Films: Oct.2019『あやつり糸の世界』ほか
Nov,01 2019 13:00
満点多めでSF多めな10月。
久々の『スローターハウス5』に『銀河鉄道999』、『コングレス未来学会議』、『カレ・ブラン』と結構硬派で傑作SF揃いの中で、タルコフスキーの『ストーカー』とライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『あやつり糸の世界』はひとつ頭が出ている感じ。
そのほかセルゲイ・パラジャーノフ、ロベール・ブレッソン、ハワード・ホークス、ロバート・アルトマンものと間違いないラインナップ。
森崎東はやっぱり天才的。
観た映画: 2019年10月
映画本数: 19本
ナッシュビル
ロバート・アルトマンの悪ふざけ感満載の超USA。あらゆる不安材料と暴力装置を同時にはらんでいるキケンな国ってのは他にもありそうなんだけど、内に秘めたる黒さに蓋をして嘘っぽい正義と美徳で押し通し、ミッション・コンプリートの為には手段は選ばんってあたりにこの国底知れぬパワーを感じる。ただでさえ多様な中で抜け目なく生きていかないと餌食にされてしまう国だからこその強さなんだろねぇ。あらゆる挫折やアラートの度に自然と星条旗のもとに集まり自由を求めて手を叩くってのも脳天気で良いと云うか我が国においてももうちょい必要な気もしなくはない。何が起きてもおかしくないラスト、素晴らしい。
鑑賞日:2019/10/31 監督:ロバート・アルトマン
ストーカー
原作を読んだので久々。ストルガツキー兄弟が脚本に名を連ねているものの、なるほど確かに別物。路傍のピクニックの残骸orギフトに右往左往する人類はキッチリ描かれてはいるものの、映画の方ではより人の欲望の方にフォーカスが合わせられている様に思われる。『魔女のジェリー』とかが出てこないのは仕方ないとして、『蚊の禿』や『肉挽機』を見せずに存在だけは匂わす上手さ、ゾーンやゾーンの影響下にあるモンキーのとこのカラー処理等々のやっぱり素晴らしいタルコフスキー。始終得意なびしょびしょロシア的タルコフスキー世界に砂盛を一カ所混ぜるセンス、凄い。
鑑賞日:2019/10/29 監督:アンドレイ・タルコフスキー
カレ・ブラン
とってもアーバン。途上国踏み台どころか結構ゴリゴリな二極化の昨今で弱者の惨状は映画の中だけと言えない雰囲気ではある。とんち耐性がないと家畜堕ちな世界ってのはキビシイな、速攻で落とされる自信がある。北極熊は我が子を喰らう事もあるそうで、そんなサバイバルな世界を拒否する母親みたいな人もいれば、頑張って俺戦エンドな息子みたい人達もいる。で、カウントアップとかそんな感じなのかしら。
鑑賞日:2019/10/27 監督:ジャン=バティスト・レオネッティ
シアター・プノンペン
先日、ポル・ポトの所業をお勉強したばっかでタイムリー。クメール・ルージュがプノンペン陥落直後あたりにスポットを当てているので、後の少年兵、少年医師的怖さはあんまりない。ものの、知識人階級粛正がもたらした悲劇はキチンと表現されている様に思われる。いかんせん役者が棒で自主制作感は半端ないけど。アセテートフィルムが燃える演出はベタ&鉄板過ぎるけど好きよ。映写機はちゃんと掃除せい。
鑑賞日:2019/10/26 監督:クォーリーカー・ソト
喜劇 女は度胸
パヤパヤと始まり新世界よりと糞食らえにクソまみれなゲーテとでカオス。デビューの倍書美津子映画と思わせといての清川虹子映画。散々笑って散々泣かせる森崎東は既に完成している。キュン死に確実な若人描写に現世の肥溜からの未来志向とで隙なし完璧。頭は使う為に一人一個配給されていますは冴えてる台詞だわね。
鑑賞日:2019/10/24 監督:森崎東
アンジェリカの微笑み
志村、後ろー!ってドリフのアレ的なやつが見られる結構なホラー。撮られる方が魂持ってかれるってのは良く聞くけど、これはまた稀有なケースな気がする。あらゆる騒音に包まれた現世の闇の中を照らす光が異なる次元のそれってのは皮肉なもんだよな。門戸を開きっぱなしで常時ウェルカム状態な主人公には良かったんだろうけど。騒音に合間に流れるポルトガリアンなブルースみたいなのとショパンもなかなか。
鑑賞日:2019/10/23 監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
バルタザールどこへ行く
滅び行くものと台頭するもの、尊厳と金、聖なるロバであり疫病神なロバとで様々な角度から異なる二面性で構築されている。闇堕ちするヴィアゼムスキーや悪がまかり通り金が支配する世の中。の、神の不在感を結構冷ややかに描写するブレッソン。モコモコまみれな受難の終極はパトラッシュとネロの天使降臨のやつみたいで少しホッとする。
鑑賞日:2019/10/22 監督:ロベール・ブレッソン
ターシャ・テューダー 静かな水の物語
まさに極楽浄土のようだな。ソローやヘンリー・ジェイムズ、アインシュタインと知己って文化レベルの高い家柄からのこの暮らしぶり。日本で云うところのベニシアさんの超上位互換。身の回りに必要なものは全てあるとの『スティル・ウォーター教』なら入信するのも吝かではない。ターシャ・テューダーと動く毛玉なコーギーと溢れんばかりの緑に心が癒されまくる。お家騒動が匂ってきそうなエンディングはいらん気もするけど、それ以外はとても良かった。
鑑賞日:2019/10/20 監督:松谷光絵
ヒズ・ガール・フライデー
あのヤバめな奇声はケイリー・グラントにしか出来ない気がするな。間を排除した上でこれだけ密度の高いもんを詰め込まれたら面白いに決まってる。ブン屋もクズなら政治家もクズで善人がどこまでも足蹴にされているんだけど、驚異的な演出スピードで見えなかった事にする。最高。
鑑賞日:2019/10/18 監督:ハワード・ホークス
喜劇 女は男のふるさとヨ
エクソシストのブリッジばりの異様なのっけから一分の隙もない。不器用さに散々笑わせて不器用さに散々泣かせる完全なる森崎東作品。君が代の下りのキレ具合は圧倒的。砂糖と汚物を混ぜ合わせたような国家のそれらを演出し、それでいてハートを思いっきり鷲掴みにしてくる超高度な離れ業。傑作。
鑑賞日:2019/10/17 監督:森崎東
コングレス未来学会議
スタニスワフ・レム原作ってのに惹かれて。予備知識ゼロで観てアリ・フォルマンって誰だっけかと思ったら『戦場でワルツを』の監督って事でヌレヌルなアニメーションも超納得。結構な壮大さなSF(サイファイ)で、この話を表現するにはこの方法が最善かもしれない。キメてる人達の虚ろな実体がスマホいじり過ぎな人とちょっと重なって見える割と未来な昨今。サラッとキューブリックとかスターネタとかも地味にアツい。大袈裟だけど割と癖なく映像に合わせてくるマックス・リヒターも流石。幻覚世界縛りは個人的に結構余裕。
鑑賞日:2019/10/16 監督:アリ・フォルマン
アルフィー
ジェーン・アッシャーを愛でたくて軽い気持ちで観始めたら結構重かった。マイケル・ケインの女性への対応がオラオラ過ぎてドン引きする。悪気はないけど人を傷つけてるやっかいなタイプな人間の哀しい末路。そんな人生を哀しいって思ってしまうのは人それぞれだとは思うので、何が正解かなんてちょっと分かんないけど。途中ちょっとダレるものの、60年代のイギリスの風俗にソニー・ロリンズにとなかなか。流石のアイロニー大国ですな。
鑑賞日:2019/10/13 監督:ルイス・ギルバート
銀河鉄道999
アニメより9割増しくらいにイケメンな鉄郎。メーテルは永遠の存在として異論は全くないけれども、クレアことクリスタル子萌えが捗る。いささかダイジェスト版っぽい忙しさはあるものの、圧倒的な想像力、世界観、演出のクオリティの異常な高さとで感嘆する。どこまでもラウンジな劇伴とゴダイゴも素晴らしい。後の世にどえらい影響力があったのも頷ける。
鑑賞日:2019/10/12 監督:りんたろう
みかんの丘
相手の名前を認識してしまった時、敵は自分となんにも変わらない人間へと変化する。ノー・マンズ・ランド的な渦中の心理変化映画で最後はみんなでみかんを摘んでハラショーってな画を想像するもチェチェン紛争ばりに一筋縄には行かなかった。中立の場における危うい敵対心の融けて行く様を繊細に扱う主人公の爺さんと演出はまるでみかんや果物を育てるかの如く。さりげなく穏やかに語られる未来の自然なシーンにもグッときてしまった。グルジア人が一生懸命に修復していたカセットテープの曲がクソださいけど素晴らしい一本だった。
鑑賞日:2019/10/11 監督:ザザ・ウルシャゼ
あやつり糸の世界
バウハウスげなあれこれと仮想現実と鏡の組み合わせ、ウォルター・カルロスばりのシンセサウンドで雰囲気抜群。アイデアだけでこれだけ奥行きを出すってのは天才かよ。トリスタンとイゾルデからフリートウッド・マックまで選曲もイケてる。すんごいシミュラクラ。
鑑賞日:2019/10/10 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
アシク・ケリブ
民族性と芸術を失う事は死にほかならないと他の民族の人に教え諭されている様。そのまんま観る絵本てな具合で視覚の美しさはさることながら、コーカサス、中央アジア的ドローンサウンドも大好物。最後には眉毛が馴染んでくる。
鑑賞日:2019/10/07 監督:セルゲイ・パラジャーノフ
360
世間は狭いねぇって云う。豪華メンツで映像処理もお洒落な感じで全体的に上手いこと円環してる風...なんだけど、どうでもいいエピソードを無理矢理ねじ込んだ箇所があった気もしなくはない。面白かったけど。フェニックスでトータスとはこれ如何に。
鑑賞日:2019/10/06 監督:フェルナンド・メイレレス
category: 映画レビュー
tags: 2019年映画レビュー, アンドレイ・タルコフスキー, ジョージ・ロイ・ヒル, セルゲイ・パラジャーノフ, ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー, ロバート・アルトマン, 森崎東