otom

ロバと王女

Films: Jul.2019『ロバと王女』ほか

Aug,04 2019 16:30

なにやらやたらと傑作揃いな7月。
ジャック・ドゥミの『ロバと王女』から始まって、アニエス・ヴァルダの『ジャック・ドゥミの少年期』。
初期スコセッシの『アリスの恋』も凄く良い。
久々の『さらば、わが愛 覇王別姫』を筆頭にチェン・カイコーものもちょいちょいと。
青春時代を思い出しちゃう、アントニオーニの『欲望』、ピーター・グリーナウェイの『数に溺れて』と視覚的にも実に素晴らしい。
大穴だったのはライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『ファスビンダーのケレル』。強烈でモーレツ。

観た映画: 2019年7月
映画本数: 19本

ある子供

ホームラン級の馬鹿だな。貧しい+短絡的思考が生み出す悪循環はベルギーだけでなく、どこでもありそうな話。ラストの改悛っぽいまとめは分かるけど、コイツの涙は信じられん。と、大人が突き放す社会に問題があるとも云えるんだろうけど。

鑑賞日:2019/07/31 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ


花の影

1920年代の上海は男と女の戦場なんだそうな。辛亥革命を表すかの様な上海と蘇州の新旧の生活様式のそれぞれと、時の流れで様々な形に変貌を遂げる男達と女達の結構ガツガツしたせめぎ合い。と、中国的強力アイテムの阿片のあれこれとでなかなかデカダンで楽しい。中国ものでよくこの時代が題材にされるけど、大正浪漫が日本人的憧れなのに対して向こうの人(西洋的にもそうか)にも花開いた時代の良い記憶なんだろうね。主張するクリストファー・ドイル感も嫌じゃない。

鑑賞日:2019/07/30 監督:チェン・カイコー


ファスビンダーのケレル

アッ、アーッ!! 凄いガチムチなハードゲイスタイル。ジュネ原作との事。途轍もない黄昏に包まれながら、孤独と堕落から抜け出せない哀しい男達+ジャンヌ・モロー。結構なシーンで何やらモニュモニュしてる上に尻って単語が数え切れないくらい出てくる。至る所に配置された芸術的なまでに卑猥なオブジェクトの数々、斬ったり刺したりする様なライティングに加えてメロトロンのコーラスみたいなホーリーなサウンドと徹底している。愛と男気は捨てられない故の哀愁が漂うついでに色んなものが臭ってくる気がする。

鑑賞日:2019/07/28 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


グロリア

肝の据わったジーナ・ローランズのおっかないおばちゃん風で時折見せる優しさがグッと来る訳であって、オロオロして涙脆いシャロン・ストーンのグロリア像はあんまり好みではない。露出気味なスケベな感じは良かったけど。大体似た筋なんだけど、なんかダラダラと無駄なシーンも多い気がしなくもない。シドニー・ルメットは好きだけど、今作はいまいち。

鑑賞日:2019/07/27 監督:シドニー・ルメット


さらば、わが愛 覇王別姫

見事な四面楚歌っぷりと文革の破壊力。それでも簡単には途絶えない愛と文化。一級品な無言演技と数々の痛いで色んなとこが痛い。

鑑賞日:2019/07/25 監督:チェン・カイコー


欲望

俺的青春のスウィンギング・ロンドンな一本。ペイジ+ベック期のヤードバーズのところでやっぱり歓喜(特にジェフ・ベック破壊野郎なとこ)。膨張して爆発して何もなくなる感じが砂丘っぽくもあるけども、そっちの派手さとは違って行き着く先の虚無感とむしろ最初からそんなものが有るのか無いのかあやふやなんだって云う辺りが、十代の自分には全く理解できてなかった気がする。結構バブリーな映画なんだな。

鑑賞日:2019/07/23 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ


数に溺れて

数字の出し方が時折結構いじわる。増える数字と弔砲の如き花火と共にお星になり減って行く生命の実に多彩な事。そして規則正しい風でいて凄い変なナイマン節がとても合う。全てシーンが完璧なまでに絵画的。素晴らしい。

鑑賞日:2019/07/21 監督:ピーター・グリーナウェイ


ファンタスティック・プラネット

アナログのサントラ盤入手ついでに久々。メディテーションで種の保存って瞑想のやり方が間違っている気もするけど面白いから問題なし。時代を遡る事数十年前に進撃やら漫☆画太郎みたいなのが出てくる。

鑑賞日:2018/07/19 監督:ルネ・ラルー


ジャック・ドゥミの少年期

ちょいちょい観てないのがあるものの、鮮やかに描き出されたジャック・ドゥミ少年の映画に携わる過程と各作品の着想ネタの挿入とでとても楽しい。ジャック・ドゥミ老人に向けられたアニエス・ヴァルダの静かな眼差しに愛が溢れている。良い。

鑑賞日:2019/07/18 監督:アニエス・ヴァルダ


ロゴパグ

パゾリー二とオーソン・ウェルズの奇跡の丘で好き勝手に遊んでるのが一番面白かった。太陽はひとりぼっちのジョヴァンニ・フスコ+ミーナの主題歌を流し、オーソン・ウェルズにフェリー二はダンサーだと言わせる。その他の監督作品もそれぞれなかなかデカダンスだったけど、グレゴレッティの人類をブロイラーと重ねてるやつは結構風刺が効いてて良い。この当時で既に世も末な感じだったんだな。

鑑賞日:2019/07/16 監督:ロベルト・ロッセリーニ


沈黙

なんつーロスト・イン・トランスレーション。身近な上にある意味似た者同士な姉妹なのに理解しあう事の出来ないってのは結構なレベルの受難だわな。揺るぎなく全てを吸い込んでしまいそうな沈黙を表すかの様な迷宮感と情勢の不安定さでザワザワしまくる。パキッと裏表な光と影もまたとても上手い。言葉が完全に不要なバッハの調べの如くコミュニケーションできたら世界は幸せになるんでしょう。

鑑賞日:2019/07/13 監督:イングマール・ベルイマン


オペラハット

フランク・キャプラの作品に度々出てくる聖人はファンタジーかスーパーマン(この場合はシンデレラマンか)みたいなレベルなんだけど全く憎めない。愛すべきキャラを描く事の上手さったらないな。金が絡んんだ時の人間の本性を描くって大筋の中で、ソローの何に書いてあったか「宮殿を造ったが高貴な住人を造り忘れた」って台詞の一言に詰まっている気がする。俺は真実と愛とが欲しいんだと超が付くほどの綺麗事なんだけど、迷う事なくそこを突き抜けて追求しているから気持ちが良い。せめて心まで貧しくはなりたくないもんだ。

鑑賞日:2019/07/12 監督:フランク・キャプラ


アリスの恋

都会のアリスならぬ田舎のアリス。オズの魔法使いか風と共に去りぬみたいな始まりから迷いに迷う母子のロードムービー。エレン・バースティンの色んな表情にシングルマザーじゃなくてもグッと来る。息子のまとめ「ケンカしてもうまくいくもんなんだね」は実に素敵な台詞。イケメンなジョディ・フォスターはともかく、カウンターのローラ・ダーンはチョイ役過ぎて素通り確実。これは良いスコセッシ。

鑑賞日:2019/07/11 監督:マーティン・スコセッシ


マイマイ新子と千年の魔法

当時試写会の仕事で切り替え部分しか見てなかったけど、気になってたやつ。負を陽に包み込む様で実に好ましい片渕監督。視覚やらその他の情報過多の時代に脳内補完の大事さを再認識させられる。それでいて作画とか凝りまくってるから凄い。じんわり良いってのはとっても良いって事なんだなと思ってしまった。

鑑賞日:2019/07/09 監督:片渕須直


にっぽん・ぱらだいす

お腹すいちゃったの一言で一人の女の変化を描写するってのはなかなか。戦中戦後を経て赤線廃止までの営業形態の変化の色々とあんまり変わらない(変われない)中と外の人々。何かの小説で教会のある所には売春があると書いてあったけども、流石は世界最古の商売って感じ。題材の割には清く正しい松竹な雰囲気。

鑑賞日:2019/07/07 監督:前田陽一


片目のジャック

とにかく捕まりまくるんだけど、俺のカッコいい色んなところをマーロン・ブランド自身で監督。タイトルバックはキマっているものの、その後のテンポはいかんせんあんまり良くない。けれども、モントレーを舞台とした眺望のひらけた海〜!な感じの西部劇はちょっと新鮮ではある。対立する二人の生きるよすがの変化と裏側の対比もなかなか良いんだけど、企画段階でキューブリックとサム・ペキンパー参加らしいって事でそっちを観てみたかった気もする。

鑑賞日:2019/07/06 監督:マーロン・ブランド


スウィート ヒアアフター

久々に。それぞれ色んな事情とルールを持つ超村社会。侵入者を排除するって意味では村もまた生き物みたいなもんで、どこの土地でも通用しそうな普遍的な筋ではある。汚れてしまった私が手の届かない楽園って事で、悲しくも美しい絶頂期のサラ・ポーリー。マジー・スターみたいなテイストのサントラはかつての我が家のヘビロテな一枚。なんだけど、劇中にテーマは流れない。はてさて予告で流れてたんだっけか、思い出せなくてモヤモヤする。

鑑賞日:2019/07/04 監督:アトム・エゴヤン


ロバと王女

徹底してるってのはこう云う事なんだな。フワフワなネッコ型玉座とかヤバすぎる。ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグランの完全なる形な具合で実に良質メルヘン。これらをアナログで方法論で作り出す凄さ。唐突なヘリの下りはマルグリットとジュリアンの元ネタなのかしら。

鑑賞日:2019/07/02 監督:ジャック・ドゥミ


郵便配達は二度ベルを鳴らす

男と女の気楽さのベクトルの違いが生み出す悲劇。数々の最初の決断の迷い故に罪と罰が増幅する。劇中に限らず人生のあらゆる分岐点での選択はスリリングなんだな。あんまり慣れ親しんだヴィスコンティって感じではない上にジャック・ニコルソンのエロい版なイメージしかなかったけれども、終わってみると結構恐ろしげな話で面白かった。

鑑賞日:2019/07/01 監督:ルキノ・ヴィスコンティ