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神々のたそがれ

Films: Mar.2019『神々のたそがれ』ほか

Apr,03 2019 12:30

長尺のやたらと多めながら、記憶に刻みつけられる傑作の多い3月。
今年に入ってからのアレクセイ・ゲルマン監督作品群も、満を持しての『神々のたそがれ』で終了。
ストルガツキー兄弟の原作『神様はつらい』をきっちり読了後の鑑賞で、
よくもまぁあの汚物感にまみれた内容を再現したもんだと云った感じ。
『カラマーゾフの兄弟』の大審問官っぽいところもしっかりと映像化されており、まさに集大成なのもうなづける。
20年くらいずーっと観たかったエドワード・ヤンの『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』も映像、内容共に素晴らしかった。
そしてずっと見続けているテオ・アンゲロプロス監督の『こうのとり、たちずさんで』の圧倒的な長回しと映像美に感嘆する。
初の鑑賞となるグルジアの監督、テンギズ・アブラゼの『懺悔』もまた強烈。
3部作でソフト化しているのが最後の今作だけだそうで、リリースを熱望するところ。
そのほか、定番化してきているジョン・ヒューストンにおなじみのヴェルナー・ヘルツォークなど。
ストックして寝かせたままだった山の郵便配達は予想以上に良かった。
そんな3月。

観た映画: 2019年3月
映画本数: 14本

賭博師ボブ

計画、人員チョイスに穴があるどころか、映画的に穴だらけな雰囲気ではある。負け戦気味でも賭けに行くラストと思いきや、超絶ズコーな展開でア然としつつもタイトルに深く納得する。スッキリまとめて良い感じ+イザベル・コーレイで散々目の保養したので、全部ひっくるめて結果オーライって事で。

鑑賞日:2019/03/31 監督:ジャン=ピエール・メルヴィル


懺悔

独裁者死亡ニュースからの長大なifかと思われる。悪政に対する復讐、それが生み出す憎しみの連鎖...をグッと飲み込む。内容的に当然の事ながら悪政に対する批判がかなり盛り込まれてはいるかと思う。けれども、裁くはあくまで神のみであり、それを妄想してしまうが故に教会の道に通じていないとされるとも考えられる。母親達が望んだ許す世界、歓喜の歌の境地に辿り着く事の難しさってものが憎たらしい演出によってより表現されているような。夢に出てきそうなちょび髭の悪魔感と異音の数々の強烈な事。画の感じも非常に好き。なんで前の作品リリースされないんだろね。

鑑賞日:2019/03/30 監督:テンギズ・アブラゼ


世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶

これは3Dで観たかったな。ある意味文字通りなニッチなジャンル(映画的に)ではあるものの、途方もない時間の末に現在の人類につながっている事を考えると思いっきりマスだねぇ。最近のヘルツォークのこのテイストはロマンがあって嫌いじゃないけど、ドキュメンタリーの気分じゃない時にはちょっとキツかった。

鑑賞日:2019/03/27 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク


山の郵便配達

まるで山水画の様。俺のイメージ的な中国の山岳地帯で三国志で云うところの黄忠が出て来るあたりの山々。そんな険しい道すがらでひっそりと行われる父子の継承の儀。コントラスト強めながら目に優しい風景でほっこりしつつも、取り残される農村戸籍の実態も感じて、余所の国の話ながらちょっと複雑な気分にもなる。身体精神問わず、動けない人々の為にひたすら歩く人なテーマ。良かった。

鑑賞日:2019/03/25 監督:フォ・ジェンチイ


俺はサルタナ/銃と棺桶の交換

監督別名義って事で『サルタナがやって来る』とどっちが先かは分からない。とっ散らかっている風な割にきっちりとありとあらゆるツボを押さえてくる感じ。サンドイッチコルトとパンネタのこね方とか最高。サバタ=チャールズ・サウスウッドのメルヘンな日傘の下りとか意味不明過ぎるけど好き。

鑑賞日:2019/03/23 監督:アンソニー・アスコット


アラビアの女王 愛と宿命の日々

英国の三枚舌に直結する内容なものの、あまり政治感はない。そこよりも清浄とも云える砂漠にひたすら焦点を当てている感じ。ぼーっと見ていると紛争の原因とかそんなもんを超越した地球規模の自然スゲェに変化するってのは、ある意味狙い通りなのかもしれない。筋も恋物語も何もぼやっとしているものの、ニコール・キッドマンの貫禄と数々のラクダショーでなかなか満足。羊のお頭付きビリヤニなんて初めて見たな、涎が止まらん。

鑑賞日:2019/03/22 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク


神々のたそがれ

どこまでも臭ってきそうな原作の汚物感を完璧に再現した汚物系映画。セーラームーンの様なヘッドカメラを装着しつつの惑星任務。カラマーゾフの大審問官をより掘り下げた様なストルガツキー兄弟、そしてそのくだりに辿り着く為のただでさえマシマシな蛮族描写をやり過ぎなくらいに更に徹底させたアレクセイ・ゲルマン。無能かつ未熟な権力の支配が文化を葬り去るまさに灰色の世界。高度なヒューマニズムと忍耐とを持ち合わせた文明からやって来つつ、更には外部の暴力では歴史の歯車は変えられないと頭では理解するジレンマとで己の精神の蛮族化を必死に食い止める神様(駄目なんだけど...)、故に『神様はつらい』。人が人であるってのは簡単な事じゃないよな。

鑑賞日:2019/03/19 監督:アレクセイ・ゲルマン


こうのとり、たちずさんで

どこかの人達が便宜的に引いた境界線のおかげで憎しみ苦しみ続け、いつまでも対峙し続けねばならない人達がいる。振り払う事のできない疎外感を胸に、俺たちの安住の地は一体どこなんだと静寂の中から叫び声が聞こえてくる感じ。圧倒的な構図と長回し、モニターや鏡越しの繊細なショットと素晴らしいの連続。エンドレスなLet It
Beと思わせてからのきよしこの夜もなかなか。ECMリリースのエレニ・カラインドルーの哀愁スコアもまたとても好み。なんとか張り渡されたか細い電線には未だ人々を隔てる大きな壁を意識させると共に一応伝達可能と微かな希望をも感じさせる。

鑑賞日:2019/03/17 監督:テオ・アンゲロプロス


アスファルト・ジャングル

悪事に大小はないと云う名言。悪知恵を働かせてより利益を望む者も成り行きな者も、悪に対しては平等に罰を与えてくるベン・マドー&ジョン・ヒューストン。と同時に人の努力の裏側が悪になると云う冴えてる言葉も飛び出す。それぞれのウイークポイントがそれぞれの足を掬うと云う割と古典的な筋ながらも実にスリリングかつドラマチックに展開する。ラストの高揚感と悲壮感の絶妙な交わりは見事。おまけにキュートでパープリン風なモンローが居ればキッチリ華が添えられる。イェィ!

鑑賞日:2019/03/15 監督:ジョン・ヒューストン


並木道

まだぷりぷりだけどもオラオラで背伸びしまくりな荒くれレオー。男も女もお前らみんなクソだと中二病全開で破壊王な超少年レオー。ゲイに若干ビビるレオー。大人になる前にゆっくり青春を謳歌しなさいとしか言えん。ちょっぴり筋がグダグダだったけど、レオーのはち切れんばかりの勢いで乗り切れる感じ。なかなか。屋根裏いーなー。

鑑賞日:2019/03/12 監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ


居酒屋

うーん、ド不幸。まぁ色々とチョイスも悪いんだけど。汚い頃のパリの裏町で品格を保つってのは至難の業なんだな。結構長い期間の話だけども、尺足らずな感じで時空の飛び方があまりに露骨なのが少々残念。しかしながら、労働者階級の激しい下民感がなんとも凄まじいエネルギーで描かれていて圧倒される。末っ子ナナちゃんのビッチ化の兆しがあまりに切ないFIN。

鑑賞日:2019/03/11 監督:ルネ・クレマン


極道の妻(おんな)たち 最後の戦い

やっぱり岩下志麻だとしっくり来るな。大体小物っぽくてどこまでもクズな男連中(津川雅彦の怪演除く)に対して、色々と戦う女たち。場違いに攻めまくるアーミーファッションのかたせ梨乃はあくまで戦闘力高め...風だった。全体的に鉄砲玉要員はマシマシな感があった気はする。石田ゆり子エロ可愛いから居るだけで許されるでしょう。ラストのタイトルのところの上手さったらない。

鑑賞日:2019/03/10 監督:山下耕作


牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

ずっと観たかったやつ。登場人物の多さ含めて、トルストイばりに長かったな。世の中の不公平を社会や自分以外のもののせいにしてしまう、まさに少年。激情を孕むポーカーフェイスのまま大人になれずに、抵抗する方向を徐々に確実に見失ってしまう悲しさ。日本統治の雰囲気がそこかしこに残った上で、国民政府やらアメリカ文化の流入やらの混沌の時代で、父ちゃん然り、大人でさえメンタル保つのが難しそうではある。世界は僕らに優しいんだと思い込めたなら、どんなにか人生が楽しいだろうよとボンヤリ思ってしまい、ある意味少年に同情する。A
BRIGHTER SUMMER DAYの下りとエンディングは秀逸過ぎ。

鑑賞日:2019/03/07 監督:エドワード・ヤン


イカリエ-XB1

兎にも角にも時代を先取りはしている。ソラリス然り、スタニスワフ・レムの謎表現を映像化しようって無理ゲーな意気込みだけでも買える。どこまでもミッドセンチュリーげでお洒落なんだけどチープなセットや設定も、キューブリックのハイレベルな映像が先に入っている事もあってか勝手に脳内変換されててあんまり気にはならない。翼が燃えずミッション・コンプリートにスター・チャイルドなんて超明るい映画じゃないか。モンドで電子なズデニェク・リシュカのスコアもSFっぽくて大変良ろし。

鑑賞日:2019/03/03 監督:インドゥジヒ・ポラーク