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哀しみのベラドンナ

Films: Aug.2021『哀しみのベラドンナ』ほか

Sep,01 2021 12:30

M1 Macへの環境移行で夏休みどころじゃなかった8月。おまけにミックス地獄で次作リリースも大分ズレ込んでいる今日この頃。
そんなかんなで毎年そんな気がするけど、今年の夏もアニメ作品が多めな印象。
虫プロ、山本暎一監督作品の『哀しみのベラドンナ』を筆頭として、ようやくの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』、更にはようやくTV版を終えての『伝説巨神イデオン 発動篇』とどれも傑作揃い。
』、『赤ちょうちん』と久々の藤田敏八監督2本にずっと観たかった野坂昭如原作、今村昌平監督作品『「エロ事師たち」より 人類学入門』も素晴らしい。
ジョン・ヒューストン『賢い血(Wise Blood)』、ゴダール『気狂いピエロ』、サム・ペキンパー『戦争のはらわた』と傑作ものの再鑑賞も多かった。
そんな中でジェラルド・カーゲル作品『アングスト/不安』と角田貴志作品『志ず江』の異色っぷりが強烈に印象に残る。
そんな2021年8月。

観た映画: 2021年8月
映画本数: 24本

パトリオット

近頃なぜかメル・ギブソンって事で凶暴ランボーな斧アクションが観たかったので。当時劇場で映してたので音声、切り替えポイントの記憶が蘇りまくってちょっぴりノスタルジー。図式としちゃリメンバー・パールハーバーってな具合でいかに熱く敵と戦うUSAを描くかって云うハリウッドあるあるな具合。で、今作は矛先がブリティッシュとなっており勧善懲悪感で乗り切る感じ。闘うメル・ギブソンをどれだけカッコ良く撮るかって云う脳筋マッドマックスながら、不思議と結構乗せてくるハリウッドの底力。やっつけ仕事風ながらしっかり聴かせるジョン・ウィリアムズのお陰な気もしなくはない。あと地味に末っ子の下りが泣ける。よくよくパトリオット(愛国心)ミサイルって凄いネーミングだな。

鑑賞日:2021/08/31 監督:ローランド・エメリッヒ


ウディ・ハレルソン ロスト・イン・ロンドン

これのちょっと前に『ヴィクトリア』ってドイツのワンカットのやつがあるけど、プラスでリアルタイム中継と云う無謀さは買う。居るだけで面白いウディ・ハレルソンとオーウェン・ウィルソンの二大テンガロンハット似合うのを軸にしつつ、違和感なく流れる様にきっちり終わるってのは冷静に考えると凄い。ナチュラルにウディ・アレン呼ばわり、W・アンダーソン祭り、ボノ電話とか瞬間的に結構面白い。魔法使いってアイツか。

鑑賞日:2021/08/29 監督:ウディ・ハレルソン


アングスト/不安

どっかで見たヤツだなと思ったらUボートに出てた人か。ステディカムにクレーンのカメラワークの意味分かんない感に持ってかれる。コイツの精神状態によるのかと思いつつも、そうでもないらしいのが余計に不安になる。現場の有難迷惑なくらいの丁寧過ぎる詳細の末の終身刑でズコーっとなる死刑制度廃止国家。理想系な建もの探訪に世にもキュートなお姉ちゃんの処置の仕方とかこっちの願望が分かり過ぎてて怖い。クラウト重鎮なクラウス・シュルツェのイケてる劇伴とで最高だったけど、この胸糞映画をもう一回観るかどうかは分かんない。

鑑賞日:2021/08/28 監督:ジェラルド・カーゲル


ゴッドファーザー(最終章):マイケル・コルレオーネの最期

OPとラストと途中ちょいちょい確認できたけど、細かい所は良く分からん。引退のマイケルにスポットを当てたって事で、体感であちこち何か物足りないと思ったらオリジナルより大分短くなってるのねコレ。とは云え『敵は愛する者を狙ってくる』なカヴァレリア・ルスティカーナのあのシーンは何度観ても琴線に触れまくるのでそれだけで全てオッケーな気分になる。タリア・シャイアが修道女に作らせた体の憧れの毒カンノーリも相変わらず美味そう。実際食べてみたらそんなでもなかったけど。ヘルムート ・バーガー出てんの今回初めて気付いて、ドリアン・グレイパワーの通用しないその老っぷりに一番驚く。狙ってんのかなんなのか、観終わったシチリア街おこしを観させられたみたい気分になるけど、名作には変わりない。

鑑賞日:2021/08/26 監督:フランシス・フォード・コッポラ


「エロ事師たち」より 人類学入門

我が家のマスターピースな一つな野坂昭如長編処女作で長年観たくて仕方なかったやつ。動いているスブやんだけでも感激。『男の哀れ』を補う職業が終いにはクリーンなものに見えてくる。殿山泰司の下りで腹が捩れるほど笑わせておいてからの狂気の坂本スミ子、生きてる=苦しいに辿り着くまでまぁ色んな事があって凄まじい。見事なフナカットの連続にアヴァンギャルドな多くの構図を駆使して人間の生態を実に今村昌平らしい感じで描く。傑作。

鑑賞日:2021/08/24 監督:今村昌平


シン・エヴァンゲリオン劇場版

ようやっと。旧劇やら貞本エヴァ要素をほんわり取り込みつつ、怒涛のQ回収と共に何やら綺麗に終わってる風。エヴァの特性上、仕方ないっちゃ仕方ないけど、説明多すぎてリツコの解説がより火を吹いてる感じ。裏宇宙と云うヤバイところでATフィールドでうろたえるからの、ゲンドウ=シンジの脈々と受け継がれるって反復感から抜け出た先のそれぞれ終局(ネオンジェネシス!)が見えて庵野秀明共々良かったじゃないとは思う。過去作には居なかったマリ=モヨコの存在然り、現実とリンクした時間経過、メンタル変化がもたらしたあれやこれってのが新シリーズとしては大事だったんだろう。加えて式波の内訳等々でまぁ色々とスッキリ。先に見てたプロフェッショナルのせいで「ありがとう、全てのエヴァンゲリオン」のとこで中の人の顔がチラつきまくった悲劇、終劇。

鑑賞日:2021/08/23 監督:庵野秀明


マッドマックス2

肩パッド、ヒャッハーな世紀末具合にチェイスの激しさと痛いの増しとる。続編と言いつつ、設定やら話の筋やらグダグダな気もしなくはないけれど駅馬車レベルな暴走の下りの派手さで万事オッケーな感じ。守るべきものを失い、常時アウトローな雰囲気を醸し出しながらも仁義は果たすって云うメル・ギブソンと集落の連中との距離感もなかなか。

鑑賞日:2021/08/22 監督:ジョージ・ミラー


マッドマックス

ラスト30分前くらいまで観て長年放置の末にようやく。飛び出す目ん玉とあなたに夢中は馬鹿っぽくて良かった。筋はなんか雑よね。無慈悲な選択を迫るラストのピタゴラスイッチみたいなやつとかもっときっちり見せたら良いのに勿体ない気がする。

鑑賞日:2021/08/20 監督:ジョージ・ミラー


哀しみのベラドンナ

凄すぎ凄すぎ。アニメラマ3本それぞれ凄すぎ虫プロ。どサイケ、どプログレの2枚組の超大作を満喫したってな具合。深井国の手がける原画の全シーンがポスター級のクオリティ。で、静止画多めの省エネと思わせてアニメーションの緩急と縦横無尽の展開とで素晴らしい。美しく、グロテスクに描かれたありとあらゆる卑猥さの表現の幅の広さと奥行きの果てしない事。時折毛を生やした屹立した○んこさんこと、仲代達也のやつとか悪夢レベル。お耽美と毒っ気が振り切れてるド傑作。佐藤允彦の脳に刻まれる悶絶なベラドンナの歌と劇伴も最高。ここまでの芸術作品を生み出しても会社が倒産するってのは世の中の方が間違っとると思うわ。

鑑賞日:2021/08/19 監督:山本暎一


ある街角の物語

凄すぎ。今時の写実的なだけのアニメーターは正座して観なきゃいけないレベル。こんなに生気に満ちているポスター群は見た事がない。配色にアングルに細かな動きに絶妙な加減の毒気ととんでもない。引火して舞う下りに鳥肌が立った。

鑑賞日:2021/08/18 監督:山本暎一


我が道を往く

ヒューマニズムの権化の如き存在で有能な上にナイスヴォーカルなビング・クロスビー。ドス黒い感じの悪人は一切出て来ず、ちょい悪程度に影響を与えて行く温めな健全さなんだけどイイ。売れない曲を力技で売ってく所なんかもイイ。火事の話の原因とかほったらかしだけどもなんかイイ。44年当時の海の向こうの文化レベルの違いが何とも言えないけど傑作。見習ってゴーイング・マイ・ウェイしたいと思う。

鑑賞日:2021/08/17 監督:レオ・マッケリー


風たちの午後

一方通行な執着系百合っ子の生態が事細かに描かれる。敢えてらしい、会話をかき消すレベルの延々と続く水道ポタポタから外音までのあらゆるノイズ、終わった後も耳に残るメロウなピアノ曲と音使いは効果絶大。各キャラ設定からの筋がとても綺麗でありつつも、あっちこっちでアヴァンギャルド+生々しい演出な具合。カラーの使い所とあわせて天才的。

鑑賞日:2021/08/15 監督:矢崎仁司


戦争のはらわた

10年振りくらい。旗色が悪い東部戦線で対ソどころじゃない。労働者階級的反ナチにプロセインのユンカーに党員にとでピリピリして超カオス。で、鉄十字章を巡って繰り広げられる上司にしたい男のベストとワーストをやりつつ、サム・ペキンパー的火薬量で敵味方が分からなくなる程に混乱の体。名誉も出世も望まず、怒りの戦場なジェームズ・コバーンが激シブで惚れる。おまけに股がヒュッとなるバタリオン部隊のサービスカットあり。ただでさえキメまくりな完璧シーン多数な上に馬鹿馬鹿しくて笑うしかねぇってラスト、ちょうちょにと出来が良過ぎ。

鑑賞日:2021/08/14 監督:サム・ペキンパー


伝説巨神イデオン 発動篇

開始数分で瞬殺されるキッチ・キッチン、ギジェからのいきなり最終回付近って事でTV版観てない人を完全に置いてけぼりにする富野御大。で、シェリルさんのご乱心が更に酷くなってる。ララァとアムロみたいなやり取りを交えつつ、ラストに向けての凄惨さはガンダムを凌ぐ。最終回まで何かぼんやりしていたイデのなんたるかをよりきっちりしっかり説明しつつ、弾幕量共にどエライ事になってて凄い。話の序盤のみんなして殺気立ってるところからのピースなスターチャイルド帰結でほんわかする。良かった。スペース・ラナウェイ!

鑑賞日:2021/08/13 監督:滝沢敏文


伝説巨神イデオン 接触篇

TV版のダラダラした展開を編集した上にあれこれ手直しして更に分かりにくくなったって感じ。全ては発動篇を観たいが為なんだけど、あまりに雑でちょっとキツい。前半のみんながカリカリしてる様子なんかもバッサリなくなっている。筋自体は面白いし、イデオンの弾幕作画とか最高なんだけど。中の人がミライ・ヤシマと思えないカーシャの無茶苦茶無慈悲振りは劇場版でも健在。予告後のスペース・ラナウェイ!がないと終わった気がしない。

鑑賞日:2021/08/12 監督:滝沢敏文


気狂いピエロ

25年振りくらい。顔面蒼白で哀しき爆死なラストくらいしか記憶になかったけども、改めて観ると画作りに言葉遊びに音編集+画面越しの陽光、海にと凄まじい。アメリカとソ連をディスりつつの月光のシーン、トリコロールを中心とした色彩の海の末に広がる永遠なる海と太陽等々、世にも美しいシーン満載。サミュエル・フラーが最初の方で言ってる事を全部やってる感じ。で、1人で集団ヒステリーなるパワーワード。

鑑賞日:2021/08/11 監督:ジャン=リュック・ゴダール(ハンス・リュカス)


赤ちょうちん

15年ぶりくらい。四畳半な青春から明るい家族計画...とはならず結構デカダンス。OPの外から中への切り替えから始まりバシっと決めてるシーン多数で、それにより劇中の若い二人の不安定さがまた引き立つ。誰が持ってないのかは一目瞭然として、引っ越し先のあれやこれや赤ちゃん取り違え等で色々呪われてる。美少女秋吉久美子ゲットの代償だろ。銭湯行ってる時がピークなのがえらい切ない。生きてる事はただそれだけで哀しいんだねぇ。ゴジ助監に今回気付いた。

鑑賞日:2021/08/10 監督:藤田敏八


雨の朝巴里に死す

第一次世界大戦後が第二次後に置き換えられてる。ナチス後じゃもっと疲弊してそうな気もするし、1920年代に向けてのイケイケっぷりとは別物な気もしなくはない。時勢の中の破天荒さが生む歪みって云うフィッツジェラルドっぽさってよりは完全なるメロドラマな仕上がり。圧倒的美女なエリザベス・テイラー(雨に弱い)を愛でるだけで充分幸せになれるので、全然オッケーなんだけど。

鑑賞日:2021/08/09 監督:リチャード・ブルックス


Wise Blood

久々に原作読んだので。俺は清いから始まって清くないで終わる。キリストがいなければ罪はないと云う超屁理屈で己が真理を追求する不器用なヤツ。南部の大衆の歪な信仰の形に限らず、世の中の潮流、慣習に疑問を持って抗う賢い血を持つ人間を世界はキチガイ呼ばわりしてしまうから辛いわな。握手されないイーノックの導き出した答えも酷いもんで、とにかく絶望的に悲しい人間ばっかり出てくる。いい加減に日本語字幕版出してくれ。ain't連呼でなんだか混乱する。

鑑賞日:2021/08/08 監督:ジョン・ヒューストン


この世界の(さらにいくつもの)片隅に

図らずも今日観てしまった。最初のバージョン以上にエグいシーン満載なのに温くて冷たくてコマいほっこりすずさんのキャラとで匙加減が絶妙なのは変わらず。遊郭リンさん等の下層階級のエピソードが追加されて、ただでさえ良く出来てるのがより立体感を増してる感じ。精神論で押し切ろうとする大本営の様が今と変わらなくてゲンナリするも、愚かな存在があるからこそ真面目な市井の人々の無念や美しさが時としてより映えるのだと思っておこう。長尺でも素晴らしかった。

鑑賞日:2021/08/06 監督:片渕須直



お風呂上がりポロリのところが見たくて久々に。劇中、具体性のない顔呼ばわりの秋吉久美子にして、ファンタジーレベルの話ではあるけれど大好き。一から十まで分かってる数多のエロス描写、ただでさえ可愛い秋吉久美子のポテンシャルを200%くらい引き出すかの様な藤田敏八。で、あらゆる角度から撮られた馬鹿みたいなシーンの数々のクオリティが高過ぎ。伊丹十三然り、この時代の洗練されてる人達ってのは今とは比べもんにならん気がする。

鑑賞日:2021/08/04 監督:藤田敏八


夏の夜は三たび微笑む

久々。デジレが瞬間的に語気を強める『現世で報われたい』って云う台詞と展開の端々でベルイマン的主張を感じる。シェイクスピアに『ゲームの規則』な雰囲気でありつつ綺麗にまとまってる。ワイン飲んでからが夜の始まり。

鑑賞日:2021/08/02 監督:イングマール・ベルイマン


ピーターラビット

筋はともかくとして、モフってるのがヌルヌル動いていればある意味なんでもオッケーな感じがある(自分的に)。一番面白かったのは鹿のヘ〜ッドライトのとこだけど。げっ歯類に分類するのはご法度なのね。ラビット・パイ食べてみたい。

鑑賞日:2021/08/01 監督:ウィル・グラック


志ず江

志ず江

ギンギンに眼が冴えて眠れませんが癖になる。2分にしてかなりの密度。

鑑賞日:2021/08/01 監督:角田貴志