合で心が痛いのがぶり返す気分。愛聴盤なアウトテイク入り『ペット・サウンズ』とその後を映画でやってる感じで、当時の映像で目新しいのはなかったけれどもなかなか内容が詰まってる。お客にエルトン・ジョンにスプリングスティーンやらマイ・モーニング・ジャケットやらが出て来る訳だけど、ドゥダメル引っ張り出せるのはブライアン・ウィルソンだけって感じで納得。

鑑賞日:2023/01/29 監督:ブレント・ウィルソン


ビキニの裸女

B.B.のデビュー作ってのと、常時ツッコミ待ちみたいな邦題に釣られて鑑賞。びっくりするほどクオリティの低い海洋トレジャーハントもので、おまけに全体的にフィルムコンディションが悪く、常に何やらガスガス鳴ってる。ものの、泳いでるB.B.を見上げる図とか力尽きるとことかの水中撮影はかなりの意気込みを感じる。エーゲ海の燦々とした雰囲気もイイ。宝より大事なもの見つけましたと銭形っぽい感じで爽やかに終わる。

鑑賞日:2023/01/28 監督:ウィリー・ロジェ


タワーリング・インフェルノ

30年振りくらい。消防士に設備屋歓喜なパニック映画の金字塔な具合で、ボヤから始まり最後の爆破までハラハラドキドキの連続で実に良く出来てる。開始1時間くらいで登場する貫禄のマックィーンとポール・ニューマンの全盛期の御二方を中心に渋メンが揃って華やかさもある。『同じ間違いが起こらない様に神に祈るばかりだ』と呟く責任の矛先で渋メン先輩なウィリアム・ホールデンがやばい。そんなまさに人災の渦中で、持ってる男なフレッド・アステアとニャンコみたいなキャラ達と最初から死相が出てるやつがはっきり分かるのもまた映画的には面白い。この作品をデートで観たらしい若い頃のうちの両親はチョイス間違ってる気がする。

鑑賞日:2023/01/26 監督:ジョン・ギラーミン、アーウィン・アレン


惜春鳥

惜春鳥

青春の頃のズッ友宣言は儚い。友と風呂場で語らう図等々、白虎隊の地にして何やらゲイな雰囲気に包まれている。青春の残像と社会と云う名のあらゆる障害、汚なさを受け始める津川雅彦たちと、荒波を食らった後の佐田啓二って事でどっちにしてもツライ。さりげない登場から可愛さ全開な有馬ネコちゃんと佐田啓二が一番白虎隊してる。で、残った者たちが締めで赤いマフラーを捨てたり拾ったりが泣ける。中学校の林間学校で行ったものの全然記憶にない会津若松。最近欲してる温泉街的な風情満載で尚の事良かった。

鑑賞日:2023/01/24 監督:木下恵介


ルシアとSEX

ルシアとSEX

ド直球なタイトルを裏切らない。超いいオンナなパス・ベガ(後にランボーに出てる)が惜しげもなく脱ぎまくっていて、序盤は猿の如き濡れ場だらけ(構図がキメキメ)でスゴい。おっほーとなるも束の間、くどすぎて先行き不安になったものの、終わってみればなかなかどうして結構面白い。やり過ぎなくらい自由に時間軸に小説世界と現実世界を扱いつつ、登場人物が上手い事絡むスマホがない時代ならではの話って感じ。『穴に落ちると話の途中に戻る〜』と映画を通して、色んな『穴』使いに監督どんだけ穴が好きなんだよって具合なんだけど、『スローターハウス5』の終わりのないやつみたいで上手い事出来ている。悩んだけど5点上げちゃおう。殆ど記憶にない『アナとオットー』をもう一度観てみようと思う。

鑑賞日:2023/01/23 監督:フリオ・メデム


人生模様

O・ヘンリーの短編集を進行するスタインベックってだけで何やら重厚な感じがする。いるだけで面白いチャールズ・ロートンに一瞬登場でも強烈に可愛いモンローちゃんとできっちり掴んでからの至極のオムニバス5篇。流石な教科書レベルの『最後の一葉』に『賢者の贈り物』の号泣必至のやつの置き所が見事。全話それぞれに出来が良くて、つまらんとこが見当たらない。

鑑賞日:2023/01/21 監督:ヘンリー・コスターほか


マルメロの伝言

マルメロの伝言

ゼラニウム入りマルメロジャム騒動。スピリチュアル方面に暴走する父親(森に捨ててこいと思う)と嫁のマタニティブルー(怪しいポエムの才能)、更には世代間の携帯の扱いの差と共産主義社会のビフォアアフターとを上手い事使ってきっちり見せる映画になってる。で、散々なもどかしさが嘘だったかの様な素晴らしく綺麗な終わり方。謎チーズは要らんけど、ケバブ3切れ頂戴。

鑑賞日:2023/01/18 監督:クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ


少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録

久々にTVシリーズ観たので締めで。絶妙な具合で踏襲しつつの劇場版で超濃密。湾岸から見えるねずみの国の如くな幻想世界から脱却し、少女達よ現実の世界へって事で、改めて観るとかなり丁寧に説明しながら進んでる。シン・エヴァと似た様なテーマを20年近く前にやるイクニ凄過ぎだわな。王子の現実、実態っぽいナヨってる暁生のミッチー配役も上手い。傑作。

鑑賞日:2023/01/17 監督:幾原邦彦


パリよ、永遠に

ベートーヴェン交響曲7番第2楽章を使う映画でハズレはない。おまけにフルトヴェングラー指揮で時代感もバッチリ。時は1944年8月25日の未明から暁を背景とした密室会話劇。パリを破壊するか、パリを救うかの究極的な問答と倫理観をベースにバチバチにやり合う心理戦的外交。爺様2人で絵面的に超地味ながら、手に汗握る。日本橋の上に高速通しちゃう我々のスクラップ&ビルドの精神な我等は、美しいものを残すって感覚を学ばにゃならんと思う。日本版のロゴタイプは評価する。

鑑賞日:2023/01/15 監督:フォルカー・シュレンドルフ


秀子の車掌さん

成瀬巳喜男との第一作目って事で悪魔的な可愛さのデコちゃん(17)。今は昔の花形バスガァル。『稲妻』でもまたやって、『放浪記』ではやらない。戦時中を感じさせない様な緩やかな時の流れと、ほんわかした中で断固とした道徳感をねじ込んで来る具合。お上の象徴の如きエラソーな社長こと勝見庸太郎もなかなか。真夏になったらかき氷ラムネやる。

鑑賞日:2023/01/14 監督:成瀬巳喜男


男はつらいよ 花も嵐も寅次郎

久々。ジュリー夫妻の馴れ初めって事で、2人共全盛期って感じ。で、流石にそこに手を出す訳にいかん、キューピット役パターンな寅さん。メインの筋から、売り上げ金を足で押さえたりやら香典やらの細かいとこまで良く出来てる30作目。造糞機なるパワーワードも飛び出す。最初から最後までどころか、この頃の田中裕子の可愛さは異常。今はなき地元谷津遊園ロケ。こごみサンも出とる。

鑑賞日:2023/01/12 監督:山田洋次


異邦人

久々に原作読んだので。影一つない太陽の如く嘘がない人間は社会において非人間性のレッテルを貼られ、そして『太陽のせい』の台詞で社会から嘲笑されるってホントに良くできた話よね。ほとんど想像通りな再現、筋を良い感じに映画としてきちんとまとめてくる流石なヴィスコンティで非常にクオリティ高い仕上がり。『風変わり』人間をしっかりこなし、ラストは凄い顔付きなマストロヤンニにアンナ・カリーナのマリィもハマってる。素晴らしい。

鑑賞日:2023/01/10 監督:ルキノ・ヴィスコンティ


ふたりの女

ふたりの女

大人がやらかした全てに犠牲になる子供。『この目を見たならば』と机上の空論男なジャン=ポール・ベルモンドは言い、その目を見ても暴挙に走る輩がいるって云う生々しい戦争の実態。出発した瞬間にオチが予想できちゃうものの、そこへ辿り着くまでの危険と安全の塩梅が絶妙。からの廃墟の教会シーンの凄惨さに胃がやられる。ガハハと笑い、どこまでも短絡的なソフィア・ローレンを責める気にはならない様に丁寧に演出されていると思われる。ロゼッタことエレオノーラ・ブラウンの天使ちゃんぶりと、無能男との微妙な三角関係の図も面白かった。

鑑賞日:2023/01/09 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ


お吟さま

お吟さま

役者としての田中絹代の偉大さは言うまでもない。まんま悲愴って風な引かれて行く岸惠子の下りとか苦悩を秘めた晴天の淀川、更にはラストの盛り上がりと監督としての手腕もなかなかではある。ものの、全体的にやや学芸会っぽいと云うか、役者のポテンシャルを活かしきれてない感もなくはない。アンチクライスト&アナーキー気な悲恋がトリガーのすったもんだの末、貫禄の中村鴈治郎(2nd)利休から娘へと心の継承の部分は結構引き込まれた。で、あんまり桃山衣装が似合ってない有馬ネコちゃんより、お付きの冨士眞奈美の可愛さに釘付けになる。少女漫画チックな演出でこれはコレって感じなものの、映画的には勅使河原『利休』の方が好み。

鑑賞日:2023/01/08 監督:田中絹代


山の焚火

リアルなアルプスの少年少女な具合。ほぼハイジの世界でありつつも、アニメのほっこりフィルターを通さずに現実を切り取った閉鎖環境のソレは一から十までハード。ドローンサウンドで表現される聾唖の世界と生活音を交互に聞かせつつ、下界と隔絶された山小屋の生活が描かれる。アルプスを見舞うフェーンよろしく、爆発寸前な坊やを中心に増して行く緊張感とほのぼのを絶妙な加減でやるからまた素晴らしい。双眼鏡に太陽光や抱擁の鏡、黒布に小窓等々の小物使いに孔明の石兵八陣みたいな山の呪術的なやつもまた上手い。極寒と雪に埋もれ、喪失、もしくは孤立が深いほどそれと同時に幸福な2人。山の空気の如く冴え渡った一本。ユキちゃん的なやつは出てこないけど、大傑作。

鑑賞日:2023/01/07 監督:フレディ・M・ムーラー


香華 後篇

後篇。奔放からのJeepでどんだけだよと。一見日向な母と日陰者な娘で、共に望むものからは縁遠く、殆ど腐れ縁な血の濃さはどこまでもついて回る一生。廊下の先にぽつんとした岡田茉莉子のショットが世代ごとに描かれる訳だけれど、いつまで経ってもぽつんとしているのがえらい哀しい。ちょいちょい出てくる土砂降りの中を行くってシーンも印象的。で、劇中の乙羽信子同様にしっかり帳尻合わせて締めてくる木下恵介。素晴らしい。

鑑賞日:2023/01/05 監督:木下恵介


香華 前篇

明治、大正、昭和とまたがって、親を捨てないタイプの木下恵介作品。前編。常識人な田中絹代と岡田茉莉子に挟まれた乙羽信子の異端っぷり(流石な演技力)が凄まじい。

鑑賞日:2023/01/04 監督:木下恵介


フェイシズ

2023年正月3本目。酩酊に下らないジョークに空気となって消えてしまいそうな戯言の数々の顔、顔、顔の下に潜む苦悩や恐れが痛いほど分かる。ジャズの如しな即興的な撮影、演技の中でスッっと心情を露わにする瞬間がまぁ人間臭くて素晴らしい。からのラストの階段シーンで最高。しかし何やってもイイ女なジーナ・ローランズ。

鑑賞日:2023/01/03 監督:ジョン・カサヴェテス



2023年正月2本目にして20年振りくらい。そこらに落ちてる小石だとしても、世の中の何かの役に立ってるって事でまぁ素晴らしい。取るに足らない存在だった筈が、波打ち際→静寂→嗚咽を誘発の流れが感動的過ぎる。微々たる小石が、例えるなら石を穿つが如くに時間を経て人の心を大きく揺さぶり捉えるって演出がまた見事。オラついたアンソニー・クインありきなものの、ジュリエッタ・マシーナの表情の数々にニーノ・ロータの素晴らしいテーマ、フェリーニの上手さの相乗効果な具合で傑作以外の何物でもないって感じ。

鑑賞日:2023/01/02 監督:フェデリコ・フェリーニ


最後の晩餐

2023年の1発目は大好きなやつ。それぞれに壮絶な死に様なんだけども、やっぱりミシェル・ピコリのが強烈。人生の空虚さ欲望のごった煮の中で、時折見せるミドルエイジ達の無力感に苛まれる素の表情がホント上手い。具合悪くなるほどの飽食映画でありつつも、出てくるもんが全部美味そうで困る。そして愛聴盤なフィリップ・サレドの官能的なテーマ。傑作。

鑑賞日:2023/1/1 監督:マルコ・フェレーリ