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赤い靴

Films: Aug.2022『赤い靴』ほか

Sep,01 2022 12:00

今年は例年以上に夏の暑さに参っている様で、8月は夏休みも含めてグッタリ気味だった。
次作の作業も捗らず、映画も観る気が起きずで漫画ばっかり読んでいた様な印象。

そんな8月は『浮雲』、『めし』、『稲妻』、『驟雨』と成瀬巳喜男作品に加えて、『簪(かんざし)』、『有りがたうさん』とずっと観たかった清水宏作品、更には三船敏郎、高峰秀子主演の稲垣浩版『無法松の一生』と日本映画の名作が多め。
再鑑賞ものではジャ・ジャンクー『長江哀歌(エレジー)』、神代辰巳『ミスター・ミセス・ミス・ロンリー』、ドキュメンタリー版の『ブエノスアイレス 摂氏零度』が観たかったので、ウォン・カーウァイ『ブエノスアイレス』といずれも傑作揃い。
また、『マクベス』を読んだので、『蜘蛛巣城』も久々に。矢襖のとこ最高。
初鑑賞はこれまた結構粒ぞろいな具合で、エンツォ・G・カステラッリ『地獄のバスターズ』にアンソニー・M・ドーソン『そして、神はカインに語った』とイタリア気なやつに、アンソニー・マン『真昼の欲情』とこちらも傑作。
マイケル・パウエル『赤い靴』とウィリアム・ディターレ『ジェニーの肖像』とで散々悩んだ結果、前者を8月の顔とした。

そんなかんなな8月。
そろそろ次作をまとめ上げて、解放された気分で映画を観たい今日この頃。

観た映画: 2022年8月
映画本数: 24本

シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版

舞台の裏側、はたまた裏宇宙まで曝け出した上にバラシまくり、永遠の14歳を脱却して現実世界へ立ち帰るって表現としてはこれ以上ないって感じ。現実世界から逃げちゃ駄目だを成し遂げ、道なき道を行くって事を示す庵野秀明。素晴らしい、終劇

鑑賞日:2022/08/31 監督:庵野秀明

カモン カモン

カモン カモン

20世紀と21世紀の間にある大きな溝を感じてしまった。旧世代と世界の未来たる子供たちが互いの理解を深めるのは至極もっともなんだけど、なんとなくこの先訪れる評価社会的なのニオイを感じてちょっとだけ居心地が悪い気もしなくはない。そんな自分は忘れたくなくても忘れちゃう軽い健忘症気味な中年って事で、旧世代な己を痛感してなんとも言えない気持ちになる。

鑑賞日:2022/08/30 監督:マイク・ミルズ


驟雨

原節子の上がったり下がったりの様々な表現が見事。お汁粉食べたい→あんみつ食べる→佐野周二『!?』のとこと、冷飯をかっこんでる画なんかが最高。大事件の様でいて、驟雨のごとしな夫婦間のあれやこれ。倦怠期から始まり、隣の芝の青さやらを経てまた戻ってくる日常は相変わらず倦怠期風なんだけども、何やらガッチリとした絆が見えてくる。素晴らしい。うちの親父が既に住んでいたと思われる当時の梅ヶ丘の光景に驚愕。

鑑賞日:2022/08/29 監督:成瀬巳喜男


そして、神はカインに語った

のっけのテーマ曲、劇伴からして良い。各種効果音の使い方もお洒落。顔にちゃんと砂埃つけてくる暴風演出から、『上海から来た女』ばりの鏡の部屋での銃撃戦も最高。赤シャツはだけた感じのクラウス・キンスキーが延々とステルス攻撃かますのが姑息ちゃあ姑息だけども面白い。息子が加山雄三に激似なのもポイント高い。

鑑賞日:2022/08/28 監督:アンソニー・M・ドーソン


ジェニーの肖像

諸行無常をやりつつ、上手いこと不変を取り扱う。三次元の距離と一方通行の時間ってものを超越した世にも美しい幻想譚に仕上がっており、不変の象徴、結晶とも言える肖像への昇華の下りが鳥肌。『牧神の午後への前奏曲』でジェニファー・ジョーンズ登場の気配から、フィルムカラーのチョイス、ランズエンド(地の果て)灯台とその螺旋の演出、からのラスト。実に実に素晴らしい。可愛いらしいシスターなリリアン・ギッシュも最高。

鑑賞日:2022/08/26 監督:ウィリアム・ディターレ


ソロモンの偽証 後篇・裁判

ソロモンの偽証 後篇・裁判

昨 日 の ワ ク ワ ク を 返 し て く れ。やや長尺だけども、伏線の数々をモリモリ回収して行くのは普通に楽しい。ものの、それ以上に出て来た瞬間に怪しかったアイツのアクロバティックなオチ&場違い要求と、事の発端のダミアンみたいなガキは勝手にしろって感じ。で、失神多過ぎ。そんなかんなで、みんな見て見ぬふりしたけど、私たち良くやったな! とやられて、お、おうって具合。そしてトドメの"With or Without You"で前編の良いとこが帳消しになる。曲自体は名曲だけども、使い方が寒過ぎて雪の日の校舎の屋上から飛び降りたいレベル。

鑑賞日:2022/08/25 監督:成島出


ソロモンの偽証 前篇・事件

ソロモンの偽証 前篇・事件

続 き が 気 に な る ───!!! 岡田斗司夫が推してたので鑑賞。劇中1990~1年に中学生だった自分にはドンピシャもの。携帯も何もない時代の生徒間における情報量や憶測なんかが結構リアル。まぁ面白い具合に事件にまつわるあれこれがどんどん積み重なって、我らで答えを導き出すって云う流れになる訳なんだけど、バブル崩壊前夜の社会のあの感じや日教組的なやつなんかに対抗して行くのは後の氷河期世代って事でかなりアツイ。演技のとこでは、ほぼ素人の少年少女もなかなか良い味だしてた。老けてもイイ女な夏川結衣筆頭に大人役者も上手い事子供たちをバックアップしていたけれど、黒木華の服装と眉毛は何となく時代を乱してる気もするしなくはない。今から裁判始まるって云う前編EDでオーソン ・ウェルズの『審判』よろしくアルビノーニのアダージョ使いはニクイ。後半楽しみ。

鑑賞日:2022/08/24 監督:成島出


有りがたうさん

延々と乗っていたい。顔に加えて性格イケメンで天城街道のスターな上原謙。『伊豆踊り子』的ルートの乗客や道行く者の様子で困窮した昭和初期の社会的状況を見せつつ、お礼から始まる善意の伝染でほんわか展開する。『街道渡世の仁義ですから』と颯爽と返す様を、とりあえず歩行者が待ってるのに止まらないのや、無闇に煽る現在に所謂車カスは正座して観なきゃいけないレベル。で、軽業必至なルームミラーの使い方が秀逸で心情がビンビンに伝わってきて見事。トーキー黎明期のめちゃ大変そうなアフレコはご愛嬌。

鑑賞日:2022/08/23 監督:清水宏


ブエノスアイレス 摂氏零度

異国の地でほぼノープランで発進って云う無茶なのは置いといて、ものを作り上げるってのは苦しいもんだってのが伝わってくる。ボツになった良い感じのエピソードの数々がブエノスアイレス以前の雰囲気により近い具合で、そっちも観てみたかった。ものの、キャラ的な焦点を絞ったのは異国で展開されるこの作品には正解だったと思われる。貴重なボツフィルムをふんだんに盛り込んでくれたなかなか良心的なドキュメンタリー。

鑑賞日:2022/08/22 監督:クアン・プンリョン, アモス・リー


稲妻

母親から始まるズルズルベッタリで有象無象の連中から自立すべく頑張るデコちゃん。特殊な家族の汚染されまくりな依存関係を散々やっておいて綺麗にまとめる成瀬巳喜男。ラストの浦辺粂子との感情の爆発→自省の下りが見事。隣の香川京子の家って云う理想的外部と比較しつつも、閃光と共に一皮剥ける演出が激しくも滑らかで流石。そして最悪と最高を近づいてくる小沢栄のバイクに隣のピアノと音だけでやりつつ、内なる転換点には無音の稲妻って云う完璧かつ品のあるやり方。素晴らしい以外の言葉が見当たらん。犬や猫の様ってやりつつキュートな仔猫投入してくる辺りもまた抜け目ない。

鑑賞日:2022/08/21 監督:成瀬巳喜男


ブエノスアイレス

喪失感=イグアスのどデカい滝壺、からの『会いたければ会えると確信した』と穴の埋め方が粋で素晴らしい。小汚い下宿を目眩く愛の巣に変化させる手慣れた感じの画作りにピアソラ他のチョイスとで観る程に良く出来てる。で、飯テロにもほどがある。

鑑賞日:2022/08/20 監督:ウォン・カーウァイ


簪(かんざし)

とにかく歩きまくる。同じ様な日々でも毎日何か特別なものがあるって事で、ひと夏の温泉宿日常系でありながら実にドラマチック。簪から始まる大事件(映画的に)と各キャラそれぞれのお決まり台詞の反復の匙加減が絶妙。そして襖で区切ったり開放したりで立体感を自在に操っていて恐れ入る。で、老け役じゃない笠智衆を始めとしたキャラと田中絹代の逗留の理由の差からのラストで、1人8月32日をやってる感でまぁエライ切ない。からのトドメで、『按摩と女』の高峰三枝子同様に番傘さして佇む美人像の図。これはもう素晴らしいの一言。

鑑賞日:2022/08/19 監督:清水宏


ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン

ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン BLUE MANHATTAN I・哀愁の摩天楼

デ・パルマの裏窓ってな具合で、初期にして映像技巧が火を吹きまくってる感じ。多様な映像表現に加えてBBBの下り等、盛り込まれた当時のアメリカ云々って事でエライ攻めてる。既に完成系デ・ニーロ劇場とで真っ黒けっけなネタ満載で満腹。トラヴィス的なミリタリーシャツ着たヤバイ奴像は完全にこっから来てるだろ。EDの一連の流れからタイトルが出来過ぎ。で、Greetings×3のやつの方が先なのね。

鑑賞日:2022/08/18 監督:ブライアン・デ・パルマ


めし

めし

久々。林芙美子の描くズタボロ系女性像にしては原節子はちょっと品があり過ぎな気もしなくはない。高峰秀子配役の方がなんとなくしっくり来そうだけど、ピキピキ、ゴゴゴ...な得意な感じのやつは流石に上手いので、これはこれで良い気はする。居るだけで場が締まる杉村春子の出すタイミングもバッチリな成瀬巳喜男。素晴らしい。

鑑賞日:2022/08/16 監督:成瀬巳喜男


真昼の欲情

真昼の欲情

土と埃と無数の穴とで展開される欲望の数々。みんな何かにモーレツに取り憑かれてるって云う脚本が最高。信仰心も軽く動かす正直過ぎる欲望でかえって小気味良い。首の皮一枚で救われ改悛も束の間エンドで雲行き怪し過ぎるんだけど、その方が人間らしいわな。雨降って地固まってる風なので結果オーライでまたやるぜって感じがUSA。金への渇望と家族の平和の二つを貫く無茶な役柄をこなすロバート・ライアンは見事。モテ過ぎな嫁ことティナ・ルイーズもエロ可愛いくて良かった。

鑑賞日:2022/08/15 監督:アンソニー・マン


浮雲

不遇かついじらしい女性像が貧困具合も含めて林芙美子のソレって感じで壮絶。放浪記然り、ズタボロにされながらも男に執着する役柄をしっかりこなすデコちゃんに、オラついてて殆ど私生活の地っぽい森雅之とで実にハマっている。そして輝く仏印→戦後の伊香保、東京→雨の屋久島の巧みな舞台設定。温泉と若い岡田茉莉子の下りたまらん。

鑑賞日:2022/08/14 監督:成瀬巳喜男


地獄のバスターズ

OPEDのアニメーションからして最高。タランティーノ版のマカロニ感も納得行く。前半の面子が揃うところから始まり、逃亡からの作戦参加からラストへと非常に滑らか。ショボいのからハラハラするのまで、火薬とスローモーション量は申し分なしの見せ場のオンパレードって具合で良く出来ている。きっちりキャラ立ちしているならず者達のアクション主体したコミカルから悲壮のドラマをやりつつ、水場とかラストの収まり具合とかのお客へのサービスカットも抜かりない感じとかかなり好感が持てる。

鑑賞日:2022/08/13 監督:エンツォ・G・カステラッリ


無法松の一生

伊丹万作脚本素晴らしいな。竹を割った様な男の外側と内側が上手い具合に描かれている。「吉岡さんとでも〜」↓からの太鼓↑と「俺の心は汚い」↓のどーにも溢れ出す感じが泣ける。階級差の悲劇とプライドの問題と、戦勝からのアゲムードと美しい風景とで、目に入るもの全てが今や失われている感じがして二重に苦しい。三船敏郎の演技力に押され気味で本領発揮してない感じのデコちゃんではあるものの、両者素晴らしかった。春から冬へと輪り、ラストの過剰にエフェクティブなやつもとても良かった。阪妻版も観なきゃ。

鑑賞日:2022/08/11 監督:稲垣浩


赤い靴

後に大分影響受けているであろう『エースをねらえ!』的図式。斬らずにいられない類の妖刀みたいな存在の情念込めまくりな赤い靴って事で、発色からして異常。全員に何やら特別なものが降りてきてる感じの圧倒的な本番シーン含め、筋書きの起承転結に美術に撮影にと素晴らしい。涼しい顔と胸中のマグマの同居みたいな演技をきっちりテンション維持して演ずるアントン・ウォルブルック、良い。

鑑賞日:2022/08/10 監督:マイケル・パウエル, エメリック・プレスバーガー


蜘蛛巣城

20年振りくらい。出てきた瞬間に死相が出てるマクベスこと三船敏郎から後半の山田五十鈴のマクベス夫人と顔芸が圧倒的過ぎる。筋書きを上手いこと日本に置き換えるだけでなく、魔女→物の怪のおどろおどろしさの部分まで変換し部分的には凌駕していると云う、とんでもない世界のクロサワ。ラストの矢襖の迫真必至(メイキング的に)な無慈悲なやつの下りも然り。時折、何言ってるか分からんので字幕が欲しいとこだけども、素晴らしいには変わりない。で、千秋実のとこ面白過ぎ。

鑑賞日:2022/08/08 監督:黒澤明


ミスター・ミセス・ミス・ロンリー

自ら脚本に名を連ねつつ、脱がなくてもいいのに無駄に露出し、神代辰巳の女イジメを甘んじて受ける全盛期にして超天使な原田美枝子。それに対して出てくる男たち全員が曲者オールスターって感じで最高。中でも宇崎竜童を拷問する名古屋章と草野大悟のパートと天本英世の下りが好き過ぎ。改めて観ると筋書きも結構しっかりしとる。

鑑賞日:2022/08/06 監督:神代辰巳


長江哀歌(エレジー)

鳴り止まないインダストリアルなSEに大体パンツ一丁、大体ランニング、大体上半身裸な壊す為の労働者。三峡ダムの圧倒的絶景と国家的大事業の中で蠢めく小さな小さな人々の営みって事で、働く彼らになくてはならないもののエピソードを絡めつつ進行する。湿り気タップリでドヤってる感じで好きな感じの中国ではあるけれど、約1800年前に蜀を建国した孔明、劉備はこれを見て何を思うか。廃墟やらの建物内部がフレームとなった景色の切り取り、破壊の美学の詰め合わせなんかもまた見事。素晴らしい。チョウ・ユンファの真似上手いな。

鑑賞日:2022/08/03 監督:ジャ・ジャンクー


男はつらいよ 奮闘篇

久々。2作目に続いてのミヤコ蝶々とイレギュラー尽くしって感じで、ヒロインに知的障害設定の榊原るみ(可愛い)に、さくら一人旅からのラストまでシリーズ的にちょっと異色な感じ。寅さんのお嫁さんはどんな人がふさわしいか云々をやりつつ、おいちゃんのまくら=さくらで最高。

鑑賞日:2022/08/02 監督:山田洋次


非行少女ヨーコ

都会的な見えないやつと戦う緑魔子ことヨーコ。家出して知り合う連中がボン助って事である意味勝ってる気はするな。テレビの中みたいな生活は嫌って云う、アナーキーでありつつもきっと何者にもなれない感じと、画面に映る全てのプロダクトに'60年代の新宿とジャズな空気感はたまらん。サントロペに行けないラストなら尚良かった気もしなくはない。で、荒木一郎の役がイイ奴過ぎて泣ける。

鑑賞日:2022/08/01 監督:降旗康男