Films: Apr.2023『The Beatles: Get Back』ほか
May,03 2023 15:00
大きい仕事がひと段落して音楽を再開しているものの、若干燃え尽き気味な今日この頃。
4月は4月であれこれ忙しくしていたせいか本数は少なめなものの、その代わり長尺が幅を利かせている具合。
問答無用でサムネイル決定な全編約8時間の『ザ・ビートルズ: Get Back』、久々の『エビータ』、インド映画の金字塔らしい『炎』、追悼坂本龍一って事で『ラストエンペラー』、アニメ再鑑賞の締めでこちらも久々な『涼宮ハルヒの消失』と長いのが揃いも揃っている感じ。
先月に続いてのカウリスマキ『マッチ工場の少女』は一本のみに終わったものの、代わりに『兵隊やくざ』と『青空娘』の増村保造の二本立て。
再鑑賞ものでは昔働いていた渋谷某劇場公開の『ボーイズ・ドント・クライ』に、小学生の頃凄い好きだった(特に劇伴が)『ウィロー』とノスタルジー色強め。
新作系はアルモドバルの『パラレル・マザーズ』にマーティン・マクドナーの『イニシェリン島の精霊』。後者に関しては評判以上の出来。
そんなかんなな4月。未だバタバタとやる事がたくさんあるものの、映画と読書の時間はきちんと確保したいと考えている。
観た映画: 2023年4月
映画本数: 12本
パラレル・マザーズ
画面を支配する色彩感覚と脇にロッシ・デ・パルマがいれば、紛れもなくアルモドバル作品って感じ。2人のシングルマザーの分かりやすい話とフランコ政権の犠牲者の声なき声を発掘するってやつが同時に進行。葬られたルーツを尊重する人はあくまで血の繋がりを尊重するって事で、年齢的な苦悩を抱えつつのペネロペのふんぎりからの告白シーンがなかなか泣ける。なものの、内戦の方の話の歴史的事実に対して、取り違えの方の話からの同性愛の辺りのメイン筋がちょいと軽い気もしなくはない。で、スペインの陽光に映える世界のスズキ車(黄色ジムニー)。
鑑賞日:2023/04/29 監督:ペドロ・アルモドバル
ラストエンペラー
最近、満州ドキュメンタリーものを頻繁に見ていたのと、追悼坂本龍一で再鑑賞。繰り返し描かれる"Open the Door!"で外界への渇望→紫禁城を追われる下りの溥儀の複雑な胸中の演出が実に見事。からの日本の傀儡下における『扉を開けろ』に、幻となった王道楽土、五族協和の末の最後の真っ赤な光景を見て『扉を開けろ』と思ったかどうかは定かではない。そして最後は入場料を払うで出来過ぎなベルトルッチ演出が見事なのは当然の事、教授とデヴィッド・バーンそれぞれ劇伴が緩急を生み出してる具合。特に『レイン』のシーンとか堪らん。で、嫁入りから阿片中毒までをこなすジョアン・チェンの婉容の演技が、今回改めてしみじみ良いなと感じてしまった。傑作。
鑑賞日:2023/04/28 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
涼宮ハルヒの消失
久々に一気見(エンドレスエイト含む)したので、最後の締めで。部外者よりは脇役が良いって事で、キョン→ジョン→キョンと当事者エンドで良く出来てる。情報統合思念体の方の長門から発する『ありがとう』の破壊力。傑作。
鑑賞日:2023/04/25 監督:武本康弘
ウィロー
小学生の時に観に連れてって貰って凄い好きだったやつ。VFX半端ないってなった記憶があるも、それに増して劇伴がキャッチーで良い。レンタル屋でCD借りてテープにダビングして聴きまくっていた思い出。大人になって観てみると、ジョージ・ルーカス的な筋のダルダル感があるものの、小人から更に小人出すのとか、無力→能力開花の筋とか結構熱いモンがある。CG台頭前の特撮レベルマックスな人力感もかなり好き。で、ヴァル・キルマー全盛期な具合。
鑑賞日:2023/04/23 監督:ロン・ハワード
青空娘
量産型とは縁遠い、天然物な美しさの説得力。クサイ台詞もガラスの靴ばりなご都合展開も、三ツ矢サイダーのCMいけるレベルで溌剌とした若尾文子って事で全てが許される具合。陰険な継母たちは置いといて、ミヤコ蝶々ほかの脇役も全員カラッとしていて良い。結構悲惨な話ながら底抜けな明るい映画に仕上げる流石な増村保造。
鑑賞日:2023/04/21 監督:増村保造
炎
インド映画の金字塔なんだそうな。先週のビートルズ然りこのところ長尺気味。なんとなく『七人の侍』、または『荒野の七人』っぽいノリにインド的な歌と踊りがくっついてる印象。教科書的な演出の数々でなかなか手堅い感じで上手い所とダルいとこが混在してる具合。本編ではあまり心は震えなかったものの(コインのとこは好き)、結構エグい要求に答えるスタントマンに熱くなる。リマスターで魔改造されたのか、素でも色々ものが飛び出す3D仕様にドルビー・アトモスと凝ってるは凝ってる。3.5時間の長さの中でミールスの一つも出て来ず、カレー脳的には少し残念。
鑑賞日:2023/04/20 監督:ラメーシュ・シッピー
ボーイズ・ドント・クライ
心と身体がズッシリと痛くなる。アメリカ様の歴史の一部って事で差別の入れ込み具合に関しちゃ敵う気がしない。長時間露光で目まぐるしい外の景色と時間の止まった片田舎の世界でかなり上手い事出来てる。身体張ってるヒラリー・スワンクの演技は素晴らしいのは勿論の事、眼だけでオーラを発しまくる絶頂期クロエの存在感とイイ女っぷり。で、Boys Don't Cry(キュアーじゃない!)のシーンとか最高。二十数年前の公開以来。封切りの渋谷の某単館で働いてた時の匂いがしまくってノスタルジー。"The Bluest Eyes in Texas"良い曲だな。
鑑賞日:2023/04/16 監督:キンバリー・ピアース
ザ・ビートルズ: Get Back
良い最終回(アビイ・ロードがまだある)だった。全編約8時間って事で、『ロード・オブ・ザ・リング』3本分、または『サタンタンゴ』1本分な山盛り感。映画『レット・イット・ビー』を余す所なくって具合で、大昔に入手した画質の悪いVHSと雲泥の差の映像+サウンドクオリティで満腹満足。ポール主体気味で始まるゲット・バック・セッションで、煮詰まって揉めるトゥイッケナムからアップル社屋+ビリー・プレストン加入とゲット・バックの文字通り原点回帰な具合で徐々にメンバーの息が合ってくるのが泣ける。言うなれば、丸太の中にいる木彫りの熊を彫る作業みたいな感じでクソ長い映像の中でメンバーと共に『コレだ!』って云う瞬間を感じられる良い出来。そもそも、スタジオワークって云うか一発録り→アルバム収録であのクオリティは流石なビートルズ。聴き慣れたフィル・スペクターアレンジのやつも結構好きなんだけど、これ観ると"NAKED"だよなと感じる。『ジェラス・ガイ』他それぞれ後のネタが出てくるのもイイ。アウトプットの方向性に散々悩んだ末に出た屋上案の出た時のポールの表情、からのルーフトップコンサートの大締めで、スタジオ篭りのメンバーと耐久レースみたいな画面のこちら側とで謎の感動が込み上げる。そんな貴重なドキュメンタリー。マイクを手にすると空間を前衛的な異空間に変換させるヨーコと、さりげなく且つチクリとヨーコのモノマネをするポールが何気に印象的。
鑑賞日:2023/04/13 監督:ピーター・ジャクソン
エビータ
そして伝説へ...って事で妾の娘から国葬まで登り詰め、この世の必要悪全肯定のエビータ。超乱世って感じで面白い。大体『ザ・ウォール』や監督違うけど『トミー』なんかの雰囲気を踏襲しつつ、ロック・オペラ的なやつの集大成な具合な出来。考えてみればこのくらいの時期以降、この手のアナログで大袈裟なやつって減ってる気がしなくもない。アルバムからではなくミュージカルより、バンドではなく脂乗ってる期のマドンナ(生娘役は無理がある)を立てるのがある意味革新的だった。原曲群にアレンジが良く出来てるのは勿論の事、映画用のテーマ"You Must Love Me"のシーンも良い。エビータ、ペロンの民衆のコールがアラートみたいな旋律なのも細かいとこまで良く練られている。で、語りべっぽい役柄のチェ(ゲバラモデル)ことバンデラスの美声と熱いカメラ目線に男でも濡れる。新宿ミラノかどっかで観た当時の匂いが蘇ってノスタルジー。しこたま聴いたサントラと思い出補正で満点上げちゃう。
鑑賞日:2023/04/07 監督:アラン・パーカー
イニシェリン島の精霊
ハの字眉毛で困惑の表情がハマり過ぎなコリン・ファレル。俺の成すべき事の時間泥棒野郎を煙たがる気持ちと、人に優しさを求める気持ちの両方が分かるから人間はややこしい。そんなモンよりは神も心ある人間も純粋無垢な動物達を慈しむわと教会をチクリとやる。で、マイケル・コリンズ率いるIRAと自由国軍の本土のドンパチを遠目に、図らずも退屈と云われる島で一大ニュースを展開してしまうオッサン2人の諍い。まんまと精霊の為の暇潰しをした末、すったもんだを経て争いは続くんだと土着縛りの俺戦ENDと云う事で、不毛な内戦ディスりに、解決の方法論としての指詰め自傷行為とでいくらなんでも自虐が過ぎて面白い。今日も地球上にはつまらん事で争う人間だらけと考えると、己の事だけ以外にもちょっとした優しさを持たねばと考える。難しいけど。傑作。
鑑賞日:2023/04/06 監督:マーティン・マクドナー
マッチ工場の少女
労働者3部作の続きって事で、製造ラインと人間の単調な作業、東側体制をチクリとやる安定のところから。スタートの時点で救いがないんだけども、マッチ売りの少女ならぬマッチ工場の少女は泣き寝入りしないって云うかなりなアナーキーさ。真夜中の虹でも使用の『悲愴』がラジオから流れ始めると、気分は悲愴ではなくてよと言わんばかりにサッと別のに変更→エンディングの演出に痺れる。天安門事件よろしく、『無名の反逆者』っぷりがビンビンに伝わってくる。
鑑賞日:2023/04/04 監督:アキ・カウリスマキ
兵隊やくざ
同じ大映で『悪名』の田宮二郎とのバディよりもこっちが好き。猛獣使いが猛獣(勝新)に影響を受ける田村高廣って事で熱々度が高めな2人。女子率が徹底的に低い方の増村作品にも関わらず、そこら辺の色な部分がなんとなく補完されてる上にストーリーの展開もなかなかお洒落。で、鉄拳制裁ありきは元よりな軍隊と、そもそもの戦争を痛快に批判しまくる。他作品同様にお茶目な勝新は全開で一挙一動が当たり前な感じで最高で、指しゃぶりとかヘソ酒の下りの甘えん坊っぷりの加減が同性でもキュンってなる。手紙に入ったブツを『何で⚪︎ん毛って言わせないんだ』って云う制作への無茶振りといい、圧倒的唯一無二を欲しいままにする感じ。あと自慢のヘアースタイルが見えないものの、憲兵役がハマってた成田三樹夫も良かった。2シーンだけの出番で恨み買ってのされるとか面白過ぎ。傑作。
鑑賞日:2023/04/02 監督:増村保造
category: 映画レビュー
tags: 2023年映画レビュー, アキ・カウリスマキ, アラン・パーカー, ベルナルド・ベルトルッチ, ペドロ・アルモドバル, 京都アニメーション, 増村保造