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枯れ葉

Films: May.2024『枯れ葉』ほか

Jun,01 2024 11:00

5月5日に今年最初のシングル作品『Starbright』をリリースし、一息入れる間もなく継続中のアルバムのあれやこれと始動したバンドのあれやこれで頭が回らなくなってきている今日この頃。
ジョセフ・ロージー監督『コンクリート・ジャングル』から始まるもこの月は『水の話』、『ピアニストを撃て』、『突然炎のごとく』、『柔らかい肌』、『夜霧の恋人たち』、『家庭』と先月から続く久々のトリュフォー祭りに、『流れる』、『あにいもうと』、『夫婦』の成瀬巳喜男作品でそのあたりばっかり観ていた印象。
最近、背中を痛めているせいか長時間がキツい事もあり昔のドラマだけなんて日も多くなってきているけれども、5月は倉本聰+健サンの1977年のドラマ『あにき』をひたすら観ていた印象もある。
更にはそれが終わって月末には『悪魔のようなあいつ』を2012年頃以来に観始める。
再鑑賞ものが多かった中でもロマーヌ・ボーランジェ×エルザ・ジルベルスタインの美女2人の『ミナ』は、ただでさえ目の保養になる上に、観返して見ると昔よりじんわり来てとても良かった。
そんなかんなな旧作の多い5月の中でアニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』と迷った挙句、唯一な新作って事でアキ・カウリスマキの『枯れ葉』を2024年5月の顔とする。
いちいち時間かかり過ぎるアルバム制作作業をどうにかしたいそんな今日この頃。

観た映画: 2024年5月
映画本数: 15本

夫婦

倦怠期の夫婦に用意された設定が薄氷だらけで結構な緊迫感。拗ねる上原謙(美男)にやり返す杉葉子でなかなかバチバチしてるんだけど、同居する三國連太郎(美男)と絡むクリスマスと大晦日出張の下りがまぁドキドキする。三者共に気を配る描写がしっかりなされているので間違いはなかったんだろうけど、上原謙目線だとあの時の...でちょっと疑う。夫婦は鋏の如しと年下小林桂樹に上から目線も、実情はあたふた→なんとか乗り越えて行くENDで良い作品ではある。ものの、成瀬作品っぽい編集の妙は今作に関しては個人的には少々物足りない気もしなくはない。そして『めし』と被るけど、嫁役は原節子で見たかった気もする。妹キャラの岡田茉莉子は可愛いので文句なし。買ってきた肉に餅に出前支那そばにうなぎ蒲焼きで猛烈に飯テロ映画だった。

鑑賞日:2024/05/29 監督:成瀬巳喜男


冬の旅

否が応でも着地点が見えるキツイやつ。個人的に大好きなカラマーゾフの兄弟の大審問官の下りで出てくる、民衆は自由を差し出してパンを得るって云うこの社会のあり様。そこからはみ出して法と寝ぐらのない真の自由を実行した時に何が起きるかって云う自明の理を時を遡って淡々と描き出す。地球が家だからって云うやつをやりつつ、汚ギャルと化したサンドリーヌ・ボネールのアナーキーでヤケクソな演技が結構来るものがある。そして、弦楽とパンニングのシーケンスにて、オブジェクトでさりげなく繋いで来るアニエス・ヴァルダ。素晴らしい。

鑑賞日:2024/05/29 監督:アニエス・ヴァルダ


家庭

2号さんにお歳暮上げる江戸時代とは逆みたいな具合で、2号さんから『月券手レこしやカヾれ』を突きつけられる微笑ましさ。大枠で見ると最初から最後まで幸福感に包まれてる感じなドワネル4作目。バルテュスの絵を巡るやり取り再びに、ユロ氏らしき人物の登場、マリエンバートモノマネ等々あちこち面白いんだけど、デカイ娼婦のとこがやっぱり一番笑える上にドワネル的歴史を考えるとジワっとくる。

鑑賞日:2024/05/27 監督:フランソワ・トリュフォー


枯れ葉

続・労働者三部作ってな具合。室内のブルーな壁も含めて完全なるカウリスマキ感。お馴染み『悲愴』の3段活用からの枯れ葉の季節=年齢に春がやってくるって云う実に良い映画。マブダチなジャームッシュから始まり、ワンコの名前からなオチまで映画愛が溢れてる。毎度の様に挿入される東側情勢(音声のみ)の批判の加減も品があって良い。最小限に抑えた携帯描写とレトロ家電で、2020年代とは思えないほど。なんだけど、W杯でフィンランドが決勝に出るサプライズがあり、スマホに依存しない世界線ってのも悪くない気もする。で、ラストの控えめなバチッ!が堪らん。

鑑賞日:2024/05/25 監督:アキ・カウリスマキ


あにいもうと

素直になれないにもほどがある。派手な喧嘩とは裏腹に「たまには顔が見たくなる」的な家族の情の塩梅が絶妙。森雅之が船越英二をボコるからのバス停は左の演出の粗暴と優しさの出し方とか凄い。おはぎ飛び交う京マチ子vs森雅之も迫力満点。どっちもどっちと泣き叫ぶ浦辺粂子に辛くても良い子な久我美子、山本礼三郎以下あらくれ兄弟と別の血族みたいであり、似ていもするって云う家族像。灯籠流し等々の場面展開の数々も見事。

鑑賞日:2024/05/22 監督:成瀬巳喜男


夜霧の恋人たち

15年振りくらい。ドジっ子属性と処世術は別ものなドワネル其の三。梱包のとこと鏡で連呼するとこの不器用過ぎレオーが愛おしい。で、先生をお母さん呼ばわりするレベルでデルフィーヌ・セイリグをムッシューと呼ぶ下りの羞恥心と可愛いさったらない。そんなかんなで綺麗に収まるクロード・ジャドとのラスクの下りで実に微笑ましいEND。張り巡らされる気送管の如く猜疑心があっちこっちで錯綜しつつも、一切明るさが失われない出来で最高なトリュフォー。

鑑賞日:2024/05/21 監督:フランソワ・トリュフォー


流れる

久々。杉村春子のコロツケの下りを観にきた。無常な時の流れをやりつつ、目線を含む流れる様な人物の動きと繋ぎの演出が改めて見事。そんなテーマの中で狂言回しポジションの田中絹代(梨花ちゃん)の安定感でこれまた凄い。終始悩ましいデコちゃんの序盤の遠くの稲妻もとても良い。で、置屋にピッタリなポン子。

鑑賞日:2024/05/20 監督:成瀬巳喜男


柔らかい肌

久々。カーテンの下からのぞく足からやられるって事で、毎度な脚フェチを発揮するトリュフォー。最初の空港行くとこから始まり、あれもこれも上手く行かない姦通の最中も途切れる事なく続く緊迫感でこっちがドキドキしっぱなし。話進んで、自由でよっしゃー!なのも束の間、二兎からの立て続けのお仕置きタイムが超キツい。決定打の気の利くクリーニング屋も考えもので、高倉健のドラマでは客の服に入ってたモンは焼くって言ってた。腹に穴が空いて、こんなはずじゃ...と考えるジャン・ドザイーにある意味同情する。まぁドヌーブ姉フランソワーズ・ドルレアックから電話かけ直されたら照明全開にする気持ちも分かるけど、やっぱり結構リスキーだわな。で、ジョルジュ・ドリューの傑作劇伴。

鑑賞日:2024/05/17 監督:フランソワ・トリュフォー


唐獅子株式会社

ダーク荒巻こと横山やすしメインパートを含む7割くらいは死ぬほど面白いのに、残りの3割が信じられないほどつまらないって云う評価に困る作品。最初の出所シーンの掴みから始まる序盤のテンポの良さから、露骨に失速する後半でどうなってるのかと。広島抗争の時代は良かったなとボヤく伊藤四郎が憂う、シノギと形態変化した現在ヤクザの成り行きを映画全体で表現してるとしたらもの凄いんだけども。こうなると爆笑するブルドッグの剥製もメタファーな気がしてくる。次から次へ現れる往年の吉本+東映の面々に、アルプス+スフィンクス+手刀ビールの丹波哲郎の安定感は流石。劇中的にはオイシイとこをさらって、映画的には殺される杉浦直樹がなんとも言えん。

鑑賞日:2024/05/14 監督:曽根中生


突然炎のごとく

極東の文化圏では訳分かんない火の玉女っぷり。崇められる事を望む女神、女王って事で、蜂かなんかの世界だったら問題なかった訳で、人間界にいたのが不幸でもある。欄干に水車小屋からのラストで己の燃えっぷりを冷やすかの如くな水難の相の面白さと、男に手を差し伸べるさせる誘導の上手さで超怖い。盛り込まれた20世紀初頭のアーカイブも素晴らしい。

鑑賞日:2024/05/12 監督:フランソワ・トリュフォー


ピアニストを撃て

久々。OPからEDで同じピアノを弾くシーンでも哀愁マシマシで泣けてくる。愛する者の犠牲の上に成り立つ『芸術家』の過去と未来、ついて回る家柄とでなるべくしてああなるラストであの顔も無理はないわな。満面の笑みのドラマーとの比較が効果テキメンでピアノマシーン面が際立つ。散りばめられた人生における大小の臆病ポイントで、世にも悲愴な描写をするかと思いきや、とびきり胸キュンのやつやらでそこら辺もまた上手い。愛聴盤サントラで聴覚的には全然久々な感じはしなかったものの、映画そのものは新たな発見が沢山あった。

鑑賞日:2024/05/07 監督:フランソワ・トリュフォー


水の話

トリュフォー+ゴダールほかのオムニバス『プチ・シネマ・バザール』第1話。洪水で迂回する=脱線する事で主題を語るで上手い事作ってる。イレギュラーに一変した風景がファンタジーの領域まで引き上げられてる感じ。ビデオデッキを処分しちゃったので、数年前にVHS→Blu-rayしといて良かったとしみじみ思う。

鑑賞日:2024/05/06 監督:フランソワ・トリュフォー, ジャン=リュック・ゴダール


男はつらいよ 寅次郎春の夢

久々。日米フーテン対決みたいな様相。『太陽を盗んだ男』なんかに参加してるレナード・シュレイダーを共同脚本に迎えての異色な24作目。他のに比べると些か精彩を欠く気もしなくはないけど、面白いは面白い。セールスマンのマイケル・ジョーダンvsタイガーこと寅次郎の恋の行方って事で珍しくさくらに降りかかるとこは良いけど、香川京子パートはちょっと弱いのが残念。『1時間待ってるのに時計が5分しか進んでねぇ』はなんかのタイミングで使いたい。

鑑賞日:2024/05/06 監督:山田洋次


ミナ

当時は旬の2人を愛でたいだけで観てたけども、改めて観るとシンメトリーを駆使したりと映像的にも完成度高い。ズッ友の成り立ちから果てまで、女性の胸中と表面の複雑なとこを織り交ぜつつ上手い事描かれている。ユダヤ人のブスっ娘設定はちょっと無理がある美女2人で、パパンが時折チラつくけど影ある女子やらせたらピカ一なロマーヌ(姫カットも可愛い、それと『野性の夜に』また観たい)に、色気の塊みたいなエロ可愛いエルザ・ジルベルスタインとでずっと観ていられる。そんな2人の70~90年代の前後半で、上手い事ファッションも絡めた若者の奔放から現実社会の洗礼の流れで結構重くて泣ける。ダリダの『18歳の彼』と、ちょっとナイマン入ってるピーター・チェイス劇伴もとても良い。フランスっぽいフランスがまだ残ってる時代の90年代のあのフィルム感でノスタルジー。思い出補正込みで満点。ゲンスブールの目のやつ真似したい。

鑑賞日:2024/05/04 監督:マルティーヌ・デュゴウソン


コンクリート・ジャングル

カメラワークと構図に照明ほかの演出がいちいちカッコ良くて堪らん。モリッシー入ってる感じ(逆に)のスタンリー・ベイカーが仕切ってる風から始まって実は使われてるって云う図式。壁の中を越える影響力を持つ組織になかなか頑張ってソロで対抗してる具合。囚人のサブキャラが途中誰が誰やらちょっと混乱するけども、そいつらを全て巻き込んだ暴動の下りの盛り上がりは結構なもん。罪人の上には上がいるがキリがないENDなんだけど、広大な土地掘り返すのはチョー大変そう。全編で流れるクレオ・レーンのアンニュイな感じの英国的ジャズがまたイイ。

鑑賞日:2024/05/02 監督:ジョセフ・ロージー