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暗黒街の弾痕

Films: Feb.2021『暗黒街の弾痕』ほか

Mar,03 2021 12:00

去年末から妙に忙しくて相変わらず映画どころじゃない2021年2月。大体2日に一本くらいのペース。
微妙なラインナップかと思いきや、見返してみるとなかなかだった。
藤田敏八の『新宿アウトロー ぶっ飛ばせ』から始まって、『刺青一代』に『13号待避線より その護送車を狙え』と日活気かつ、久々のプチ鈴木清順祭り。安定感があると云うか、観ていて落ち着く。
最近何故だか多いジャン・ルノワール作品は『』と『ゲームの規則』。天才的。
目に止まったので数十年ぶりの『オーメン』シリーズは1、2と来て3でズコッとなるのは変わらなかった。
2月に一番印象的だったのはスウェーデンのオーラ・シモンソン&ヨハンネス・シューネ・ニルソン監督による『サウンド・オブ・ノイズ』。混沌の末に4'33的静寂に帰結する音楽の世界って事で素晴らしかった。
ラストのフリッツ・ラング『暗黒街の弾痕』は巧過ぎて言う事ないレベル。
のんびり映画を観られる日々を求めている今日この頃。

観た映画: 2021年2月
映画本数: 17本

暗黒街の弾痕

世間様にどこまでも貶められる貧相面のヘンリー・フォンダと選択間違えまくるシルヴィア・シドニーが不運過ぎて泣けてくる。新居出しといて最初から未来がない感じやら、敢えての水面とかカエルの一幕とかの暗示と合わせて非常に上手い。格子のクッキリ明暗から霧まみれ煙まみれの明暗とかもう天才かと。俺たちに明日はない的逃避行の元祖型って事でちょっと急ぎだけどきっちり必要以上に破滅型している。死=自由なホーリーな図の終わった感がヤバい。

鑑賞日:2021/02/27 監督:フリッツ・ラング


オーメンIII 最後の闘争

この頃のサム・ニールってこんな感じの役ばっかってイメージ。燃えるビニールにワンコにアイロンにとエグいけれども、やっぱり薄い3作目。ナザレの復活にワタワタしているダミアン。劇中のみならず映画とクオリティ自体が没落気味って感じでちょっと酷い。敵なしで余裕があるから超怖いって云うオーメンが観たい訳であって、適当な完結を観たい訳ではない。

鑑賞日:2021/02/26 監督:グラハム・ベイカー


オーメン2 ダミアン

1を観ちゃったので続編も久々に。ダミアン美少年の覚醒って事で結構青春。ヒッチコックばりの鳥から始まって、人がよく想像する痛いやつをキッチリ挿入。なんだけど、エレベーター着地の瞬間にジャンプすればセーフとかって話じゃなくて、そっちかよってタイプの絶妙な二段活用が後半から増えている印象。いつだってイイ女なリー・グラントのオチまでよく練られている。そんな事より腹減ってるからドッグとパティを一緒に挟んでくれって云うアメリカ人にある意味ダミアン以上の強さを感じる。

鑑賞日:2021/02/25 監督:ドン・テイラー


オーメン

目に止まっちゃったので久々に。何が起きるかが全部分かってても、音楽だけで既に怖い。ヒェッとなる事確実な首吊り、山犬、棒、首ガラスで殺しの多彩なバリエーションできっちりと縮み上がる。アニマル達もザワつくREᗡЯUMタイプの恐ろしいガキと対峙するのには、鈍臭いグレゴリー・ペックじゃちょっと荷が重い。

鑑賞日:2021/02/23 監督:リチャード・ドナー


十月

真っ赤だなー。二~十月革命成就までをやたらお洒落なカットと鬼編集で否応なしにテンション上げてくる仕上げ。ロシア的に萌える要素なのか、銅像倒すのとか宮殿になだれ込むって良く見る感じのやつで、プロレタリアート万歳とやっている。思想と結果とこの後ヨシフが控えてるってなると、なんとも言えない気持ちになるな。

鑑賞日:2021/02/22 監督:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン


廿日鼠と人間

怒りの葡萄時代における負の永久機関の一つの形。夢は大きくとも容易には抜け出せないと云う悲劇。そして孤独と依存と弱さと強さとが入り乱れる人間の胸中の沼を上手い事描くスタインベックの原作からしてもう素晴らしい。もしもの時、愛する者を苦痛から解放する為には己の手を汚さねばならないと云うあんまりな極限状態な時代、それを描く使命感みたいなものがあったんだろうと思われる。老犬とラストの銃弾で二度泣かせにくる構成も見事。ロッキーのトレーナーでおなじみの若かりしミッキーはかなり迫真の演技だけれども、カミさんの役はリメイク版のシェリリン・フェン嬢の農場で無駄に発散させる色気には敵わない感じ。

鑑賞日:2021/02/21 監督:ルイス・マイルストン


スリー・ビルボード

ようやっと。市民の多くの根は善良でもみんな何かしらの問題に怒っている事が多いって云う超大国USA。...の南部は排他主義の色濃い舞台で『怒りは怒りを来たす』の連鎖が中盤にかけてギャグみたいに増幅し、ふわっと溶けて消えてなくなりそうになるラストとで実に良く出来ている。そんな血の気の多い連中の中でお巡り役が似合うウディ・ハレルソンの鎮静剤感と人格者っぷりにグッとくる。死期が迫っている人間設定ってのもあってか、怒りよりも生の喜びを、そしてラヴ!!なメッセージがガッツリ届いてきたぞ。

鑑賞日:2021/02/20 監督:マーティン・マクドナー


ソラリス

久々。一応未知なるものと向き合う方向で終わってはいるものの、全体的にスタニスワフ・レム原作ってよりはタルコフスキー版をほとんどコピーしたって感じ。ある意味チャレンジャーなソダーバーグ。メカメカしくてダサいセットにCG全開でいまいちなソラリスの海にと微妙なところの方が多い感じの中でも、ジョージ・クルーニーはいつだってクソかっこいいな。やっぱりBWV639のコラール流れないとしっくり来ない。

鑑賞日:2021/02/19 監督:スティーヴン・ソダーバーグ


13号待避線より その護送車を狙え

新宿から熱海-湯河原地域に御殿場に慰安旅行風で楽しい。役者的にはあんまり華がない気もしなくはないけれど、清順にかかると凝りに凝った仕上げになるな。遠近左右のカメラワークに回想用の黒背景別撮りとか細か過ぎるところまで行き届いている辺りが実に職人的でアイデアの宝庫。ミステリーとその布石の置き方も絶妙。多くの他作品同様にわざとらしいタイアップもきっちりある。タンクローリーの下りはヤバ過ぎる。

鑑賞日:2021/02/16 監督:鈴木清順


ロベレ将軍

前後半と異なる具合に人を欺く役者デ・シーカ。詐欺師なそれから始まり、愛国心の芽生えに衝動的にキリッとなる覚醒演技が見事。度々の郷愁と銃殺の背後の壁に描かれたジェノバの図の使い方もなかなか。かなり上手い作りだとは思うのだけれど、謎のα波的な何かをキャッチして寝落ちしまくってしまった。

鑑賞日:2021/02/15 監督:ロベルト・ロッセリーニ


ゲームの規則

乱れた男女関係に良いの悪いの軽いのから重いのまで色んなタイプの嘘を組み込んだ無秩序状態な貴族社会の図。狩の獲物よろしく人には銃口を向け、上流階級の威厳を保つ為には嘘も方便とで人が人にあらずな時代な嘆かわしい。狂騒から静寂、野外から屋敷内のあっちこっちと、シニカルな機械仕掛けと人間の対比と縦横無尽って感じでただでさえ凄いのに、狂言回し的ポジションに熊でおいしいところを持っていきまくるジャン・ルノアール。天才か。

鑑賞日:2021/02/11 監督:ジャン・ルノワール


刺青一代

チャキチャキ可愛い和泉雅子が見たくて。20年くらい前のレトロスペクティブ以来。パンにズームに強烈な色彩にと'65年の時点で既に完成形な清順。おまけに昭和元年設定、北陸ロケで浪漫三部作的な雰囲気もある。握ったドスの硬直とかにじり足なんかは任侠映画によくあるけど、透明な板で下から撮るロマンポルノばりなやつとか類を見ない気がする。それもカラーな襖とサラッと数秒挿入ってのがまた粋。布石の置き方やら覆し方なんかもホントふざけた感じで上手い。最高。

鑑賞日:2021/02/09 監督:鈴木清順


サスペリア

サスペリアってこんな話だったっけってなくらいに別物だな。魔女話にドイツ赤軍にナチスにと要素が盛り沢山で途中からうんざりしてくる。ゴブリン的フィーリングを求めてなのかなんなのか、OPから無駄にトム・ヨーク流してきたり、狙ってる風な劇伴の感じも何かしっくり来ない。ハネケっぽいナイフの下りなんかもどうなんだろうねぇ。結局この映画は何がしたかったんだとなる訳だけど、いつだってエロ可愛いダコタ・ジョンソンを愛でる分には俺得な感じ。

鑑賞日:2021/02/08 監督:ルカ・グァダニーノ


サウンド・オブ・ノイズ

音楽テロってよりは本来の形を忠実にやってる感じ。使えるもんは何でも使うと云う音楽の歴史そのものよね。鳴らした瞬間に消えて行く生モノ芸術って特性の辺りも良く練ってある。題材的にインダストリアル方向に偏るのは仕方ないとして、混沌の末に4'33よろしくな静寂に帰結するってのは非常に上手。「この曲で世界を変える」ってみんな言ってるって云う冴えてる台詞に後ろから殴られた気分。

鑑賞日:2021/02/06 監督:オーラ・シモンソン, ヨハンネス・シューネ・ニルソン


マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン

ラースは『奇跡の海』の監督とは言われない的な苦悩。冒頭のホドロフスキー翁のタロットで世界的な成功よりも云々のところから逆の方に行ってる現在な気もしなくはないレフン。この辺りがしっかり撮れているのでドキュメンタリーとしては成功だったんじゃないかと思われる。

鑑賞日:2021/02/05 監督:リヴ・コーフィックセン



万物流転をテーマとしたインド式若草物語。キャラの立つ3人の乙女の恋から大人への成長とガンジスの沐浴の階段のメタファーとで上手いことまとめてきている。アメリカ人大尉>イギリス人家族+a>インドと云う他所者的入れ子、植民地支配してる側が生み出した悩みの図式で徹底的に傍観者って感じなのは置いといてもなかなか面白い。とりあえずインド的雰囲気は盛りだくさんで良いんだけど、カレー描写がゼロなのだけが残念。鮮やかなジャン・ルノアール初カラーに加えて助監がサタジット・レイってのも納得の出来の良さ。

鑑賞日:2021/02/04 監督:ジャン・ルノワール


新宿アウトロー ぶっ飛ばせ

ダバダバ系劇伴に乗せて最初から最後、上から下までお洒落でトリッキーなシーンで埋め尽くされている。鈴木清順ばりの照明使いなんかもかなり上手い事いってる印象。メインの男3人と梶芽衣子がそれぞれ存在感があるのは勿論の事なんだけども、若干笑わせに来てるタイプの過剰暴力をスタイリッシュに交えて、それぞれの良さを藤田敏八がより引き出してる感じ。最後はあんまり新宿が関係ない風だけれども最高。

鑑賞日:2021/02/02 監督:藤田敏八