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さよなら、私のロンリー

Films: Sep.2021『さよなら、私のロンリー』ほか

Oct,01 2021 13:30

新作完成まであと少しところでなかなか終わらない9月。すでにひと夏費やしてかなり消耗中。
そんな中、『あなただけ今晩は』、『アパートの鍵貸します』、『噂の二人』ほか微妙にシャーリー・マクレーン祭りな感じでキュートさと演技力を堪能している。ビリー・ワイルダー+ジャック・レモンとの組み合わせが特に良い。
そして岡本喜八『肉弾』、デヴィッド・リンチ『ストレイト・ストーリー』、ガイナックス『王立宇宙軍 オネアミスの翼』と自分の中で不動の傑作群を久々に。
20代の頃に同タイトルのCDを買ってずっと観たかった『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』は謎の波動がビンビン来る。
久々のマイク・リー作品『ヴェラ・ドレイク』も素晴らしかった。Nakedもまた観たいし、ホント良いなマイク・リー。
9月の初めから唐突に再読し始めたスタインベックの『怒りの葡萄』に併せてジョン・フォードの方も毎日少しづつ。原作の素晴らしさをことごとく損なっている気もしなくはない。
で、今月の顔は待ちに待ったミランダ・ジュライ作品『さよなら、私のロンリー』。派手な部分と繊細な部分の匙加減が今作も絶妙。映画も本も毎度のことながら大袈裟じゃない方法で鑑賞者の心をキュッと掴むミランダ・ジュライで流石。
そんなかんなで早いとこ新作終わらせて、10月は一息つきたい今日この頃。

観た映画: 2021年9月
映画本数: 22本

怒りの葡萄

久々に原作読んだので。後半(原作では中盤くらい)の筋の破綻がやっぱり気になる。で、暗闇での親子の別れ、そこからのトムがいなくなった最後の最後が素晴らしいんでしょうに、それをやらなかったのは残念この上ない。ママ・ジョードとケーシーのイメージ通りなのは毎度変わらず。

鑑賞日:2021/09/30 監督:ジョン・フォード


ヴェラ・ドレイク

正義はどこにある。前半のるんらるんら〜♪でお茶淹れまくりなところから、す〜っと表情の変わるだけのターニングポイントの固定シーンが鳥肌もの。世のため人のためと幸福を求める無垢なるつぶらな瞳の演技力、後半の腰抜かしそうなガクブルな怯え演技とこれまた凄い。中絶が違法な時代で労働者階級でこのおばさんの100%人助け+100%お人好しの場合だからこその話ではある。この母ちゃんがどれだけ人に温かさを与えていたかが、ラストの数秒でよく分かる作り。亭主兄弟と婿が良い奴でまた泣ける。素晴らしいな、マイク・リー。

鑑賞日:2021/09/30 監督:マイク・リー


BULLY ブリー

連中の動機から計画、実行に後始末まで全てがホームラン級の馬鹿で何も言えねぇ。ただでさえ子供でまともな思考回路じゃない上にドラッグまみれなティーンたちに考えろって方が無理か。懐かしい感じのオルタナティブ感でマイケル・ピットのヨレヨレな役柄がまた時代を感じる。そんなかんなな'90年代的アメリカン ティーンの生態を淡々と描くラリー・クラーク。久々にKIDS観たいな。

鑑賞日:2021/09/29 監督:ラリー・クラーク


六つの心

孤独。人生、晴れの日もあれば曇りもあるって事で何となく良い雰囲気になると見せかけて、色んな種類の壁が立ち塞がる。上から眺める物件の如く、神の様な慈愛に満ちた視線でそれらの物語を描くアラン・レネ。シーンごとの雪の壁に終いには吹き込むどころじゃない雪にスポットにと、どえらく切ない一本に仕上がっている。で、秀逸なビデオ使い。二重引用符のケツが全部#になってて困惑したけど、良い作品だった。

鑑賞日:2021/09/28 監督:アラン・レネ


ニューヨーク 親切なロシア料理店

ロシア飯を期待してたらボルシチもピローグも出てこない邦題詐欺状態だけど、終わってみれば結構良い話ではある。ゾーイ・カザンとその子供達を迷い込んで来た美形の野良猫で変換するとしっくりくる。ケイレブはほっとけない駄目野良って感じ。親切は※に限るって云う穿った視点のない割と健全な筋で、スッキリさっぱり綺麗に終わって嫌いじゃない。

鑑賞日:2021/09/27 監督:ロネ・シェルフィグ


さよなら、私のロンリー

ミランダおばさんは出て来ずとも、あちこちに出てくるコンテンポラリーダンス気な妙な動きで待ちに待ったミランダ・ジュライの新作観てるって気分になる。シャイニングみたいなピンク泡処理が毒親との絆って云う超哀しいやつ。地響きと闇の子宮から這い出て再び生を受けたオールド・ドリオ(成人)の何もかもが見慣れないって感じが泣けてくる。で、何度も繰り返されるインストでいつ流れるんだって云うミスター・ロンリーと決別の525ドルの神タイミング。実に良く出来てる。

鑑賞日:2021/09/26 監督:ミランダ・ジュライ


王立宇宙軍 オネアミスの翼

久々。ガイナックス的に計基盤なんかの細部のリアルさは勿論としてギリギリの線で似て非なる架空世界(筋自体は人類のソレとして)の鬼設定と鬼作画が改めて凄い。反復する争いの歴史に文字通り風穴を開けるかの如くな飛翔の瞬間に鳥肌が立つ。会話や間の緩急のさじ加減も絶妙。貝塚からロケットと来て次作ではバスターマシンと全盛期感が半端ない。まほろさんと同じ監督と思えん。

鑑賞日:2021/09/25 監督:山賀博之


ストレイト・ストーリー

10年振りくらい。リンチらしさはそこかしこにありまくる。と云うかリンチの懐の深さじゃないとこれは撮れんだろう。冷静に考えるとワイルド・アット・ハートやロスト・ハイウェイに引けを取らないくらいに暴走してるし。で、存在が泣けるキャリーにジャブ的な毛利元就の三本の矢のやつから始まって、瞬間風速な鹿肉挟みつつ泣ける度がどんどん高まる。で、ハリー・ディーン・スタントンとの最小限にして最大限の一幕で目から滝。素晴らしい。

鑑賞日:2021/09/24 監督:デヴィッド・リンチ


アパートの鍵貸します

エレガントな手付きのエレガな全身キュートちゃんことシャーリー・マクレーンからして最高。そしてサラリーマン的哀愁の全てを担ったかの如くなジャック・レモンに泣けてくる。看護夫の下りの複雑な胸中の演技とか凄いよな。失われた週末どころか人間性すら怪しくなったところから不死鳥の如く甦る図とか涙腺が崩壊しそうになる。で、あらゆる小物とあの手この手の筋を巧みに駆使した末のあのカラッとしたラスト。愛があるシーンに愛の言葉など必要ないのだ。全くもって素晴らしい。

鑑賞日:2021/09/23 監督:ビリー・ワイルダー


在りし日の歌

ジャケの飯描写に惹かれて。事故と一人っ子政策の弊害の30年って事で結構なボリューム。割と批判的内容なこの作品にして、時系列グチャグチャなのは当局をかわす為に敢えてなのかどうかは良く分からん。基本的に悪人が出てこないだけにより無力な人民的悲しさがある。で、老けメイク技術が半端ない。アルヴォ・ペルトみたいな劇伴はなかなか良い雰囲気。

鑑賞日:2021/09/21 監督:ワン・シャオシュアイ


肉弾

久々。世にもドラマチックな因数分解と索漠の図。細部に至るまで隙なし完璧。

鑑賞日:2021/09/18 監督:岡本喜八


サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス

同タイトルの愛聴盤からしてずっと観たかったやつ。分かっちゃいたけど別次元の存在で最強最高。発する一言一言がキマりまくりな返しで面接官としては最低だけどサイコーに面白い。序盤の暴風のごとしなピアノから始まり、各種ノイズにリリックにと変な脳汁を誘発するビンビン来る波動も、扉を壊すのもソウルパワー。サン・ラーの認識している世界が見たくてしょーがない。

鑑賞日:2021/09/17 監督:ジョン・コニー


ミッドサマー

タージオ...。グチャグチャの気持ち悪さとコミュニティ的な気持ち悪さで胸糞。先日観たチルドレン・オブ・ザ・コーンと通ずるものがある。オズの魔法使いをやりたかったとの事でふーん。最後に笑った直後に次はお前が生贄にされそう感が半端ないけど、かなりどーでもいいと云う感想しかないな。考察したくなる様な品が欠けてる気もしなくはない。空間歪み系の映像と音はなかなか。

鑑賞日:2021/09/16 監督:アリ・アスター


80日間世界一周

スタンダードからググッと画面が広がるところから出発までは異常にテンションが上がる。大英帝国の勢力圏中心なものの、19世紀にしてスピード重視な夢はある。闘牛あたりから何やらダラっとしたシーンが増えてきて、これならもうちょい短くできたんじゃないかと云う気もしなくはない。で、やたらと金がかかってそうな割にはショボいシーンも多数ってな具合なんだけども、やりたい事は分かるので脳内補完は余裕。シャーリー・マクレーン待ちだったものの、化粧の厚いインド姫のお陰で途中まで確信が持てず。結構色んな人が出てたみたいだけど、シナトラしか分からなかったな。終盤の燃やしまくる辺りからまたテンション上がって旅欲求が高まる。ソール・バスEDクレジットは素敵大好き。

鑑賞日:2021/09/14 監督:マイケル・アンダーソン


そして人生はつづく

見渡す限りの廃墟とほのぼのした連中。ワールドカップは4年に一度だからってのが不謹慎になる国なのかそうでないかって具合。亀裂に始まりジグザグまで実に見事なロングショット。で、なんて事はない坂道で観てるこっちの息をのませるって凄いな。遠くの丘に探しているのが歩いてる→俯瞰で締めって云う絶妙な加減で素晴らしい。

鑑賞日:2021/09/12 監督:アッバス・キアロスタミ


ハリウッドにくちづけ

レイア姫の実話ベースだそうで。むしろ七光りが羨ましい。ぱっと見、同世代に見える母娘って事で、演技の方は流石に実力派な2人で階段のところの口論と立ち位置の画なんかは流石に迫力があった。声量だけで言ったらマドンナにも負けないってのはどーかと思うけど。『崖っぷちからのはがき』がこの邦題で意味分かんない。ツイン・ピークスのハリーが出てた。

鑑賞日:2021/09/11 監督:マイク・ニコルズ


天使のたまご

全然話が分かんないんだけど、天野喜孝画に鬼背景にと何やら凄い。水描写に至ってはタルコフスキーのソレをアニメーションでやったレベルなどえらいクオリティ。ノアの方舟的な話と処女喪失的なメタファーまみれ、謎のルドンみたいなやつ等々で途中から考えるのをやめて、ユラユラと映像美の海を堪能していた。保田道世色彩が地味に効いてる感じ。その内にまた観たい。

鑑賞日:2021/09/10 監督:押井守


チルドレン・オブ・ザ・コーン

邪悪なとうもり子達って事で2日続けてタチの悪いガキのやつになっちゃった。邪教が異教徒を追いかけるって云う色んな意味で救いがない展開。どこから連れてきたんだって云う揃いも揃って気味の子供達で前半はなかなか雰囲気出てたんだけど、後半のやる気ないVFXでズッコケる。序盤の指スライサーのやつがクライマックスだった。行けども行けどもとうもろこし畑で気が狂いそうって云うアメリカ中西部の農民の鬱憤みたいなのを話にしちゃった感のスティーブン・キング。同年サラ・コナーとは思えないほどに女子っぽいリンダ・ハミルトンは中途半端だったな。

鑑賞日:2021/09/09 監督:フリッツ・カーシュ


噂の二人

嘘に翻弄される大人も酷いもんだけど、ダミアンよりタチの悪いガキがいたもんだ。現在ならなんて事なさそうだけど、保守的な時代と場所とで憂き目に合うお二方。溜めて溜めてからの心情を激しく吐露するシャーリー・マクレーンの演技力に食われてると思いきや、百合対象たるオーラをきっちり醸し出すオードリー・ヘプバーンもやっぱり流石。流言の婆さん対してのゴミを見る様な冷ややかな目つきに村八分にした連中に対してのキッとした態度と素晴らしい。可愛らしいと綺麗の二人共がそれぞれに魅力を発揮していたのは良いとして、わざとなのかなんなのかコマ飛びが激しかったのが少々残念。"THE LOUDEST WHISPER"って原題もあるみたいだけど、こっちの方がしっくりくる。

鑑賞日:2021/09/08 監督:ウィリアム・ワイラー


あなただけ今晩は

セットの娼婦街で展開される、映画的にはとっても面白いんだけど無駄過ぎる永久機関。X卿ネタをイルマにバラすバラさないを含めて、観てる方が望む展開の斜め上を行きつつ馬鹿みたいなミラクルでまとめてくる。と同時に虚構に次ぐ虚構で嘘が真になる余談なラストの匙加減のピリッと感がなんとも天才的。ジャック・レモンのボケ演技の上手さは勿論として、かわいいイルマこと、どこまでも緑ちゃんなシャーリー・マクレーンが可愛い過ぎて辛い。シャンパン漬けイッヌと余談尽くしなバーテン親父のちゃんぽん具合も最高。

鑑賞日:2021/09/07 監督:ビリー・ワイルダー


危険な戯れ

フィリップ・ノワレ父のスケベ心を突いてくる悪い娘とトランティニャン。どう見ても桟敷席の扉を開ければ、おっぱいと陰毛だらけな目眩くド変態世界が展開される映像マジック。狂言云々ってよりも、館で展開されるあれやこれをやりたかった感が伝わってくる。テープ、サンプリングっぽい音表現もとても良い。合わせ鏡の風呂シーン素晴らしい。

鑑賞日:2021/09/04 監督:アラン・ロブ=グリエ


花嫁の父

消費主義過ぎて耐えがたい。他所ん家の披露宴とか最大級に興味ないながら、バタバタしてるのをはたから眺める分には面白い。圧倒的な美花嫁なエリザベス・テイラーと父のキャスティングのところはばっちりハマってる印象。ノリノリ無茶ぶりなリズと母親に対してスペンサー・トレイシーのあたふたする様を楽しむって事ではあるけど、似た設定な『招かれざる客』の方が数倍面白い気もしなくはない(問題の質が全然違うけど)。シュルレアリスムばりな悪夢のシーンは良かった。

鑑賞日:2021/09/01 監督:ヴィンセント・ミネリ