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新宿昭和館

名画座番外地「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記(文庫版)

Dec,05 2008 05:00

Webの制作・管理をさせて貰っている川原テツ氏の"名画座番外地「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記 (幻冬舎アウトロー文庫)"が12月3日に文庫版として装い新たに発売される。

名画座番外地―「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記 (幻冬舎アウトロー文庫)

と云う事で久々に読んでみたけれども、相変わらずのボキャブラリーの多さについついニヤッとしてしまう。
場末の映画館を知らない人でも読み物として大いに楽しめるであろうと感じる。
何故と言えば、やはり氏の人柄やセンスなどの魅力が溢れているからであろう。
この人はドSでありながら、本当に優しい心の持ち主なのだと否応無しに感じさせる。
これは昭和館の人々ほどではないものの、交流を持たせて貰っている個人的で率直な意見でもある。
更には度々感じる氏の礼節を常に重んじる姿勢は昭和館や米子ちゃんや様々な人から学び、そして人格形成された結果であると思われる(もちろん本人ではないのでそのすべては 把握できかねるが)。
その姿勢は尊敬せざるを得ないし、だからこそ氏に好感が持てる。

今回再読して、キーワードとして『経験』の二文字が浮かんできた。
この本に描かれている事はまぎれもなく氏の実経験に基づくものである事は言うまでもない。
だからこそ当然の事ながら、描写に深みが生まれ、こちらの胸に突き刺さってくる。
個人的に知識と云うものについて考える事が多いのだけれど、大学等に入って知識の幅を広げる事は当然悪い事ではないし、むしろないよりはあった方が良い。
そうかと思えばドストエフスキーの「未成年 (新潮文庫)」の中のマカール老人曰く、

"わたしは思うのだが、学問をおさめるほど、ますます退屈になるものらしい。ま、考えてみなさい、世界が生まれてからこのかた、いろいろな人がいろいろ教えてきたが、世界がいちばん美しい、そして喜びがいっぱいの住居になるような、なにかいいことを教えてくれたかね?〜"

に対しすべてとは云わないまでもやっぱり納得してしまう。
つまり何が言いたいかというと、経験は机上の知識に勝ると。
知識のないせいで人生を成功させる事が出来なかったとしても、机上の知識をひけらかす人間よりは美しいと思うのだ(多少乱暴だとは思うけど)。
知識自体は悪い事とは思わないが不遜であってはならない、ましてや他人を見下してはならない。
そう云う意味で残念に感じてしまう人は世の中に多々いる。
氏の如く痛い経験をしてこその言葉に重みであって、結果として本当の意味で他人に気を遣える人間になれると思うのだ。
氏は多分、自分はそんな完璧な人間じゃないと言うであろう、確かにその通りである。
誰しも嫌な部分は持っている筈ではあるが、不遜な人とそうでない人の間には明確な区切りがあると感じてしまうし、少なくとも氏を知る者としての感想としては氏に不遜の影は見受けられない。
もちろん人間がどう変わっていくかは知る由もないし、氏にしてみたって時には間違いを犯すかもしれない。
しかし、今作の楽日の章の米子ちゃんのスポットライトのシーンはまぎれもなく氏の本心であろうし、経験なくしての想像からではここまで人の心に訴えてくるものは出てこないと思うのだ。
だからこそ、個人的には経験を支持するし、そうありたいと願うのだ。

このところ悲しい事や色んな出来事がそばを通り過ぎ、いささか疲れもしているのだけれども、これも経験なのだ。
どうにもならない様な仕方のない事の連続でも、過去を引きずりながら生きるとしても陽気に生きて行く事が大切な気がする。
ほころびがあったとしても美しい瞬間が生きているうちにはあるのだと感じる、今日この頃。

追記:
文庫本発売に併せて"川原テツ - official website"もコンテンツを色々と増えました。
本には描かれていない昭和館のエピソードやら多数アップされています。

http://kawahara-tetsu.com/