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DAU. ナターシャ

Films: Feb.2023『DAU.』ほか

Mar,02 2023 13:30

息つく暇もないって感じの2月。それでもなんとか映画鑑賞を継続。
1月末の『荒野の七人』からの流れで『七人の侍』から始まって『メトロポリス 完全復元版』と名作中の名作からスタート。
なかなか初鑑賞もので面白いのが多く、英国色の強いアレクサンダー・マッケンドリック『マダムと泥棒』、'80年代インディーで有名なんだそうな伊藤智生の『ゴンドラ』、ここ一年くらい定期なアンソニー・マン『脱獄の掟』と傑作揃い。
中でもようやく観られた初期アキ・カウリスマキ『パラダイスの夕暮れ』に予備知識なしで鑑賞のニコラス・ケイジ主演の『PIG ピッグ』は特に素晴らしかった。
再鑑賞ものではいずれも15年ぶりくらいの今村昌平『赤い殺意』に昨年の暮れに観ていた『ジ・オファー』の流れでボブ・エヴァンスものって事でポランスキー『チャイナタウン』と改めて観てもクオリティが高い。
そんな感じの2月の顔は迷う事なく計8時間45分、イリヤ・フルジャノフスキー監督ほかによる最狂恐ロシア映画『DAU. ナターシャ』、『DAU. 退行』に決定。強烈に脳に刻みつけられる。

もう少しで落ち着けそうではあるものの、まだまだな気もしなくはない3月。
ゆっくり映画を観る時間が欲しい。

観た映画: 2023年2月
映画本数: 18本

神田川

神田川

日本のジョン・デンバーこと南こうせつ天才的だなと思いきや、作詞は別だったのね。ヒットに乗っかって制作+主演の2人がスーパー美男美女なので三畳一間的世界にしてはなかなか華やか。夏から始まり冬で終わる逆かぐや姫の基本筋や、そのまま浅間山荘入りしそうな劇団巡行の図とか良い意味でも悪い意味でも昭和してて、親世代の若い頃は元気だなと。日本人離れした草刈正雄の化けの皮が演技する度に剥がれるのに対して、しっかり露出もこなしつつプリーツスカート萌えをかましてくる最強期の関根恵子。昨今には見られない逸材感。

鑑賞日:2023/02/28 監督:出目昌伸


チャイナタウン

昨年の暮れに観ていた『ジ・オファー』の流れでボブ・エヴァンスもの。15年振りくらい。LAの水利権が絡むベースの筋の規模は派手なものの、なんか地味、なんだけど、ジョン・ヒューストンの常人には理解できないタイプのゲスさがあれこれ顕になるにつれ熱量が上がって来る。淡々とジャック・ニコルソン目線で上手い具合に物語を進行させつつ、鼻カットのオイシイ役もきっちりこなす流石なポランスキー(メンタルが心配)。30年代背景ながらも、完全なるロスト・ジェネレーション的デカダンス=チャイナタウンの形。こんなテーマながら、ジョン・ヒューストンに明るい未来を語らせるってのがまた上手い。

鑑賞日:2023/02/27 監督:ロマン・ポランスキー


赤い殺意

15年ぶりくらい。『エロ事師たちより』、『にっぽん昆虫記』同じくらい好き。すなねば(死なねば)と言った側からモリモリ食う春川ますみからして最高。妾の子としての生まれからして徹底的に弱者設定の女。そんな女が全方位から蔑まれながらも、少しずつ糸を紡いで行くかの如く自我を獲得して行く心象風景の壮絶さったらない。嫌よ嫌よと揺れ動かされた情欲も、心の中の殺意も、全て終わって何もなければセーフって事で、死にたいと言いながら生を渇望する弱者特有の狡猾さってものが全て勝ち得た具合。で、回し車のネズミの隠喩もなかなかにヤバイ。まだプリプリだけど瀕死な山さんこと露口茂やら安定ゲス演技な西村晃等々他の役者陣もとても良い。傑作。

鑑賞日:2023/02/25 監督:今村昌平


地下室のヘンな穴

地下室のヘンな穴

ちょうど良い塩梅なSF(少しふしぎ)感。穴繋がりでマルコヴィッチっぽくもある。当たり前な人生の教訓ってやつがなかなかに盛り込まれてる。で、身体と車でショートしがちな社長が瞬間風速含めてかなりおいしいんだけど、オチをもう一段捻ってくれてたら更に良かった気もしなくはない。存在が全然クソじゃない天使の使いの様なクソ猫ちゃんにアーバンな物件、ウォルター(ウィンディ)・カルロスみたいな劇伴チョイスとで好き要素はいっぱい。

鑑賞日:2023/02/23 監督:カンタン・デュピュー


PIG ピッグ

先日の『DAU.』のお陰で豚は今は無理って感じだったんだけど、サムネ見た瞬間にビビビと来て鑑賞。始まった瞬間から傑作の予感しかしないって部類のやつ。ニコラス・ケイジに豚ちゃんに森に小屋に料理にと好きな要素だらけな上にフラミンゴスやらモーツァルトやら森のフィールドレコーディングの音使いなんかも最高。波が来たら山に逃げると若者、『あそこは活火山だからやめとけ』と世捨て人は言う。『俺のブタを返せ』と再噴火寸前の活火山みたいに設定されたニコラス・ケイジを始めとして、登場人物達の喪失と再生と愛に溢れた物語でギュウギュウ心を掴んでくる。ほぼキマってる美しい画面構成もまた長編デビューとは思えないほど見事。

鑑賞日:2023/02/22 監督:マイケル・サルノスキ


パラダイスの夕暮れ

パラダイスの夕暮れ

久々なカウリスマキのこの感じが心地よい。オケラ、アメンボでも『毎日イモ』レベルでも一生懸命に生きているな。単純な筋でありながらも、シーン前後の捻りとか瞬間胸キュンなんかをさりげなく且つ、無駄なく連投してくるから恐れ入る。中でも、すっぽかされる『続・夕陽のガンマン』からグラサン→喧嘩別れの下りの一連の流れとかホントたまらん。擦り寄ってくる共産主義、思いを馳せるアメリカ、西側的なものへの憧憬の加減がまた何とも言えん。

鑑賞日:2023/02/21 監督:アキ・カウリスマキ


DAU. 退行

DAU. 退行

恐露4の2作目にして割とあっと云う間の6時間ちょい。プラハの春を横目に自由と抑圧の間で激しく(KGB的に)揺れ動く時代に物語の舞台は進む。ある人が言う『自由』がある人には『退化』となる、そんなご時世で超人育成施設DAUにて爆誕する最狂×最恐のアジッポ政権。メシア=マルクスな国家にあって自由を求める本能、それらを阻止する国家権力の図で前作より色んな意味でオープン。不都合な文化や知識は排除され、それらにとって変わる所謂ニーチェ的な『超人』は=『蛮族』な具合で、選ばれし民が『退化』しとる最悪な式が成立するこれまさに地獄絵図。そこへ持って行くまでの前置きからの適度な緊張状態、からのクライマックス演出や、環境でいかに人間が変化するかなんかも盛り込まれおり総じてとんでもない作品。種類別な本能見本で進める辺りも凄まじい。坊主にされ屈強坊主に入れ代わり、坊主補充とかもう狂ってる。観終わってみればジャケの2人がもはや悪夢そのものにしか見えん。'91年を経ての2023年の現在、かの国的に『オメガ点』なる特異点は既に超えてる気がする。

鑑賞日:2023/02/20 監督:イリヤ・フルジャノフスキー、イリヤ・ペルミャコフ


DAU. ナターシャ

恐露。全体主義の中にあれば人間の尊厳などどこ吹く風って具合。画面の内外問わずに再現したソ連時代のあれやこれの数々、元KGBの演技が有難迷惑な域に達している。『ドッグヴィル』なんかで味わう胃の痛さと人間性の暴露具合を増し増しにしたレベル。淡々とそして冷酷に執行される権力の名の下の暴力、その前では日常の色んなもんが可愛く見えてくる。納得の本国上映禁止でこの後どうなって行くのか目が離せない。とりあえず、あっちの部屋は嫌ァー!

鑑賞日:2023/02/18 監督:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ


十代 恵子の場合

テンション低めに急転落して行く森下愛子(頑張っているな!)が良くないと多分全然良くないんだろう。割と普通に生息してる'79年当時の渋谷〜原宿辺りの風景とツッパリ事情でなかなか楽しい。ただでさえ眩しい風間杜夫が殿山泰司に入れ替わったとこがまず一番面白かったけど、闇堕ちポン中後の再会では劇中恵子同様に眩し過ぎて目が潰れるかと思った。きっちりした画作りと、どこまでもしなびぃ〜全体のトーンとで癖になるタイプの映画。

鑑賞日:2023/02/15 監督:内藤誠


脱獄の掟

狂言回しを弱い立場の方の女にさせるのがまず良い。大筋から三角関係に至るまで『ひどい扱い』ってのがあちこちに設定されていて、その上で非情さと誠実さが入り乱れてるから、逃亡がスムーズに行かずに映画が面白くなってる。脱獄ほかのディテールは大味ながら心理描写の部分は実に繊細で見応えがある。ドッキドキな出航間際から夜霧のクライマックスはたまらん。投げつけた火の皿が倍になって返ってくる演出とか最高。

鑑賞日:2023/02/14 監督:アンソニー・マン


TENET テネット

久々にドゥーンって感じな効果音の映画観た。始まった瞬間に平和です(爆)って事で、ただでさえややこしい祖父殺しのパラドックスのテーマを元にしつつ、逆転正転を駆使しながらきちんとエンタメ様式を遵守して仕上げてるのはある意味凄い。謎設定の数々と情報量の多さで序盤はウンザリしたのはともかく、リアルな感じの『のび太の大魔鏡』みたいな感じで終わってみればなかなか面白かった。マーティン・ドノヴァン(老けたなー)と最後のクレジットで気付いたケネス・ブラナー(老けたなァー!!!)で時間の流れの残酷さを知る。お前ら今頑張れよって云うクリストファー・ノーランの意気込みは伝わって来た。

鑑賞日:2023/02/13 監督:クリストファー・ノーラン


ゴンドラ

ゆらゆら漂うゴンドラと小舟な如く東京で生きる少女と青年。あの手この手な人力エフェクト、時折挿入される松本俊夫みたいなサイケな映像、廃墟萌え、児ポギリギリ(限りなくアウト)のとこを絶妙な感じで狙う少女の転換期とこの映画の良いとこを上げたらキリがないんだけど、この人の場合はビシッと決まった風景ショットの美しさと説得力が際立つ。あくまで主役の2人にスポットを当て、周りの事情を良く分かんないレベルにぼかして多くを語らないのも好感が持てる。微妙になった久石譲みたいな劇伴と海とチーコ弔いの画がとても良い。

鑑賞日:2023/02/11 監督:伊藤智生


マダムと泥棒

序盤からの伏線の数々が綺麗に回収される。全方向から年寄り扱いされるヨボヨボさんでありつつ、見せ方を統一した最初と最後の落差が絶妙。英国的な画面のトーンとアイロニカルなあれやこれでかなり好み。発狂寸前な婆軍団とのアフタヌーン・ティーのシーンなんかも最高。英国芸達者が集まったとの事でピーター・セラーズしか分からんけど、皆それぞれ良いキャラしてる。そんな若かりしピーター・セラーズが要所で変な声出しつつ、オウムの声まで担当してたとの事でこれまた納得。で、これ以上ないって感じな選曲のボッケリーニ弦楽五重奏。オリジナルのアートワークも良い。

鑑賞日:2023/02/10 監督:アレクサンダー・マッケンドリック


LAMB/ラム

夕飯がラムカレーだったのは偶然偶然。禁忌に触れる者のあれやこれって事で日本の昔話っぽくもある。羊なのにギョギョギョな出産シーンで、夫婦が互いに『こいつまさか...』と疑心暗鬼にならないのが一番ファンタジー。すんなり受け入れ、マリアよろしく幼子を抱きながら領域を侵す事も辞さない程の過去の出来事ありきな訳だけど、ちょいと無理がある気もしなくはない。ものの、メルメルメェーと狭い入り口に殺到するやつとか、仔羊に抱かれるニャンコの図とか色々とポイントは稼ぐ。謎視線気味な演出もタル・ベーラっぽくて嫌いではない。シガー・ロスにハマっていた'00年代序盤にコレ観たら傑作と言ってたに違いない。

鑑賞日:2023/02/09 監督:ヴァルディミール・ヨハンソン


機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

作画崩壊回をなかった事にした(したい?)レベルなクオリティの高さではある。話も綺麗にまとまってるし、普通に面白いは面白い。なものの、白い奴に、ホワイトベースの面々、ファーストの劇伴を流す演出等々でおおーっとなってしまう辺り、『こう言うのが好きでしょ?』的な術中にハマってる気がして何か複雑ではある。つまりは新しいものがないのがいまいち盛り上がりに欠ける要因な気がしなくもない。で、森口博子でZ感が炸裂END。

鑑賞日:2023/02/08 監督:安彦良和


メトロポリス 完全復元版

何故だか25年振りくらいに再燃のQueenのマイブームからの鑑賞。『頭脳と手の媒介者は心でなければならない』と云う機械文明と人間の在り方を一行で表す時点で素晴らしい。そんな一行にとどまることなく、壮大な黙示録世界を展開してくれる訳だけれど、大団円までの道のりがオールタイム7つの大罪まみれな自分を諭してくれる様。凡そ100年前の気合いの入ったセットの数々に人力アナログエフェクトと思えないほどの表現が凄いのは勿論の事、それとおんなじくらいアンドロイドマリアの顔芸とモーションが秀逸。また、『ラ・マルセイエーズ』風なやつに適切な管楽器使いな音楽、ドイツ的魔女狩りネタ等々で満腹満腹。出来の良さが未だ未来系レベル。

鑑賞日:2023/02/07 監督:フリッツ・ラング


男はつらいよ 知床慕情

久々。瀕死のおいちゃんの一幕から始まり、キリギリス扱いの寅次郎って事で、アウェイで好遇されるのは毎度の事ながら、ホームでは何やらいつもより冷遇されてる風な38作。で、岡山の寺の娘だった竹下景子が知床の出戻り娘なヒロインではあるものの、メインは三船敏郎のケツを叩く指南タイプ。お相手の淡路恵子を始めとして、この街に住み着いた者、出て行く者な『北の国から』的な知床事情で、人間と雄大な自然を描くバランスは流石に上手い。あの開放空間とBBQなら三船敏郎も素直になる。

鑑賞日:2023/02/05 監督:山田洋次


七人の侍

云うまでもなく傑作。アメリカ産の方とは事の発端となる根深い農民、侍、野武士の問題も志村喬が助太刀しようって気になるあたりも描かれ方の丁寧さが全然違う。で、それぞれキャラ設定は良くできてるけど、キノコ採りに行くが如く涼しい顔で敵陣に乗り込む宮口精二がやっぱり一番カッコイイ。と、『○6+△1+た』の圧倒的なデザインセンスな千秋実。何言ってるか時折分からないのが玉にキズで、特に昂る菊千代と左卜全に関しては高レベルなヒヤリング力が問われる。昔の赤いジャケの字幕付きDVDで観るべきだった。

鑑賞日:2023/02/04 監督:黒澤明