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さらば冬のかもめ

Films: Mar.2021『さらば冬のかもめ』ほか

Apr,04 2021 13:09

妙に忙しくしてた割に意外とキッチリ映画を観ていた3月。しかも満点ものが多い。
ハル・ハートリーの『FLIRT/フラート』、『ヘンリー・フール』の未鑑賞のものから。ハズレない。
そしてこちらも駄作を探す方が難しい木下惠介『永遠の人』と『遠い雲』。デコちゃんとの組み合わせでつまらん訳がない。
良質日本映画更にと云う事で森谷司郎『放課後』に『赤頭巾ちゃん気をつけて』、こちらは久々鑑賞の浅井慎平『キッドナップ・ブルース』、大森一樹ってよりは斉藤由貴に骨抜きにされる感じの『恋する女たち』と傑作揃い。
やたらと見かけたので十年ぶりくらいの黒澤明『』も巷では賛否両論あるけどもやはり素晴らしい。そもそもこのレベルの監督は日本で絶滅している気もしなくはない。
で、3月は顔はこれぞってものが多過ぎて選ぶのにちょっと苦労する。
クロード・シャブロル『いとこ同志』、ハワード・ホークス『三つ数えろ』、ロベール・アンリコ『冒険者たち』と非のつけ所がない傑作群の中で悩みに悩んだ末に、ハル・アシュビー『さらば冬のかもめ』のどうにもならんジャック・ニコルソンで決定。
映画もほどほどに、やること早く済ませたい今日この頃。

観た映画: 2021年3月
映画本数: 25本

蜘蛛女

最初から報われる予感が全くしないゲイリー・オールドマン。ガハガハ笑う女と嫁の幻影に悩まされ続ける地獄。油断大敵映画。

鑑賞日:2021/03/31 監督:ピーター・メダック


いとこ同志

この持ってない感はとても良く分かるんだけど、それにしても持ってないな。パリにして上京(都会)及び人生における洗礼ってな具合で、正直者が馬鹿を見る図式ってのはどうにも辛いもんがある。放蕩者達の方にも悪気がある訳じゃないんだろうけど、試験前日の筋肉マンの下りはあまりにあんまりで殺されても文句言えないレベル。'50年代はパリの若者の乱痴気に一歩引いた形で登場する理想的な本屋の主人の理性のさじ加減もなかなか。モーツァルトのジャブから始まって、三度に渡るワーグナー使いは秀逸この上ない。で、お洒落物件にお洒落撮影満載とで申し分ない。しかし、持ってないなー。

鑑賞日:2021/03/30 監督:クロード・シャブロル


キッドナップ・ブルース

浅井慎平は写真家ってよりはヒントでピントのイメージの方が強いんだけども、改めて観るとどのシーンも構図が決まりまくりでスゴイ。そうそうたる面子の友情出演枠も全員違う形で妙な空気を運んでくるから、これまたスゴイ。

鑑賞日:2021/03/29 監督:浅井慎平


スワンの恋

読みたいんだけど断トツで敬遠している『失われた時を求めて』の一部って事で、原作は分からんけれどもなかなか面白かった。カトレア(隠語)したいと一晩中いきり立ちながら走り回るジェレミー・アイアンズ。欲望に我を忘れつつも優雅な身のこなしは流石よね。人生において棒に振ってしまうあれこれってのは若い頃には分からんもんで、今こそ原作が楽しめそうなんだけど、全部読んだらいかほど時間を浪費するのかと考えると躊躇してしまうと云うジレンマ。若さも黄金の時代も全ては消え去る恐怖。アラン・ドロンとの最後の会話がまた良い。

鑑賞日:2021/03/28 監督:フォルカー・シュレンドルフ


遠い雲

タイトルクレジットからして超トリッキー。序盤は尺繋ぎスレスレな感じのシーンが多いものの、後半の予想できない加速がスゴイ。大体、美男美女しか出てこないんだけども、イケメンに限るって事で田村高廣じゃなかったら結構事件な案件。静かな生活との間でぐわんぐわん揺れるデコちゃんとざわつく高山の人々。運も味方につけた佐田啓二のところへ収まるべくして収まる。良かった。

鑑賞日:2021/03/27 監督:木下恵介


大いなる眠り

三つ数えない。内容は親切なくらいに分かりやすいし、ロバート・ミッチャムのマーロウは言う事ない。のだけど、ハワード・ホークスのキレとボギー、ローレン・バコールの一挙一動に比べると大分劣る。大変可愛い薬中妹ちゃんことキャンディ・クラークとソフトロック気なテーマは大変良かった。

鑑賞日:2021/03/26 監督:マイケル・ウィナー


激突!

四半世紀ぶりくらい。ギョギョギョの教科書的映画。ドラレコで抑止できるレベルじゃない。傑作。

鑑賞日:2021/03/24 監督:スティーヴン・スピルバーグ


三つ数えろ

のっけのノックと見せかけてインターホンって所から終わりまでひたすらスタイリッシュ。そいつ誰だよってな具合で鑑賞者を煙に巻くかの如く話の筋がややこしいんだけども、動作がいちいち粋でスマートなボギーとローレン・バコールでかっちり成立するからスゴイ。人の癖に口出しといて、耳たぶカッチカチになってそうな癖とのバランスがまた絶妙。ボギーを前にして馬の話をするローレン・バコールはホント良い度胸してる。

鑑賞日:2021/03/23 監督:ハワード・ホークス


赤頭巾ちゃん気をつけて

冒頭から股がヒュ〜っとなりっぱなし。狂気かつ新時代の渦中の苦悩。悩みに対してより深く考える人と盲目的に潮流に身を任せる人の違いで、語り口が前者の方なのでとても好感が持てる。懊悩、徘徊の末に黄コートちゃんに軌道修正されるってのに加えてCM鬼編集、各種演出もとても上手い。和田誠感はともかくとして加納典明凄いね。この時点で既に絶望していた団塊世代だけれども、後の世代としては同情も反発もまぁ人によるってなる。この時代のエネルギーはやっぱり憧れるけど。原作読みたい。

鑑賞日:2021/03/22 監督:森谷司郎


ヘンリー・フール

映画史上最高の汚シーンの一つと思われる。天性の魅力を持ってる男と才能を持ってる男の師弟関係の諸々って事で、序盤からラストの互いの生傷の位置まで良く出来てる。90年代中頃のインターネット黎明期を舞台に、与えて与えられる循環がより希薄になりつつあるってのを2020年過ぎて観ると、その加速っぷりと顛末でなかなか複雑な気分。挫折者、凡人の気持ちが分かり過ぎで台詞が的確過ぎなハル・ハートリー、盛り上げ方や音楽の感じなんかは様式美化してるけれどもそれが寧ろイイ。

鑑賞日:2021/03/21 監督:ハル・ハートリー


上海の伯爵夫人

戦中上海ものの映画の雰囲気ってたまらんなぁ。植民地時代における国際的な緊張の中心地ってな具合で混沌の極み風だけれども、例えば『太陽の帝国』的な大変な動乱って感じでもない。しかしながら、元外交官と元貴族の力を失った没落者同士が異国で絶妙な距離を保ちながら交わるって筋書きはとても品があって良い。外界隔絶バー、そしてラストの潮流に逆らいやがて飲み込まれる図にとどこまでも人間の無力感があるものの、最後は一番近くに最も必要な人がいるって締めなので救いがある。ワールドワイドなヒロは流石。

鑑賞日:2021/03/20 監督:ジェームズ・アイヴォリー


欲望の果実/許されぬ愛の過ち

原題の意味調べて納得。エロ可愛い娘の友達と娘と爆弾過ぎのワイフとで羨ましいようなそうでないような。よく考えてみると、最初からぶっ壊れてる風な家庭だと思うんだけど男の夢を突き進んでいる様が楽しそうで何より。歯医者の機材にエロい音楽って云う超斬新なピエロ・ピッチオーニ劇伴から建物から照明の小物に至るまでやたらとお洒落で、鏡の使い方やら分かってるエロスの末のラストのあの図って事で映画の完成度がかなり高いんじゃないだろうか。出た瞬間に空気をパゾリー二映画化する謎役なニネット・ダヴォリ。

鑑賞日:2021/03/18 監督:ジャンルイジ・カルデローネ


恋する女たち

香林坊の109で10時9分に待ち合わせねっ!て云うJK斉藤由貴に激萌える。と云うか、酒を飲み煙草を吸う等々、全編に渡って萌えまくる。mid80sに全盛期アイドル達がズラっと揃ったクドさはともかくとして、良く出来た青春映画と思われる。逢いたくて震えてるだけの脳停止感は皆無で、現実世界からきちんと答えをひねり出そうとする青春像ってのは、映画の中とは云えスマホ時代とは一味異なる気もしなくはない。夕暮れの作詞家宅での下りとかかなり泣ける。金沢の見覚えのあるあっちこっちとで大変良かった。

鑑賞日:2021/03/15 監督:大森一樹


音楽

原作は大昔に読んだけど、大体こんな感じだったと記憶している。OPのハサミと裸体の画作りだけで大部分は成功しているとは思うけれども、終始テンションがおかしく緩急がないせいかちょっとダレる。瀕死役はまだしも、三谷昇(学生)は無理がある。オラオラ精神分析医な細川俊之はなんか良かった。ジャケがなんかお洒落。

鑑賞日:2021/03/14 監督:増村保造


さらば冬のかもめ

軍隊と云う組織に苛立ち諦める護送兵と純粋無垢なる囚人兵の組み合わせからして良く出来てる。お上の馬鹿げたあれやこれにプチ反抗するかの様な馬鹿騒ぎをしつつ、冬の陸を彷徨う水兵たち。飯テロに手旗信号等々の印象深いシーンがあり過ぎるんだけど、ホロっとくる公園の下りの南妙法蓮華経、南妙法蓮華ィ経ョウ!に特に泣き笑う。マッシュみたいなジョニー・マンデル劇伴に檻も外も大差ないベトナム的時代感とで泣ける。

鑑賞日:2021/03/13 監督:ハル・アシュビー


ひみつの花園

当時のオレ的最強アイドルだった西田尚美。筋もシンプルで面白かった記憶があったものの、今観ると色んな意味でキツい。そっと記憶に閉じ込めておくべきだった気もしなくはない。利重剛は何やっても利重剛になのがイイ。

鑑賞日:2021/03/12 監督:矢口史靖


放課後

小動物系で妹系な栗田ひろみの天然物の美少女力。音も立てずに、または季節が変わる様に大人になってしまう乙女のあれやこれの眩しさで、中年の心が悲鳴を上げてる。かと言って、少年に手を出すエロいい篠ひろ子も嫌いじゃないって事で、劇中の見境ない地井武男の如く男は何でもいいのねって言われかねん。そうじゃないんだけど。絶頂期で天才的な陽水にお洒落な宮本信子に篠山紀信にと周りも色々凄い。

鑑賞日:2021/03/12 監督:森谷司郎


冒険者たち

序盤のテキトーな感じの展開はともかくとして、流れまくる良劇伴にのせてドラマチックに回収する。財宝が目的でありつつも、コイツらの金品の先に求めるものがこっちにまで伝わってきてとても熱くなる。ドリカム状態+αの絶妙なバランスに夢と友情とでほとんどクサい感じなのに後半に向けてやたらと込み上げてくる上手さ。全て手に入れた末の喪失感でキューっとなる。で、要塞島に激萌え。

鑑賞日:2021/03/09 監督:ロベール・アンリコ


ガールフレンド・エクスペリエンス

一瞬で経済危機やら老いやらのあらゆる破綻が訪れるって云う、今が旬の高級娼婦のあれやこれ。一生懸命にやってても、フォレスト・ファッキン・ガンプですら感動しないと粗相一つで辛辣なコメントされてしまうキビシイ商売。色んな辛さに見舞われつつも、暗い時代はこれからもっと訪れるぞと。永遠ではないものが世の中には沢山あると気付く度に何やら虚しくなる。それに慣れ親しむ事が経験値上がるって事なのかねぇ。

鑑賞日:2021/03/08 監督:スティーヴン・ソダーバーグ



久々。家督問題に大殿ご乱心にあちこちに積もった怨みつらみとでとんでもなく乱世、乱世で乱れまくる。なんだけど、演出に適切な配色にちょっと大袈裟な役者に武満音楽にと一糸乱れぬって具合でかっちり完璧に作り上げてる。リア王、毛利元就ネタを基本としつつ、永遠なる神への問いかけの返答をきっちり盛り込む黒澤明。過去の作品群が素晴らしいのは勿論として、今作も充分傑作。で、平安メイクに畜生道を爆進していても原田美枝子は可愛らしい。

鑑賞日:2021/03/07 監督:黒澤明


エル・マリアッチ

潤沢な予算と華のあるバンデラスとで制作されたデスペラードも勿論好きなんだけど、画作りに細部まで行き届いた各種ネタにとほとんど完成形なロバート・ロドリゲス。'90年代インディーの妙な空気感(大好物)と映画自体のあまりの出来の良さで5付けるしかない。

鑑賞日:2021/03/05 監督:ロバート・ロドリゲス


ドン・サバティーニ

あっちこっちに挿入されるそれっぽさとマーロン・ブランドのセルフパロディを見てるだけでも結構楽しい。やっぱりモノマネする人とは根本的に何かが違うねぇ。人もコモドドラゴンも殺さずきっちりコメディしながらも、なかなか品があって良い。フレドの下りの説明はいらん気がするけど。

鑑賞日:2021/03/04 監督:アンドリュー・バーグマン


永遠の人

全方向が苦しい。勝ちも負けもない混沌とした苦しみの四半世紀で佐田啓二じゃなくとも血ぃ吐きそう。のっけからジプシー・キングスかって具合のホセ勝田の情熱と云うか情念のフラメンコで否応でも盛り上がる。デコちゃん筆頭に人間の怒りの連鎖が収まるのには、まぁ時間がかかるもんで。全シーンの構図キマりまくりの絵画の如くな美しさは助監吉田喜重が効いてるんだろね。で『嵐が丘』みたいなこの話から後にそのまんま監督自身が手掛けると云う。こうなってくると阿蘇の麓の風景がヒース・ムーアに見えてくるな。役者に演出に音楽にと実に素晴らしい作品。加藤嘉の年寄り演技はこの時点で完成形だった。お〜寒っ。

鑑賞日:2021/03/03 監督:木下恵介


ダーリング

曲がり角を曲がったらまた曲がり角があるってやつは結構分かる。刹那の感情を積み重ねては成り上がり、それと引き換えに色々捨てまくってるチェルシーガールの人生。後悔先に立たずなんてのは多く人がそうだと思うにせよ、ジュリー・クリスティの役柄はスケールがデカい分だけダメージもデカいんだろうねぇ。『真夜中のカーボーイ』のNY-フロリダみたいな感じで英国-イタリアの暖かいところへの憧れを感じさせつつ、辿り着くのは素朴な小屋の生活の真逆を行く生活と孤独感って事で、観てる間も結構泣けてくるけど、終わってから最初の幼少期の場面みたら死にたくなるな。

鑑賞日:2021/03/02 監督:ジョン・シュレシンジャー


FLIRT/フラート

これはどうなんだと劇中の人間使って自虐しつつ、最後はカミさんと共に良い感じの役を持ってくハル・ハートリー。国ごとに異なる文化や行動、それに反して浮気者から始まり嫉妬が絡む万国共通の問題を絡めるとでなかなか実験的。そして音選びは流石の安定感。NY、ベルリンはともかく、東京パートは劇団臭過ぎてちょっと観てらんない感じ。'90年代の新宿とあの雰囲気は懐かしくてたまらんけど。銀ジャンパーは良いけど、Sex Pistolsにピースマークのステッカーの鞄がダサ過ぎて震えた。

鑑賞日:2021/03/01 監督:ハル・ハートリー