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緑の光線

Films: Jun.2022『Le Rayon Vert』ほか

Jul,01 2022 13:00

本日、2022年7月1日にBandcampより先行リリースの新作『If』の大詰めに加えて、我が家の保護猫騒動であまり映画どころじゃなかった6月。

先月に続いて怒涛のエリック・ロメールと云う事でアマプラで配信中の'80~`90年代ものの続き。『緑の光線』より『レネットとミラベル/四つの冒険』、『友だちの恋人』、『木と市長と文化会館 / または七つの偶然』、『パリのランデブー』とどれもクオリティが高い。中でもラストの美しさが際立った『緑の光線』を6月の顔とした。
あまり間を開けないでの再鑑賞となったジョン・カサヴェテス『オープニング・ナイト』に『アメリカの影』は云うまでもなく傑作。
日本映画の再鑑賞ものもちょいちょいとあり、鈴木清順『河内カルメン』、成瀬巳喜男『放浪記』にマイブーム中の荒木一郎が見たかったので、大島渚『 日本春歌考』とこちらも傑作揃い。
見れば演技がどれも圧倒的な勝新太郎の出演作で初鑑賞となる2作。三島由紀夫も出ている五社英雄作品『人斬り』と『海軍横須賀刑務所』でやっぱり圧倒的で微妙に勝新ブームが再燃しつつある。
ずっと見たかった今村昌平『果しなき欲望』に珍しく近代映画協会じゃない新藤兼人作品『銀心中』も素晴らしかった。
月のラストにはクセの強いの3本って事で、駆け出しの頃のフランシス・フォード・コッポラ作品『ディメンシャ13』にジョージ・A・ロメロの『アミューズメント・パーク』、どれ観ても最高なニコラス・ローグ『トラック29』とどれも面白かった。

そんなかんなで7月もまだまだ続く、我が家の高齢猫と新しい仔猫の共存問題と『If』のリリース作業+αでどうなる事やらって具合の今日この頃。

観た映画: 2022年6月
映画本数: 22本

トラック29

観たかったやつ。ジョンの『マザー』をバックにヒッチハイクで犬がやってくるOPからしてガッツリ掴まれるわな。現実嫁テレサ・ラッセルの幻想がメインでありつつ、社会的にはとりあえず正常って事になっているドクことクリストファー・ロイドの人間二人の幼児退行と大人のラインを行ったり来たりする辺りが絶妙。ドリフか『陽炎座』かって云うお馴染みなやつと、『恐怖の岬』のカットバックのとこも最高。壊しちゃいけないものを壊すカタルシスは、壊されたくない側からすると胃が痛い。で、エロスを抜け目なくきっちり肉感的に撮るニコラス・ローグ。キラキラしたゲイリー・オールドマンの弾けた演技に脇で存在感出すシーモア・カッセルも良かった。

鑑賞日:2022/06/30 監督:ニコラス・ローグ


マトリックス レザレクションズ

ただでさえ蛇足な2と3に加えて盛り込みまくり&清々しいまでのご都合主義なスピンオフ状態。当時もアニマトリックスとか設定を活かしてたやつが色々あったので、まぁアリと云えばアリなんだけど新鮮ではない。思いっきりネオを盾にするトリニティーに『信頼』を感じたヨ。今風アレンジな『ホワイト・ラビット』の辺りの序盤はなかなか。

鑑賞日:2022/06/29 監督:ラナ・ウォシャウスキー


アミューズメント・パーク

ほとんど年寄りをゾンビ扱いしつつ、現実的なあれやこれで下手なホラーより怖い。1970年代当時のアメリカの社会問題って事で、現在の何かと老人優遇の日本とは掛け離れてはいるものの言いたい事は分かる。ホワイトルームに籠る前に、実践中の『いま行動しろ』を強化する気になるわ。フィルムの色味のせいか、チキンに豆にアメリカンな飯描写がやたら美味そう。ポスターデザインも最高。

鑑賞日:2022/06/27 監督:ジョージ・A・ロメロ


ディメンシャ13

狙ったのか若さ故なのか、序盤の超展開は先が読めなくて結構好き。ぶら下がってるやつとか、見せしめな感じが後の『ゴッドファーザー』なんかにも活かされている気がするし、水中ラジオ演出なんかもイイ。サイコみたいな劇伴にのせて、分かりやすい斧人形のフリからの流れも嫌いじゃない。裏切らないロジャー・コーマン的低予算感満載でなかなか。で、既視感のありまくる医者のオッサンは『時計じかけのオレンジ』に出てた人だった。

鑑賞日:2022/06/26 監督:フランシス・フォード・コッポラ


放浪記

林芙美子の搾り出す様な文章もさる事ながら、デコちゃん渾身の演技(特に泣き)がまぁ素晴らしい。存在感マシマシな脇役達に囲まれながら、頭ひとつ出ている具合で圧巻。成瀬巳喜男の構図を含む完璧な演出とで血がどくどく通った様な映画。再鑑賞でも満点振り切る。

鑑賞日:2022/06/24 監督:成瀬巳喜男


オーシャンと十一人の仲間

通りすがりのシャーリー・マクレーンが見たくて。劇中歌わないフランク・シナトラとは対照的に歌いまくるディーン・マーティンとサミー・デイヴィスJr.ほか、なかなか濃ゆい面子。キャラ全員を説明しながらの前半はともかく、ミッション~事後のすったもんだに哀愁ラストは良く出来ている。OPのソール・バス仕事に加えて、各種特撮も頑張ってる。

鑑賞日:2022/06/23 監督:ルイス・マイルストン


日本春歌考

空前の荒木一郎マイブーム中なので再鑑賞。ゴリゴリの政治思想でありつつも、日本的なものを人一倍美しく撮る大島渚の赤と黒の世界。そんなかんなより、この若さ故の止まらぬ欲求をどーしてくれるって事で、まぁ悶々としとる。で、小山明子筆頭に見事なまでにキレイどころが揃ってる。女学生コスみたいな宮本信子と伊丹十三の組み合わせに吉田日出子の美少女っぷりとで、本筋以外も見所たくさん。ひとり飄々とする荒木一郎

鑑賞日:2022/06/21 監督:大島渚


アメリカの影

ビートニク感満載。『ちょっとした人種問題』な社会問題でありながら、もっと複雑な人の心の内側をグッと捉えている感じ。生命そのものって感じな即興演出なんかに混じって、完璧構図な3兄弟のベッドのシーンみたいなのをサラっと入れてくる辺りがまた痺れる。出来過ぎ処女作。

鑑賞日:2022/06/19 監督:ジョン・カサヴェテス


海軍横須賀刑務所

母ちゃんの願いも虚しく、辛抱できないって云う東映面子に囲まれる勝新。新兵にしては年齢的にも貫禄あり過ぎ。横番入所OPから半分くらい回想→入所後って事で石井輝男脚本&山下耕作監督のなかなかダイナミックな流れ。フルメタル・ジャケットも霞みそうな海軍の陰湿な虐め、それに真っ向から立ち向かう勝新と菅原文太の組み合わせがまぁ貴重。松方弘樹特有のあのヤバい動きも最高。

鑑賞日:2022/06/18 監督:山下耕作


黄色いリボン

理想の上司系。退役間近の老大尉を通して、騎兵隊はやっぱスゲーやと熱い感じでUSAな具合で良いんだけど、黄色いリボンは段々と霞んできている印象。規律と粋との匙加減で老若男女も参ってしまうハマり過ぎなジョン・ウェインに任務ミスから挽回の筋書きには全く文句はないものの、何かテンポが悪い気もしなくはない。なんだけど、ラストの馬追い込みなんかは圧巻なジョン・フォードって事で緩急が上手いと取っておく。新しい銀時計の文字盤の台詞を繰り返すの好き。

鑑賞日:2022/06/17 監督:ジョン・フォード


人斬り

まさに土佐犬。五社英雄ってよりは勝プロ的カッコいいが満載な感じ。絵心ありすぎなカットやら、勢い余って色んなもんがバッサリ行く感じが特に。策謀の渦中の犬っコロが見せる意地って事で殺陣から喜怒哀楽までヌケなく迫真の勝新、冷徹な仲代達也を始めとしてどいつもこいつも眼光が鋭い。で、出てきた瞬間に妙なオーラを発し、ムキッと筋肉を見せつける三島由紀夫に顔のパンパンな裕次郎龍馬と今の日本映画にはない骨太加減。エネルギーの塊みたいな傑作。

鑑賞日:2022/06/16 監督:五社英雄


パリのランデブー

ランデブーとは名ばかりの必死な男たち。パリと云う完璧ロケーションと共に、フワフワとした理想の女性たちを掴む為に用意された偶然の数々。でもそれだけじゃ駄目なんだよと超現実目線なエリック・ロメールで面白い。どしっと構えた女たちに対して頑張った末に撃沈する男たち。多少なりとも得るものがあって何より。どれもみんな可愛らしいけれど、クララ・ベラール推しで。気兼ねなくブラブラできる世界に戻って欲しいわ。

鑑賞日:2022/06/14 監督:エリック・ロメール


田舎司祭の日記

人々を救う前に救われなきゃいかん。司祭であるには純粋過ぎる苦悩って事で、病気に村人とのやり取りとで思いの丈を日記と云う自由空間にぶち撒けたくもなるのも分かる孤独っぷり。神と俗世界の間で考え過ぎな苦行僧みたいなタイプが辿り着く『神の御心のままに』までを結構ドライな目線で描く訳だけれども、バイクから駅のところ等々、ときどき病身の表情から年相応の人間らしさが瞬間的に顔を出したりする演出がまたニクイ。更に意識が飛んでいきかけてる辺りの描写がまた上手い。

鑑賞日:2022/06/13 監督:ロベール・ブレッソン


木と市長と文化会館 / または七つの偶然

木と市長と文化会館 / または七つの偶然

出口のない討論番組をついつい見入っちゃうような面白さがある。みんな己が正義でまとまるもんもまとまらないとこにミラクルと共に風穴を開ける少女。次世代の事は次世代の意見で、からの帰結が実に小気味良い。柔軟性を欠けた老いたお上だけで箱モノ作りまくる国はコレを観た方が良い。田舎と都会のあれやこれと人災とド正論な天災を絡めた環境問題ってな具合で、現在から見てもかなり的確な予測で恐れ入るエリック・ロメール。環境に限らず、必要なもの、必要でないもの以前にシンプルな美しさを維持せねばって云う至極真っ当な考えを理解できない人間は権力を持つべきではない。傑作。

鑑賞日:2022/06/12 監督:エリック・ロメール


銀心中

銀心中

近代映画協会でなく、劇伴が林光じゃない新藤兼人作品。逢いたくて震えまくる乙羽信子の行動力が半端ない。静と動の演技の使い分けから、後の『触角』とも通ずるメンタル擬人化な一人二役と毎度の事ながらとんでもない役者魂で長門裕之も引くレベル。おまけに吹雪の中を歩かせ、雪に突っ伏させる等々、安定のスパルタ監督ぶり。で、斜めアングルや構成なんかも素晴らしい。全て戦争が悪いんだよって事で、重厚なる伊福部昭の音楽に乗せて描かれる悲劇。宇野重吉の優しさと嫉妬が入り混じったやつなんかがまた泣ける。そして切ないオチとOPED良いとこ取りな殿山泰司。傑作。

鑑賞日:2022/06/11 監督:新藤兼人


友だちの恋人

気付いたら大量に裏返されてたみたいなオセロ的な気分。隣りの芝は青く見えまくる現象、もしくは郊外を連想する湖や河の青に森の緑、からのラスト4人の配色、配置がもう素晴らしいとしか言えん。絶妙な奔放タイプと卑下しがちタイプな組み合わせで、イマージュに恋してたのね私から幻影から覚めて地に足が着くまでそれぞれの段階と空気の切り替えが上手過ぎ。そこから更にニクイ程に見事にまるっと治めてくるエリック・ロメール。ブスっ子じゃないよの下りは、偉い人にはそれが分からんのですよのジオングの足のやつと同じよね。

鑑賞日:2022/06/10 監督:エリック・ロメール


河内カルメン

20年振りくらい。『刺青一代』と『東京流れ者』に挟まれる時期で、舞台美術は既に完成形な清順作品で最高。モノクロでカラーに頼らない分だけ余計にセットが凝ってる感もある。日本人離れしてるんだかしてないんだか、良く分かんないラインなイイ女っぷりを発揮する野川由美子とで視覚にも優しい上に泣けるところ多数。軽いコメディタッチでありながら、人間の内側に色んなものがきっちり蠢めく成り上がり映画に仕上がっている。一生売らない所有ライブラリの『日活映画音楽集/鈴木清順』の中でも異彩を放つ(音程的に)ハバネラのシーンも大好き。今作の川地民夫のイケメンっぷりったらない。

鑑賞日:2022/06/08 監督:鈴木清順


レネットとミラベル/四つの冒険

都会っ子と田舎っ子の田園での出逢いからって事で無条件で楽しいわな。2人の異なるタイプの対比構造で進むと思いきや、正論と曲論が行ったり来たりする作り。若者によくある風景をよーく汲みつつ、とても柔軟に撮られている。対話の展開力に加えて、ここぞってところの沈黙使いの匙加減が匠過ぎ。ピコってるサウンドの無限ループと共にずーっとこの2人を眺めていたい。

鑑賞日:2022/06/07 監督:エリック・ロメール


オープニング・ナイト

久々。剥き出しの精神ってな具合で観てるこっちまでヒリヒリと痛くなる、1から10まで圧倒的なジーナ・ローランズ。第一の女と戦い、ズタボロになりながらも舞台の上で消化し答えを見つけるって云うド根性。『アタシは女優よ』って台詞はここまでする人の為にある。物事はシンプルなのよと不安や苦悩から確信へと劇的に変化する最後のカサヴェテス夫婦の一幕は素晴らしいとしか言い様がないのは勿論の事、サポートするどころじゃないベン・ギャザラの多彩な表情とでこっちも素晴らしい。大傑作。

鑑賞日:2022/06/05 監督:ジョン・カサヴェテス


緑の光線

緑の光線よろしく、最後の最後まで粘るわ、私。と、あくまで我を貫くってのは正しい姿とは思うけれど、適当な協調性の欠落した超面倒なタイプで面白い。そんな設定の不器用キャラを使って、人ごみで孤独を強調させるってお手本みたいなやつを軽々撮ってしまうエリック・ロメール。己の性格で引き込んだ苦しみも数あれど、最後に思わず声を出す主人公につられてこっちも声出る。ホント良かったねぇと思う反面、アナタの飯の理論は破綻してるから、取り敢えず肉食えドンッ!ってやりたい。

鑑賞日:2022/06/03 監督:エリック・ロメール


果しなき欲望

ようやっと。出てきた瞬間から面白い殿山泰司、西村晃、小沢昭一、加藤武と昭和を代表する名脇役達がOPから死に様まで各々が全力で目立ってる。渡辺美佐子を中心に文字通り果しなき欲望が展開されている。モルヒネを掘り当てるまでの穴と騙し合いの障害にとどまらず、商店街の面々もそれぞれいい味出してる。立ち退きトラックと地下の分割画面はデ・パルマも度肝を抜くんじゃなかろうか。絡みそうで絡まない堂々主演の長門裕之と活躍する脇役達と云う、大人の事情か分からないけど結果としてニクいバランスで撮る今平監督、の神の視点で滑稽なものへ変貌する黒々とした人間の欲望。最高。とらやのおばちゃんこと三崎千恵子の肉屋のコロッケとシューマイライスに飯テロ。

鑑賞日:2022/06/02 監督:今村昌平


マイ・フェア・レディ

階級間の溝、男女の溝、人と人との間の溝と筋自体は忠実にやっている。ものの、ミュージカル部分が清々しい程の蛇足な上に、肝心な音楽的魅力もないって具合で最後の方では歌い出すとイライラしてくる。んで、ラストのアレはバーナード・ショウの英国人的な気質でまとめたやつをひっくり返し過ぎでちと酷い。人力静止画なんかのとこはとても良かった。

鑑賞日:2022/06/01 監督:ジョージ・キューカー