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エル プラネタ

Films: Apr.2022『エル プラネタ』ほか

May,01 2022 12:30

4月リリースの新作『Dream Away / There is Still Time』の制作も終わり、ほとんど脱力状態だった4月は26本と若干本数少なめ。
今年に入ってからなるべく再鑑賞ものを増やす事を意識しており、先月は特に多い月となった。
15年前くらいに我が家で大ブームだったミヒャエル・ハネケ『ファニーゲーム』をはじめとして、ジョン・カサヴェテス『こわれゆく女』、ペドロ・アルモドバル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』、ウディ・アレン『カイロの紫のバラ』と大好き監督ものが多い。
ニコラス・ウィンディング・レフンの『プッシャー』シリーズの4月中旬辺り突然の再鑑賞。気を抜いて観られつつもクオリティが高いのを求めてのこのチョイス。よっぽど疲れていたと見える。
今村昌平『復讐するは我にあり』に月初めの新藤兼人『午後の遺言状』も勿論素晴らしい。
1年1冊ドストエフスキーの習慣で今年は久々の『白痴(新潮文庫)』って事で、2007年以来の鑑賞の黒澤明版『白痴』。勿論の事ながら傑作。
更には岡本喜八の『暗黒街の顔役』、『暗黒街の対決』、『暗黒街の弾痕』の暗黒街シリーズ(顔役暁に死すはまた今度)も15年ぶりくらいに。『大学の山賊たち』に至っては20年くらい前に浅草東宝のオールナイトでフィルム状態劣悪の真っ赤なやつ観て以来で、今回初めて鮮やかな色彩で観る事ができて感激。いずれにせよ岡本喜八の作品はそのテンポも然りで非常に音楽的で自分の中では変わらず別格なのを再々認識する。
こうしてみると上記にとどまらず再鑑賞ばっかりな4月の中で初鑑賞は『ユー・ガット・メール』の元ネタでもあるエルンスト・ルビッチ『街角 桃色の店』、『ミッドナイト・イン・パリ』の元ネタっぽいルネ・クレール『夜ごとの美女』、引き続きなケリー・ライカート『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』(邦題酷い)にPTAことポール・トーマス・アンダーソンのデビュー作『ハードエイト』といずれも傑作揃い。
そんな中で異彩を放っていたのは、まさに新進気鋭って表現がふさわしいアマリア・ウルマン(可愛い)の『エル プラネタ』。ハル・ハートリーやミランダ・ジュライの名前がクレジットにあるのも納得な出来で問答無用に好きなやつだったと云う事で4月の顔となった。
そんなかんなで次作の作業とアルバム構想、過去の実験音楽作品リリース等々と何から手をつけて良いか分からない上に、疲れやダメージを最近露骨に感じる今日この頃。
沢山映画を見続けられるように、体調管理をしっかりしなきゃと思っている。

観た映画: 2022年4月
映画本数: 25本

エル プラネタ

エル プラネタ

映えの裏側って事で結構どん底。この手の人々の不可解な生態系を描かれるものは多いけれども、映えを敢えての白黒に、そして目が醒める様なタイトルバックのテキスト(字幕も黄色)やら貧乏シチュエーションの工夫とその切取り方などとっても良い感じ。観終わってこれは大好きだわと思いきや、クレジットにハル・ハートリーやミランダ・ジュライの名前がある辺りで納得。ネコグッズを散々出しつつ、"LOVE PENGUIN"と交互で泣きだすシーンの爆発的に笑いを誘う辺りとか秀逸で、全体としても才能の塊みたいな出来。で、監督本人が主演って事で待ち合わせであんな可愛い子ちゃんが待ってたら大変。これは満点上げちゃう。

鑑賞日:2022/04/29 監督:アマリア・ウルマン


神経衰弱ぎりぎりの女たち

物件からファッションまで鮮やかな色彩の上級お洒落で毎度なアルモドバル。文明の利器な筈の電話を徹底的に使えないモノとして描く上にめちゃくちゃな扱いで笑える。ガスパチョに睡眠薬入るとこから、使われるとこまでがもう秀逸過ぎる。男ってのはしょーもない生き物だわなって中で、目薬を用意するマンボタクシーの心意気にグッと来る。

鑑賞日:2022/04/27 監督:ペドロ・アルモドバル


配達されない三通の手紙

小川真由美が目当てなものの、殆ど出て来ず(役柄としては良いポジションだけど)。新藤兼人脚本でそれなりには面白いものの、乙羽信子と共になんかこうポテンシャルを活かしきれてない気がしなくもない。今にしてみるとオーソドックスな火サス感、富豪風お屋敷ロケは嫌いじゃないけど。で、79年あたりの竹下景子全盛期感とアバズレ役が上手い松坂慶子。ちょい役蟹江敬三は生涯に何本お巡り役やったのかってくらい。まずまず。

鑑賞日:2022/04/26 監督:野村芳太郎


こわれゆく女

愛がほとばしる。前半のぶっ壊れ→後半のおどおどなジーナ・ローランズ、人の事とやかく言えないくらいに欠点がありつつも愛に溢れるピーター・フォークとで両者演技が上手過ぎ。で、こっちまで気まずくなってくる4D演出をかます天才的なジョン・カサヴェテス。かなり特殊な寝室の場所なんかも、変わった方がやりそうな感じで結構なリアリティだわな。殆ど問題は解決されず、これからも綱渡りの様に過ぎて行くであろう日常。しかしそこに愛が確認できる、それが十分に観てる方にもグイグイ伝わってくるからこの上なく素晴らしい。

鑑賞日:2018/02/18 監督:ジョン・カサヴェテス


暗黒街の弾痕

久々。前作より更に精度が増してる岡本喜八。OPからキレっキレなテンポで73分がまぁ早い。同じ棒でも華がある加山雄三に変わり、佐藤允、三橋達也を筆頭に役者もみんな上手いので飽きる暇もない。産業スパイ云々のガチャガチャした筋はともかく、顔が浮かび上がる『誰も〜知らな〜い』やら数々の視覚要素で補って余る感じ。鯨捕りの回収も鮮やか過ぎて最高。各お洒落セットも大変良い。よくよく考えてみると、お手柄は全部ミッキー・カーチスっぽいけど、それもイイ。ラストのエア野球はとっても良いエンディング。謹賀新年。

鑑賞日:2022/04/24 監督:岡本喜八


復讐するは我にあり

小川眞由美が観たくて15年振りくらい。だにだに喋る静岡弁との相乗効果でクソがつくほどに可愛い。怨恨とは程遠いターゲット違いの殺人を犯す緒形拳、敬虔さと邪心まみれな胸中で『狡か男』な人間臭さを見せる三國連太郎(倍賞美津子をワシっと揉みしだく)と、悪への復讐は神ではなく俺がやるってくらいに互いの血を徹底的に憎みながらも各々属性でそこまで行けないと云う。そんなグツグツした怒りを孕む2人の発散する術のないやり合いがまぁ迫力がある。憎む相手とは関係ない所で話が進む感じは確かに『冷血』っぽさを感じる。そんなこんなで今平監督っぽいドキュメンタリータッチで進行しつつ、名のある役者が次々と出てくるけど、危うさの中でバチバチする清川虹子と緒形拳がやはり一番印象的。特に包丁を抑えるシーンとかすんごい。箪笥にゴンならぬ箪笥に加藤嘉(死体)も良い演技。まぁ、何が思い出に残るって結局は小川眞由美の濡れ場と可愛さに戻ってくるんだけど。傑作。

鑑賞日:2022/04/23 監督:今村昌平


夜ごとの美女

モーター音にブリキにドリルにと結構なノイズ&インダストリアル映画。『ミッドナイト・イン・パリ』の元ネタかってくらいに懐古主義、夢想が捗りまくりながら、ちょっとしたネタ満載なフランス史をなぞる作り。騒音に悩む感じとメラトニン飲んだ時みたいな悪夢感が分かりすぎて辛い。シュールな喜劇の体でノイズオペラに逆走馬に駆け抜ける時空とで盛りだくさんってな具合で楽しい。で、持つべきものは周りにいる良いオッサンたち。

鑑賞日:2022/04/21 監督:ルネ・クレール


暗黒街の対決

顔役に続いて久々。前作〜オープニング〜ラストが繋がってる風。高速ビンタのジャブから始まり精度マシマシな怒涛の喜八カッティングが何より目立ってる。あっちこっちで言われてる『用心棒』っぽさ(こっちが先)な今作、どっちも良いのは間違いないので甲乙はつけらんない。いずれにせよ、三船敏郎が主役にいると作品がグッと安定感が出る感じ。で、きっちり借りを返すウェスタン風でちょっぴり舌っ足らずな鶴田浩二。そんな男の友情がムンムンな今作ではあるけれど、用心棒天本英世ほかのオンステージとミッキー・カーチスのカーッが一番好きかもしれん。平田昭彦のズザーも結構好き。「欲で繋がった鎖はすぐ切れるんだゼ」って格好良い台詞よね。

鑑賞日:2022/04/20 監督:岡本喜八


ファニーゲーム

記録によると15年振りくらい。画面の中のゲームですからって事で、虚構を現実(イコールでもある)に再現すると云う超有難迷惑な作品を生み出したハネケ。胃痛必至な彼の作品群の中でも特に酷い。冴えわたるOPからリモコンまで神視点、神的理不尽さで、この救いのなさはもう無神論も捗る捗る。で、映画史上最も絶望的で強烈な長回しでの迫真の演技は拍手もの。そんな被害者とは裏腹に画面の中の奴に向かってこっち見んな、話かけんなって思うのはそうそうない程に凶悪。その昔、このDVDの特典か何かで、見るからに温厚そうで慈愛に満ちたハネケに衝撃を受け、人の頭ん中って凄まじいなと思った記憶がある。

鑑賞日:2022/04/19 監督:ミヒャエル・ハネケ


ハードエイト

長編デビュー作にして短いPTA。『ブギー・ナイツ』以降の長いのに比べるとすんなり終わる。他の作品にも共通した師弟的な絆のテーマは既に完成形な感じで、先の読みにくい展開も上手い事出来てる。若くして追求した渋メン像が若者の想像の域って感じで、最近のPTA作品で自身が獲得した落ち着きとはまた異なるも、OPの撮影から最後までビシッと決まってるのは言うまでもない。血で汚れた体を隠し続けからのラストの袖演出が巨匠の予感すらある。

鑑賞日:2022/04/18 監督:ポール・トーマス・アンダーソン


大学の山賊たち

大学の山賊たち

20年くらい前に浅草東宝のオールナイトで観て以来ようやっと。フィルム状態劣悪の真っ赤なやつだったので、しっかりくっきり鮮やかな色彩で感激。『近頃なぜか〜』にも受け継がれていそうなOPの終から始まり、映像に加えて音声のカット割、股構図にあだ名、幽霊演出にと冴えまくりキレまくりな全開喜八節。華やかな東宝スターによる青春群像にホラーにコメディにサスペンスとごった煮状態のまさに娯楽作品な具合で、飽きる暇なく最後までテンポ良く進む。そんな中で一際異彩を放つ越路吹雪が最高過ぎる。ミッキー・カーチスも結構目立つ役柄。で、佐藤允の毛髪量。映画はこう云うのがイイ。バッキャロー!『終』

鑑賞日:2022/04/17 監督:岡本喜八


街角 桃色の店

桃色だろうが、ピンクだろうが大人のおもちゃ屋みたいな邦題はともかくとして、実に素敵ラブコメ映画。最初に全員キャラをドバッと出してからは怒涛の会話劇で、水の流れの如くに滑らかで軽快。私書箱→Eメール→と次は何になるやらではあるけれど、すれ違いネタ古典にして設定次第でいくらでもいける優秀脚本。不況下の売り子ポジションの問題の絡みとでホント良く出来てる。ジェームズ・スチュワートの長身を活かしたカフェの下りやO脚なんかのあれやこれに加えて、あの困り顔とクリスマスどん底系の適任者はなかなかおらんな。脳内乙女過ぎなマーガレット・サラヴァンも可愛らしい。

鑑賞日:2022/04/16 監督:エルンスト・ルビッチ


ザ・ビートルズ&インディア

一曲もビートルズの曲を使わずに一本作り上げた辺りにインド的な商魂のたくましさを感じる。今日ヤバイ奴に会ったクラスじゃないマジもんなカースト上位な回顧録ってな具合。マハリシに偉大なるラヴィ・シャンカールらのスーパーVIP待遇から何やら黒々としたものが飛び交い、LSDに果てはCIAからKGBまで出てくるビートルズの歴史的事件なインド訪問を詳しくやってて楽しい。インド愛的な内容でジョージにスポット当たりがちなものの、メンバー他同伴セレブ連中の生態系もきちんと描かれている。これらが及ぼすした植民地問題の絡むビフォアアフターでの文化貢献ってものを考えると、よその国でも適応出来そうな平和的で結構正しい姿な気はする。兎にも角にも、いつもより5分くらいマシマシでメディテーションする気にはなる。しかしかわええな、ジェーン・アッシャー。

鑑賞日:2022/04/15 監督:アジョイ・ボズ


カイロの紫のバラ

虚像は現実に、現実は虚像に憧れるって事で、ファンタジーを通り越してかなりドラッギーな仕上がり。不況の時代をベースに現実世界の汚いのをどんどこ入れてきつつ、綺麗にまとめて、また現実逃避気味なラスト。演技か素か、ミア・ファローのトロッとした最後の表情がすこぶる良い。で、終わってみると一縷の希望を求める30年代の話ではなく、まぎれもなく70年代から続くウディ・アレン 的なシニカルさに満たされている。ミア・ファロー期で本人出てないやつで神ネタ等々とかも緩い気がするけど、随分昔に観た時より良かった。

鑑賞日:2022/04/14 監督:ウディ・アレン


鴎よ、きらめく海を見たか めぐり逢い

鴎よ、きらめく海を見たか めぐり逢い

高橋洋子が見たくて15年振りくらい。ピアノで悲愴始まると見せかけて、パヤ〜で度肝を抜かれる。ゴーギャンを肴にユートピアなレシポルコの空想でキャッキャと楽しそうな2人。で、それとは裏腹に映し出される曇天気味な東京湾と小道具な鴎の具合はなかなか。京成の駅やらあちこちの波止場なんかは見覚えがあるものの、クレジットにある谷津遊園はやっぱり出てない気がする。他の作品では暗いもんを背負ってても突き抜ける天然系を堅守する高橋洋子なんだけど、それを凌ぐウザ過ぎな田中健って事で高橋洋子のポテンシャルを活かしてるんだか何だか分からん作品に仕上がっている。更に分かんないのが盲役のショーケンで何に出てきたのか謎。まぁしかし、貧富に都会に田舎の苦悩をベースに上手い事描いているかと思われる。ほとばしる昭和な青春とATG感で結局嫌いじゃない。

鑑賞日:2022/04/13 監督:吉田憲二


プッシャー3

1作目から10年くらい。フラストレーションの積み上げ方が芸術的なまでに精度が上がってて、成長を見せつけるレフン。ゴゴゴゴと背景に見えてくる様。料理からビニールまで1作目から踏襲された設定をきっちり活かしつつ、描かれる落ち目のボス像な皆勤賞ミロで、まともな生活になかなか届かないどころか裏目に出まくるってのは2作目に通ずるものがある。で、虚脱と色んなもんが混じった何とも言えないラストのサンデーモーニング感。解体作業の臓物の下りは、ちゃんとディスポーザー映してんのね。天才的。

鑑賞日:2022/04/12 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン


プッシャー2

脳みそがトロけてる演技は今にして思うとマッツの最高傑作なんじゃないかと。デカデカと彫られたRESPECTに、誰も尊敬してくれないって云う超哀しい話。まともさを要求する父親や子供の母親や周りの言う事とやってる事の違い、自己中心的な者たちに自己中心となじられ、いじられるマッツとで筋に磨きがかかっとる。それと併せて元々持ち合わせている音楽の使い方なんかのセンスの良さが8年で飛躍的にアップしてるレフン。最高。

鑑賞日:2022/04/11 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン


麻薬密売人 プッシャー

行き当たりばったりで、ケツについた火が燃えまくるって云う映画的面白さを既に獲得してるレフン。映像と音の緩急の具合も絶妙で、ダッシュやらラストのボー然としたシーンとか芸風を確立してる感がある。各種の過剰に痛いや、ビニール準備で続きを匂わす演出なんかの控えめ加減は実に上手い。レフン作品初期の荒さの中に見える丁寧さとキレの塩梅は結構癖になるな。で、顔に小便かけると誇らしげに語る、存在そのものがRESPECT出来ないクズなマッツ(デビュー)の出落ち感も最高。

鑑賞日:2022/04/10 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン


白痴

1年1冊ドストエフスキーの習慣で今年は久々の『白痴』読了って事で、2007年以来の鑑賞。森雅之の私生活の武勇伝を知ってしまった今となっちゃ、『無条件に美しい』ムイシュキン像を演ずる姿にちょっと困惑。松竹と揉めた末の幻の4時間半バージョンから大幅に削られた今作。原作からガッツリ省いた上で再構築し、上手い事日本に変換し、薄めるところは薄める。それでもしっかり白痴とはなんぞやのテーマを描き切り、説得力のあるものに仕上げてくるって云う恐るべき黒澤明。バチっと決まった人物の構図とかもう半端ない。そして原作読み返しながら、ナスターシャ・フィリポヴナの台詞回しが原節子で再生されるってのは、これは凄い事よね。で、あのヤバイ顔芸。ロゴージン三船の常にメラメラ燃える感じにアグラーヤ久我のキッとした演技も流石。レーベジェフ左卜全は何言ってるか分からん。おしゃ家な蔵なんかもとても良かったけど、ホルバインのキリスト絵をしれっと飾ってくれてたら尚良かった。いずれにせよ傑作。
白痴
https://otom.jp/narageki_014_-idiot/

鑑賞日:2022/04/09 監督:黒澤明


悲しみよさようなら

まだいしだあゆみ化してないぷにぷにしたウィノナ・ライダー。黒に段々とピンクが増えてるあたりがまぁ可愛らしい。板についてる情緒不安定っぷりから少しずつ変化して行く様が上手過ぎて、まさに実力派って感じ。お友達はアニマル達だけからの始まって、泣けるラストまで良く出来ていると思われる。大人目線だと少女の「人は望むものだ」の対象が正常になってホッとする。老婆の『ワイルドでいこう』と『マイ・ウェイ』に気が狂いそうになった。

鑑賞日:2022/04/07 監督:ジム・エイブラハムズ


暗黒街の顔役

15年振りくらい。岡本喜八的テンポ良いカット割りに股アングル等々に加えて、佐藤允、天本英世ほかおいしい所持ってく常連を中心とした役者がみんなとっても滑らかで、鶴田浩二っぽい鶴田浩二(敢えて大根とは言わない)が炙り出される感じ。最後に熱く叫ぶ三船敏郎がそこにいるからこそ作品が締まるってポジションも絶妙。まさにノワールって感じに仕上がっているんだけど、キラールの出エジプト記みたいな伊福部昭大先生の重厚なテーマもまた一役買っている。で、草笛光子のイイ女っぷりがたまらん。

鑑賞日:2022/04/06 監督:岡本喜八


ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画

低予算の鑑みたいな映画だな。劇中ずっと不安と動揺の波がぐわんぐわんしている、それこそ『罪と罰』みたいな一本。で、爆破のところのみ位相が打ち消されたの様な無呼吸感が、ただでさえ静かな映画の中で更なる静寂を演出している。流石なケリー・ライカート。デカい事したつもりが小物感を露わにして行く様とそれを撮影する冷やかな視線とでダブルでキツい。サスティナブルな生活をしてる奴が過剰な行為に走ってからのラストって設定も絶妙。最初から豆腐メンタル風なダコタ・ファニングのととのうはきちんとフリがあるのに予想出来ない程にミラクル。エンドロールもとてもお洒落で良かったけれども、邦題と日本版ジャケにデカい罪がある。

鑑賞日:2022/04/05 監督:ケリー・ライカート


南極物語

小学生の頃以来。メロディの一音聴いた瞬間にあの情景が浮かぶヴァンゲリスのサントラの異常な出来の良さ、これに尽きる。ワンコ達の受難にババーンとした南極大陸の諸々は良いけど、改めて観てみると映画のクオリティとしてはどうなんだろ。きっちり大作を作れていた頃の日本映画の派手な感じがあるから良いのか。夏目雅子の薄幸オーラはなかなか。ラブホでこれをチョイスする『北の国から』のトロ子はどうかしてる。

鑑賞日:2022/04/04 監督:蔵原惟繕


サーファーのプライド

サーファーのプライド

ほとんど丘な話。TRUE DETECTIVEより前の2人。大体海パン一丁のマシュー・マコノヒーにどう見てもヅラなウディ・ハレルソンと出てるだけで面白いので脚本がイマイチ(映像は美しい)でも85分は余裕。雨乞いならぬ波乞いで断食から謎儀式まで足掻きまくるんだけども、側から見てると結構楽しそう。で、合間のウィリー・ネルソンとスコット・グレンで結構締まる。やっぱ芝刈り機と言ったらヤギだよな。『ビーチ・バム』と通ずるものがある。全然サーフィンやらない人間にも伝わってくる良い波動映画。

鑑賞日:2022/04/02 監督:S・R・ビンドラー


午後の遺言状

10年振りくらい。乙羽信子遺作にして尚健在(一部編集入ってるけど)で杉村春子もそのまんまキャラ杉村春子で、2人の台詞、仕草の一つひとつが見事。個人的憧れの地でもある、新藤兼人作品お馴染みの蓼科で目にも優しい。結構イレギュラーに展開しつつも、予想し易いって云う匠な域で、『生きたい』と云う90年代以降の作品に共通したテーマを描く。ゲートボールをやってる場合じゃないと。新藤組と常連も、ここに殿山泰司が居ないのはちと寂しい。チェホフ。

鑑賞日:2022/04/01 監督:新藤兼人