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プロヴァンス物語 マルセルのお城

Films: Jul.2023『プロヴァンス物語』ほか

Aug,03 2023 11:30

新しいシングル曲『Touch』のリリース作業やら何やらでバタバタしていた1ヶ月。同時進行のアルバム制作がちょっと滞り気味。
そんなかんなな7月はウォン・カーウァイ作品『マイ・ブルーベリー・ナイツ』、『若き仕立屋の恋 Long version』に『イップ・マン』シリーズと香港由来ものが多かった印象。
再鑑賞ものでは極彩色な鈴木清順作品『肉体の門』に老人タイプについて考えさせられる今村昌平『楢山節考』、実に30年振りくらいな『さらば青春の光』、ヴェンダース作品『まわり道』、カウリスマキの継続で『愛しのタチアナ』と傑作ばかり。
初の作品群では、自ら時代にケリをつけるみたいなジョン・ウェインの遺作でドン・シーゲル作品『ラスト・シューティスト』に、オランダ時代のポール・ヴァーホーヴェン作品『娼婦ケティ』、マルセル・カルネのクオリティ高過ぎな夢と妄想の現実逃避映画『愛人ジュリエット』などなど、なかなかに個性的なのが揃ってる。
そんな中で、ギャヴィン・ミラー監督の『ドリームチャイルド』のアメリア・シャンクリーが異常な可愛さ(元のアリスも可愛らしい)だったので7月の顔にしようと思うも、圧倒的なヴァカンス気分を刺激した『プロヴァンス物語 マルセルの夏』と『プロヴァンス物語 マルセルのお城』の2作品がやはり印象が強かったので、そちらを採用。

そんなかんなな2023年7月。
目は霞むし、足は痛むでポンコツ度が増してる今日この頃。
早いところアルバムの目処だけでもつけたいと考えながら過ごしております。

観た映画: 2023年7月
映画本数: 24本

娼婦ケティ

娼婦ケティ

序盤の変態率と汚物感が凄い。特に帽子屋の影絵。19世紀オランダのどん底貧民の図って事で悲惨な感じなのにケティの描写のせいか全然暗くないのが良い。成り上がりの分岐点でちょいちょい登場する自由の女神モチーフ。ラ・マルセイエーズ爆唱で民衆率いるかと思いきや玉の輿って事で、後ろに飾ってある絵はどこ吹く風な具合。超個人主義なたくましさがないと生きて行けんって云う。面白かった。

鑑賞日:2023/07/30 監督:ポール・ヴァーホーヴェン


ドリームチャイルド

ジェーン・アッシャーを愛でようと思いきや、いかんせん劣化具合が酷い。そのかわりにアリス(小)がとんでもない可愛さで、それだけで満点上げる。全方向から「このロリコンがー」って突っ込まれそうなルイス・キャロル(イアン・ホルム)もこの可愛さの前では無理もない。理解されない、届かない苦悩の数々が時空を経て理解へ至るってので、オッサンの方に感情移入しちゃってまぁ泣ける。新天地へ迷い込んだアリス(老)の走馬灯の様な話を過去現在とを彷徨いつつ、上手い事構成している。で、パペットの面々はロン・ミュエクほか匠が揃ってる模様。スタンリー・マイヤーズの和音持続音系の劇伴も良い。ブライヅヘッド然り、イングランドの夏の日々の川遊びに憧れる。

鑑賞日:2023/07/28 監督:ギャヴィン・ミラー


恋も忘れて

恋も忘れて

都会な清水宏は初かもしれない。大人の世界は勿論の事、子供の世界も残酷だわな。不遇の母子で名誉は守りつつも、まぁ不幸。で、大人目線で子供を見た時の悲しいシーンの詰め合わせな状態。シングルマザー的実態は似たような気がするけれど、子供の方は仲間に入れてくんなきゃぼっちでいーやってなりかねない現代との差を感じる。なんだかんだで孤軍奮闘するしかないやるせなさ具合と裏腹に、ぴっとした着物姿で美しさが際立つ桑野通子。マダムの渋り具合が半端ない。

鑑賞日:2023/07/27 監督:清水宏


イップ・マン 完結

フラワームーブメント全盛期のシスコに降り立ち、JKのハートを鷲掴みでまんざらでもなさそうな葉問師匠。今回の敵は米国と移民問題って事で、よその国で華僑の側からのあれやこれで更に説得力が薄い仕上がり。おまけに米国海兵隊相手で中華系のハートマン軍曹は味方等々で色々と混乱してくる。限りなく物真似風なブルース・リーほか西洋にも種が蒔かれて良かった良かったって締めで、全体的にマンネリながら魅せるとこは魅せてくるので評価に困る。そして今回は飯描写は皆無だった。終劇。

鑑賞日:2023/07/25 監督:ウィルソン・イップ


愛人ジュリエット

愛人ジュリエット

あー、もう寝るって気持ちが分かる。夢と妄想の現実逃避映画でクオリティ高過ぎ。夢部分へのスイッチングからして素晴らしいのは勿論の事、現実からの影響と主観あれこれとがごた混ぜになったモヤっと感がまぁリアル。認知症気味の世界の中、ただ1人記憶を保持する俺強ェの世界が最高だわって云う超哀しい感じで救いがない。この世界は駄目だって事で、Dangerの先の世界の燦々とした具合がヤバ過ぎ。

鑑賞日:2023/07/24 監督:マルセル・カルネ


イップ・マン 継承

地域貢献する葉問師匠。敵の規模が国レベルじゃなくなってきたとこから始まり、今回はマイク・タイソンが出てくる。重いパンチ一発で動けなくなりそうなのはともかくとして、相変わらずアクションシーンが良く出来てる。で、詠春拳の正統な継承者を巡って北斗神拳伝承者みたいなのが始まる。これに奥さんの話が絡んでくるんだけど、1作目の段階から最後までずーっとエイドリアンな具合。葉問師匠の人柄を表すかの様な遅刻する最初と最後のやつの見せ方と愛を感じるエレベーターのシーンはなかなか。そんなかんなで、あんまり継承されてない感じで終わる。ブルース・リー役は少林サッカーのキーパーみたいだな。

鑑賞日:2023/07/22 監督:ウィルソン・イップ


イップ・マン 葉問

香港に行ってからの葉問師匠って事で、前半はサモ・ハンとの管理職対決みたいな感じ。互いにシンパシーを感じ合う後半は完全に『ロッキー4』みたいな具合で、敵国設定が日本から再統治の英国となる。冷戦時代の東西対決の炎の友情に対して、実質妙な具合の東西対決になってはいるものの、異種格闘技路線な感じで普通に面白く作ってある。前作の伊武雅人似ほかの役所など細かいとこや、サブのサブキャラが個性的なの集めてるとこもなかなか。元社長の鶏丸焼きほか、飯描写もなんとなく美味しそうでイイ。ブルース・リー登場でまだまだ続ける風なのが色々とたくましい感じ(制作側が)。

鑑賞日:2023/07/21 監督:ウィルソン・イップ


愛しのタチアナ

愛しのタチアナ

15年振りくらい。不器用系男子で親近感湧く。色気のない長い試走を淡々と描きつつも、人生観が変わりまくるとこまでテンション変えずに持ってくからまた凄い。ロックなエクストリーム入店→スタンドがキュ〜っとくる。年代順にカウリスマキを改めて観て、『悲愴』使いもここに極まれりって感じ。

鑑賞日:2023/07/20 監督:アキ・カウリスマキ


イップ・マン 序章

ABボタンを連打してる感があって気持ちイイ。温厚な達人を怒らすべく、序盤からあの手この手を使う。で、旧日本軍の所業で爆発炸裂する葉問師匠。飲茶屋兄弟とか伊武雅人みたいな道場破り達の締めがなんとなく中途半端な気もするけれと、全体的には良く出来ていると思われる。日本勢の演技が酷くて目を覆いたくなるレベルで、それ以外は適度にねじ込んでくる広東飯テロと共に結構楽しい。パトレーバーっぽい川井憲次劇伴もなかなか雰囲気出てる。

鑑賞日:2023/07/19 監督:ウィルソン・イップ


ザ・ベイビー / 呪われた密室の恐怖

キモいオッさんベイビーで出オチと思いきや、なかなか先の読めない展開で面白かった。義母の背景の鉈とかプール工事とかも綺麗に活かされている。狙ったのかどうなのか、女性側の役者が全員なんか不穏感じなの(特に姉妹)を揃えた辺りも評価できる。ジャケ良いな。

鑑賞日:2023/07/18 監督:テッド・ポスト


まわり道

目の前に人がいても孤独な現代。とりあえず定職がない事の非難に屈服するなで激励する母ちゃんが出来過ぎ。文学と政治が一緒になったら世界が終わる等々悩めるドイツそのものな感じで、個人からなる国家が進行形で迷走してる様を切り取るヴェンダース。まわり道して虚無感に苛まれても、後ろには何かしら残っているもんって事で、ホント人生は一筋縄でない。今作のナスターシャ・キンスキーの可愛さは異常。

鑑賞日:2023/07/17 監督:ヴィム・ヴェンダース


プロヴァンス物語 マルセルのお城

出来の良い1作目の上を行ってる感じ。エンドレス・サマーな雰囲気でありながら、時の移り変わりをしっかり描く。少年時代の輝かしい記憶は永遠でないからこそより美しく、更には暗い時代を経て再び記憶を呼び覚ますラストで上手い事作ってる。からの王のバラを手にする母親のカットがもう泣ける。そして前作同様に美しいテーマ曲とかけるタイミングが効果的でこれまた良い。リアルフランス人形みたいなおしゃまなお嬢ちゃん可愛い。

鑑賞日:2023/07/16 監督:イヴ・ロベール


プロヴァンス物語 マルセルの夏

フランス人のヴァカンスにかける情熱っぷりが好き。大人は大体駄目人間ってのを知る前の、目にする全てが輝いてる感覚が存分に表現されとる。初めての体験のあの感じを遠い昔に置いてきて、観てる方としちゃ少し悲しくもある。あー、夏休みたい。しかし、酷いジャケだな。

鑑賞日:2023/07/15 監督:イヴ・ロベール


やくざ絶唱

大谷直子の謎思考回路が確かに後の松本千秋っぽい。いやよ嫌よで好きオーラ全開でありつつで、勝新以外のあっちこっちに桃色の何か振りまくヘンな妹感が堪らん。浴衣で来ましたわなんてシーンはツィゴイネルワイゼンの狐につままれるみたいなレベルで、川津祐介がまんまと籠絡されるのも無理はない。ミニスカートや砂まみれで頑張る大谷直子を挟んで勝新と田村正和(美形)のもみあげ対決は、全般的に勝新が勝ってるけども負けてるって云う絶妙な仕上がり。からの夜間にグラサンかけてトルコに凸するシーンが最高。

鑑賞日:2023/07/13 監督:増村保造


アニエスによるヴァルダ

アニエスによるヴァルダ

アニエス・ヴァルダ遺作にして、充実したセルフ・ポートレート作品となっている。やる事なす事が無形文化遺産そのものって感じ。観てないのもちょいちょいあるけれども、『ひらめき』『創造』『共有』のもとに生み出されたどの作品にも彼女の柔らかい脳みそと視点、或いは優しさ茶目っ気を感じる事ができる。

鑑賞日:2023/07/11 監督:アニエス・ヴァルダ


ラスト・シューティスト

往年の作品を列挙したOPからして素晴らしい。からの1901年1月の20世紀幕開けの設定で余命宣告を受ける所から映画が始まる。古い西部劇の時代に自らケリをつけるみたいな内容で胸が熱くなる。生まれて初めての個人的な『死』と云う体験を他人に介入されたくはないとジョン・ウェイン。それに対して言葉少なめに表情で語りまくるローレン・バコールな図式でいちいち上手い上に泣けてくる。そして同じ時代を生きた仲間を失う悲壮感を表現するジェームズ・スチュワートと老人達の演技が一級な具合。ドン・シーゲル的カッコイイ銃撃戦からの『新しい時代には銃は不用なんだ』と云う教訓を刹那的微笑だけでロン・ハワードに伝える漢。シビれまくる。

鑑賞日:2023/07/10 監督:ドン・シーゲル


ニュー・エイジ

ニュー・エイジ

ビデオよりレーザーディスクは素晴らしいってやつをネットの配信で観てる。バブル世代的な脳死具合で、そこから君たちはどう生きるかとなる。人に誇れる仕事と金を稼ぐは別問題で、更にはスピリチュアルなあれやこれも別問題な中年ボン助、ボン子の成長物語。妙なものを売りつける事の方が多い世の中で生きてくのは大変っては良く分かる。自動ピアノから始まりちょっと音楽使い過ぎな気もするけど、雨だれの下りはなかなか。

鑑賞日:2023/07/09 監督:マイケル・トルキン


殺し屋

殺し屋

ヘミングウェイ原作ながらもソ連の若者の鬱屈とした雰囲気がそこかしこに漂ってる。閉鎖空間を舞台にこの町にいたら殺されると思う奴に、もう少ししたら頑張るとソフトに死んでる奴とでお国柄を表現しまくってる。荒削りな具合で、らしさは感じられないものの、先ぐ読めない作りでなかなか面白かった。カメオ出演のタルコフスキーは言われなきゃ分からん。

鑑賞日:2023/07/08 監督:アンドレイ・タルコフスキーほか


若き仕立屋の恋 Long version

若き仕立屋の恋 Long version

やっぱりこの湿度だわな。コン・リーには全然萌えないのに、映画自体のエロティック感は100%振り切ってる。鏡越しから始まって、交わらない視線、部分的描写の展開に加えてあの魅力的な色味の60年代の香港の雰囲気と内装の数々やらでウォン・カーウァイの良いとこが凝縮されてる感じ。直接的な最初と最後のサーヴィス(表現)以外は観てる方も放置プレイみたいな状態ってのも上手い。絢爛豪華なチャイナドレスをチャン・チェンにアイロンで攻めさせたり、グワーっと手を突っ込ませたりと、安易な濡れ場描写に逃げずに演出する辺りが流石。作ってる方も食ってる方もエロ過ぎチマキで若干飯テロ。しかしまぁド直球な原題。

鑑賞日:2023/07/08 監督:ウォン・カーウァイ


楢山節考

木下恵介版が観たかったけど無かったので、15年振りくらいに鑑賞。運転免許を自主返納できるタイプな坂本スミ子みたいな人ばっかりなら、この世はきっと今よりもっと優しい世界になるだろう。って事で、今平的ドキュメンタリータッチを通り越して過激の域に達してる日本昔話...だに。交互に描かれたあらゆる生命と骸で、なんかもうSDGsしてる。本編が凄まじいのは勿論として腐れを八分にする倍賞美津子とか、文字通り身体張ってる清川虹子が特に強烈。村社会が風化しつつある昨今の我が国で、当たり前のルールを守らない連中が好き勝手してる様に憂いが募る。

鑑賞日:2023/07/06 監督:今村昌平


さらば青春の光

実に30年振りくらい。当時は自分がってより(アーミージャケットは着てた)周りにモッズが多かったけども、確かにみんなお洒落さんだったわ。梅ヶ丘の〜とか津田沼の〜とかのテーラーで仕上げる気持ちが今なら分かる。昨今のファッションにはもはやこの手の気合いはない気がする。ピート思い出の青春時代の図って事で、まぁそれは良いとして、エネルギーが有り余ったフーリガンどもにはもはや近寄りたくないと思う世代になってしまった。で、世の若者達の常として、デビューのスティングもろとも映画の中ではがっつり青春の蹉跌しててちょっと切ない作り。そんなかんなで、初期もトミーも四重人格も良いけど、いつだってロジャーは暑苦しい。

鑑賞日:2023/07/04 監督:フランク・ロッダム


肉体の門

肉体の門

宍戸錠の『クッソー、いい身体してやがる...』が観たくて15年振りぐらい。戦争から生き残っても戦争の記憶を引きずり、戦後の混乱の中でも生きていかにゃならんって事でみんな汗ばみつつタフだわな。食うか食われるかの甘くない世界でパイ缶の甘さが見てるだけで際立つ。各種特撮に屠殺からの焼肉やら牧師を堕落させる等々、攻めてる清順。で、目の醒める様な色使い。戦時中の白黒世界の反動でああなってると何かのインタビューであった。故に説得力がある。で、女になってから可愛い緑ポジションの野川由美子。

鑑賞日:2023/07/03 監督:鈴木清順


マイ・ブルーベリー・ナイツ

湿気のないウォン・カーウァイな具合。映像は勿論の事、話の展開や哀しい過去持ちさん同士のいささか感傷的な会話など舞台が変わってもまんまな感じの安定感。キャラ設定なんかも良くも悪くも大体おんなじタイプが出てくる。ジュード・ロウに至っては次第に金城さんに見えてくる。いつでもイイ女なレイチェル・ワイズの長セリフシーンはちょっと役者魂を感じて、やっぱりイイ女だなと。劇伴ライ・クーダーで雰囲気演出しつつ、きっちり『夢二のテーマ』を入れてくる辺りが改めて上手いなと感じてしまった。とりあえず道路横断の長い道のりの先のラストのあの画をやりたかったのは良く分かる。

鑑賞日:2023/07/02 監督:ウォン・カーウァイ


愚か者 傷だらけの天使

とりあえず頭に『傷天』つける必要はない。見渡す限りの90年代臭で、フロムA片手な駄目人間環境がノスタルジー。愚か者演技で味を出しまくるイリーガル真木蔵人が1人でバンバン引っ張りつつ、大楠道代他のスパイスってな具合。坂上みきの酷い演技も気にならないのも、映画自体の出来が良いからと思われる。相方としてはちょっと存在感の薄い鈴木一真に、ショーケンポジションのトヨエツが無意味にバイオレンス過ぎるのとで、バディものとしてはもう少し。なものの、独特なテンポながら綺麗にケリをつける阪本順治の演出力に、赤ら顔&劇伴の井上堯之で全体としてはかなり面白い。

鑑賞日:2023/07/01 監督:阪本順治