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魂のジュリエッタ

Films: Nov.2020『魂のジュリエッタ』ほか

Dec,04 2020 13:00

八千代市勝田台のカフェ『monaminami』の改装作業で月の後半は左官モードで映画どころじゃなかった11月。
久々の神代辰巳とコーエン兄弟から始まって、傑作良作が良い案配だった。
月の初めにドカンと来たのはコロンビアはシーロ・ゲーラ監督作品の『彷徨える河』(2015)。
思考方法、視点が異なる文化の相互理解への道筋の遠さと険しさを感じさせる出来。『2001年宇宙の旅』(1968)みたいなラストが圧巻。
そしてカート・ヴォネガットの原作読んでから観る予定だった、『ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ』(1999)は結構重要なポイントが抜けてる気もしなくはないものの、しょーもないところで再現力が高く、それがまたイイ。
今年ずーっと観てる気がする木下恵介監督の『肖像』(1948)と『二十四の瞳』(1954)は安定のクオリティ。
こちらも毎月続いてるビリー・ワイルダー監督作品の『ねえ!キスしてよ』(1964)。巧すぎ。
ずっと観たかったピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ニッケルオデオン』(1976)は『ペーパー・ムーン』(1973)に続いてのライアン+テータム親子主演作。画だけで理解させるサイレント時代の良さとトーキーならではの音声活用でこれまた素晴らしい。
『トップガン』(1986)のトニー・スコット監督の長編デビュー作、『ハンガー』(1983)。お耽美デカダンスなニューロマヴァンパイアもので大好物。
11月の顔は遠い昔に観た時は訳が分からなかったフェリーニの『魂のジュリエッタ』(1964)。監督初のカラー作品って事で極彩色の映像の美しさに『8 1/2』(1963)的魂の解放。おめでとうございます。
この分だと今年は365本はいかない雰囲気な今日この頃。

観た映画: 2020年11月
映画本数: 17本

ハンガー

BauhausのOPからお耽美かつニューロマンティック感満載で大好物。映像の美しさで云ったら古今東西数多の吸血鬼ものの中でも結構上位に行くんじゃないだろうか。麗しきドヌーブ様が手籠につつ、デヴィッド・ボウイ(老人)を介護する画とか色んな意味でデカダンス過ぎる。筋としてはよくある吸血鬼の主従関係の恨みつらみを軸としながらも、映像の作り込みに力が入りまくってるので飽きずに楽しめる。特にドヌーブ様の首振りシーンは松本俊夫級。おまけにチョイ役で若いウィレム・デフォーも出てくる。ラストのカーテン越しに見せるスーザン・サランドンの複雑な表情の絵面なんかもまた素晴らしい。シューベルトのピアノ三重奏曲第2番使いはバリー・リンドンのそれに匹敵する。

鑑賞日:2020/11/29 監督:トニー・スコット


聖なる泉の少女

白濁して行く静謐なOPからインダストリアルな感じのダム工事とで人間が便利さと引き換えにしたものが浮き上がる。押し付け半分、宿命半分な少女の顛末の悲しさが寒々としたジョージアの風景で余計に悲しい感じ。異なる信仰であさっての方を向きながらも共通する祖国愛を持つ兄弟達を象徴とした複雑なお国柄で、最後の希望とも言える少女の立ち位置。巫女的ポテンシャル(ジーザス級)を持ち合わせつつも、個人としての選択をするラストは美しさや不安やら色んなものを孕んでいる。兄弟達のハーモニーが寒村に響き渡るシーンの波動がちょっと凄い。

鑑賞日:2020/11/28 監督:ザザ・ハルヴァシ


ニッケルオデオン

当時の歴史背景が分からなくても充分楽しい。映画史の黎明期の郷愁に今の映画があるのはこの時代の制作者がしのぎを削ったおかげってな感じの尊敬の念がヒシヒシと伝わってくるな。ほとんどドリフみたいなサイレント時代の画だけで分からせるテンポの良いアクション、それらとトーキーの面白さを上手く活かせてあらゆる映画制作の舞台裏を雑っぽく見せかけて丁寧に描いているピーター・ボグダノヴィッチ。役者のそれぞれがみんな良い味出してるけど、ペーパー・ムーン同様にふてぶてしい可愛いテイタム・オニールがいるだけで締まる。

鑑賞日:2020/11/26 監督:ピーター・ボグダノヴィッチ


パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト

パガニーニを現代に映像化してしまうと逆にイングヴェイっぽくなる悪い例。OPから嫌な予感はしてたんだけど、出来としてはベートーベンのやつとだいぶ差がある印象。主演のデビッド・ギャレットのソロ演奏はグラモフォンからリリースしてるだけあって圧巻(俗っぽいのは否めないけど)なんだけども、追加の劇伴がダサ過ぎて萎える。パガニーニ本人ってよりメフィストフェレス的マネージャーの悪魔っぷりの餌食にされた映画(史実かどうかは知らない)って感じよねこれは。面影ゼロのヘルムート ・バーガーが結構ショッキングだった。

鑑賞日:2020/11/21 監督:バーナード・ローズ


誰もがそれを知っている

作品ごとにイラン感が薄れてる風のアスガー・ファルハディではあるものの、よーく練られたプロットと重苦しい雰囲気は健在。ワインの如く熟成された諸々の事情(時計の隠喩とか上手い)。神と人を信じる者を嘲るなかれで綺麗にまとまる感じ。階段で見せる母ちゃんのゴミを見る様な目付きは色々と受難かつ幸福な無職旦那のソレと大いに異なる。なかなか。

鑑賞日:2020/11/19 監督:アスガー・ファルハディ


プリンス / パープル・レイン

25年振りくらい。映画としてはクソみたいな内容且つ、クソダサいバイクにクソダサい衣装でも殿下の全盛期のキレが半端ないのでオールオッケィ。"Purple Rain"から"I Would Die 4 U"(振り付けも)のアゲがたまらん。

鑑賞日:2020/11/18 監督:アルバート・マグノーリ


二十四の瞳

今時じゃなさそうな関係性よね。ひたすら唱歌で埋め尽くされてるも哀しげなのが多めな印象。♪カラス鳴くの〜から♪予科連のォ〜と戦時下になると選曲も穏やかでなくなり、子供の歌声が気狂いじみたのにかき消されると云う図式。山も海も昨日と変わらず人の世だけが変わるとの事で、悠然とした小豆島の風景を背景に教師と教え子の20年間の様々な感情を上手い事捉えた木下恵介。視界が開く様な劇的なシーン多数でそれだけでも良いけれども、泣きまくるデコちゃんの演技力の高さがまた素晴らしい。教え子を襲う数々の不幸に対して無力でありつつ、全員に母親の如く慕われると云う難しい愛されキャラな役柄をきっちりこなしているのにカラーはあくまで高峰秀子って事でちょっと凄い。特に自転車の下り。ラストの『仰げば尊し』は何やらバイロイトの第九みたいな合唱っぷりでこれもグッとくる。で、天本英世はやっぱりイケメン。

鑑賞日:2020/11/16 監督:木下恵介


魂のジュリエッタ

あたしなんだか疲れてるわで見える幻想ってレベルじゃない。のっけの流れる様な鏡から始まって光と影の塩梅に極彩色、ラスボスみたいなファッション、明確から侵略へと変化する幻想の具合等々でカラーを活かしまくるフェリーニ。興味ない他所の家の夫婦問題もここまで芸術的にやってくれたら面白くなると云う良い見本。幼少期に演じた火刑台の聖女の殉教と云う幻想を爺ちゃんよろしくけしからん!と断ち切る(救う)事で、結婚自体を含めてあたしの積み上げてきたあらゆる幻想から解放され自分自身の為に生きるフェリーニっぽい『おめでとう』に帰結する。ラストの不屈な生命力を感じさせる陽光と緑の素晴らしさ。

鑑賞日:2020/11/12 監督:フェデリコ・フェリーニ


ねえ!キスしてよ

ベートーベンセーターからのあれこれに、ショウ・ビジネスから家庭に至るまでの『〜がない〜は〜だ』の歌詞との絡め具合が巧み過ぎる。明確な各人の願望をちょっとずつズラしただけでこんなにも劇的な演出なる凄さ。ピストル・ポリーことキム・ノヴァクが逆に射抜かれるシーンなんかはウルっとなる。ワイフと揃って有能かつ愛情豊かで、それに対する男連中の馬鹿さ加減との見事なバランスで実に上手い事出来てる。で、ラストの締め。最高。

鑑賞日:2020/11/10 監督:ビリー・ワイルダー


ロード・オブ・セイラム

完全にクラウザーさんだねぇ。月世界旅行にヴェルヴェッツにと色々好きなもんを詰め込んでるのは分かる...安易な感じもしなくはないけど。レクイエムの使い方としてはモーツァルトが草葉の陰で嘆くレベル。緋文字のホーソーンと関係あるかどうか分からないけど、Sunn O)))的なアレとクライマックスの映像は気合い入ってて良かった。

鑑賞日:2020/11/09 監督:ロブ・ゾンビ


オン・ザ・ロック

オン・ザ・ロック

相変わらず庶民感覚がないねぇ。恵まれた家庭の他所ん家の家庭事情なんてもんは、劇中のラシダ・ジョーンズが知人の話をうわの空で聞いてた様にどうでも良いわな。そんなフワっとした悩みをみんな共感してと云うのは無理があるSNS世界に僕らは生きているのです。固定ないつものビル・マーレイに中途半端なマイケル・ナイマン使いから始まって、フェニックスの曲までボンヤリしている印象。元々フワっとした感じなソフィア・コッポラだけども、最初の頃のやつはもう少し雰囲気があった気がするのにね。まぁ監督本人が親父の呪縛と戦い、作品に反映しているのは良く分かる。口笛の下りの持って行き方なんかはお手本的な上手さで良かった。

鑑賞日:2020/11/08 監督:ソフィア・コッポラ


黒馬物語

赤兎馬級に有能で数奇な運命だねぇ。原作だとブラック・ビューティーの一人称で語られるって事で、動物に対しての人間の行いの良し悪しを見るにはそっちの方面白そう。マーク・レスター少年が美少年なのは良いとして、映画としてはいささか雑過ぎな気もしなくはない。原作者を無理矢理絡めてくるオチのアクロバティックさは嫌いじゃない。イージーリスニング気な劇伴もなかなか。

鑑賞日:2020/11/07 監督:ジェームズ・ヒル


肖像

肖像

監督木下恵介+脚本黒澤明って事で流石にしっかりしとる。妾の井川邦子に逆ドリアン・グレイみたいな現象が起こる。画家が描く本来の姿とその家族の影響で人生において重要なものとはなんぞやにキチンと気付いて軌道修正を試みるから救いがある。最終的にポジティブエナジーが不動産ブローカーの小沢栄太郎みたいな人の心までにも届くと云う綺麗な終わり方でとても良いけれども、現実の多くは改心もせずそんな考え方も知らずに世を去る人も多いんだろうねぇ。人生には彩りこそをと黒澤明脚本の熱い気持ちが伝わってくる。東山千栄子曰の「あの人は商人だから」って言葉が印象深かった。

鑑賞日:2020/11/05 監督:木下恵介


ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ

💡💡💡FAIRY LAND💡💡💡...。なんでコレを映像化しようと思ったのか。創造者が出て来ない上に微妙に話が違っているものの、ヴォネガット本人(劇中に一瞬登場)直筆の挿絵を上手い事はめ込んだタイトルバックからコンクリのウネウネまで無駄に再現力が高いので評価に困る。更にはエリオット・ローズウォーターが出てくる度に神のお恵みの如くホーリーなサウンドを当てがうのとか結構ツボる。資本主義アメリカ(バーガーシェフ!
KFC!!)と現代のカオスな惨状、人は機械ではなく『揺るがぬ光の帯』であるって辺りは何となく表現されてはいて、力技で無理矢理に解放してる感はあるけれども、結構グッと来るから良しとする。マーティン・デニーをチョイスする時点で最高だろってなっちゃう。

鑑賞日:2020/11/04 監督:アラン・ルドルフ


彷徨える河

世界中で見かけるAmazonと対極って感じ。思考方法、視点が異なる。それを理解しない侵略者達がもたらした固有文化の破壊の歪つな残骸を辿る旅とも言える。邪教化したアレなんかは最もたるもの。西洋科学的思考だとカニバリズムがオエッってなるけども、先住民には普通と云うそれぞれの考え方がある、ってロビンソン・クルーソーにも書いてあったな。同胞ではない者に継承する神秘と科学も及ばない宇宙の多様性の表現って事でラストの凄いやつは2001年宇宙の旅の様。素晴らしい。

鑑賞日:2020/11/03 監督:シロ・ゲーラ


もどり川

はちゃめちゃで半分くらい何言ってるか分からない。なんだけども、障子の下り等々から無理な体勢尽くしな異常な熱量でグイグイ来る。毒っ気を求めた徹底的なエゴイズムの凄いやつって云うこの意味不明なエネルギーが大正から'80年代ときて現在は殆ど残ってない気もして残念に思う。で、蜷川有紀の背中に前面描写とかエロスを分かり過ぎな神代辰巳。

鑑賞日:2020/11/02 監督:神代辰巳


ミラーズ・クロッシング

ほぼ曇天なのがまた良い。ガブリエル・バーンが切れ者で参謀タイプな設定風でなんとなく格好良く見える。マーシャ・ゲイ・ハーデンを挟んで女絡みっぽい感じなんだけれども、主軸は男と男の友情(帽子)が切れる話だよね。大体運任せで借金まみれの駄目な奴が格好良く見えるのはクールの内側にグツグツした漢気を感じるからなんだろう。銃弾の飛ばし方や殺しのスタイリッシュさは勿論の事、ジョン・タトゥーロ演じる弟みたいな徹底的に下衆な奴を出してくる辺りにコーエン兄弟を感じる。

鑑賞日:2020/11/01 監督:ジョエル・コーエン