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トラスト・ミー

Films: Jan.2021『トラスト・ミー』ほか

Feb,03 2021 13:00

満点多めな2021年1月の映画レビュー。
年始は好きなやつを中心にと云う事で、ここ10年くらいはフランク・キャプラ監督作品が元旦くる確率が高い。そんな訳で今年は『
素晴らしき哉、人生!』から。
これまた好きなので、ジャン・ルノワール監督作品『ピクニック』、岡本喜八監督作品近頃なぜかチャールストンとかなり個人的正月映画を満喫。
死ぬほど忙しかったおかげで円盤買ってもなかなか観る機会のなかったライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品の『13回の新月のある年に』と『第三世代』もようやく。バリエーション豊かな超暴力に切実な愛とで圧倒的。
久々もので黒澤明監督作品『赤ひげ』に『どん底』、今村昌平監督作品『にっぽん昆虫記』は当たり前なレベルで傑作なので云う事なし。
そして去年の後半にアニメ版のマクロスを観ていたので、流れで劇場版の『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を鑑賞。アニメ版のグダグダ具合はどこへやらの超傑作だった。
ラストはリンチがモロに影響受けてそうなジャン・コクトー監督作品『オルフェ』。永久保存必須なトリッキーな映像で埋め尽くされている。
そして今月の顔で20年振りくらいのハル・ハートリー監督作品『トラスト・ミー』。全てが最高。

観た映画: 2021年1月
映画本数: 26本

オルフェ

冥界と現世を大きく回り道して帰ってくる、壮大な浮気映画。お洒落OPから始まって、鏡に逆回転に合成、そして横に落ちてく風なやつ等々の永久保存したくなる様なトリッキーな映像に魅せられる。デジタルでチョチョイとやるのとは異なる苦労は時代を問わずにビンビンに伝わってくる。ラジオから流れる意味不明に格好良いポエムやらゴム手袋、死神の世界にも存在する数多の人間臭いしがらみなどなど超斬新。

鑑賞日:2021/01/31 監督:ジャン・コクトー


好きにならずにいられない

お巡りさん呼び出したくなるほどのハゲでデブで童貞なだけのこどおじであって、これだけ多方面のポテンシャルがあればどこ行っても大丈夫だろう。活かせる様になってからのチラ見減少や飯バリエーションなんかが結構泣けてくる。容姿が醜く気が弱い≒安心感がある心優しい人と他人に与える印象ってのはホント難しい。腹の上でまったりするニャンコには言わなくてもそれが分かるから凄いねぇ。恋で根本的に意識の変わった主人公のミニチュアから現実世界へと視界と壁を塗り替えて気分を変えるだけの女とベクトルが違うのが哀しいのだけれども、それもまた人生。それでも優しさを分けてあげられる度量のあるこの漢っぷり。晴れて暖かい場所の予感って事でとても良いラスト。

鑑賞日:2021/01/30 監督:ダーグル・カウリ


近松物語

のっけから結末を暗示させる死と市中引き回しフラグ。ババーンと磔にされるシーンの強烈な事。封建時代下の姦通の罪の重さって事で物語の最終着地に向けて二人をどんどん殺しに来ている訳なんだけれども、当人達の生命力が逆にどんどん上がり死の淵から逃れ、最後は死でもってしても二人を離さないと云う実に上手い作り。良く出来た古典が余計に良くできている印象。素晴らしい。

鑑賞日:2021/01/28 監督:溝口健二


嘆きのテレーズ

不毛な日々に訪れた愛さえ不幸って事で仏頂面になるのも無理はないシモーヌ・シニョレ。青春を犠牲に水兵やこっち見んなって感じの姑等の色んなバリエーションで自由を剥奪された、又はされる人々が出てきて、自由と幸福はどこに転がるのか一筋縄にはいかない作りになっている。ゆすられるのも大概だけれども、エクストリーム入店の下敷きとかどんだけ不幸なんだよと。幸せになるのは人と場合によっては楽じゃない。

鑑賞日:2021/01/26 監督:マルセル・カルネ


不良少女 魔子

不良少女って云うか殺人犯。夏純子始め若手役者に全然華がないのと話があんまり面白くないのを別にすれば結構良いところは沢山あった。グルービィーな音に乗せての'70年代の渋谷含むお洒落ロケーション、マリファナキメのビニール越しのショットなんかもかなり格好良い。演技上手過ぎな藤竜也だけがちょっと浮いてる具合でもある。宍戸錠は宍戸錠でなくても良いレベル。全体的には破滅型青春でなかなか。

鑑賞日:2021/01/25 監督:蔵原惟二


恐怖の岬

不死身感はスコセッシ版のデ・ニーロの方がある気はするけれど、精神的な怖さは断然こっち。夜どころか日中まで狩人モードな爬虫類系入ってるロバート・ミッチャム。幼女ガン見しながら一直線に向かってくるシーンとかマジ怖い。そして事件の後しか動けない警察と法律の穴の薄い所グイグイ付いてくるいやらしさ。ラストのグレゴリー・ペックの憎しみが完全に無慈悲でダークサイドな同族状態な気もするのは置いといて、素敵ロケーションにドアとノブを中心としたお洒落なカット多数でとても良い。

鑑賞日:2021/01/24 監督:J・リー・トンプソン


黄金の馬車

ヴィヴァルディの調べに乗せて舞台から屋内へ、窓から窓、扉から扉へと圧倒的なジャン・ルノアール的空間描写。ペッピーノ一座よろしく南米に降り立つアンナ・マニャーニ含む旅芸人一座。女と男三人の四角関係とそれに付随する者たちの欲望極まる事。黄金の馬車と女と権力とが限りなく南半球風な明るい画面と裏腹にドロドロに描き出される。このガハガハ笑うアンナ・マニャーニがなんでモテるのか全く理解できないけれど、ラストの改悛でグッと見方が変わる。空間演出の如くに人間の心の奥深さを描き出し、大団円に持って行く。素晴らしい。

鑑賞日:2021/01/23 監督:ジャン・ルノワール


超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか

アニメ版のグダグダ脚本に頻繁に崩壊する作画とは何だったのかと云う。話変わりまくってるけれども再構成されて練られた脚本、崩れない美樹本キャラ、そして弾幕の量、庵野的爆風の数々とこの劇場版のクオリティとは雲泥の差がある。アニメ版で煮え湯を飲まされまくる早瀬未沙(毛先カールがなくなってる!)の最後の最後で身を引く風なやつが逆転していて、劇場ではリン・ミンメイがちょっと格好いい感じになってる。アニメ、劇場共に思わせぶりで苛々するけど。ゼントラーディのプ、プロトカルチャ〜のザワっと感はもうちょいやって欲しかったけれども、素晴らしい。

鑑賞日:2021/01/21 監督:石黒昇,河森正治


にっぽん昆虫記

世にも超悲壮な生態を事細かに観察する視線。チチがチチを所望するを始めとして、国家と地方と人間性の貧しさが生み出す異常なあれやこれをドキュメンタリー風に淡々と記録する、まさにな今村昌平作品って感じ。個人的にはこのくらいの時期の作品が一番好きでもある。久々に観ても序盤は何言ってるかさっぱり分からんので、字幕が欲しい。

鑑賞日:2021/01/19 監督:今村昌平


カットスロート・ナイン

うーん、極悪。ヘイトフル・エイトの元ネタとの事。極悪囚人群、鎖、金塊、妻殺しの犯人と云う面白くなるしかない設定。に、無駄なグロの連発。おまけに、ほとんど無駄に同行する事になる美少女ちゃん、無駄なジビエ要素とで文句無し。ウチの機械がぶっ壊れたんじゃないかってくらいの雑静止画に劇伴も結構雰囲気出ていた。Fin(爆)

鑑賞日:2021/01/18 監督:ホアキン・ロメロ・マルシェント


どん底

10年ぶりくらい。どん底を表現するのに斜めの長屋を用意するってところから凄い。あらゆるタイプの底辺の見本市ってな具合で、揃って意思薄弱感が酷い。そんな底辺的強者達に影響を与えまくり、主役級にかっさらう左卜全。表と裏の顔を持ち合わせるこのキャラの快い言葉を駆使する人心掌握術(真理を多分に含んでいる)がまた社会の怖さでもある。で、抜け出せないからのボイパによるインプロビゼーション、止め、終で圧巻過ぎ。待つだけの者には変化は来ないのだ。

鑑賞日:2021/01/17 監督:黒澤明


シシリーの黒い霧

えらい分かりにくいけれども、登場する組織のどれもが腐ってて、当時のシチリアは大変だったってのは納得。殺人の結果から結末へ実録風にやってるのは分かるけども、裁判の下りを含めて映画的には結構ダレる。母ちゃん群のぴぇ〜のところが一番覚醒する。

鑑賞日:2021/01/16 監督:フランチェスコ・ロージ


ディパーテッド

オリジナルの良いところをことごとく駄目にしてる感じで酷い。しかも、あれで終わっちゃ無間地獄じゃないじゃんって云う。サムの飯テロ的な愛嬌があってこその怖さであって、シャイニング化してヤバい人なだけのジャック・ニコルソンってのもつまらん。

鑑賞日:2021/01/15 監督:マーティン・スコセッシ


マチェーテ・キルズ

腸を含む無茶苦茶加減はそのままで楽しいけれど、SWパロと世界を救う方向。タコタイムって割にはメキシコ感が半減してる気もしてちょい残念。3D...。

鑑賞日:2021/01/13 監督:ロバート・ロドリゲス


第三世代

ものを売りつける手段ってもんは際限ないねぇ。どことは言わないけど今昔の巨大企業や政治やらのやり口を見ても妙に納得できるものがある。石ころ、または駒の搾取、利用される側の命の軽さはどんなイデオロギーでも変わらん気がしてこれまたゾッとする。便所の落書き含む、視覚聴覚を襲う情報過多にバリエーション豊かな暴力、そんな現実から逃れるべく、ソラリスの海や虚構の映画の世界に身を任せたいってなるのも仕方ないっちゃ仕方ない。

鑑賞日:2021/01/12 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


夜よ、さようなら

体張りまくってるミュウ=ミュウ。かなりエゲツない内容にサラッと流れるサムシングのCMみたいな劇伴とで今はなきフランス雰囲気増しでイイ。圧巻なガラス窓、ドラえもん化、女装男の所のこっち身の毛がよだつ笑いと頑張りまくる。マリア・シュナイダーはこの手の役ばっかで気の毒ねぇ。

鑑賞日:2021/01/11 監督:ダニエル・デュヴァル


白い恐怖

芸術的にぱっかーんと開く扉と共にいきなり好き♡ってのはともかくとして、説明的なのと無理があるシーンが多い気もしなくはない。人に恋したり信頼するのに理屈なんて要らんのよって軸は分かるけれども、どうもご都合な感じでモヤっとする。怒涛の終盤と照準の下りの流石なヒッチコック的お洒落さとダリのシーンはテンション上がる。カメオはエレベーターのところで確認。

鑑賞日:2021/01/10 監督:アルフレッド・ヒッチコック


マチェーテ

無茶なタイプなアイデアの宝庫。特に腸。庭の下りの移民系に見せる微妙な優しさ(痛い)にガッチリ心を掴まれる。ロバート・ロドリゲス作品に出てくるマカロニ・ウェスタン的な目玉ウェポンの馬鹿っぽさ最高。

鑑賞日:2021/01/09 監督:ロバート・ロドリゲス


赤ひげ

久々。序盤の強烈な睨み合いで目を逸らす加山雄三から、ばつが悪くなって目を逸らす三船敏郎のラストと溜息が出るほど。気合い入りまくりで完璧構図な全シーン、そして浮かび上がる病人たちの目、目、目。今更言うまでもないけど凄過ぎ。で、その場の空気を変え、大根攻撃を受けるまで持ってく杉村春子もホント上手い。

鑑賞日:2021/01/08 監督:黒澤明


ホドロフスキーの虹泥棒

ルンペン、フリークス、見世物、絵面等々でホドロフスキーのそれっぽさは満載ではある。砂漠な人を無駄かつしつこく水責めにするラストは結構圧巻。金だけかかって興行的には爆死してそうな内容だけれども、良い話風な締めはちょっとグッと来る。カリオストロの城的な。

鑑賞日:2021/01/06 監督:アレハンドロ・ホドロフスキー


息子のまなざし

曇天映画。ぐわんぐわん揺れ続ける主人公の心とそれを表すかの様な不安定な映像。揺れながらも行動の異常な敏捷さや、見てない所のおっかない目付きなんかの演技とシンプルな構成とでとても上手い。ロープとシートをチラつかせつつも赦しへ向かう綺麗なまとまり方(胸中複雑なんだろうけど)だと思うけれども、このガキは全然反省してない気もしなくはない。個人的に言わせてもらうならば、仔犬的な目で来てもコイツは別会計で。

鑑賞日:2021/01/05 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ


トラスト・ミー

二十数年振りくらい。時代は流れてCDもカビが生える事が判明して、一体何を信じたら良いんだと云った具合だけれども、ハル・ハートリーとこの映画の素晴らしさはやはり信頼できる。見渡す限り人も物もぶきっちょで欠陥品だらけで語られる会話もそっけないもんばかりなのに、映画全体としての熱量が異常。爆発しないで感情が爆発するラストとか上手過ぎる。親父とオレの絶妙な『運命』使い、メガネっ子、監督+フィリップ・リードの劇伴と何処を取っても素晴らしい。

鑑賞日:2021/01/04 監督:ハル・ハートリー


近頃なぜかチャールストン

正月なので大好きなやつ。お上の『日本のいちばん長い日』、末端にして対極の『肉弾』の戦争の記憶が絡み合って生み落とした産物みたいな一本。2021年の現在においても深く同意できる事ばかりで、'81年当時既にヤマタイ国の思想行動は未来に生きている感じさえする。狂った様にみえて、よっぽど正気の世界がここにある。財津一郎始めとして全員キャラ立ち過ぎなキャストに脚本にも携わった利重剛と可愛い古館ゆきと完璧過ぎる上に、殿山泰司がこれでもかと最大限に活かされていてる。最高。

鑑賞日:2021/01/03 監督:岡本喜八


ピクニック

モノクロに光り輝くブランコシーンと草の上の昼食感。自然と自然に起きた出来事とは裏腹に人生において自然な選択を出来ない人間達で雨模様がとても切ない。絶対的に可愛いシルヴィアだけれども、やっぱりジョルジュの変態的文章がチラつく。

鑑賞日:2021/01/02 監督:ジャン・ルノワール


13回の新月のある年に

ファビンダーのどの作品にも共通してるけれど、胃にくるタイプの暴力描写の多種多様な事。満たされる事を切望しているのに満たされない愛と、その代わりに襲いかかる日常的暴力を親切を通り越した感じで丁寧に描き出されていて酷凄い。冒頭の『13回の新月のある年に〜』の如く何かのせいにしたいくらいの挫折の詰め合わせと主人公の願望とで心が痛い。墓跡に刻まれたの本当の友達がいた時間の凄い文句から全シーンのセットのお洒落さ、ブラウン管に登場する本人、踊りの所、と屠殺シーンとでどこを切り取っても強烈。色んなオマージュが内包されていたけれど、白塗りダーク・ボガードよろしくな絵面で始まるOPのマーラーのアダージェットは『ヴェニスに死す』に匹敵する。

鑑賞日:2021/01/02 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー


素晴らしき哉、人生!

2021年の最初に好きなやつ。他のフランク・キャプラ作品同様に綺麗事と優しい世界が勝利すると云う完全なる理想ではある。のだけども、徹底的に描かれた理想や普遍的な美しさは人の心を打つもんで、監督作品の多くがこれに部類する印象。ほぼBTTFの元ネタ的展開の涙腺崩壊確実な終盤の畳み掛けとユーモラスな守護天使の役所の絶妙な組み合わせが上手過ぎる。明日から頑張る的な謎の浄化&再生作用のある一本。傑作。

鑑賞日:2018/01/01 監督:フランク・キャプラ