Films: Dec.2022『東京暮色』ほか
Jan,02 2023 16:30
気づけば野坂昭如の『師走』を口ずさむ程に目まぐるしい2022年12月。
次曲の準備に加えてあれやこれやで息つく暇もないって具合で、毎日疲労困憊の体で自ずと映画の本数も激減。
それにしても少ないなと思いきや、前半は『ゴッドファーザー』の舞台裏を描くドラマ『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』を延々と観た上に、その流れのまま10年振りくらいな『ゴッドファーザー』、『ゴッドファーザーPART II』、『ゴッドファーザーPART III』と結構なボリュームで、なんだかんだで観てはいる。
そして11月頃にシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』を読んでいた事もあり、ジョーン ・フォンテイン+オーソン・ウェルズ版の『ジェーン・エア (1944)』にミア・ワシコウスカ+マイケル・ファスベンダー版の『ジェーン・エア (2011)』とを続けて鑑賞。
更にはふとした事でまた観てしまっている『中間管理録 トネガワ』のおかげで、こちらも久々な『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』と、とにかく12月はやたらに長いのばっかり観ている印象。
そんな感じで長尺、本数少なめながら、後半の冬休み入ってからは若干増え始める。『ヴィーガンズ・ハム』や『ニトラム』などの準新作に'70年代NYのグダグダものな『生き残るヤツ』など良作、傑作揃い。
12月の顔としてはダスティン・ホフマン圧巻の演技のフォルカー・シュレンドルフ作品『セールスマンの死』にオールドミスの孤独を描いたこちらも色んな意味で圧巻なエリザベス・テイラー主演の『サイコティック』と散々悩んだ末、大晦日に久々に観た『東京暮色』のネコちゃんこと、有馬稲子があまりに可愛いので、締めって事でそれを採用。
そんなかんなで2022年の映画本数は『265』本で終了。
例年に比べて大分減っている印象。2023年はフェリーニやら小津作品を沢山観直したいと考えている今日この頃。
観た映画: 2022年12月
映画本数: 13本
東京暮色
20年振りくらい。傷口がじゅくじゅくしてるって感じな不幸加減で小津作品にはちょっと珍しいタイプな気もしなくはない。家族でもどうにもならん人間の感情がもたらす結果のあれこれがまぁ胃に来るんだけども、終始アンニュイなネコちゃんが異常なまでに可愛い過ぎる(とくにジャケのシーン)と云う、ツラいのと甘いのが同居した謎仕上げな具合。家族間のちょっとのズレが解消されたら全て上手く周りそうな絶妙なラインで積み上げられてて実に見事。
鑑賞日:2022/12/31 監督:小津安二郎
ヴィーガンズ・ハム
酷い感じなグラスフェッド推し。ヴィーガンに喧嘩売りまくった作品な訳だけれども、あっちこっちで主張をゴリ押ししてくる昨今の風潮の真逆を行ってる具合で清々しさすらある。出オチ級の肉屋主人のキャラに留まらず、神戸牛ヴィーガン等々全体を通したユーモアのバランスもなかなか。マッチョ・マン他、音使いに原題もふざけてて好き。
鑑賞日:2022/12/29 監督:ファブリス・エブエ
ニトラム/NITRAM
無敵系の悩みは周りに届かない、故に無敵系。そんなヤバイ役をダルっとした腹を突き出しつつ見事に演じ切った波に乗れない男ことケイレブ。MARTIN逆さ読でいじられても保たれていたバランスが、一つ失うごとにグラグラと揺らぎまくる。嫌な感じの緊張感と不安定感を演出の主として、花火から始まり、オペラから環境音やノイズの音素材なんかを駆使して直接的描写を抜き(配慮?)にしたのは好ましい。規制が強化された1996年より銃が増えている(ズコー)って事で、古今東西にある『エレファント』的系統は無くなる事はないって物騒な今日の世界。
鑑賞日:2022/12/28 監督:ジャスティン・カーゼル
生き残るヤツ
1㍉も勝てない。良いヤツと悪いヤツの絶妙なバランスで絶妙な無限ループに陥ってて面白い。洗濯機に回転扉にエレベーターにポワポワの変態シーンなどをかましつつ、海辺の下りなんかをちょいと挟む辺りがニクイ。カレン・ブラックが良い娘過ぎて余計に心が痛くなるって作りも上手く出来てる。内容以前に'70年代のNYな雰囲気とサントラからして好み。完全ちょい役ながら既にいい味出してるデ・ニーロ(ジャケ詐欺)とバート・ヤング。
鑑賞日:2022/12/27 監督:アイヴァン・パッサー
サイコティック
オールドミスの孤独とその結末って事で、オチが分かっちゃうとなんて事はない筋なんだけども、そこへ行くまでが凄い。『緑園の天使』感がゼロながら、ただでさえ圧倒的でムッチムチなリズがサイケなドレスを纏って練り歩くから映画の中も外も釘付けになる。シミの下りから始まり、殆どキチ子状態のリズから哲学的な台詞がポンポン出てくるあたりも堪らん。で、ラストの現実と幻想のごちゃ混ぜになった様なライトの演出がまぁ素晴らしい。それから貴方は違うと言われるウォーホルに爆死。映画的に面白いだけでなく、ロケーションから小物まで全部洒落乙で完璧。
鑑賞日:2022/12/25 監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
ハンチョウ大槻のおかげで再鑑賞。喪失を埋めるべく阿片窟へ足繁く通い、雲散霧消でまた哀しき人生の渦中って事で心が痛い。オッサンの最大限に美化された記憶みたいなジェニファー・コネリー少女の下りはいつ観てもときめくな。そんなかんなな物語を盛り上げるマスターピースなモリコーネ劇伴が素晴らしいのは勿論なんだけど、墓のシーンだけはやっぱりドリフみたい。人生における清濁に喜怒哀楽が全て詰まった映画。
鑑賞日:2022/12/23 監督:セルジオ・レオーネ
ファニー・ガール
辛くてもファニー・ガール。ウィリアム・ワイラー感があるのかないのかは置いといて、一から十までバーブラ・ストライサンド劇場。起伏が激しい風のドラマ部分もミュージカルパートもいささか単調な気はするけれど、ビリビリと腹から声出まくってるあたりは流石。
鑑賞日:2022/12/21 監督:ウィリアム・ワイラー
ジェーン・エア (2011)
1944年版に比べて映像クオリティは高い。ものの、ただでさえミラクル展開の原作を更に端折りまくるので、心の動きそっちのけで何もかもが唐突な印象。セント・ジョン(ニンフォマニアックと若干役柄が被ってる)の下りまでちゃんとやるには尺がもっと必要だわな。ブ男設定なロチェスター様がマイケル・ファスベンダーで大分イケメンなってるのは置いといて、透き通る様な薄幸女子っぷりを発揮したミア・ワシコウスカはずっと眺めていられる感じ。なんにせよ、せっかく映像化するのにピューリタン精神の重要な部分がごっそり抜け落ちて、ただのメロドラマになってしまうってのは残念。
鑑賞日:2022/12/19 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
ジェーン・エア (1944)
ただでさえ展開の早い原作を更にブッ飛ばしまくってる具合でどこにも感情移入が出来ない代物。ハクスリーが脚本に名を連ねていて上手くまとめた風だけれども、重要なシーンをことごとく端折った上にセント・ジョンの下りとかもガッツリ無きものとされている。ミラクルな感じで着地して来たのはある意味凄いけど。器量が良くない設定を麗しいジョーン ・フォンテインで、そしてロチェスター様がハマってるオーソン・ウェルズは映画的には上手く行ってると思われる。活字だけで天使な存在のヘレン・バーンズ役がエリザベス・テイラーのおかげで超天使になってるのも良い。せっかくの緊迫したバーナード・ハーマン劇伴も何か空回りしてる感じで残念。
鑑賞日:2022/12/17 監督:ロバート・スティーヴンソン
セールスマンの死
原作読んでから観たかったけれども、我慢出来ずに鑑賞。変幻自在な仕様で舞台を映画にフィットさせたフォルカー・シュレンドルフが見事な事は勿論なんだけど、頭のネジが50本くらい抜けた具合で、既に死んでるレベルのブッ壊れた役柄を完璧にこなすダスティン・ホフマンが全くもって素晴らしい。全身苦悩に満たされ、突けば破裂しそうなジョン・マルコヴィッチもこれまた見事。現実を突き付けられる夢みる凡人の人生って事で、観てるこっちも気が狂いそう&吐きそうになってくる。テネシー・ウィリアムズ然り、この時代の戯曲って心をガッツリ抉ってくるのが多い印象。傑作。
鑑賞日:2022/12/16 監督:フォルカー・シュレンドルフ
ゴッドファーザーPART III
再編集版を2021年の夏くらいに観たものの、1から2と続いたのでオリジナルの方を再び。傑作の前作までより敢えての制作な上に蛇足感は否めないものの、流石にクオリティは高い。登り詰めた先に幸福が待っていると信じたマイケルの人生で、シリーズを続けて観ると未来に燃える青年マイケルが老いた姿に感じられてなかなかグッとくるものがある。贖罪する気になった先のラストで、積もり積もったもんが吐き出されるみたいな『カヴァレリア・ルスティカーナ』のシーンはほんと素晴らしい。イタリアンマフィアから微妙にヒスパニック系入ってる感じがするけど、ドンとコッポラ&プーゾがそう言ってるんだから、そう云う事なんだろう。
鑑賞日:2022/12/13 監督:フランシス・フォード・コッポラ
ゴッドファーザーPART II
ファミリーが広がる過去パートと崩壊する現代パートって事で、どちらも権力が大きくなってそうなるって実に見事なコッポラ&プーゾ脚本。ドンである事の重圧と疲労に耐えながらも強者(目線だけで動かすレベルの)であり続け、哀愁のぼっち道を爆進するアル・パチーノの演技もこれまた見事。前作ありきながらも、制作も役者も完成度が増しまくってて恐れ入る。流れるだけで泣けてくるパート2のテーマも素晴らしい。さらには前作に続いて扉を閉ざされるダイアン・キートンの図とかも上手過ぎて惚れ惚れする。毎度観る度に新たな発見があるけれど、ハリー・ディーン・スタントン(FBI Man #1)が出てるのに初めて気付いた。この後パート3に行くか、気分を変えて弾けたロバート・デュバル(キルゴア)に行くか迷う。
鑑賞日:2022/12/11 監督:フランシス・フォード・コッポラ
ゴッドファーザー
完全完璧。『ジ・オファー』からの流れで。年中観てるイメージなんだけども、通して観るのは10年振りだった。OPのマーロン・ブランド+ニャンコの出し方から始まり、継承と家庭の筋の基本のとこから数多の台詞、仕草、クレメンザのパスタの隠し味まで全てが良く出来てる。結婚式のアバンだけで主要キャラの性格をきっちり見せるのも見事としか言えん。で、マイケルの裏社会入りのルイズの一連のシーン、『空の火の玉』が照明なシチリアでの得られぬ安息云々を経てからの『悪魔を斥けるか→I do』の冷酷面と演出が何度観ても鳥肌もの。からの真顔で嘘も方便→扉ごしのダイアン・キートンEDで出来過ぎ。製作陣に役者にニーノ・ロータの素晴らしい劇伴にと駄目なとこが見当たらない。ジェームズ・カーンの一挙手一投足が好き過ぎる。
鑑賞日:2022/12/09 監督:フランシス・フォード・コッポラ
category: 映画レビュー
tags: 2022年映画レビュー, セルジオ・レオーネ, フォルカー・シュレンドルフ, フランシス・フォード・コッポラ, 小津安二郎