otom

私、君、彼、彼女

Films: Jun.2023『私、君、彼、彼女』ほか

Jul,02 2023 12:00

必要に迫られてベースを購入したものの、何がどうなったか本数が増えててんてこ舞いだった6月。
色んな事でバタバタしていたので本数は少なめ。なんだけれども、内容的には傑作揃いと言って良い具合。

20年くらい前にテアトル新宿に通い詰めてまとめて観た、鈴木清順の特集上映以来。『悪太郎』、『すべてが狂ってる』、『春婦傳』をチョイス。日活時代にして既に出来上がっている。春婦傳の野川由美子が特に素晴らしい。
それからカウリスマキの続きもので『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』、『続・夕陽のガンマン』のタイトル『どですかでん』の極彩色が混じった様なエットレ・スコーラの『醜い奴、汚い奴、悪い奴』、ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィの『スキャンダル・愛の罠』、チェコ映画最⾼傑作と云われるフランチシェク・ヴラーチル監督作品『マルケータ・ラザロヴァー』となかなかの曲者揃い。スピルバーグの劇場デビュー作の『続・激突! カージャック』も最高。
古典系ではフレンチな『白痴』、1951年に戯曲を最初に映画化した『セールスマンの死』とそれぞれクオリティが高い。『セールスマンの死』に関しては後のフォルカー・シュレンドルフのと甲乙付け難い。
6月はパトレーバーをOVAの最初から観始めた事もあり、その流れで『機動警察パトレイバー THE MOVIE』を鑑賞。現在、TVシリーズの途中。
そしてずっと観たかったヴェルヴェッツのドキュメンタリー『The Velvet Underground』にピングドラム劇場版の『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編] 僕は君を愛してる』。ピングドラムは面白いのは変わらないものの、どちらかと云うとTV版の方が好き。
観るもののほとんどハズレなしな清水宏の『小原庄助さん』と散々迷ったものの、我が家で始まってるシャンタル・アケルマンブームにより6月の顔は『私、君、彼、彼女』とする。内容的には『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』なんだけど、タイトル長過ぎなので。

そんなかんなな6月で、やる事が多過ぎて音楽制作が進んでないのが地味にストレスではある。
長丁場のプロジェクトはともかく、そろそろシングルはリリースしたい感じな今日この頃。

観た映画: 2023年6月
映画本数: 18本

続・激突! カージャック

隅々まで見せ方が上手い感じで、劇場デビューにして既に完成されてる。圧倒的な数珠繋ぎ状態のパトカーで、数が正義な理論を若くして獲得してるスピルバーグ。視覚的に内容的にもきっちりエンターテイメントしつつ、どこまでもアメリカン・ニューシネマな雰囲気で良く出来てる。憂いの表情を見せる隊長のベン・ジョンソン、スローターハウス5のあいつから始まり、馬鹿な夫婦の罪の上塗りをさせまいと配慮を重ねる辺りと、お祭り騒ぎと同情の交じったテキサス国民とで、ひたすら優しさに溢れた仕上がりなのもイイ。邦題以外は何も文句なしの傑作。フライドチキンにシロップをかける下りに猛烈にアメリカを感じた。

鑑賞日:2023/06/30 監督:スティーヴン・スピルバーグ


セールスマンの死

先に'85年のフォルカー・シュレンドルフの方を観ていたけれども、戯曲ベースの為にセットの感じなんかも含めて大体おんなじ具合な安定感。きっと何者にもなれない人が抱く夢の弊害を一手に引き受けたかの様な主人公像が滑稽でもあるし、哀しくもある。後のダスティン・ホフマン同様に迫真のブッ壊れ演技をこなすフレドリック・マーチが見事。オリジナル演出のエリア・カザンの映画版(if)が観てみたい。

鑑賞日:2023/06/27 監督:ラズロ・ベネディク


劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編] 僕は君を愛してる

劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編] 僕は君を愛してる

前編で回避してた1話冒頭のネタバレ概要が後編の冒頭に来てた。苹果の計算式を分かりやすくってよりは、桃果パート+盛りすぎCGとその他のクドめな補足って具合で別にあってもなくても良い気が...。追加ARB曲の下りも悪くなかったけども、ちょっと浮いてる気はする。でもって、『英雄たち』のシーンのタイミングもどうなんだろ。23話の朝日と共にイントロが始まる鳥肌ものな名演出をイクニ自ら潰してる感じ。やくしまる新テーマもパッとしないし。とは云うものの、元が良いので全体としては普通に満点なんだけど。結論で言うと、まぁTV版の方で良い。サンちゃん(猫)→サンちゃん(3.)とかの20話あたりが何回観ても泣く。

鑑賞日:2023/06/26 監督:幾原邦彦

スキャンダル・愛の罠

オッサンの身から出たサビも側から見てると結構楽しそう。まぁでも劣化したラウラ・アントネッリよりは娘一択な具合。母親の執念深さの遺伝が段階を経て表に出て、更に上行く感じで面白い。オチがどうこうより、そっちなんだと思われる。『サイコティック』同様にヤバめな人間のあれこれを描くジュゼッペ・パトローニ・グリッフィの変な空気と馬鹿みたいな演出が堪らん。低予算な密室監禁ものが故なのか、内装に振り切ってる感じがまた良い。で、OP始まった瞬間にガッチリ捉える流石なモリコーネ。そんな天才の楽曲をユルユルなドレス着てシンセを弾くシーンが最高。

鑑賞日:2023/06/24 監督:ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ


春婦傳

春婦傳

こちらも四半世紀ぶり。国家に仕える者たちの砂塵と荒廃の青春で、まぁ國は信用できんよなって云う。兵隊の鏡みたいな融通のきかない川地民夫を、あの手この手でどやしつける肉食系乙女な野川由美子の図。裸体から始まり色んなもんを晒しまくってて圧巻の演技。で、柱や壁を越えたパンニングやら清順らしい攻めてる心象風景の数々な感じなんだけども、特に素晴らしいのは、飛び交う銃弾の中を駆け抜ける→静寂やら炸裂前の静止画とか鳥肌もの。逃げるのが卑怯なのか、死ぬのが卑怯なのかって云う問いかけの重みは、自身が軍隊を経験してるからこそだわな。傑作。

鑑賞日:2023/06/22 監督:鈴木清順


すべてが狂ってる

すべてが狂ってる

このところ、20年くらい前に清順レトロスペクティヴで観た日活時代ものばっかり観てるけど、やっぱりどれも面白い。日本が、新宿が、葉山がほとばしってて、その熱量だけでクラッと来る。筋としては戦中と戦後派の断絶の壁ってよりは単に川地民夫の駄々っ子な具合でもあるんだけど、この手のキモい系なサイコな役柄がホント上手い。で、『現代では人間の間に善意の通じる場所がない。すべてが狂っているんだ』と狂った世相を反映しつつ、あちこちで狂った演出をする清順。チョイ役な吉永小百合(新人)が放つ、神々しいまでのオーラだけでも観る価値がある。

鑑賞日:2023/06/21 監督:鈴木清順


マルケータ・ラザロヴァー

今も昔もそう変わらんって具合。時代背景も相まって『アンドレイ・ルブリョフ』や、はたまた別宇宙の『神々のたそがれ』級な蛮族っぷり。キリスト教も異教も神は平等に恩寵を『与えない』って云うこの世界の永遠のテーマ。不遇の周り道して辿り着いた修道院で神に引導を渡すマルケータで美少女っぷりが増す。時折、誰が喋ってるのか分からなくなるのと、親切な章の概要で鑑賞者に対する飴と鞭感が凄い。随所に挟まれるホワーっとした神々しいシーンの効果は絶大。雌争いに負けた孤独の鹿の図に、近所の雄猫を思い出しちゃった。

鑑賞日:2023/06/20 監督:フランチシェク・ヴラーチル


悪太郎

悪太郎

刺青一代のチャキチャキがベストなものの、はいからさんな和泉雅子が見たくて。ベタな悲恋もよりベタでありつつ、更にはそこかしこに清順をきっちり感じさせ、大正浪漫具合も既に完成されてる具合。で、東京流れ者あたりからの極彩色ではないものの、モノクロでありながらも色が見えるってのも凄い。ダイナミックなパンニングにループ演出にとその辺りもいちいち上手い。学生の世界では完全無欠の悪太郎が大人の世界で味わう挫折って事で、ラストのお経のとこの嗚咽がかなり来る。そして芦田伸介の餞別の台詞『二十歳にやるべき事は四十、五十になってもできない』を二十歳くらいの当時も感銘を受けた筈なのに活かせてない今日の自分...。若かりし頃に聞かん坊ではなく、ちゃんと真理を悟るのもひとつの才能だわな。そんな意味でも悪太郎はやっぱり出来杉くん。

鑑賞日:2023/06/18 監督:鈴木清順


機動警察パトレイバー THE MOVIE

一から十までクオリティ高過ぎ。PC普及前夜にしてトロイの木馬とかMITとか言ってる時点で進んでる。そんなのをほぼアナログなアニメーションでやってる訳だけども、光の反射なんかの細かいとこから始まり演出力が異常。台詞回しなんかもいちいち粋な具合。基本のキの字が感じられない今のアニメーターは正座して見るべき。近くの長屋に遠目のビル群、テクノロジーと人力、話のテーマなんかの新旧のコントラスト具合がホント上手い。おまけに九龍城みたいな画のワクワクするやつやらせたら敵う人がいないんじゃないか。シリアス(そっちはそっちで良いけど)に振り切ってない押井守好き。

鑑賞日:2023/06/17 監督:押井守


白痴

白痴

イッポリートの告白をガッツリ端折るのは仕方ないとしても、展開がファスト映画級の爆速っぷり。こうしてみると割と忠実(やっぱり端折ってるけど)に作ってる黒澤版は、監督と役者(特に那須妙子)共にクオリティが高いのを改めて感じる。一方、今作の場合は脚色しまくって設定はおろか、原作にない事まで言ってる様な気がするものの、以外と上手い具合に機能してたりする。日本に置き換えてきちんと展開するのと、フランス語で無理矢理ロシア風にしてるのを比べると黒澤圧勝な感じではある。森雅之とジェラール・フィリップのムイシュキンはなかなか良い勝負。ロゴージンは三船敏郎の方が迫力がある。色々難癖付けつつ、健常者とどっちが白痴ってのをきっちりやってるのと、忠実なラストは評価できる。

鑑賞日:2023/06/15 監督:ジョルジュ・ランパン


レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う

レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う

15年振りくらい。食い物に不平を言うメンバーとの関係性で独裁者から荒野を経てモーセとなったペロンパー。図式は何も変わってないんだけど、しっかり水上を歩く。ソ連崩壊前の前作から崩壊後の2作目って事で、こちらも流浪の民っぷりが全然進化してなくて泣ける。ものの、へし折った(ノコギリで切ってきた)自由の女神の鼻っ柱でゴーゴリ的手土産と凱旋で結構めでたし。故郷を前にして今作の『悲愴』使いはなかなか真っ当な使い方。テキーラに始まりCIAがウォッカをあおるラストで良く出来てるけど、まぁ前作の方が色んな意味で面白い。

鑑賞日:2023/06/13 監督:アキ・カウリスマキ


小原庄助さん

耳にした事のある『会津磐梯山』の歌詞の中の人の話。「朝寝朝酒朝湯が大好きでそれで身上潰した〜♪」とセルフ没落しつつ、パラメータが徳に振り切ってて人間としては勝ってる劉備玄徳みたいなタイプ。なんだけど、むしろ戦後の農地改革や社会構造の変化によりなるべくしてなるって具合でもある。闇商売や腹黒い事とは無縁で身ぐるみ剥がされて、痩せ衰えたロバとイコールの様な大河内伝次郎、そしてロバの演技が素晴らしい。清水宏作品で頻繁に見る番傘シーンの静かにざわめく胸中を語るのから、ダイナミックに横に移動し、日本の屋内屋外の原風景を鮮やかに切り取る撮影もまた見事。朝風呂で落ちきれなかった垢を落として、晴れやかな『始』END(こんなの初めて)で鼻の奥がツーンとなる。変な役の若かりし清川虹子も雰囲気あってイイ。爆音ノイズはそれはそれとして、キチンとリマスターして後世に伝えていかなきゃいけないレベルの作品。

鑑賞日:2023/06/11 監督:清水宏


The Velvet Underground

The Velvet Underground

ビートな面々にラ・モンテ・ヤングにトニー・コンラッド等々、序盤に関わった偉人率が異常。3枚目以降に各自ソロに"SONGS FOR DRELLA"などどれも素晴らしいものの、最初の2枚は魔力レベルがちょっと違う。ママス&パパス時代の花の西海岸に降り立った黒づくめのヴェルヴェッツで、モーがラブ&ピースをディスってる辺りに超親近感。ドキュメンタリーとしては目新しい映像ってよりは、良い感じに編集されてるって印象。

鑑賞日:2023/06/10 監督:トッド・ヘインズ


ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン

生活全般が完璧風でありながら、ドアがキィキィ言ってたり雑な所がチラホラある加減が絶妙な初期設定。人間性を殺して機械的にしたところで結局人間な様子。で、思えば序盤の「糸がない」と『エリーゼのために』の展開部分からして始まってる具合で、照明も含めた全てのタイミングが巨匠の域。そしてルーティンが本格的に崩れてバグり始めてからのポンコツロボ顔負けにブブブ...となるデルフィーヌ・セイリグの演技が圧巻。急かせかと動くとフリーズ虚無状態の時間配分と落差とスイッチ具合とかホント素晴らしい。更には自分のやってる事を知ってるのか否か、ただでさえ妙な緊迫感のある息子との日常のやり取りの中で投下される男女論のドキドキったらない。殆どのシーンでかっちりした構図なんだけど、アタシの心の席が取られてるカフェの一幕で画面のセンターから外れてるとことか、無意味なお喋りする隣人の時間泥棒女はフレームインすらさせないって辺りがまた地味に痺れる。傑作。

鑑賞日:2023/06/09 監督:シャンタル・アケルマン


私、君、彼、彼女

私、君、彼、彼女

画面に砂糖に私の胸中にと、とにかくザラザラしてる。私の奇行的なまでの色んな飢え、それを傍観するこちら側(多分)との共感するには難しい距離感。からのプレイに始まり色々薄まった感じの小さいマーロン・ブランド(ラスト・タンゴ~的な)みたいな彼、飢えの原因らしい彼女とで良く出来てる。お手軽な手淫に対して、官能とレスリングが一緒くたになった様な激しい濡れ場で、男子的に情けない気分になってくる。で、何やら余計に人間の孤独を感じる仕上がり。そんな訳で最後の映り込んでるの何アレ? 身体張りまくりなシャンタル・アケルマン(可愛いらしい)で全体的に素晴らしいんだけど、砂糖直喰いにヌテラ+バターパンでこの人と食の趣味は合わない気がする。

鑑賞日:2023/06/05 監督:シャンタル・アケルマン


醜い奴、汚い奴、悪い奴

醜い奴、汚い奴、悪い奴

『続・夕陽のガンマン』をパロったみたいなタイトルで、『どですかでん』の極彩色を省いて極限まで酷くした具合。底辺だから子供が多いのか、はたまたその逆か、意識が低い方に全力で舵をきってる感じ。で、守銭奴から始まって全員キャラが立ち過ぎ。奇行の連続で観てる方は笑いで休む暇もない出来。最後の晩餐のとことかあまりにあんまりで面白い。「ロンドンみたいだな」とインドにしか見えないローマって事でヴァチカンを遠目にこっちはモラル崩壊の世界で何やら懐の深い古都の実態 。そんでもって約10年後にはブルジョワ一家の『ラ・ファミリア』撮るエットレ・スコーラ。振り幅広いな。控えめに言っても傑作。

鑑賞日:2023/06/04 監督:エットレ・スコーラ


愛と殺意

愛と殺意

言う事とやる事が違う腐れ女って事で、デビュー作から愛の不毛してるアントニオーニ。尾行されてるとは思えない程に常に派手な格好をする勝ち組ルチア・ボゼーに、全然パッとしないマッシモ・ジロッティのブルジョワとプロレタリアの組み合わせの徹底的な溝がまぁ深い。それらを転がしてる風の旦那さんも全員が見事に挫折してる感じで救いがないねぇ。狙ってやったのかは分からんけど、結構色々とおいしい感じの伏線を配置しつつ、実際のところ結末はあっさりしたもんなんだって具合がクール。テーマもなかなか。

鑑賞日:2023/06/03 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ


夜の子供たち

夜の子供たち

まずはダニエル・オートゥイユの劇中の生き様からして銭形みたいで、劇中の人間が誰かしらに心を奪われていると云う。色んなタイプの泥棒が錯綜し眠り姫ことドヌーブ様の隠し撮りまで出てくる細やかさ。人の心の成り行きもさる事ながら、結構激しく予想外の展開の連続な見せ方で映画的にも面白い。目ェ!もなかなか。愛に敗れた(挫折の方が近い?)大人と子供それぞれのくたびれた感じと、妙な連帯感と代替感の匙加減が結構沁みる。で、良いなと思ったら、案の定のフィリップ・サルド劇伴。あらゆる欲望丸出しな五里霧中&異文化全開でごった煮が始まってるフランス。

鑑賞日:2023/06/02 監督:アンドレ・テシネ