Films: May.2019『ネイキッド』ほか
Jun,01 2019 12:45
先月から続いて『ブライヅヘッドふたたび』の'81年のテレビシリーズを観続ける。
更には数年ぶりの『涼宮ハルヒ』の一気見で忙しいながら、月間の映画本数もなかなかな5月。
ジョン・カサヴェテスものが何本か。どれも当然の傑作だけれども、『オープニング・ナイト』はちょいと別格。
そしてパゾリーニが2本で、『奇跡の丘』は素晴らしい事この上ない。
フィリピンのラヴ・ディアス監督の『立ち去った女』、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督『雪の轍』の結構な長尺2本も印象深かった。
鑑賞後の幸福度数100%のフランク・キャプラ監督『我が家の楽園』は名作過ぎて言う事なし。
今月一番の大穴はイギリスはマイク・リー監督の'93年作品の『ネイキッド』。
絞り出すかの如くなデヴィッド・シューリスの演技と苦悩の叫びに揺さぶられまくる。
'90年代イギリスよろしく、不景気な日本の現在に中年の物語とあって他人事じゃない感じ。
うーん、充実な良ラインナップな一ヶ月だったな。
観た映画: 2019年5月
映画本数: 24本
悪魔
みんなポゼッションで大変。後のアジャーニちゃんの地下道発狂系のやつが、ずーっと続いてる感じ。早急に悪魔祓いしなきゃいけないレベル。カミソリでできる痛いの見本市みたいな一本だな。男子と悪魔は覚悟して観るべし。ヒィィー。
鑑賞日:2019/05/31 監督:アンジェイ・ズラウスキー
ネイキッド
身を守る術を持たず、ヒリヒリする外気に生身を晒しながら刹那を生きる男の感情がスパークしている。「神は悪意に満ちている」世界で「どんなに本を読んでも分からない事がある」絶望。自称27歳の図々しいサバ読み中年の挫折は誰かと何かのせいにしなきゃやり切れない悲しさ。それを弱さと切り捨てる事ができる人がいるってのも分かるけど、それはそっち側の話。強い奴もいるし、弱い奴もいて「善は悪の犠牲になって」成り立っている、仕方ないけども実際には世の中ってそんなもんな気がする。裸なのに重い重い体を引きずりながら求め歩く男は曰く「行くところは無限にある、問題なのは居心地だ」と。いやー、しかしキョーレツだったなスコティッシュな奴。
鑑賞日:2019/05/29 監督:マイク・リー
イゴールの約束
内臓占いはどうかと思うよね。少年故に疑う事のなかった環境が少年故に覚醒する。己の心に従い、欺く事よりは真実を選び行動する少年はやがて真実を伝える。その時に感じた哀しさでまたひとつ大人になるんだね。とても良い。
鑑賞日:2019/05/28 監督:リュック・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ
ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち
清々しいまでにド変態と奇人だらけで、80's全開なクソダサいOPからして大好物。初期アルモドバルの異常にアゲなテンション。後ろめたさを感じさせず、私たちにはこれが当然と突き抜けた陽気さで畳み掛けるだけにいやらしさや陰湿さを微塵も感じないんだな。万能なポンテのパンティーにタラのピルピルと脳裏に焼き付くワード、更にあの衣装はどう考えても『風と共に去りぬ』だよねぇ。
鑑賞日:2019/05/27 監督:ペドロ・アルモドバル
幸福(しあわせ)
凝りまくってる撮影と編集。縦横無尽なフォーカスと怪しげな場面転換でのっけから嫌な予感しかしない。超絶馬鹿な男が放つ同性でもドン引きのゴリ押し論理。己の論理を少しも疑わないってのが、脳内お花畑=幸福たる所以か。ある幸福にはある犠牲を伴う。それは当然の法則だよねって云う恐ろしい事実をこんな極彩色でやられたら唸ってしまいますわ
鑑賞日:2019/05/25 監督:アニエス・ヴァルダ
涼宮ハルヒの消失
何故だか急に思い立った久々のハルヒ一気見(エンドレスエイトは飛ばした)の勢いで。完成度が高いのは勿論の事、しれっと早川世界SF全集が置いてあるあたりが絶妙。
鑑賞日:2018/05/23 監督:武本康弘
鏡の中にある如く
本能に生きることはキリスト社会、文明社会においては崩壊を意味するとも言える。それぞれの罪悪でのっけから楽しげな家族の夕べの風でいつつも、なにやら重苦しい雰囲気で満たされる。そこからの、ざわ...と来てギョギョギョで不道徳の扉を開けてしまったものを、それも引っくるめて愛せるか。それでも愛せる、世界にはあらゆる愛がある、それらの愛が存在する故に神の存在証明となる。と、神を創作のネタにする事を自虐しつつも、力強く宣言するベルイマン。確かに最後の父子の会話は別の表現だった方が良かった気もしなくはないけども、素晴らしかった。
鑑賞日:2019/05/22 監督:イングマール・ベルイマン
紳士協定
期限ありの行動で、それが終わってしまえば元に戻るって設定はいかがなものか。それこそ差別されている方から見れば優越感にほかならないし、赤狩り時のエリア・カザンの所業を考えると一体どう考えて良いやら超複雑。差別されている側になる事はどう考えても不可能なだけにデリケートな問題ではある。それでも隠されたレイシストを暴き出し、人のささやかな行動を促すきっかけが欲しいと云う希望は良く分かる。アメリカもソ連(無いけど...)も原爆も無い日、それの始まる日に自分だって立ち会ってみたいとは思う。それらは自分が行動できたその日から始まるってのも理解できる...から極力頑張ります。
鑑賞日:2019/05/21 監督:エリア・カザン
我が家の楽園
映画にはついついリアリティを求めがちなものの、あり得ないレベルのほとんどファンタジーみたいなのでも許されてしまう作品がある。今作がそのうちの一つ。綺麗事だろうが刹那的だろうが何だろうが常識に捉われる事なく理想を追求して何が悪いと。人生を楽しめよと、そこんところをブレる事なく描いている故にガンガンと胸を突いてくる。素晴らしい。
鑑賞日:2019/05/20 監督:フランク・キャプラ
キングス・オブ・サマー
のっけの"Cowboy Song"は俺得選曲で好感が持てる。ソロー的森の生活ってものを成就させる為には、サバイバル耐性に加えて人数制限なんかの様々な必要条件があるんだな。映像がちょっとクドい気もしなくはないけど、ほろ苦い青春って事でなかなかの終わり方だった。
鑑賞日:2019/05/19 監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
籠の中の乙女
痛い痛い痛ーい。獰猛な生物ネッコの下りやら犬歯の下りとかビデオテープの刑の下りとか泡吹きそうになる。本能と知識ってキッチリ連携してないとおかしな事になるんだねぇ。家んちの祖父の曲!!、"Fly Me to the Moon"の誤訳くらいならともかく、崩壊不可避な辻褄合わせはすんなヨ。やるなら徹底的にの方向性が徹底的に間違ってる感じ。躾と躾ける人間の知性ってとても大事なんだね。スタローン真似等々の映画ネタも多数で結構楽しかった。
鑑賞日:2019/05/17 監督:ヨルゴス・ランティモス
雪の轍
胃が痛ェー。あー言えばこー言うの、よせば良いのに神経逆なでするトドメの一言のオンパレードで、あるある過ぎる論理と感情と理性と良心の闘い。世界遺産はカッパドキアの冬の閉鎖空間で人知れず展開される世にもおぞましい罵り合いが、我がか弱い胃をチクチクと刺激してくる。己の価値観を相手に納得させようとするから色んな問題が発生する訳で、そこには偽物っぽい寛容さや響きの良い言葉だったりゴネ得だったりと人々の口論や争いの内訳にはあらゆる感情が錯綜する。『地獄への道は善意で作られている』と世界に蔓延る生温い善意と赦しがもたらす雪解けとの絶対的な比較へ到達すべく、全く飽きる事ない会話劇で見せてくれる一本。しかしまぁ、結局のところシンプルさが一番ズドーンとくるんだね。
鑑賞日:2019/05/16 監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
豚小屋
権力を持つブタと反骨精神を持つブタのどちらが醜いかと。そしてそれを『誰にも言うな』と臭い物に蓋をしまくっている文明社会。まぁ共喰いみたいな世の中だものねぇ。しかし、レオー...。
鑑賞日:2019/05/14 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
過去を逃れて
ややこしい。ケツアゴ同士でゴリゴリせめぎ合ってる風で実は踊らされているケツアゴ達。巧妙なのかなんなのか分かりにくさは否めないものの、最後のロバート・ミッチャムの哀愁の漢っぷりと聾唖の少年のナイスフォローで良いモン観たって感じになる。
鑑賞日:2019/05/12 監督:ジャック・ターナー
ドッグ・イート・ドッグ
霧の中の如く全体的にモヤモヤしてはいるものの、確かに欲にまみれている。食うか食われるかとかテーマがどうでも良いレベルでこの面子の一挙一動を眺めて楽しむ感じ。ハンフリー・ボガートより縦長(爆)と言われてしまうニコラス・ケイジが最後はボギーにしか見えなくなるからどうかしてる。
鑑賞日:2019/05/11 監督:ポール・シュレイダー
ロリータ
ブライズヘッドふたたびの再鑑賞ついでで久々。ジェレミー・アイアンズって人は上がって下がって思い詰めまくる役柄やらせたらピカイチだねぇ。文芸作品のナレーションのトーンも然り。キルティの死に様等々、キューブリック版のとはひと味違う趣きながら今作も結構好き。まぁピーター・セラーズの方が良いけど。
鑑賞日:2019/05/10 監督:エイドリアン・ライン
スイス・アーミー・マン
生きてオレと死んでるオマエ、死んでるオレと生きてるオマエって事で超青春(時既に遅し)。マルチな死体のラドクリフのジュラシック・パークにローラ...ダーンで盛大にツボる。
鑑賞日:2019/05/08 監督:ダン・クワン、ダニエル・スキナート
オープニング・ナイト
ドキドキが止まらん。出てくるだけで存在感のあるジーナ・ローランズな上にここまで圧倒的な演技をされたらぐうの音も出ない感じ。ラストのあの即興みたいな二人の応酬が生み出すとんでもないカタルシス。最高過ぎる夫婦じゃないか。人の美しさってのは若さだけじゃない。
鑑賞日:2019/05/07 監督:ジョン・カサヴェテス
奇跡の丘
マタイ伝の「よくよくあなたがたに言っておく」のお馴染みなあれこれをしっかりガッツリ網羅した傑作。プロレタリアート礼讃感は凄いけど。マタイ受難曲から始まって、ブラジルっぽいのからブルースまで音楽の使い方も絶妙。劇中の超絶可愛いサロメに魅せられてしまった自分はかなり俗物であると思われる。光明を感じるパゾリー二らしからぬラストである気もするけども、むしろ好き。
鑑賞日:2019/05/06 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
チャイニーズ・ブッキーを殺した男
精神的も物理的にも人の腹ん中の読めなさ具合が絶妙な一本。ミスター・ソフィスティケーションのアヴァンギャルドなショウのせいでα波だかθ波に悩まされる箇所があるものの、最後は癖になってくる。ハメられてもファミリーと店の為に見えないところで奔走するベン・ギャザラの格好良さ。痛みの時間差やら、やたらとデカい効果音でのメリハリとか天才的過ぎるなジョン・カサヴェテス。
鑑賞日:2019/05/05 監督:ジョン・カサヴェテス
フロム・ダスク・ティル・ドーン
くだらねー。予備知識無しでア然とする展開ではある。馬鹿っぽいのを求めてたけれど、結局のところ求めていたロバート・ロドリゲスじゃなかった。らしかったのはセックスマシーンの武器くらいか。絶対酷い死に方をすべく、コツコツと積み上げるタランティーノも絶望的にコツコツを無駄にした死に様なのが残念。途中まで良い感じだっただけに、なんかモヤモヤする。
鑑賞日:2019/05/03 監督:ロバート・ロドリゲス
立ち去った女
受難に溢れてる。この世は悪魔だらけでくたばりたまえで、それでも懲りずにみんなささやかな優しさを求めている。みんながそれを与え合えたなら、それは奇跡へと繋がり悪魔は消滅する訳でこれは何もキリスト教圏に限った話ではないと思われる。登場人物各々のなかなかに物騒な内面とは裏腹に淡々と引きで描かれる神の視点的風景。復讐心と優しさを併せ持つが故に主人公が生み出してしまった新たな受難とピントのボケの絶妙さがグッとくる。そして雨。優しさで風穴を開けられる様な人になりたいとは思うけれども、そいつはやっぱり簡単な事ではない。取り敢えずバロット調べるんじゃなかった...オエェ。
鑑賞日:2019/05/02 監督:ラヴ・ディアス
アメリカの影
あくまでさりげない『ちょっとした人種問題』。ボリス・ヴィアンの『お前らの墓につばを吐いてやる』風でもあるアメリカあるあるなテーマをベースに、まるで映画自体が生き物のような生々しさ。で、奔放かつ野太いベースラインを奏でるチャールズ・ミンガス(ちょっとした人種問題的にも)をこれ以上ないチョイス。完璧な即興ジャス映画。
鑑賞日:2019/05/01 監督:ジョン・カサヴェテス
category: 映画レビュー
tags: 2019年映画レビュー, アニエス・ヴァルダ, ジョン・カサヴェテス, ピエル・パオロ・パゾリーニ, フランク・キャプラ, マイク・リー