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バージニア・ウルフなんかこわくない

Films: Jul.2021『バージニア・ウルフなんかこわくない』ほか

Aug,01 2021 12:01

楽曲制作もウェブもこなしていたポンコツMacBook Pro (Mid 2009)がいよいよ瀕死となった7月。
不具合やら故障が立て続けに発生、対処+暑さで何やら始終グッタリしていた気がする。
そんなかんなでずっと高級文鎮化していたM1 Macを現役へって事で現在はあれこれ設定しながら過ごしつつ、次作の準備を着々と進めている今日この頃。

先月あたりから軽く続いているエリザベス・テイラー祭りな具合で、『バージニア・ウルフなんかこわくない』に『緑園の天使』と時の流れの残酷さを目の当たりにする様なこの2作が特に印象深い。で、散々迷った末に貫禄なエリザベス・テイラー(老)を7月の顔とした。
久々なフェリーニ『カビリアの夜』は云うまでもなく傑作。
出演作にハズレがないんじゃないかと云った具合のイケメン有能な、シドニー・ポワチエ『いつも心に太陽を』にタランティーノ『デスプルーフ in グラインドハウス』には娘とポワチエファミリーに縁があった月でもある。
D・W・グリフィス『散り行く花』に10年振りくらいの大林宣彦『廃市』、ペドロ・アルモドバルの割と新しい『ペイン・アンド・グローリー』、ギャスパー・ノエの『ルクス・エテルナ 永遠の光』なんかもとても良かった。
ネタ半分、本気半分で生まれ変わったら鎌倉の女子高生になりたいと常日頃の願望を加速させるかの如くな中原俊作品『櫻の園』。これは主人公のアノ娘の変な髪型のせいで何度も挫折していたのに、全部観たらそれはそれは素晴らしい出来だった。
のっけの『尼僧物語』に続いて、逆に『太陽の帝国』みたいなフレッド・ジンネマンの『山河遥かなり』はGIモンティの優しさ、瓦礫の山を舞台に展開されるすれ違いの組み立ての巧みさとで最後には号泣でこちらも素晴らしかった。
そんな具合な7月。

観た映画: 2021年07月
映画本数: 22本

ロスト・イン・パリ

映画ってよりは動きを眺めて楽しむ感じ。レストランにベンチの下り、エッフェル塔とかなかなか良い画の箇所はある。ロストした末に何か得た感じでほっこり終わる。で、愛アムールの面影はあるけど、二十四時間の情事って言われても合点が行かないエマニュエル・リヴァ。

鑑賞日:2021/07/30 監督:ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン


男はつらいよ お帰り 寅さん

当然の事ながら、寅次郎現役時のシーケンスはどれも面白いし泣ける。VFXで草葉の陰から蘇って妙な合成をされる未来系寅さんで、何やら時代の移り変わりをしんみり感じる出来。一応、お帰り寅さんって事になってはいるものの、ストーリー的には懐古なあれやこらから現在に戻ってくるまでのお帰り満男みたいな具合。日本語を忘れたのか、リアルタイム吹き替え仕様みたいなゴクミ(昔から演技はアレか)と現在形リリーはいささかキツいものがあった。透明感喪失のさくらも泣けてくる。こうして歴代を並べてみると、八千草薫の頭ひとつ出てる感が改めて分かる。最後の方の笠智衆のバター挿入が一番グッと来た。

鑑賞日:2021/07/29 監督:山田洋次


ルクス・エテルナ 永遠の光

ファスビンダーばりな偉人たちの辛口テロップ挿入で嫌な予感しかしない。特にドストエフスキーのてんかんのやつの冗談みたいなフリ。今までの映像の中で起きる眺めるタイプの拷問から、鑑賞者もご一緒にと云う視覚聴覚の体感型拷問へって事で超有難迷惑な作り。映画としての可能性を模索しまくってる風で、そこら辺の意欲は買っちゃう。

鑑賞日:2021/07/28 監督:ギャスパー・ノエ


パリジェンヌ

それぞれ良い感じなエピソードに仕上がっているけど、見栄っ張りJKドヌーブが余裕獲得な最後のやつが一番出来が良い気がする。あれが窓から入ってきたら、冬でも開けとくってなるわな。テンションおかしいダニー・サヴァルの最初のやつもなかなか。うるさいんだけど結構可愛い。

鑑賞日:2021/07/27 監督:ジャック・ポワトルノーほか


デッド・ドント・ダイ

フィッツジェラルドネタからのロバート・レッドフォード落としのところがピークだった。サミュエル・フラーの墓とか良いところも沢山あるけど、台本の下りとか結構スベってる箇所多数。ビル・マーレイの毎度の間の演技とかもちょっと飽きてきた。ファミリーはもう使わない方が良い気もする。森の民と化したトム・ウェイツや動物がセーフって云う物質主義への短絡的な警鐘もちょっとクドい。で、大体そのまんまなイギー・ポップ。

鑑賞日:2021/07/26 監督:ジム・ジャームッシュ


ペイン・アンド・グローリー

OPからインテリアにファッションと毎度なスペイン的お洒落を見せつけてくるアルモドバル。高度過ぎてとても真似できん。そんな中、際立つ白の洞窟に憧れる。監督自伝的内容ながら万人にも分かってしまう後ろ向き×∞がちな人生、からの再生って事で回想カットからのラストの扱いが巧み過ぎ。故障と成功の見本市みたいな役柄をキッチリこなすバンデラスも流石で円熟かつ良い歳の取り方をしている。内外問わず死を身近に感じる事があれど、死ぬ時まで終わりじゃない。素晴らしい。

鑑賞日:2021/07/24 監督:ペドロ・アルモドバル


山河遥かなり

号泣。この手のにホント弱い。詩的な邦題は嫌いじゃないけど、原題の意味から山河遥かなり風。この内容にしてジムと名付けられる少年って事で逆に『太陽の帝国』を感じる。GIモンティが少年の青く大きな瞳にほだされ、言葉を忘れた少年がその優しさに心を開く過程あってこそのラストって事でどこまでもイケメン。生々しい瓦礫の山を舞台にフレッド・ジンネマンのすれ違いの組み立てが上手過ぎて最後までドキドキしっぱなしだった。素晴らしい。

鑑賞日:2021/07/21 監督:フレッド・ジンネマン


1941

竹槍で迎える我が国と防戦のケタが違って微妙に悔しい。三船敏郎率いる潜水艦はいるだけで殆ど何もしてない(できない)って云う基本設定。それを怖がりつつ、奮起する市民の自爆連鎖と大大大事故が酷凄い。ギャグに下ネタにと序盤は若干スベり気味なものの、悪ノリがエスカレートする後半は流石にツボを押さえまくっていてかなり楽しい。色んな映画で見られるスピルバーグらしさは随所にある上、一度聴いたら忘れられないキャッチーなジョン・ウィリアムズ劇伴とでお腹一杯な気分になれる。公開時にコケたらしいけど、結構好き。

鑑賞日:2021/07/20 監督:スティーヴン・スピルバーグ


散り行く花

散り行く花に花を添える黄色い男に差別主義な父親にと制作側がナチュラルに差別的、おまけにロリコン気なのはともかく良く出来ている。蕾と平和な若者が生きているところ自体が地獄みたいな具合。公開時は第一次世界大戦後って事で東も西もそこそこ野蛮な気もするけども、今作に関しては一応綺麗に線引きされてる。で、オノで扉ぶっ壊す父親にシャイニングがチラつく。兎にも角にもV字で作り笑顔のリリアン・ギッシュ(26)の美少女役で全て成功してる感じ。

鑑賞日:2021/07/19 監督:D・W・グリフィス


ビッグ・アメリカン

アメリカって国をそのまんま眺めてる風。劇中ポール・ニューマン然り、見た目が中身を超える様にと徹底してるところに滑稽さと強味が同居しているって事で、なんだかんだやっぱり凄い国なんだなぁと。70年代のロバート・アルトマン的な真っ黒な皮肉がタイトルから始まってそこかしこに散りばめられてはいるものの、いまいち盛り上がりに欠ける気もしなくはない。

鑑賞日:2021/07/18 監督:ロバート・アルトマン


デスプルーフ in グラインドハウス

尻とつまらん会話も全てはギュッと凝縮された馬鹿最高なカーアクションの為と。フィルムの傷、あちこちの映写屋にカットされまくった良い所のコマ等々だけでは飽き足らず、カラーフィルム不足までのオマージュとやる事が徹底してて見事。70年代をやる90年代の懐かしい感じと思いきや制作00年代って事で、やりたい(やり残した)事や根っこにある部分はいくつになっても変わらないんだねぇ。選曲がマニアック過ぎて流石。

鑑賞日:2021/07/17 監督:クエンティン・タランティーノ


櫻の園

生まれ変わったら鎌倉の女子高生になりたいと常日頃思ってる身としては、己の願望的なやつが完璧なまでに具現化されてる感じ。ロケーションは飯能市みたいだけど。いい匂いしそうな園でありつつも、その殆どがBBA予備軍風なリアリズムを混ぜる事によってまったく嘘臭さを感じさせない上手い作り。のっけのダサ過ぎる『パーマかけてきたの、ドヤァ』からの展開、入れ替わりのスムーズさ、ベタっぽいけどいちいち美しい映像とで素晴らしい。ショパンも太田胃酸か櫻の園かと云った具合で挿入のタイミングなんかもバッチリだった。で、最後のハッピーバースデ〜で軽く泣きそうなる。散りゆく予感をきっちりさせつつも、まんま満開の櫻の時間だけ切り取り焼き付けた様な映画。

鑑賞日:2021/07/16 監督:中原俊


メイド・イン・USA

ひとつひとつの台詞(文章)が立ち止まって考えるレベルに深いやつなのにマシガンの如く脳を素通りしつつ、消費されてる感じ。お陰でリシャール・ポ...よろしくワザとなのかなんなのか全体が何か曖昧な印象にさせてるのは成功している。左だの右だのやってるこの時代から移民政策失敗しまくってる風の現代で超微妙な歴史。この時代にしてみれば、ナチの所業がちょっと昔って事で怨みがより生々しい。なにかと目にするレオーの『ママッ!』の下り、可愛いらしいアンナ・カリーナ、全てのシーンがカラー撮影最適なバキバキの色彩の映像は良かった。で、秀逸な『ねえ!キスしてよ』ばりのベートーヴェンセーター使いに5番サンプリング。

鑑賞日:2021/07/15 監督:ジャン=リュック・ゴダール


緑園の天使

人類史に刻み込まれるレベルのスーパー美少女にして天使ちゃんなエリザベス・テイラー。この間観たバージニア・ウルフのやつとの落差が酷凄い。'20年代のブライトン近郊、田舎の肉屋の娘にして馬娘って微妙な設定からナショナルな存在へ。合成、スタント盛り沢山でも、馬に恋する馬子のストイックさで何やらほっこりした気持ちになって全て良しになる。この役にこの役者を配した事で製作陣の狙いが決まりまくってる気がする。『人生はフルコースみたいなものよ』ときちんと子供に道理を説明できる達観した母親みたいな大人になりたい。

鑑賞日:2021/07/14 監督:クラレンス・ブラウン


カビリアの夜

久々。サラッと軽い感じで突き落とすOPから、この世の容赦なさが盛り込まれ過ぎてて吐きそう。イタリア的によくみる立ちんぼ業の泥沼光景やあらゆる悲惨さをも明るくさせて余計に哀しくなる様なジュリエッタ・マシーナの多彩な表情。やかましいし全然可愛くないのに段々可愛く見えてくるってのは、人間にとって心の清さが如何に重要かが良く分かる。騙されても騙されてもの末にチラッと泣き笑いのカメラ目線で締める繊細かつ天才的なフェリーニ。傑作。

鑑賞日:2021/07/12 監督:フェデリコ・フェリーニ


ジャイアンツ

大物ってのはどう云う事なのかってテーマできっちり大河ドラマしているものの、尺がクソ長い割には展開がざっくりしている。主役の3人の関係性から成り立つ筋としてはとても良いのに少し残念。パーフェクト・ビューティーなエリザベス・テイラーがいなかったら自分の評価がどうなってたかは分からん。結局のところ、凶器切り株の旧女主人の賜物からの油田って事で最初からなんだか負けてる風なジェームズ・ディーン。妙にツルツルしたヤング・デニス・ホッパーに至っては勝者なのか敗者なのか悩ましくて泣ける。延々と夫婦喧嘩の末にロック・ハドソンがまともになったエンドで綺麗にまとまったから全てオッケー的な雰囲気になってるのでそれで良いんだろう。酒棚ドミノとか無観客な異常空間ディーンとかどうでも良い所で無駄に派手なのは結構好き。

鑑賞日:2021/07/11 監督:ジョージ・スティーヴンス


いつも心に太陽を

今のところシドニー・ポワチエが有能キャラ設定じゃないやつは観た事ない。全方向から黒ネタを投下されつつも、めげずにビッとしたスマートな佇まいと理論で行く教育って事で、金八も滝沢賢治も敵わないポワチエ無双。スウィンギング・ロンドン時代にしてはダサめな方な気がしなくもないのと、生徒のツッパリ具合が微妙にヌルいのと、展開が雑なのは置いといてもなかなか面白い。顔から火ィ噴きそうな恥ずかしい歌の贈り物からのメラメラ使命に燃えるラスト。良い。

鑑賞日:2021/07/08 監督:ジェームズ・クラヴェル


乾いた湖

ブルジョワジーもデモ隊もテロリストもみんな無力な安保な60年代の青春像。国家権力を崩すには内側に入るしかないと云うド正論の中で遊興にスポーツの如くなデモにと浪費されゆく青春って事で超虚しい。自分の親世代の慣れの果てを見ると納得な部分の方が多い。そんな時代の人々とは裏腹に篠田演出、寺山修司脚本にお洒落和田誠タイトル、武満劇伴と作り手の方のレベルは異常に高い。で、デビュー岩下志麻がめちゃ可愛い。

鑑賞日:2021/07/07 監督:篠田正浩


バージニア・ウルフなんかこわくない

『それを言っちゃあ、おしまいよ』的な地雷原を熟年夫婦、新婚夫婦揃って素足で駆け抜ける感じ。美貌を犠牲にしたかの如くなエリザベス・テイラーとリチャード・バートンのタチの悪い夫婦漫才の様で、その口汚さはあまりにあんまりな汚部屋も霞むレベル。傷口に塩を塗りまくる所謂ゲームって事で、罵り合いから告白まで大放出されるこんなパーティーは御免被りたい。存在しないものを積み上げ積み上げの末の暴露で一気に勢いを失う狂気の一夜。熟年のサンデーモーニングは辛過ぎて泣ける。...バーゲン。

鑑賞日:2021/07/06 監督:マイク・ニコルズ


廃市

十年振りくらい。福永武彦は未読なんだけども、そこいらに漂う純文学臭と大林ナレーションでそれっぽく堪能はできる。時の狭間で繰り広げられる、実体がある様なない様な青春時代のちょっと美化されがちな記憶と大林映画特有なすこし不思議感ですこぶる良い。この美しい街を退廃的と言うならば、風情もへったくれもないペンシルハウス群やタワマンだらけの現在の日本なんてとっくに死んでる気もしなくはない。この風景が失われる前に記録したって事がとても重要にも思えてくる。今では死滅してそうなキャピっていつつも哀しげな影を宿す小林聡美のキャラもとても良い。根岸季衣は最早タフにしか見えん。

鑑賞日:2021/07/04 監督:大林宣彦


捨て身のならず者

浜美枝が見たくて。汚職刑事含めた対組織暴力って事でブン屋役の建さんなんだけども、最後は腕力って脳筋締めで何とも言えない感じ。日活臭漂う宍戸錠に東宝っぽい浜美枝と東京の方の東映が入り混じって独特な雰囲気はある、ものの、全体的にはちょっと雑な気もする。大ボスの「長崎...グラバー邸」の台詞に浜美枝持参のデカい文旦みたいなやつとで現地なしの無理矢理の長崎演出の意味が分からん。

鑑賞日:2021/07/02 監督:降旗康男


尼僧物語

壮大な職業選択ミスな具合。宗教かよとツッコんで欲しそうな宗教描写が多数。神への服従を絶対とする信仰と己の良心の闘い。淡々とした展開の中でバチバチとした内なる葛藤を主に表情だけで演ずる流石なオードリー・ヘプバーン。吸い込まれそうなあの瞳で良くもまぁ多彩な表現をする事。終盤には現実のユニセフ大使に同化していく様。シャバに戻るラストの絵面が決まり過ぎてて素敵。

鑑賞日:2021/07/01 監督:フレッド・ジンネマン