Films: Nov.2022『オーソン・ウェルズのオセロ』ほか
Dec,03 2022 15:15
次のリリースの準備のほか、色々とやる事が山積みな上にワールドカップまで始まってしまった11月。
先月から観ていた『スチュワーデス物語』もようやく終ったと思いきや、今度は『ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男』を観始めている状態。
そんなかんなな11月で、またまた本数少ないながらも傑作多数な具合。
公開時以来の鑑賞の山田洋次監督作品『たそがれ清兵衛』は年齢を経てからだと、より響くものがあった。井上陽水のテーマも素晴らしいのは勿論の事。
再鑑賞ものとしてはシドニー・ポワチエ主演の『夜の大捜査線』、四半世紀ぶりな小津安二郎の傑作『晩春』、ウォン・カーウァイの『2046』を観るべく再鑑賞の『花様年華』といずれも質が高い。
そしてポール・トーマス・アンダーソンの『リコリス・ピザ』にギリシャの新鋭クリストス・ニクの『林檎とポラロイド』、年代的に普通に熱くなる『トップガン マーヴェリック』と珍しく準新作ものがチラホラとで、どれも良作揃い。
初鑑賞ものとしてはスチュアート・ローゼンバーグ監督作品、ポール・ニューマン主演の『暴力脱獄』、ルネ・クレール監督作品『自由を我等に』、シリーズ中で一番面白いんじゃないかって云う石井輝男監督『網走番外地 北海篇』などが特に印象的。
傑作は多々あれど、長年観たかったオーソン・ウェルズの『オセロ』は芸術レベルが別格な感じなので、こちらを11月の顔とする。
師走は師走でまだまだ更に忙しくなる予感で、リリースも危うい感じで困り果てている今日この頃。
毎年恒例、12月は大作を沢山観ると云うのが怪しい雰囲気だけれども、なんとか時間を作りたい。
観た映画: 2022年11月
映画本数: 17本
林檎とポラロイド
きっちりポラロイド協賛。時折ぼやける映像と無くした記憶って事で静かで良い雰囲気に演出されている。説明はモヤっと最小限なので、色々と深読みできる感じなSFではあるけれど、主人公の原因と同等と考えた場合、街中が哀しい人間だらけでかなり悲しいやつ。記憶回復(社会復帰)の為のプログラムとしてはなかなかユニークなあれやこれに混じって、細かい月面着陸ネタとか結構好きよ。記憶力低下に林檎が効くって事なので、モリモリ食べようと思う。
鑑賞日:2022/11/30 監督:クリストス・ニク
トップガン マーヴェリック
顔パンパンでシワシワだけど、劇中も制作も頑張った感のあるトム・クルーズ。フワッとした対ならず者国家と思いきや、ちゃんと名指ししてんのね。アイスマンに既に死去設定のメグ・ライアンはともかく、前作で名前出してましたって云うジェニファー・コネリーのとこは難易度高過ぎ。US NAVY最新形態と前作ありきな懐古主義全開でバランスは良いんだか悪いんだかなんだけど、過去の遺物ことトムキャット出してくるあたりの過剰な観客サービスは映画的に楽しいので評価する。そんなかんなで良く出来た内容とは思うけれども、脳筋120分以上はちとキツいのでもう少し短いと尚良かった気もしなくはない。グースの息子はどっかで見たと思ったら、今観てる『オファー』のやつだった。
鑑賞日:2022/11/29 監督:ジョセフ・コシンスキー
リコリス・ピザ
雰囲気としては'90年代後半から'00年代最初の頃のPTAって感じで、そーいやこんなテイストの監督だったなと。近年の作風から原点に戻った感すらあるけれども、ここそこに成熟したモンがちらほらとでなかなか。父親ソックリなホフマン Jrにアラナとで華があるんだかないんだか良く分からんけど、共に良い演技ではあった。デキる15歳設定でありつつも、普通に年上のオネーサンに悶々とし、それに対して大人になりきれないオネーサンとで捻くれた話よね。で、トム・ウェイツはサム・ペキンパー役なんだそうな。'70年代LA事情とネタ元をそこまで知らんので、100%は楽しめず。それっぽく流れる名曲群も無理に時代を再現してるみたいでどーなんだろ。面白かったけど。
鑑賞日:2022/11/28 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
オーソン・ウェルズのオセロ
ほぼ原作に忠実ながらも完全なるオーソン・ウェルズの世界になってて凄い。建物萌え歓喜なデカいものはデカくに狭いとこは狭くや、壁に動く影とか斜めアングルとかモノクロ特性を活かしまくった映像がまさにそのものって感じ。ただでさえギンギンなのに終盤に向けてどんどんギンギンになる黒いオーソン・ウェルズの目の演技が素晴らしいのは勿論の事、それにも増して嫉妬と云う怪物を植え付け増幅させつつ、あっちこっち器用に荒らしてくるイアーゴことマイケル・ラクラマーが完璧。素晴らしい。
鑑賞日:2022/11/25 監督:オーソン・ウェルズ
2046
動かし過ぎなクレジットと攻殻機動隊みたいな'00年代っぽい未来描写はともかくとして、筋書き自体は小説っぽくて面白い。『欲望の翼』、『花様年華』と上手い事繋げつつ、2046って云う過去に向かって爆走するトニー・レオンで良く出来てはいるけれども、メタ構造含めて全体的な精度は前作ほどではない気はする。場面飛んだ後に説明のそればっかでちょいとクドい。で、世界との差を感じてしまう『ちょ、待てよ』サンをはじめとして、役者呼び過ぎでとっ散らかった印象。なんだけど、シーンごとに観るとやたらと上手く捌きつつ、1224-1225ゾーンにやたらと期待し過ぎなウォン・カーウァイで面白いからまぁいいかって気分になる。2047年のリアル香港どーなるんだろね。
鑑賞日:2022/11/22 監督:ウォン・カーウァイ
花様年華
画面を支配する赤で色気2046%くらい。視線→屋台飯テロ→視線で話がきっちり進むから凄い。で、現実では触れる事さえ憚りながらも、小説練習時には感情を爆発させる大人加減と控えめ具合が見事。クリストファー・ドイル的なダイナミックなカクカクも控えめで、破裂しそうな秘密を抱えた人間達の表現としてはこれ以上ないって感じ。夢二を感じると思ったら夢二だったやつのほか劇伴の数々に、何着変えたのか、マギー・チャンの美しくファッションショーとで素晴らしい。
鑑賞日:2022/11/20 監督:ウォン・カーウァイ
殺しが静かにやって来る
とりあえずはモリコーネ劇伴がたまらん。痛くても徹底してシレンシオなトランティニャンと冷酷なクラウス・キンスキーと雪景色でどこまでも冷え冷えしとる。前半は何となくテンポ悪い気もしなくはないんだけど、熱々で痛いの(かわりにこっちが叫ぶ)が始まった辺りから加速。勧善懲悪などなんのそのな凄惨なラストで完全に好きやつだった。
鑑賞日:2022/11/19 監督:セルジオ・コルブッチ
網走番外地 北海篇
のっけの砂塚秀夫以下むやみにオネエ率の高いのから始まって、生野菜頬張る山本麟一等々で刑務所内でまだ発進すらしてないのにアクセル全開。その後千葉真一からの頼まれ事でトラック野郎と化す健さんな訳だけれども、乗り合いが増えに増えてガッツリしたロードムービーになっていて見応えがある。石井輝男は『駅馬車』をやりたかったとの事で、アリゾナ辺りの砂の景色が雪景色に変わったのはそれとして、見方によっちゃ本家超えてるとこもあったりなかったり。網走の包丁さばき→マタギ状態アラカンのシーケンスも前作まで以上の出来。坂道の下りと小沢栄太郎の小指をニワトリにくれてやるエゲツない健さんに大笑いさせて貰った。傑作。
鑑賞日:2022/11/16 監督:石井輝男
晩春
四半世紀ぶりくらい。久々な完全なる小津目線に室内構図ってな具合。ゴキゲンかと思いきや瞬間でピキピキと表情を変えるパパっ子設定の原節子の上手さは勿論の事、それとは裏腹に感情を伏せて伏せてからの笠智衆のリンゴのシーンが実に見事。出てくるだけで最高な杉村春子はがま口IN→鶴ヶ丘八幡宮の階段ダッシュで更に最高。で、いるだけでイイ女な月丘夢路も併せて、それぞれの世代の接着剤役みたいなこの二人の脇役っぷりなくしては成り立たないってくらいに素晴らしい。あの時代の北鎌倉の鬱蒼としたのに憧れる。
鑑賞日:2022/11/15 監督:小津安二郎
自由を我等に
生産物から囚人へ流れる様なカメラワークとピントで切り替わるのっけからして良い。リアル監獄から資本主義監獄への変化も実にスムーズ。で、バチっと男同士のウィンクのただならぬとこを超えた友情の美しさは最後の神風に翻弄される人間達とは比べものにならん。機械に任せて自由を我等にって事で、怠惰で気楽な生活が90年経った未来系な今日に訪れていないのは如何なものか。トーキーとサイレントの良いとこ取りみたいな構成も最高。
鑑賞日:2022/11/13 監督:ルネ・クレール
イーストウィックの魔女たち
見るからに魔女っぽいシェール様以下3人と、シャイニングのビフォア・アフターのアフター気なジャック・ニコルソンのキャストだけである意味成功しとる。おまけにツイン・ピークスの巨人まで出てきて80年代的明るい作風でありつつも、全体的に何やら禍々しい雰囲気がきっちり演出できていると思われる。劇伴は特徴薄いタイプな方のジョン・ウィリアムズなものの、一音聴いてソレと分かるってのも流石は巨匠って感じ。ポルターガイストっぽいとこからのチェリー噴水が結構トラウマレベル。
鑑賞日:2022/11/12 監督:ジョージ・ミラー
夜の大捜査線
久々。ガチガチに保守的な南部に降り立つ知識階級な黒人って構成からして良い。起きてしまった事件と進行系で緊張感のある差別って事で実に上手い。いつだってシュッとしてスマートなポワチエが格好良いのは勿論の事、ガムを噛む顎で精神状態を表現する署長ことロッド・スタイガーも最高。と、可愛いリー・グラント。クインシー・ジョーンズ劇伴も雰囲気ある。
鑑賞日:2022/11/10 監督:ノーマン・ジュイソン
彼のオートバイ、彼女の島
片岡義男のあの感じに大林宣彦の過剰なエフェクティブ(裏目に出てる気が...)な世界とで良くも悪くも時代を感じる。何一つとして共感できないんだけど、島+白ワンピース+サイダーのベタ的なやつと、原田貴和子の露出っぷりは良い。友情出演の配置含めて全員活かされてない感が半端ない。
鑑賞日:2022/11/08 監督:大林宣彦
暴力脱獄
邦題はともかくとして、クール・ハンドと云うか存在自体がクール。神への期待と諦めとの入り混じったとこから滲み出るあの笑顔である。助けてくれないなら権力に屈する事なく我が道を行くって云う超カッコイイやつ。始まった瞬間にこれは面白いやつだって具合で、ポール・ニューマンの卵からのジーザスポーズも含めて、熱いシーンがてんこ盛りでよく出来てる。母親との表面的にドライなやり取りのシーン→バンジョーで弱から熱唱のとことか特に素晴らしい。更には反射グラサン撮影等々とかも堪らん。ラロ・シフリン劇伴も良い感じ。GN'Rの『シヴィル・ウォー』('91)が流れ始めたかと思っちゃう所長のお説教の下りは、まるっとこれが元ネタだった。
鑑賞日:2022/11/07 監督:スチュアート・ローゼンバーグ
たそがれ清兵衛
公開時以来20年振り。武士、男はつらいよと幕末を飛び越え現代の日本のサラリーマンにも共感できる仕様にきっちり仕上げる流石な山田洋次。上昇志向の渦中において誠の幸せとは何ぞやって事で、同僚から嘲られる序盤からラストに至るまでの組み立てが見事。のみならず、『清兵衛さまの幼なじみの朋江でございます』の台詞で劇中一番切ないシーンを表現するところや、田中泯の鴨居をチラ見するお手本的なやつとか、さりげなく効果絶大ってのを次々と見せられる。で、たそがれ時を背景にド名曲な最後の陽水と云う、どう考えても手堅い流れの末に満たされた具合で終わる...でがんす。控えめな冨田勲劇伴も素晴らしい。
鑑賞日:2022/11/05 監督:山田洋次
怒りの河
腐ったリンゴが否かって事で元悪党の訳ありの役をやるジェームズ・スチュワート。映し出されるのは延々とオレゴン山中の風景で結構低予算状態で派手さは皆無なんだけど、金に目が眩むと人はどうなるのかってのはじっくり描かれている。アーサー・ケネディ演ずる頼りになる元悪党其ノ2の善と悪のどちらに傾くかって辺りがなかなか緊張感がある。終わってみるときっちりしっかり人間の心の動きが描かれていて、アンソニー・マン作品な具合だった。
鑑賞日:2022/11/03 監督:アンソニー・マン
十九歳の地図
Googleマップ&レビューに匹敵する無駄にクオリティの高いお手製の辛辣極まる地図で若さを浪費しまくってる。『どんな具合に生きてけば良いか分からない』と中途半端な大人の蟹江敬三からやがて童貞厨二男へ伝染するって流れが上手い。『タクシードライバー』のトラヴィスにも『太陽を盗んだ男』のジュリーにも何者にもなれない、何処へも行けない鬱屈とした青春像で死にたいレベル。でも『死ねないのよォー』と迫力の演技をかます沖山秀子の如く、人間簡単には死ねない訳で。この人と加山雄三の次に上手に歌えてる蟹江敬三の演技が最初から最後まで実に見事。ガスタンクが鎮座する五里霧中な街で時折挿入されるスローがまた良い味出してる。『騙したけどたぶらかしてない』は機会があったら使いたい。
鑑賞日:2022/11/01 監督:柳町光男
category: 映画レビュー
tags: 2022年映画レビュー, ウォン・カーウァイ, オーソン・ウェルズ, スチュアート・ローゼンバーグ, ポール・トーマス・アンダーソン, ルネ・クレール, 小津安二郎, 山田洋次, 石井輝男