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荒野に生きる

Films: Nov.2021『荒野に生きる』ほか

Dec,03 2021 12:00

11月にリリースの新作『Cycle EP』の諸々の後始末に収録曲のピアノバージョン『Lie (Piano)』とになかなか暇モードになれずに今に至る。
先月にくらいにカフカの『審判』を20年振りくらいに読んだのに併せてオーソン・ウェルズ版の『審判』も久々に。デカいは正義みたいなのと閉鎖空間とで圧倒的映像美。結構大胆に脚色しつつも説得力がある仕上がりで、やっぱり傑作。
これも再鑑賞もので『バベットの晩餐会』、これもまた文句なしに傑作。
去年あたりからリチャード・リンクレイター監督の良さに気付いて、11月は『6才のボクが、大人になるまで。』と『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』の2本。
公開時に観に行けずようやくな『シドニアの騎士 あいつむぐほし』は原作と微妙に異なる雰囲気ながら安定のクオリティ。
先人達の偉業に只々圧倒されっぱなしな『ようこそ映画音響の世界へ』。音楽やら映像なんかが誰でも手軽に作れる様になった時代だからこそ、一度立ち止まってしっかり考えねばって気にさせる。
で、11月の顔はリチャード・C・サラフィアン監督作品『荒野に生きる』で決定。冒頭の熊に荒野をズンズン進む船に瞬間的にハートをギュッと掴まれる。船頭ジョン・ヒューストンも良かった。
なんだかんだで未だ色々やる事が残っているものの、12月はもうちょい映画観たい。

観た映画: 2021年11月
映画本数: 17本

ゴダールの探偵

別れの曲とおっぱいパンチと腹出てるレオーしか残らん。定点のカメラやら絶妙な反射撮影なんかは流石にうまいけれど、脳が疲れてる時に観るもんじゃなかった。

鑑賞日:2021/11/30 監督:ジャン=リュック・ゴダール(ハンス・リュカス)


ようこそ映画音響の世界へ

見入ると云うか聴き入る。先人達が偉大過ぎて、正座かつちゃんと5.1chで観るべきだった。'70年代中盤から'00年代の自分と同時代のところの変貌っぷりがかなり楽しい。今じゃ一つのキーで出来るポン出しSEも、長い年月に渡る先人の苦労の上に成り立っていると思うと何だか胸熱。更にはピエール・シェフェールやらジョン・ケージ等々よミュージック・コンクレート界隈の重鎮達の底なしな偉大さがまた身に沁みる。

鑑賞日:2021/11/26 監督:ミッジ・コスティン


シドニアの騎士 あいつむぐほし

弐瓶漫画に出て来る数々の固有名詞を久々に耳にした気がする。それだけに微妙に現実世界と離れた弐瓶設定が如何に独特かってのを改めて感じる。で、ポリゴン・ピクチュアズの気合い入ってる映像とドゥンって云うSEは相変わらず出来が良いんだけど、長道だけキャラデザが変わってる風なのが何か気持ち悪い。原作の最後こんなだったっけってな具合で筋やキャラが微妙に変わってる感じもしなくはないけど、弐瓶勉監修って事で大筋は綺麗にまとまってる印象。あと大人の事情か主題歌は下ろされたものの、良いところで『ウチクダケー!』って始まって超テンション上がる。劇場版の尺のせいか女体化してるんだかしてないんだかの描写のないイザナは全体的に影が薄くて残念。んで、星白でもつむぎでもなく、エナ星白が至高ってのが今回ハッキリした。

鑑賞日:2021/11/25 監督:吉平tady直弘


にっぽん泥棒物語

強烈な東北弁によりヒヤリング能力の限界を超えて眠気を誘いまくる前半から、緊張感と冴えてる台詞オンパレードな法廷劇の後半とで別の映画観てるようだったな。泥棒稼業から仮の真人間、そこからの真人間へと要所のエピソードできっちり空気が変わっていて上手い。中でも上野駅での無実の被告人子供と己の境遇を重ね合わせつつなやり取りからのスイッチングとかかなり泣ける。極め付けは泥棒に『嘘は泥棒の始まり』と言わせて、傍聴人から鑑賞者まで笑いを取るから見事。三國連太郎は勿論の事、出て来るだけで独壇場ってな具合な伊藤雄之助と市原悦子は流石だな。そのほか色々出てくるけど、千葉真一が薄まった感じのヤング千葉真一が結構衝撃。終わってみれば実に良く出来た映画だった。

鑑賞日:2021/11/23 監督:山本薩夫


グッバイ・ラバー

ほぼほぼ『ロスト・ハイウェイ』期の色気全開な頃のミディアム姐さん。やたらとお洒落番長な風でもある。帰納法な具合で誰に勝たせるかって所から始り、ちょっと古いけど上手い事練ってある脚本。'90年代はこの手の馬鹿っぽいどんでん返し系が多かった気がするな。『サウンド・オブ・ミュージックを聴く女は信用できない』ほか女刑事の嫉妬レベルな数々の冴えた名言集もなかなか。で、冴えない役柄なヴィンセント・ギャロ。

鑑賞日:2021/11/21 監督:ローランド・ジョフィ


サンダーボルト

似合ってない牧師姿のクリント・イーストウッドからで結構最初の掴みはしっかりしている。バディ+2人でなかなか膨らんではいるものの、テンション高めにやり合ってるジェフ・ブリッジスとジョージ・ケネディのせいでちょっと影が薄くなってるサンダーボルト。金庫破りでブチかますものの、そんな派手でもない。ポエムと祈りの台詞回しの匙加減と、いかにもアメリカン・ニューシネマっぽい終わりで、まぁ言ってみれば全然嫌いじゃない。

鑑賞日:2021/11/20 監督:マイケル・チミノ


ボーダー 二つの世界

ムーミンを実写にするとこんな具合なのかぁ。特殊ブサメイクも段々と慣れてくる人間の適応力も結構なモンだな...逆に。ぼかしは不要。

鑑賞日:2021/11/19 監督:アリ・アッバシ


マイケル・コリンズ

ややこしいアイルランド近代史のさわりの部分ってな具合。劇中リーアム・ニーソンが『始まりかもしれん』で言ってる通り泥沼から泥沼紛争の未来が待っている。混乱必至な北アイルランド問題と戦前戦後のIRAの推移とで極東から遠いこの国の歴史はマジ分からん。この内ゲバ&過激派な意志が綿々と血の日曜日事件に繋がって行くのかと何となく理解。時代の混乱よろしく映画自体が何となく混乱している印象だけど、スティーヴン・レイが出てくるだけでニール・ジョーダン作品観てるって気分にはなる。

鑑賞日:2021/11/17 監督:ニール・ジョーダン


バベットの晩餐会

久々。神父の言葉を引用下『あの世に持っていけるのは人に与えたものだけだ』の一言に尽きる。色んな所で表現される持たざる者、与える者の強さと、何も持ってなかった久々へのちょっとした幸福のお裾分けとが絶妙な具合で共存する。実に豊かな作品。

鑑賞日:2021/11/15 監督:ガブリエル・アクセル


荒野にて

人の世は荒野の如し。少年にとって最悪な時期ながら、後は盛り返す感じでちょっとホッとする。ピートを助ける風でいて、かなりLean on Peteしてると云う。結構色んな事が起きて予測の付かない忙しい展開ながら、強調されてるのは少年の息遣いとピートへの語りかけと息を殺す様な静寂に満たされている印象。スタインベックに影響を受けてるって事で、巨匠作品の多くに共通する、過酷さの中にある一縷の希望って辺りをきっちりしっかり押さえていると思われる。実に良かった。にしても、老けたねーブシェミ&クロエ。あぁ、チキンフライドステーキ。

鑑賞日:2021/11/14 監督:アンドリュー・ヘイ


6才のボクが、大人になるまで。

終わってみると『北の国から』の感情移入と同じ現象な具合。子供目線にもなるし、親目線、或いは鑑賞者側目線にもなる。'00年代初頭からの12年間のアメリカンな生態系記録って事で、「一瞬は私たちを逃さない」、「一瞬は常に今ある時間」の積み重ねの、主要なヤツが死んだらどうすんだってのを無事に撮り終えたのはホントに良かったねとなる。『エブリバディ・ウォンツ・サム』と完全に観る順番間違えたな。自分よりちょっと上くらいのミディアム姐さんと絶対的キャラなイーサン・ホークが若さを失って行く様とApple製品の移り変わりを見て何とも言えない気持ちになる。で、中学生くらいでカート・ヴォネガットを読む青春を過ごしたかったな。原題の良さを損なってる邦題はともかくとして、リチャード・リンクレイターの根性に星5つ。

鑑賞日:2021/11/12 監督:リチャード・リンクレイター


アパッチ砦

功を焦りまくるヘンリー・フォンダが敵味方の全方向から融通の利かないヤローだなって思われててウケる。古今東西、軍隊の特に美意識的な面において基礎を形成するのは、勝利ってよりは無謀な勇敢さ及び根性論って事で盛り返してるのか盛り返してないんだか良く分かんないヘンリー・フォンダ。それだけにいつだってクールなジョン・ウェインがよりカッコイイ。ダイナミックな騎馬戦に砂塵に埋もれる絵面なんかで流石なジョン・フォードなんだけど、筋書きは少々物足りない気もしなくはない。時折、背景写真なモニュメント・バレーは圧巻。

鑑賞日:2021/11/10 監督:ジョン・フォード


アンジェラの灰

フィッシュ&チップスの飯テロ映画。『一番惨めなのはアイルランドの、それもカトリックの子供たちだ』って事でかなり酷い事になってる。移民先のアメリカでも貧乏、アイルランドへ帰っても貧乏子沢山の上に湿気まみれで目も当てられないどん底っぷり。IRAに参加したので北アイルランドの故郷へ帰れない惨めな父親から既に惨めが始まってるかなり残念な話。貧乏人を形成する環境と習慣とで生まれる負のスパイラルの結果な超不衛生&極貧生活が実に良く描かれている。入ったらすぐ飲む駄目親父なのに憎めないってタイプの難しい役柄をこなすロバート・カーライルは流石だねぇ。いきなりファンタジックな月食のシーンはアラン・パーカーっぽいと言っちゃ、ぽい。

鑑賞日:2021/11/08 監督:アラン・パーカー


審判

原作読んだので久々に。『掟の問』を踏まえた悪夢、不条理感は概ね同じなものの、大胆な脚色をしつつ、それでいてきっちりまとめてくる辺りが改めて凄い。それよりも近未来、古風問わずやたらに巨大で圧倒的な建造物と空間に息も詰まりそうな閉鎖空間と、更にはやたらと絵になる画面構成とでやっぱりクオリティ高過ぎ。ロミー・シュナイダーのレーニ可愛い。

鑑賞日:2021/11/07 監督:オーソン・ウェルズ


エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に

超自堕落と根拠のない自信って云う、黄金の青春時代。新学期までの3日間を全力で無意味(青春真っ只中的には意味がある)なものに費やす事ができるってのは、今にしてみりゃ贅沢よね。若さ故の無敵感を携えて"FRONTIERS ARE WHERE YOU FIND THEM"で寝落ちすると云う秀逸な締め。社会は厳しいぞぉってのは夢の中の話だったよな確かに。ピンク・フロイド流して一人サイケな彼、若さと青春時代への執着な抜けられない感も痛い程分かり過ぎて辛い。で、野犬の奴のヤバさ。ヴァン・ヘイレンの泥レスが上がる。

鑑賞日:2021/11/06 監督:リチャード・リンクレイター


荒野に生きる

冒頭のど迫力熊で過酷極まる。で、荒野をズンズン進む船!、と劇伴の緩急とで完全に心を掴まれた。神を信じる事が出来ず、妻の残した息子を愛せず、父親の様な男に捨てられるってどん底ステータスから始まる。とりあえず死なないって所から、先住民出産を挟んで復讐を超えた所に着地でちょっと震える。リチャード・ハリスとジョン・ヒューストンの短い対峙のシーンで目や動作で実に多くの事が語られる。ジョン・ヒューストン曰くところの俺の象徴をも曲げさせる、本当に大事なモンは違うんだよとあんな形で表現されたらまぁ折れるよね。レヴェナントと原作者一緒って事でこれまた納得。

鑑賞日:2021/11/03 監督:リチャード・C・サラフィアン


エルミタージュ幻想

ロマノフ王朝栄華を誇ったわーって具合で、確かに権勢っぷりがとんでもなかったんだろうってのは感じる。ワンショット売りながら、部屋やドア、階段なんかと時代できっちり区切られているので、場面転換ある感じて観られる。下準備がどれほど大変だったかは容易に想像がつく。舞踏会の大団円からの祭りの後感→海がちょー寒いロシア。エルミタージュの猫と孔雀のアレは出てこない。

鑑賞日:2021/11/01 監督:アレクサンドル・ソクーロフ